リサ~異世界⑭新たな出会い~
部屋の端で何やら話し込んでいた3人が、話し合いを終えてようやく戻って来た。
「あ、終わったー?」
話し合いの最中、何か暇をつぶせるものはないかと思っていた私は、とりあえず横で眠るキラー君を撫でていたのだが、戻って来たメタきちさんは、その様子を見てなぜかため息をついていた。
しかし、すぐに雰囲気が変わると、真っすぐに私を見ながら話し始めた。
「嬢ちゃん。そのスキルの効果を俺たちに教えてくれ。」
いつにも増して真剣なメタきちさんの声に、私は少しだけ緊張してしまった。
「う、うん。えっと‥‥
『優シキ世界ヲ目指ス者』
⓵精霊視
精霊を視ることができる
⓶精霊語
精霊の言葉が分かる
⓷精霊魔法
精霊の力を宿した魔法の使用が可能になる。ただし、使用に関する条件を満たさなければ、使用する ことはできない。
⓸精霊の加護
精霊に認められた証であると同時に、様々な耐性を得る
です。」
かなり簡潔に書かれたスキルだったので、私にも十分理解できるものだった。一体、なぜこんなスキルが身についているのか分からず、メニューウインドを閉じて3人を見ると、またしてもメタきちさんと悪魔さんが渋い顔をしていた。
「やっぱり変なの?」
さすがに2度目ともなると、メタきちさんと悪魔さんのリアクションに驚くこともない。
私はそれだけ尋ねると、返事を待った。
「やはりそうでしたか。しかし、天使の次は精霊ですか‥‥。いやいや。マスターといると退屈しませんね。そのうち、神まで現れそうです。」
悪魔さんにそう言われて、私もそんな気がすると思ったのは言わない方が吉だろう。
ラファエルさんも、神がどうとか言っていたから、もしかしたら会う機会があるかもしれない。
「さて、マスターが見えるという虫の正体ですが、多分精霊でしょう。マスター。今その虫はどこに?」
そういえばいなくなっているなと思い、慌てて辺りを見回した。
「あ、キラー君のお腹の上にいる!」
「‥‥そうですか。そんな感じなんですね‥‥。ではマスター。とりあえず、話しかけてもらえますか?」
何だか残念そうに話す悪魔さんの言う通り、私は緑に光る精霊らしきものに話しかけた。
すると、緑色の光はゆっくりと空に浮かび、私の顔の前でピタリと静止した。
『‥‥分かるの?』
「返事きた!」
中性的な声なので性別は分からないが、小学校低学年くらいの子どもくらいの印象を受けた。
「嬢ちゃん!精霊は何て言ってるんだ!」
メタきちさんが興奮している。
何を言っているのか尋ねてくるあたり、やはりメタきちさんたちに精霊の声は聞こえていないようだ。
「分かるのかって。ちょっと話してみるね。」
そう言って、私は再び精霊に話しかけた。
「あなたは誰?何でこんなところにいるの?」
『私は森の精霊。急にたくさんの緑が失われて、慌てて出てきたの。』
そこから、精霊の話を聞いていくと、森が失われていった原因が人間であることはすぐに分かったのだが、追い払うにも、人間たちが割と広範囲に広がってしまっていたために、対処しきれなかったのだそうだ。
「で、オロオロしてた時に、メタきちさんたちの動きに気が付いて、一緒に動いてたんだって。それから、追い払ってくれたお礼が言いたくて、周りをずっと飛んでたらしいんだけど、誰も気付いてくれないから泣きそうになってたんだってさ。」
精霊の話をメタきちさんたちに説明する。
当の精霊はというと、今は私の肩に座っている。らしい。
緑の光までは分かるのだが、小さすぎるせいか、座っていると言われても分からないのだ。
「ねぇ?もう少しだけ大きくなれない?そうだな。小指の長さくらいになってくれると嬉しいな。」
ダメ元で私は精霊にお願いしてみた。
『分かった‥‥。』
そう言うと、精霊は肩の上でぐんぐん大きくなり、本当に小指程度の大きさになってくれた。
「わぁー!可愛い!女の子だったんだね!」
精霊は、背中まで伸びた長い髪で、白いワンピースを着ていた。
肌は真っ白で、長く伸びすぎた前髪で、目が隠れてしまっていた。
両手を胸の前で組んでいるのは、まだ少し怯えているのだろう。
そのあまりの愛くるしい姿に、私は思わず抱きしめそうになった。
「その前髪だと見えにくいでしょ?ちょっと待っててね。メタきちさん。先の尖った小枝を2本拾ってきてもらえませんか?」
「お、おう。」
いきなり役割を振られて何のことか分からないというメタきちさんだったが、すぐに外に出て小枝を拾ってきてくれた。
「さぁ、ここに座って。」
メタきちさんから小枝を受け取って、肩にいた精霊をテーブルの縁に座らせる。
フワフワとゆっくり移動する精霊の愛くるしい姿に、叫び出しそうになるのを全力で我慢した。
「小さいから出来るかなー。うーんと、あ、いけそう。」
私は、2本の小枝を使い、精霊の前髪を器用に編み込んでサイドに流していく。
気分は米粒に字を書く職人だ。
「じ、嬢ちゃん?今は何してるんだ?」
メタきちさんたちが、興味津々な様子で私を見つめていた。
そうか。見えないから、私が小枝を使って妙な動きをしているようにしか見えないのか。
「はい!できた。えーっと、精霊の前髪を編み込みにしてあげてたんです。小指くらいの大きさになってもらった時に、前髪が鬱陶しそうだなと思って。」
「う、羨ましいわ‥‥。リサちゃーん。後で私にもやってー。」
ハーピィーさんが謎の食いつきを見せてきた。ハーピィーさんはそのままで十分綺麗なのにと思ったが、やはりオシャレに興味があるのだろうと納得する。
「ハーピィー。今はそんなことは置いておいて。マスター。やはりそこに精霊がいるのですね?」
「そんなことって何よ!リサちゃんとのスキンシップは大事なんだからね!」
ハーピィーさんがプリプリと怒りだしたのだが、悪魔さんは心底どうでもよさそうにため息をついた。
「はい。今は私の頭の上で座ってます。髪の毛を掴んで遊んでますよ。」
髪の毛を編んでもらったことが相当嬉しかったのか、最初の人見知り感はどこへやらと言うほどの懐きっぷりだ。
いや、違うか。
人見知りだと思ったのはこちらの勝手な思い込みで、元々こういう性格だったのだろう。
「ねぇ。みんなに見えるようには出来ないの?」
私がそう尋ねると、精霊は悲しそうに首を横に振った。
「ごめんなさい。私はまだ中級精霊だから、姿を見せるほどの力は無いの。だって。」
精霊の言葉を3人に伝える。
それほど面倒ではないが、今後、通訳のようなことをしていると、意味に齟齬が生まれるかもしれない。そうならないために、自分で話してもらうことが一番だと考えたのだが、どうやら難しいようだ。
「そうですか。しかし残念です。精霊といえば、軽く千年は生きていると聞いたことがありますから、色々な知識を授かれるかと思ったのですが、マスターを介してだと、少し大変ですね。」
さすが悪魔さんだ。知識欲がハンパないな。
「まぁ、仕方ありませんね。本当に必要なことだけ、時間のある時にお尋ねすることにします。さて、話を戻しましょう。まだ報告は終わっていません。」
そう言って、悪魔さんは続きを話しだした。




