リサ~異世界⑫戦闘後~
準備万端な冒険者たちを見て、私は戦闘中だったことを思い出し、気を入れ直す。
すると、私の腕の中からメタきちさんの声が聞こえてきた。
「安心しな。もうあんな奴らにゃ負けねーよ。」
メタきちさんの言葉に反応するかのように、周りの3人も大きく頷いた。
『あ、もしかして……みんな私を守ってくれてる?』
よく見ると、3人が隙なく私を囲んでくれていることに気が付いた。さらに、その注意は全て周囲に向けられていた。私は、戦闘中だということも忘れて思わず微笑んでしまった。
そんな時、冒険者の1人が話し始めた。
「そこのお嬢ちゃん。お前は一体何者だ?そいつらは魔物だぞ?しかも、1匹1匹がAランク……いや、突然強くなった感じがする。今じゃSランク並の化け物になっちまった気がすんだよな。何かしたのか?」
『なんとなく分かる!』
みんなのランクがAだとかSだとかいうことよりも、私は人の言葉が分かったことにまず喜んでしまった。
「リサちゃん……相手の言葉が分かって嬉しいのは分かったから、まずはその顔なんとかしなさい。」
「はっ!?」
どうやら、言葉が分かるというあまりの嬉しい体験に無意識に笑ってしまっていたようだ。
それを見ていた悪魔さんとメタきちさんが笑いをこらえていた。
「おい!聞いてんのか!俺の言ってることは分かるか?そいつらは魔物だ!危険だから、早くこっちに来い!」
「この子たちは、私の友人です。危険はありません。」
なんとかしてメタきちさんたちに害意がないことを伝えたかったのだが、まだまだ流暢に話すことができないので、どうしても無愛想になってしまった。きちんと通じているだろうかと不安になる。
「はぁ?魔物が友人だと!頭おかしいのか?嬢ちゃん!悪いことは言わねぇ!この森は、ル・エリテーゼ王国からの勅命で焼き払われることが決まったんだ!早く逃げねぇと、巻き込まれて死ぬぞ!」
言い方はかなり乱暴だが、目の前の冒険者は、この状況でも私を助け出そうとしてくれているようだ。
『優しい人なんだな……』
この人は、本気で私の身を案じてくれている。
魔物を退治するのも、魔物が悪だと思っているからだろう。
話し合えば、きっと分かり合える。
でも、まだ分かり合えない。
だからこそ、私はまだそちらへは行けない。
そう結論付けると、私は冒険者に話しかけた。
「伝えてください。この森に手を出すなということ。もしまた同じことをするようなら、次は容赦しないということを。」
私は右手を挙げた。
「「「「なっ!」」」」
目の前で起こった光景に、冒険者たちは驚きの声を上げた。
冒険者の周り全てから、とんでもない数の魔物が現れたのだ。
「ぐわっ!」
「ぐへっ!」
その中の魔物が、潜んでいた冒険者を倒してきてくれたようだ。
「だ、大丈夫か!?」
「あぁ、なんとかな……しかし、一体これはどうなってんだ……」
どうやら2人とも命に別状はないようだ。
魔物たちが怒りに任せて攻撃してしまっていないか心配になったのだが、どうやら杞憂だったようだ。
「伝えてください。この森に手を出すなということ。もしまた同じことをするようなら、次は容赦しないということを。」
私は同じセリフを伝えた。
大事なことは2回言う。学校の先生もよく言っていた。
『けど、やっぱり無愛想になっちゃうんだよなー。もっと勉強しないと、なんか怖がられちゃいそうだよー。』
言葉と気持ちが一致していないというのはまさにこのことだろう。
理沙としては、フレンドリーに接しているつもりでも、冒険者たちにとっては、恐怖の対象である魔物を従え、無愛想な口調で警告を発してくる相手なのだ。
勘違いが起きない方がどうかしている。
「わ、分かった!確かに伝える!だから、俺たちの命は勘弁してくれ!」
「??」
理沙は不思議そうに首を傾げた。
理沙からすると、一体何を言っているんだろうかというところだ。
命なんて、最初からとる気などない。
「分かりました。では、行ってください。」
まだまだ言語に不安があったが故のすれ違い。
しかしこのすれ違いが、後々、大きな争いへと発展していくのだが、それはまだ先の話だ。
あの冒険者たちがリーダー格だったのだろう。あの連中が去った後、次々と人がいなくなっていった。
森の火も、魔物たちの魔法やら森の不思議な力とやらで何とか消し止められたようだ。
それにしても、今思い出してもなかなか綱渡りなやり取りだったのではないかと思う。
あの時、森で仲良くなった魔物たちが集まっていなければ、冒険者と戦闘になっていただろう。
冒険者の反応を見る限り、私のスキルで強くなったメタきちさんたちが負けることはなかっただろうが、後々のことを考えると、人間との争いは極力避けたかった私としては、とても大助かりだ。
「リサちゃん、お手柄だったわね。」
ハーピィーさんがニコニコしながら頭を撫でてくる。ログハウスに戻ってから、ずっとこの調子だ。
メタきちさんと悪魔さんは、被害の状況を見てくるとか言って出て行ったきりだ。
「もう!子どもじゃないんだからやめてください。ただでさえ私の周りを何かが飛び回ってるのに‥‥。」
「何が飛び回ってるんだ?」
キラー君が不思議そうに尋ねてきた。
森での戦闘を終えた直後から、私の周りを緑色の何かがずっと飛び回っているのだ。
最初はよく分からなかったので放っておいたのだが、今では何だか鬱陶しくなってきていた。
「え?何って、なんか緑色の小さな虫みたいなのが、ずっと飛び回ってるの。見えないの?」
2人に尋ると、2人は顔を見合わせて首を傾げていた。
当然、見えているのかと思ったが、2人の反応を見る限り、どうやら見えていないようだ。
「ほら、ここ。あ、今はここ。って、もう!ちょろちょろと!」
私は虫を払うかのように両手を振う。本当に、まったくもって鬱陶しい限りだ。
2人は、私のその動きをきょとんとした顔で見つめていた。
私の周りを飛び回っているものが見えていないのであれば、私の動きはとても滑稽なものだろう。
「あ!今キラー君の頭の上に止まってる!動かないでよー‥‥。」
今まで、私の周りを飛び回っていたものが、ようやく私から離れ、キラー君の頭の上に止まった。
これはチャンスだと思った私は、私は手を広げて、ゆっくりと腕を振り上げた。
「え?え?」
困惑するキラー君に、私の平手が打ち下ろされた。
「あいたっ!」
「あ!ご、ごめん!」
緑色の虫は私の攻撃をするりと躱すと、また私の周りをちょろちょろと飛び始めた。
叩かれたキラー君は、何がなんやらといった表情だ。
「おーい。お前らー。帰ったぞー。」
その時、どこかのほのぼの家族のお父さんのようなセリフを言いながら、メタきちさんたちが戻ってきた。
「あん?何やってんだ?」
「キラー君を平手打ちしたお詫びに、お腹をさすってるの。」
キラー君は、叩かれたことなどもはや忘れてしまったかのように見事にひっくり返っていた。
戦闘ではあれほどカッコ良かったのに、今やその時のカッコよさなど微塵もない。
「平手打ちって‥‥キラーが何かしやがったのか?」
「違うのよ。リサちゃんが、緑の虫が見えるとかで、ずっと追い払ってたんだけど、なかなかどこかへ行かないみたいでね。それで、キラーの頭に止まった時に仕留めようとしたのよ。」
ハーピィーさんの説明を聞いて、メタきちさんと悪魔さんが目を細めるようにして私を見た。
「どこにもいねーじゃねぇか。」
「ええ。私にも見えません。」
メタきちさんはともかく、悪魔さんにも見えないなんて、一体これは何なのだろうか。
刺されたりとかしたら嫌だなと思っていると、悪魔さんが話し始めた。
「マスター。一応、その後の報告をしておきます。」




