リサ~異世界⑪救出劇~
冒険者たちに突撃を敢行したメタきちだったが、戦闘において本気で走ったことはなかった。
メタきちの素早さはこの中の誰よりも早い。
本気になれば、目にも留まらぬ速さで動くこともできる。しかし、速度を上げれば上げるほど、自由な動きがとれなくなってしまうのだ。
直線の動きほど、カウンターに適しているものはないし、止まった瞬間の無防備さなどは、それこそ命取りだ。多少ダメージを負う危険があろうとも、メタきちにとっては、素早さを落として常に動き回っている方が安全なのだ。
『バラけて挟もうったって無駄だ!準備が整う前に、最大速度で戦士に攻撃してやる!』
カウンターなら、少しだが避けられる自信があった。しかし、挟撃されてしまうと逃げ場がなくなってしまう。後ろに引いてしまえば、何かしらの詠唱を始めている魔法使いの攻撃が飛んでくる可能性もあった。
ある程度の魔法は効かないと分かっているのだが、煙幕など、視界を奪う魔法もある。
それならば、前に進むのみだ。
そう思ったメタきちがさらに加速する。もはや弾丸だ。
「わぁぁ!」
「わぁぁ!」
メタきちが加速して挟撃を抜けようかとした直前。挟撃されると思っていた地点から雄叫びが聞こえた。
「ぐわぁ!」
「メタきち!!」
悪魔が詠唱を中断して思わず叫ぶ。
左右からの挟撃だと思い込んでいたのだが、まさか雄叫びが飛んでくるとは思わなかったのだ。
想定外の攻撃に対して、メタきちの対処が遅れる。
「チィッ!」
雄叫びに対して、完全に足を止められてしまったメタきち。そしてそんなメタきちに対し、死神の鎌はゆっくりと首にかけられた。
左右から飛び出してきた冒険者の手には、メタきちを死へと誘う武器が握られていたのだ。
「ダメだ!間に合わない!!」
簡易の魔法を紡ぎ出す悪魔。
しかし、撃ち出してから着弾までの時間が余計だった。
撃ち出したはいいが、間に合わない。
『へっ……俺もヤキが回ったもんだ……。それに、これが死ぬ瞬間か……。ずいぶんとゆっくり考えさせてくれるじゃねぇか。それにしても、最後はくそったれ人間の顔を見ながら死ぬことになるとはな……。』
メタきちは死の直前、時間が長くなるというレアな体験をしていた。
生まれた時。
死を目撃した時。
1人で生きていける力を手にした時。
若者との出会い。
人間を信じてもいいかと思った瞬間。
そして、あの優しい少女の笑顔。
「あとは頼んだぜ……。」
そう言って、メタきちはゆっくりと目を閉じる。
左右からは、メタきちに死をもたらさんと、冒険者が迫っていた。
そして……メタきちに、「死」が与えられようとしたその瞬間。
「ダメー!!」
さきほどの雄叫びを超えるほどの声が戦場に響いた。
「うぉっ!」
「何だ!?」
その叫び声を聞いて、メタきちに迫っていた「死」が本当に一瞬だが止まった。
雄叫びの主は、その瞬間を見逃さない。
「キラー君!ハーピィーさん!」
その声の直後、戦場に突如として現れた黄色と白の旋風が、瞬く間に冒険者に肉薄する。
同時に、冒険者が怯んだことで生まれた一瞬の時間で、悪魔が放った魔法が冒険者に届く。
「なっ!」
「くそっ!」
急造の魔法のため、威力はさほどないのだが、安全マージンを確保しながら戦う冒険者の性だろう。
2人は思わず身を仰け反らせた。
「おりゃー!」
仰け反らされて、態勢を崩された無防備な冒険者に対して、キラーの全速力の突進が刺さった。
「ぐわっ!」
キラーの攻撃を受けた冒険者が見事に吹き飛ばされ、奥の木に背中から激突し、その場でぐったりと倒れこんだ。
「まだだ!」
突撃の勢いそのままに、キラーは再び地面を蹴った。
驚きの表情を浮かべているメタきちの真横を駆け抜け、未だ態勢の整っていない一方の冒険者をも吹き飛ばす。
「ぐはぁ!」
1人目の冒険者同様に、木に縫い付けられた冒険者は、意識を失ったのか、そのまま動かなくなった。
「メタきち!」
キラー君が冒険者を吹き飛ばした一瞬後、ハーピィーさんがメタきちさんのもとにたどり着き、いまだに固まっているメタきちさんを抱えると、そのまま上空へと離脱した。
「キラー君!戻って!」
残っている戦士と魔法使いを威圧していたキラー君が、私の声に反応して空中で後転しながら戻ってきた。
さすが王者の血を引くだけある。アクロバティックな動きがめちゃくちゃカッコいい。
しかも、戦闘に入ってからのキラー君はいつもと様子が違っていた。なんというか、まさに獣だ!
「リサちゃん!メタきちを回収したわ!」
「回収っておい!物か俺は!」
メタきちさんがハーピィーさんの胸の間で何やら文句を言っているが、今はそれどころではない。
私はハーピィーさんからメタきちさんを受け取ると、思いきり抱きしめた。
「ぶふぁっ!ぶぁ、ぶぁんだ!や、やめろー!」
暴れるメタきちさん。
「心配した。ほんとに心配したんだから。着いた瞬間、殺されそうになってるし……。」
私は震える声を絞り出すように話しかけた。
すると、暴れていたメタきちさんが大人しくなった。
「わ、悪かった……。いや、あんなことになる予定じゃなかったんだぞ?予定だともっとカッコよくだな……って、泣くな!頼むから泣かないでくれ!」
「おやおや。メタきちがマスターを泣かせましたか。これは見ものですね。」
悪魔さんが穏やかに話しながらこちらに近づいてきたのだが、警戒は冒険者に向けられているような気がした。
どうやら悪魔さんも無事なようだが、私に対する呼び方が変わっている気がする。
「フッフッフ……命拾いしましたねメタきち。そうだ。あの時あなたが言ったセリフ。マスターにお伝えしなくてはなりませんかねぇ?」
「ばっ!!」
悪魔さんの言葉を聞いて、私の腕の中にいるメタきちさんが再び暴れ出した。
何を言ったのか気になるところだが、今はそれをゆっくり聞いてられる状況ではない。
「こら!メタきちさん!めっ!」
「ぐっ……なんだ?動けねぇぞ……」
私が叱ると、メタきちさんが急に大人しくなる。
「これは……もしかすると、完全に覚醒されたのかもしれませんね。いや、違いますね。これはもう覚醒してますね。」
「何に?」
私は思わず悪魔さんに尋ねた。
私としては、ハーピィーさんの時のように、ただ意識して言葉を使っているだけだ。何かに覚醒したと言われても、一体なんのことか分からなかった。
「魔物マスターの能力です。使いこなせるようになったのでしょう。その証拠に、マスターの言葉でメタきちが大人しくなった……ん?」
話の途中で、悪魔さんが急に体を動かし始めた。
「ど、どうかしたの?」
「なるほど。マスター。我々を認めてくださったのですね。」
悪魔さんが突然意味不明になってしまった。
「今しがた動きを確認してみたのですが、どうやら私のステータスが急激に上がっていますね。これはおそらくマスターの能力の影響です。メタきち、キラー、ハーピィー、そして私の4名のステータスが上がっているはずです。」
「なるほど……」
何がなんだかよく分からないが、悪魔さんが言うならそうなのだろう。
私はよく分かっていないままに、適当に頷いた。
「おい!」
突然、野太い声が私の耳に届いた。声のした方を見てみると、すっかりと戦闘態勢を整えた冒険者たちが立っていた。




