リサ~異世界⑮悪魔的新技~
「どこまで話しましたか‥‥そうでした。森の被害についてでしたね。」
改めて話しだした悪魔さんの様子を見て、私は姿勢を正した。
「現在、この森の防衛機能‥‥つまり、幻惑効果ですが、かなり弱っています。抜けようと思えばかなりの人数は必要ですが、人数さえ揃っていれば、ここまでたどり着くことも可能となってしまっています。」
悪魔さんの話では、森は、いくつものルートを組み合わせて侵入を防いできたようなのだが、幻惑するための道自体が無くなってしまったため、幻惑のパターンが減ってしまったようなのだ。
「ん?何?」
私は、頭の上から囁くような声が聞こえたような気がした。
「えっと‥‥私はこの森の管理者。私が魔力を注げば、森が生み出している幻惑機能だけは回復するの。けど‥‥魔力を注いじゃったら、私を維持できなくなっちゃうの。って言ってます。」
精霊の言葉を3人に伝える。
「なるほど‥‥。精霊には修復の魔法もあるのですか。これは興味深い。しかしリスクもあると。逆に考えれば、魔力さえなんとかなれば問題ない‥‥。と、その前にハーピィー。キラーを起こしなさい。」
話している途中、なぜか悪魔さんがキラー君を起こすように要求した。
「考えている途中、腹を出して爆睡している獣が視界に入るのは鬱陶しいです。」
「まぁ、考えの邪魔だわな。」
イラつく悪魔さんに対して、メタきちさんは苦笑いをしていた。
「仕方ないわね。キラー。起きなさい。」
ハーピィーさんがキラー君を起こすと、悪魔さんの話が再開された。
「魔力供給については、精霊に任せるしかありませんが、仮に、森の幻惑が戻ったとしても、ここにいるのは危険です。」
その言葉を聞いて、未だ寝惚けているキラー君とよく分かっていなさそうな精霊以外の3人に緊張が走った。ここが危険だとしても、ここ以外にどこに行けばよいのだろうか。
「いいですか?マスターと対峙した冒険者ですが、ル・エリテーゼ王国の勅命だと言っていましたよね。」
そんな名前だったかと思いながらも、私は頷いた。
「あの国はこの世界で覇権を争えるだけの力のある大国です。それに魔法の研究も進んでいます。まぁ、我々悪魔ほどではありませんが、なかなかの威力の魔法も使ってきます。」
本当に博学な悪魔さんだと感心しながら話を聞く。
「しかし、人間同士の争いに手を取られていたせいか、こんな場所にまで手を回す余裕はなかったはずです。」
「そんな大国が今回攻めてきたってことは、こっちに力を割く余裕ができたってことか。」
悪魔さんの話をメタきちさんが引き継ぐ。相変わらず2人とも、かなりの賢さだ。
メタきちさんの言葉に頷いて、悪魔さんが続きを話し始めた。
「目的が何かは分かりません。領土の拡大か、魔物の素材か‥‥。しかし、あの者たちはまた攻めてくるでしょう。しかも、次はより多くの軍勢を引き連れてね。」
悪魔さんの言うことは筋が通っている。あの人たちがどんな報告をしているか分からないが、やはり魔物と仲良くしている人間がいるというのは、受け入れられないはずだ。
そんなことは、頭では分かっているのだが、やはり悲しくなってしまう。
姿形が違うというだけで、人はどうして誰かを受け入れられないのだろうか。
「嬢ちゃん。そんな悲しそうな顔すんな。世の中にゃ、話が通じねぇ奴なんてのもいるんだ。」
「でも‥‥」
私が続きを言おうとした時、悪魔さんが先に口を開いた。
「まぁ、我々がここから逃げようが逃げまいが、人間どもの軍勢が来ることは確定です。」
「おい!」
メタきちさんが声を荒げた。私のことを考えてくれたのだろうが、耳障りのいい言葉だけを聞いている時ではないということも、私はしっかりと理解していた。
最悪、ここを捨てて逃げることも考えなければならないということだろう。
そんなことを思い、覚悟を決めなければならないと思っていると、悪魔さんが続きを話し始めた。
「嘘を言っても仕方ありません。考えるべきは、それにどう対処するかです。」
「ん?」
「え?」
私とメタきちさんは同時に声を出した。
きっと、私とメタきちさんの考えが同じで、悪魔さんの言った言葉の意味がいまいち理解できなかったのだろう。
「えっと、ここを捨てて逃げるって話ですよね?」
「それもアリですが、そんなことをしても追われる事は確定しているのです。それならば、あちらの準備が整う前に仕掛けた方がいいに決まっています。」
かなり好戦的な悪魔さんがいた。だがまぁ、悪魔さんの言う通りだろう。逃げてばかりでは何も始まらない。
「でも、実際にどうするんですか?」
私が尋ねると、悪魔さんはその悪魔スマイルを全開にして私の頭の上の精霊を指差した。
「精霊の出番です!」
「あ、今はそこじゃない‥‥です。」
ツッコミを入れるべきか悩んだが、肩に移動した精霊が不思議そうに首を傾げてしまっていたので、遠慮気味に言ってみたのだが‥‥
「ぶっ!ぶふっ!」
「あはははは!」
「お、おい!お前ら‥‥そんな笑ったら‥‥ぶふぁ!」
悪魔さんの背中では3人が大爆笑していた。
私はため息をつきながら、手で顔を覆った。恥をかかせるつもりはなかったのだが、結果的にそうなってしまったのは、やはり私のせいだろう。
『ちゃんと謝ろ……』
そう思いながら、私はおそるおそる悪魔さんを見た。
「ひぃっ!ぶぁっ!」
見た瞬間、ツッコんだことを後悔した。
悪魔さんからとんでもない魔力が放出されていた。
なまじ魔力を感じられるようななった分だけ、恐怖が追加されてしまったのも一因だろう。
後半の悲鳴は、肩の精霊が悪魔さんから感じた恐怖で顔に張り付いてきたのだ。
これはこれでびっくりした。
「ハーピィー?キラー?メタきち?」
「は、はい!」
「おう!」
「な、なんだ!」
笑顔で振り向きながら3人の名前を呼ぶ悪魔さん。
これだけでも十分怖いのだが、練り上げられた魔力を加味すれば、3人が感じた恐怖は想像を絶するものになっているはずだ。
「あ、あの‥‥悪魔さん。その‥‥3人も悪気があって笑ったわけじゃないから、その‥‥許してあげてほしいなー‥‥なんて。」
顔から精霊を引き剥がした私は、悪魔さんに最後の交渉を行った。
「フフフ‥‥。マスターはおかしな事を仰いますね。私は怒ってなどいませんよ?」
その言葉に、ハーピィーさんとメタきちさんがあからさまにホッとしていた。
「ただ、急に電撃の魔法を試したくなっただけです。あぁ、そうそう。メタきちにも効く魔法です。ダメージはありませんから安心してください。しかし、かなりの不快感は覚悟してくださいね。」
悪魔さんが言い終わる前に、脱兎のごとく逃げ出したハーピィーさんとメタきちさん。
キラー君は何が起こるのか分かっていないようだ。
「甘いわ!!」
悪魔さんから電撃の塊のようなものが3つ放たれた。
「ふぎゃ!」
まずはその場にとどまっていたキラー君が犠牲になったのだが、プスプスという音が聞こえてきそうなほど、見事にひっくり返っているその姿を見る限り、本当にダメージがないのかと思わず尋ねたくなるほどに効いているようだった。
ハーピィーさんとメタきちさんはすでに外に逃げたようだ。
「フフフ‥‥完全追尾型です。対象に当たるまでは、全ての障害物を貫通して追い続けます。」
「極悪すぎんだろーが!」
遠くからメタきちさんの声が聞こえる。
悪魔さんの言葉は、念のようなもので伝えられているそうなのだが、メタきちさんのツッコミは地声だった。
「ダメージゼロ。魔力消費5倍。1日3発限定という制約だらけの魔法です。相手に当てることと、一瞬でも動きを止めることに特化した魔法。先の戦闘を受けて創り出した魔法です。」
「きゃー!」
その説明の直後、ハーピィーさんの悲鳴が聞こえてきた。空中で食らってないといいけど‥‥。
「フフフ。あとはメタきち。あなただけです。観念しなさい。」
「やかましい!俺がそんな魔法食らうわけないだろーが!」
突然、頭の中にメタきちさんの声が聞こえてきた。
さきほどの声とは違い、直接頭の中に話しかけられているかのような声だ。
「あれ?メタきちさんの声が聞こえる。」
「フフフ。マスターも念話を身につけられたご様子ですね。能力が覚醒したからなのか、はたまた我々を信じていただいた影響からなのか。どちらにせよ、かなり便利ですよ。メタきちの悲鳴が聞けるのですからね!」
どうやら、悪魔さんたちが使っている念のようなものを身につけたようだ。しかし、念話を身につけたとか言われると、いよいよ人間辞めてしまったような気になる。
「あ、悪魔さん?ほどほどに。ほどほどにね?」
一応止めてみるが、ムダだろう。
メタきちさんの悲鳴を聞くまではおそらく止まらない。
そう思えるほど、悪魔さんは全力で悪魔スマイルだった。
「おらおら!当たらねぇな!」
そこから3分ほど経っただろうか。様子までは分からないが、どうやら壮絶な鬼ごっこになっているようで、未だメタきちさんには当てられていないらしい。
メタきちさんの速度に、悪魔さんの電撃が追い付いていないようだ。
「はっはっは!いくら強力な魔法でも、当たらなけゃ意味ねーんだよ!いい加減、諦めやがれ!」
頭の中に響くメタきちさんの声には、すでに余裕のようなものも感じられる。どうやら、本当に当たらないようで、諦めるように言うだけのゆとりも出てきていた。
「ふ……馬鹿め!!」
直後、悪魔さんがとんでもない顔でとんでもないセリフを吐いた。
「ぎゃぷ!」
さらにその直後、メタきちさんの悲鳴が頭の中に短く響く。
一体全体何があったのかと狼狽えていると、悪魔さんが話し始めた。
「フフフ‥‥油断しましたね、メタきち。3発限定とは言いましたが、1発が分裂しないとは言っていませんよ。まぁ、分裂すると威力が落ちるので、使い所は難しいですがね。」
愉快そうに笑う悪魔さん。精霊は恐怖からか、すでに私の後ろ髪に隠れたうえで、首にしがみついている。私としても、悪魔さんに慣れていなければ同じことをしていたかもしれない。
「さて、あの馬鹿どもを回収に行ってきますね。しばしお待ちください。」
ずいぶんとスッキリした顔の悪魔さんが、玄関から出て行った。




