リサ~異世界⑬新スキル~
それから、悪魔さんはメタきちさんと森を見て回った時の様子を教えてくれた。
なんとかという国の斥候は何人か確認したが、他の冒険者たちは全員撤退したようで、森には静けさが戻りつつあるという。
魔物たちの被害については軽微なものだったがらしいが、森の被害はなかなかのもののようだ。
それこそ、全てが戻るまでには何十年という月日を要するらしい。
「何とかしてあげたいけど、森を再生する魔法なんてないだろうし‥‥って、あと、悪魔さんのその呼び方は何ですか?」
戦闘中にもそう呼ばれていた気がするが、あの時はそれどころではなかったので無視していたのだ。
しかし、普段そんな呼ばれ方をすると、何だか従わせてるみたいで気が引けてしまう。
「何ですかも何も、あなたは我々のマスターです。本来ならば他の3人もこう呼ばなければならないというのに‥‥」
そう言いながら、悪魔さんは3人を見てため息をついた。
「な、何だよ。嬢ちゃんは嬢ちゃんだろ。」
「そうよー。リサちゃんはリサちゃんだわ。」
「ん?リサはリサじゃないのか?」
3人の反応に、私は思わず笑ってしまった。
「あはは。呼びやすい呼び方でいいですよ。私は、みんなと一緒ならそれでいいです。これからも、助けてくださいね。」
私はそう言って、みんなに微笑みかけた。
「それと、マスターもです。いい加減、敬語はやめていただきたい。先の戦いのような口調の方が、マスターという感じで私は好きです。」
まさか私にも飛び火してくるとは思わなかったのだが、年上を敬うということは私の中では当たり前のことなのだ。戦闘中は興奮も手伝って、あのような口調になってしまったが、私としては敬語の方が話しやすい。
「あはは‥‥考えておきます。」
苦笑いを浮かべ、とりあえずその場を乗り切ることを選択する。
『私も‥‥』
「え?」
突然どこからか声が聞こえてきた。
『私も‥‥話したい‥‥』
今のはさっきよりはっきり聞こえた。
声の出所を探ろうと辺りを見回しても、みんなの他には誰もいない。
「嬢ちゃん?どうしたよ。」
メタきちさんが心配そうに声をかけてくれた。
「えっと‥‥声が聞こえたんですって言っても、信じてもらえないですよねー‥‥。」
地球にいた頃なら、突然声が聞こえたと言って信じてくれる人などいなかっただろう。いや、京子や彩夏さんなら信じてくれるだろうが、それはあくまでも少数派でしかない。
『ここ‥‥に‥‥いる‥‥』
もはや何かがいることは間違いない。
そう思って、再び周りを見回すが、やはり何も見つけられなかった。
「どこ!」
面倒になった私は、見えない相手に向かって思いきって聞いてみた。
そんな私の突然の叫びに、3人とも驚いているようだ。だが、その表情は、驚きのものだけで、私を怪しんでいるものではないということが分かった。
どうやら、私の言うことを信じてくれているようだ。
『聞こえ‥‥てる?私の声が‥‥分かる?』
「分かるよ!どこ!」
いくら私を信じてくれているとはいえ、メタきちさんたちからすれば、私が突然大声で話しているだけのように見えただろう。しかし、私からすれば、これは独り言などではなく、目に見えない誰かと、間違いなく会話をしているのだ。
「ど、どうしたよ嬢ちゃん。」
「マスターが見えない何かと会話をしている?」
メタきちさんと悪魔さんが不思議そうに私を見ていたが、悪魔さんが現状の分析を始めてくれたようだ。
「そうなの!会話してるの!どうすればいいと思う!?」
私は頼もしい味方ができたと言わんばかりに次の手を尋ねた。
1人では分からないことも、みんなから知恵を借りれば解決できるかもしれない。
「そうですね。レイス系の魔物‥‥ならば我々が感じられないのはおかしい。それならば極小の新種‥‥いや、それでも気配くらいは‥‥仮に気配がなくとも、キラーが反応するはずなのですが‥‥寝てますね。」
悪魔さんは分析を進めていたのだが、これだけの騒ぎの中でも眠っているキラー君を見てため息をついていた。私にお腹を撫でられていた時に、眠ってしまったのだろう。
そんな悪魔さんだったが、再び考察を始めた。
「違いますね。発想を変えましょう。キラーが眠れるほど、害意や危険がないという考え方ならば‥‥見知らぬ魔物ではない。しかし、マスターや我々が心許せる魔物にそんな特性を持つ魔物はいない‥‥。ま、まさか‥‥いや、マスターならあり得ますね。」
「ど、どうしたのよ?」
何かの結論に至って顔を上げた悪魔さんに、心配そうに声をかけるハーピィーさん。
メタきちさんは、難しい顔をしながら事の成り行きを見守っていた。
「マスター。申し訳ありませんが、メニューウインドのスキル一覧を確認していただけませんか?」
悪魔さんが何かを掴んだのだろう。
私は悪魔さんの言う通りに、メニューウインドから自身のスキル一覧を確認した。
「あ!」
そこにはなんと、新たなスキルが書き込まれていた。
「マスター。大変失礼ですが、そのスキルを読み上げていただけませんか?」
「うん。スキル名は『優シキ世界ヲ目指ス者』だって。」
読み上げた瞬間、メタきちさんと悪魔さんが固まってしまった。
「ど、どうしたの?」
「ちょっとタイムだ嬢ちゃん。おい。集合だ。」
なんだかデジャブな気もしたが、メタきちさんたちはそんなこと御構い無しで悪魔さんとハーピィーさんを連れて部屋の端へと向かっていった。
~部屋の端にて~
「さて、第2回作戦会議だが、今回は嬢ちゃんのスキルについてだ。」
進行はメタきちだ。
「得体の知れないスキルが出てきましたね。まだまだ知らないことが多くあることは理解していますが、それでも、想像くらいは出来るものです。しかし、マスターのスキルは、知らないという枠を飛び越してしまっています。もはや未知の領域ですね。」
未だ知らないものとの出会いに興奮しているのか、悪魔は早口でまくしたてた。
「2人が知らないとなると、私が知ってるわけないわねー。けど、名前からして特に問題無いスキルなんじゃないの?」
ハーピィーの言葉に、メタきちと悪魔が揃って考え込んだ。
「未知」に対して考察をしているのだろう。
すると、考察が終わったのか、メタきちが話し始めた。
「名前だけ見れば確かにそうだ。だが、『優シキ世界』ってのは、誰に優しい世界なんだ?人間か?俺たちか?」
「そ、それは分からないけど‥‥」
メタきちの問いに、ハーピィーは言葉を詰まらせる。
「マスターは我々の味方です。しかし、マスターは人間なのです。だからこそ、人間にも魔物にも優しい世界なのではないかと思いますが……それはやはり夢物語すぎます。最初から手をとり合えているのであれば、もっと早くに魔物と人間との争いなど終わっているはずです。」
悪魔がはっきりと考えを述べた。
確かに、魔物と人間の争いをなくそうとして動いてはいるが、両方に優しい世界などやはり夢物語だろう。
もちろん、これは達成不可能というわけではない。
誰の血も流さずに、無血で達成できないという意味だ。
メタきちが考え込んでいると、悪魔がさらに続ける。
「私は、マスターを信じていますが、それは同時に、人間を信じるという意味ではありません。これはおそらく、今後も変わることはないでしょう。」
その意見に関しては、メタきちも賛成だった。
昔、旅をして思ったことは、一部の人間は信用できるということだ。
しかし、その一部の人間というのは、世界からすれば本当に僅かしか存在しない。
しかも、その人間は、なぜか人間の世界から疎まれてしまっていることが多いのだ。
「まぁ、嬢ちゃんについて行くと決めた以上、俺らは嬢ちゃんを信じるしかねぇんだ。嬢ちゃんのことだ。きっとまだまだとんでもねぇ事になりそうだ。それこそ、このスキルなんざ序の口だと思えるくらいな。」
メタきちの予言は見事に当たっていた。
これから、メタきちたちに降りかかる様々な出来事は、常にメタきちたちの想像の範疇を超えていく。
そんな旅になるということを、今の3人は知る由もなかった。
「ねぇ。リサちゃんの所に戻りましょ?ここで話しても、結局何も変わらないわ。」
ハーピィーの言葉で、今回の作戦会議は終了となった。




