リサ~異世界⑧新たな展開~
私は、閃いたアイデアを形にするべく、さっそくイメージを固め始めたのだが、本当に出来るのか不安になったので、とりあえず質問してみることにした。
「あの!魔法って、イメージで撃つんだよね?時魔法っていうくらいだから、もしかして、加速したりなんかもできないかな?」
時を止めることが出来るのであれば、もしかするとその逆も可能なのではないかと思ったのだが、それを聞いて、メタきちさんと悪魔さんは顔を見合わせていた。
『あれ?もしかして、無理なのかも……』
そんなことを思っていると、メタきちさんが不思議そうに尋ねてきた。
「出来なくはない……とは思うけどよ、時間を加速させてどうするつもりなんだ?」
「えーっと……。時を加速するってことは、相手より早く時間が進んでるってことでしょ。それって、自分と相手の時間が違うから…えーっと……。」
なんだかいろんな法則を無視して話をしているせいか、自分でも話していてよく分からなくなってしまった。イメージは固まっているのだが、ファンタジーに馴染みのない私は、それを上手く相手に伝えることが出来ずにいた。しかし、悪魔さんにはそれだけで十分伝わったようで、何やら楽しそうに話し始めた。
「なるほど。なんとなくですが理解できました。しかし出来るかどうかは分かりませんね。とりあえずやってみましょうか。キラー。相手になってください。リサさん。私にその加速の魔法をお願いします。」
「ん?相手すればいいのか?」
悪魔さんの言葉を聞いて、今まで、私たちのやっていることをじっと見つめていたキラー君が一歩前に出る。それと同時に、私は魔法のイメージを固め始めた。
時間を加速させるイメージ。
悪魔さんと、その周囲数センチだけ時間を早く進めるイメージ。
そんあイメージを練り上げて、私は悪魔さんに向けて魔法を放った。
「なんだ……。」
悪魔さんに見た目の変化は見られなかったが、メタきちさんの様子がおかしい。
体の中から、何かが抜け出た感覚はあったので、とりあえず魔法としては成功したはずなのに、どこかおかしいところがあったのかなと思った私は、一瞬だが、悪魔さんから目を離し自分の手を見た。
「うわぁ!!」
次の瞬間、キラー君が大きな声を出して吹き飛ばされていた。
「「なっ!?」」
次いで、それを見ていたメタきちさんとハーピィーさんが驚愕の声をあげる。
メタきちさんの表情は分からないが、ハーピィーさんは、一体何が起こっているのか分からないといった顔だ。
「ほぅ……。これはなかなか。自分が持つ『時』を贄として周囲との時間差を作る。その時間差が、速度
アップと攻撃力アップに繋がるわけですか。時間を止めるにしても進めるにしても、かなり強力な魔法ですね。まぁ、寿命のある人間には使えそうもありませんが、我々のように、永遠に近い生のある種族には最高のサポート魔法です。」
悪魔さんが興奮しながら話してくれるが、魔法を放った本人はキョトンとしていた。
私としては、そんなとんでもない効果を期待していたわけではない。私が想像していたのは、速度アップまでだ。周囲との時間差で、攻撃力が上がる理由については、まるで見当もつかなかった。
攻撃力アップの仕組みについて考えを巡らそうとしていた私は、さきほど吹き飛ばされたキラー君のことを思い出した。
「あ!キラー君は!」
よく分からない説明に、頭がフリーズしていて、キラー君のことをすっかりと忘れていた。
「大丈夫ですよ。軽く撫でただけです。まぁ、軽く撫でただけであの威力。本気で殴ったらどうなることやら……フフフフフ……。」
あれだけ豪快に吹き飛ばしておいて、軽く撫でただけと言う悪魔さん。その言葉にも十分驚かされるが、何より、悪魔スマイル全開で、とても楽しそうな悪魔さんの姿に驚いた。
何がそんなに楽しいのだろうかと思ってしまう。
「なんだー!いきなり吹き飛んだー!」
悪魔さんの悪魔スマイルを見ていて、またもキラー君のことを忘れてしまっていた私は、吹き飛んだ方向から声がしたことで、再びキラー君を思い出した。
森の奥から元気いっぱい飛び出してきたキラー君。
あれだけ派手に吹き飛んだのに、ダメージとかないのかなと心配になったのだが、見る限りでは問題なさそうだ。
「キ、キラー君。大丈夫?」
「ん?何が?」
キラー君に尋ねてみたのだが、吹き飛ばされたことなど全く気にしていない様子のキラー君。心配して損したのかもしれない。
そう思っていると、悪魔さんが笑いながら近づいてきた。
「フフフ……。キラーのおかげで、かなり有意義な実験となりました。感謝しますよ。」
あれだけ吹き飛ばしておいて謝罪なしというのは、さすが悪魔さんだ。
「そうなの?それじゃあ良かった!」
普通なら怒るところではないかと思うのだが、キラー君が気にしてないみたいだから、私も気にするのをやめよう。
その後、かなり長い時間、時魔法を使い続けたが、私の魔力が尽きてフラフラになった以外は、何の変化もあらわれなかった。
「まぁ、そんな簡単に変化するもんじゃねぇだろ。」
メタきちさんの締めのセリフが、心に重く響いた。
その後、私の魔力が空になったということもあって、魔法の練習はここまでとなった。
練習の後で、教えてもらったのだが、魔力というのは、一定時間の睡眠をとらないと回復しないらしい。
薬やら何やらもあるのだが、なかなか手に入らない上に、僅かしか回復しないそうだ。
そういうことで、夜までは座学となった。
ハーピィーさんが地理担当で、メタきちさんが世界の様子。悪魔さんは、この世界で生きるのに必要な文字や言語、最低限の常識を教えてくれることになった。
ちなみに、キラー君は私の横でお腹を出して寝ていた。
それから、授業も終わり、食事をして、内容の濃い一日が終わった。
そこからの生活は、みんなと一緒にいてとても充実したものとなった。
毎日魔法の練習をして、勉強して。そして、誰かと一緒に毎日を過ごしていく。
早く兄を捜したいという想いは確かにあったが、こんな生活も悪くないと感じることのできる日々だった。
そして、私がみんなに師事してから1ヶ月近くが経った。
ログハウスを拠点にして、魔力の扱い方や魔法の練度、この世界での常識や言語に至るまで、たくさんのことを学び、ある程度の知識を手に入れた。他にも、森の魔物ともたくさん仲良くなった私は、いよいよ兄捜しを始めるための、最後の詰めの話をおこなっていた。
「訓練はしましたが、実戦訓練がほとんど出来ていないのが気になりますね。」
「人間の言葉もそこそこ話せるし、大丈夫だろ。それに、戦闘って言ったって俺ら魔物とは戦わねーじゃねぇか。」
悪魔さんの言う通り、私はこの1ヶ月、実戦と呼べる戦いをほぼ経験してこなかった。その理由として、たいていの魔物は、私が持つスキルのおかげできちんと話が出来たからだ。話さえできれば、例外なくなんとかなった。戦わずに済むならその方がいいと思っている魔物がほとんどな上に、メタきちさんたちのような強い魔物がいることが分かり、態度を軟化させる魔物もいたのだ。
だが、やはり戦わなければならな魔物も存在した。
自我が崩壊するなどして、魔物としての本能だけで生きている相手だ。そんな魔物に出くわした時は、心を鬼にして戦っていたのだが、話し合いに応じた魔物に比べて、やはりその数は圧倒的に少ない。
悪魔さんは、その辺りを不安視しているのだろう。
「いいですか?戦闘の経験がないということは、いざという時、戦えずに固まってしまう可能性があります。誰かがフォロー出来ればいいんですが、おそらく、リサさんに人間の仲間からのフォローは期待できません。」
「え?」
悪魔さんの言葉を聞いた私は間抜けな声を出してしまった。
実戦経験が少ないために、本番で固まってしまうというところまでは理解できたのだが、後半部分に関しては意味が分からなかった。同じ人間なのに、助けてもらえないという悪魔さんの言葉の意味を、私は理解できなかったのだ。
「なるほどね。人間にとって私たちはただの魔物。でも、リサちゃんはそうは思わないし、凶暴さも感じない。リサちゃんが凶暴な魔物だって認識するような相手って、頻繁に出会うものでもないから、人間と一緒に戦ってたら……ううん。きっとリサちゃんは戦えないわね。」
そんな私の思考をよそに、ハーピィーさんが話し始める。そして、ハーピィーさんの言葉に対して、悪魔さんが頷いた。
たしかに、ここにいるみんなと同じように話が出来るのならば私はきっと戦えない……いや、戦うことさえしないだろう。
そうなると、冒険者としては足手まといもいいところだ。
それに、魔物を攻撃しない冒険者なんて有り得ない。きっと怪しまれるだろう。だからと言って、割り切って魔物と戦えるほど、私の心は強くない。どうしても、今まで話をしてきた魔物たちの顔がチラついてしまうはずだ。
それならば、いっそのことスキルについて話してしまうのはどうだろうか。
「でも、リサちゃんにスキルがあることを言っちゃえばいいんじゃないの?」
ハーピィーさんも同じ事を思ったのだろう。私の言葉を代弁するかのように、悪魔さんに尋ねてくれた。
「いいですか?リサさんのスキルは、魔物討伐をかかげる人間にとって、おそらく許容できないものです。そんなスキル持ちの世間知らずが、のこのこ出歩いてごらんなさい。」
「捕まるわね……。」
「捕まるな……。」
悪魔さんのその言葉を聞いて、ハーピィーさんとメタきちさんがハモった。
失礼すぎ。そんな簡単には捕まらないよ!
「しかし、ここにいてはリサさんの目的も我々の悲願も叶いません。そこでこうしましょう。メタき
ち。あなたがついていきなさい。」
「はぁ!?」




