リサ~異世界⑩メタきちの戦い~
ハーピィーを理沙の下へと向かわせたメタきちたちは、現在、森を焼いたとされる冒険者グループのリーダー格を相手にしていた。
「おいおい。今回の奴らはいつにも増して気合い入ってんじゃねーか!」
美しいシルバーの鎧を身にまとい、背丈ほどもありそうな斧を振り回す冒険者の攻撃を紙一重で避けながらも、どこかスリルを楽しんでいるかのように話すメタきち。
当然ながら、メタきちの言葉は冒険者には聞こえていない。聞こえていれば、何かしらの違った展開になっていたのだろうが、それを言ったところで、何も変わりはしない。
そんなことを思いながら、メタきちはさらに別の冒険者の攻撃を躱す。
「そんなヒョロヒョロの攻撃じゃ当たんねーよ!」
興奮しながらも戦況の確認を怠らないメタきち。
メタきちは、この戦場に魔法使いがいることも当然知っている。その魔法使いが、魔法を放ってこないということも、しっかりと理解している。
メタきちに対しては物理攻撃しか効かないので、相手はただ武器を振るうしかないのだ。
「チッ!」
「メタきち!」
メタきちの体に、冒険者の一撃が刻まれる。
今まで冒険者の攻撃を躱し続けてきたメタきちだったが、相手の冒険者にもやはりプライドというものがあるのだろう。すぐさま連携し、メタきちの動きを捉え、ようやく一撃を見舞ったのだ。
「よっしゃ!」
その状況を見ていた、冒険者たちのグループの誰かが声を出した。
「ヒール」
メタきちに攻撃がヒットした瞬間、悪魔がメタきちを癒すために魔法を飛ばす。
そう。メタきちは全ての攻撃を躱しているわけではない。たまに当たりこそすれども、すぐさま相方の悪魔が回復魔法を入れてくれるので、余裕をもって走り回っているだけだ。
冒険者がクリティカルを放てば、メタきちは一撃で死んでしまうだろう。しかし、それを恐れていては何も始まらない。
それをしっかりと理解しているメタきちは、クリティカルを放ちそうな相手の攻撃だけに意識を集中させ、躱し続けているのだ。
「何が目的かは分かりませんが、このようなやり方は気に入りませんね。まぁ、正面からきても勝てないからこそなのでしょうが……まったく、小賢しい人間もいるものです。」
メタきちの体力管理をこなしながら、自らも着実に冒険者を削っていく悪魔の呟き。
その口調は、冒険者たちに対する怒りに満ちていた。
「はっ!人間もいい奴ばっかりじゃねぇってことだよ!」
悪魔の呟きを拾ったのか、そんなことを言いながら次から次に攻撃を当てていくメタきち。
メタきちの攻撃を受けた冒険者は、意識を失うというところまではいかずとも、数歩後ろに下がっていく。
「メタきち!魔法使い系の類は装甲が薄いです。あなたが仕留めなさい!私が戦士系を担当します!」
「やっかましい!言われなくても分かってるっつーの!」
そう言って、メタきちは自慢のぷるぷるボディで体当たりを仕掛けた。
「ぐわぁ!」
いくらひ弱なスライム族とは言え、それなりのレベルの魔物の攻撃だ。
相手を一撃で倒すことはできなくても、何度も受けられるようなものではない。
だが、戦士系の冒険者とは違い、魔法使いのような貧弱な職業の連中であれば、メタきちの攻撃でも効果は期待できるだろう。
だが、今回は『倒す』必要はないのだ。もちろん、極力数を減らせればそれはそれで良いのだが、無理をしてまでそれをする必要はなかった。
「メタきち!時間を稼げれば良いのです!あまり深くまで斬り込まないようにしなさい!」
「分かってるっての!」
さきほども言ったが、2人のやりとりは冒険者には当然聞こえていない。
人間のように、『音』にして話しているのではなく、念話のような、直接脳に送り込む会話をしているのだ。ただし、理沙との会話は、しっかりと口頭で行なっているのだが、もし人間の第三者が見れば、両者ともに何を言っているのかを理解できないのだ。
これは、この世界に働く独特のシステムが影響しているのだが、どの種族も、スキルのおかげという認識で一致しているため、システムの説明は今は割愛する。
「おっと。メタきち。あの方々は今までとは雰囲気が違います。一度下がりなさい。」
交戦中の冒険者たちの奥から現れた援軍の冒険者たちを見て、悪魔はメタきちに下がるよう指示をだした。
「あぁ?そんな違うようには見えねーけ……って、おいおい。あの武器は無しだろーがよ。」
冒険者たちの持つ武器を見て、メタきちが盛大にため息をついた。
「フフフ……当たれば死にますね。まぁ、低確率ですが。」
「俺にとっちゃ最低な武器だっつーの。」
メタきちが文句を言う先にいる冒険者たちが持つ武器。それは先端の尖ったピックのような形状の武器だった。
「毒は塗られてねーみたいだから、運がよけりゃ生きてられんだろ。」
メタきちは、似たような武器で同族が殺されていく様を幾度となく目にしていた。
あの武器も、避けなければならないという点においては他の武器となんら変わりはないのだが、他の武器と違う点は、『一撃死』があるかどうかという点だけだ。
先端が尖っているため、当たりどころが悪ければ死ぬ。
ただそれだけだ。
そのような凶悪な武器を持った冒険者が複数いるというだけで、メタきちは、背中に得体の知れないものがこびりついたような感覚に襲われた。
「なぁ……。」
「なんですかメタきち。まさか死ぬのが怖くなりましたか?」
メタきちは昔、ある若者たちと共に旅をしたことがあった。
知らぬ土地でまだ見ぬ未知を知る。
当然、いくつもの死線をくぐり抜けた。仲間の死とも向き合った。
そんな旅でも、メタきちは変わることなくメタきちだった。
そう思いながら、メタきちは小さな笑みをもらした。
「ちげーよ。」
「じゃあ何ですか?あちらさん、色々なバフをかけ始めているので、出来れば整う前に仕掛けたいのですが。」
そんなメタきちが、今、心から思う。
「嬢ちゃんと、旅してぇなぁ。」
若者たちとの旅も悪くはなかった。
知らなかったことを知り、見たことのない世界を見た。
けれど、心はどこか冷めていた。
自分は、若者たちにとっては束の間の仲間でしかない。
自分より強い者が現れれば、自分はぬけなければならないのだと。
そう思っていた。
だが、リサは違った。
兄を捜すという目的はあれども、自分たちの話を聞いてくれた。
一緒に悩んでくれた。
そして、自分たちの願いを叶えようと、懸命に努力してくれた。
メタきちは思った。
リサこそが、自分が信じるべきマスターであると。
「何を馬鹿な事を。こいつらを何とかしたら旅に出るんです。意味の分からないことを言わないでください。」
悪魔が呆れたように言う。
『こいつも優しい奴だ。』
メタきちは、最期の戦いがこいつと一緒で良かったと思った。
自分はあの武器から逃げきることは出来ないだろう。
攻撃を全て避け続けることは不可能なのだ。
一撃では死なないかもしれない。しかし、一撃だけで死んでしまうかもしれない。
あれはそういった武器なのだ。
だが、悪魔であるこいつだけなら逃げきれる。
『俺を抱えて逃げても……まぁ、追ってこられたら意味ねーわな。俺の命なんてのは、嬢ちゃんを生かすためなら安いもんだ。』
そう考えて、それでもなお、メタきちは笑った。
「はっはっは!確かにそうだ!よし!敵さんは万全なようだな。じゃあ、いっちょ行くか!」
メタきちの笑いは、すでに不敵なものへと変わっていた。
「いつもの作戦でいく。俺が撹乱でお前がデカイのをかましてくれ。」
悪魔が先行しても良かったのだが、それだとやはりジリ貧になりそうだった。
それほどに、援軍の冒険者たちが纏う雰囲気は違う。
当然、持っている武器も、対メタルスライム用の物だけではない。おそらく、戦闘中に武器を入れ替えられる程度の実力もあるのだろう。
対メタルスライム武器ではない武器を使用されると、人数差からして、悪魔が追い込まれることは間違いない。それならば、悪魔に最大出力の魔法を放ってもらったほうが、まだ自分に活路はある。
そう思ったメタきちは相手に向かって一直線に駆け出した。
『相手は4人か?正面のやつは戦士でカウンンター狙い、横は魔法使いか?ありゃ何の詠唱だ?あとの2人は……回り込んだか。3点同時か?まぁ、いい。来るならきやがれ!』




