リサ~異世界⑥森の中のログハウス~
ドアが無事に開いたことで、私は安堵感から息を吐いた。
背中では、みんながはしゃいでいる声がする。
開いたからよかったものの、開かなかった場合はどうするつもりだったのだろうかと思いながら、私はログハウスへと入った。
中に入ると、そこは普通のログハウスだった。しかし、私はここが異世界だということをすっかりと忘れていたのだ。
「うわぁー。すごい。電気が付いてる!しかもソファーもテレビもあるし!台所もキレー……って、え?」
リビングとキッチンを見た後で、私は固まってしまった。
部屋に「電気」がついているのだ。
しかも、テレビやソファー。それに、冷蔵庫まで完備されていたのだ。
「……これは何の冗談?」
私が怪しがるのも当然だろう。
なにせここは異世界だ。ここは現代日本では断じてないのだ。
その証拠に、私の後ろには魔物という存在がいる。他を確認したわけではないので、電気くらいはもしかしてついているかもしれないが、どう考えてもテレビはあり得ない。
「ないないない。」
半ば、現実から目を背けていると、メタきちさんと悪魔さんの声が聞こえた。
「んー?前はこんなんじゃなかった気がすんだけど……。」
「そうですね。もっと簡素というか、こんなに見事な調度品はなかったはずです。」
メタきちさんが中をキョロキョロと見回し、悪魔さんは部屋にある物を見ていた。どうやら、ログハウスの内装は、以前の物とはかなり違っているらしい。
「ねぇー。この部屋のベッド。ものすごいフカフカなんだけどー!」
「うぉー!柔らかいぞー!」
どこからかハーピィーさんとキラー君の声がした。声がした部屋を覗いてみると、ハーピィーさんとキラー君が、キングサイズのベッドの上で飛び跳ねていた。
そこから、私たちは別々に、全ての部屋を見て回ることにした。
「ここは書斎か。ほぉ。随分と古い本だな。ん?地図までありやがる。こりゃ便利そうだ。」
「リサさん。こちら部屋には宝箱があります。中身は分かりませんが、罠などは仕掛けられていませんね。」
メタきちさんが、どうやっているのかさっぱり分からないが、書斎で地図を手にとり、悪魔さんが、宝箱のある部屋を物色していた。
「リサちゃーん。ここは何ー?でっかい桶みたいなのが置いてあるわよー。」
「リサ!この狭い部屋はなんだ!座るものなのに、真ん中が空いてるぞ!」
私はこの時、引っ越しの内見に行った時のことを思い出していた。
あの時、テンションが上がって、部屋を見るたびにはしゃいでいた気がする。
「ちょっと待ってー。」
私はそう答えながら、新しくできた仲間たちの声に、安心感を抱いていた。
なお、余談ではあるが、ハーピィーさんが見つけたのは現代の風呂で、キラー君はトイレに座っていた。
悪魔さんの宝箱については、とりあえず保留としたが、このログハウスは本当に何なのだろうか。
「まぁ、便利でいいじゃねぇか。それに、簡単だが防御結界にも覆われてるみてぇだし、多少の攻撃くらいなら何とかなんだろ。」
「あと、魔力を動力としているようです。以前の残りがあるようなので、すぐに枯渇することはなさそうですが……持って2ヶ月というところでしょうか」
順応性がやたら高いメタきちさんと、博学な悪魔さんの話を聞いて、よく分からないが、しばらくここに滞在しても問題なさそうだということが分かった。
それから、その日はもう遅いということで、なぜかこちらの世界でも使えてしまっているシャワーを浴びてから眠りにつくことにした。
『おぉ……』
風呂から上がり、おもむろにタンスを開けると、そこには寝間着がしっかりと入っており、異世界初日はかなり快適な終わりとなった。
「リサちゃん。ありがとう。あなたのことは、死んでも守るから、これからもよろしくね。」
同じ布団で眠ると言い張ったハーピィーさんの、寝る直前の言葉が、とても心に響いた。
異世界2日目。
何やらフワフワした感触が頬をくすぐる。
それにしても体が重い。
なんかだか、金縛りにあっているみたいだ。
『このフワフワは……ハーピィーさんか。でも、この金縛りは一体……』
そう思いながらなんとか両手を動かす。
どうにかして布団を押さえ、重さの原因を確認するべく、顔を上げた私は、布団の上になにやらモフモフの塊が鎮座しているのを見つけた。
「キラー君……」
寝る前は枕元にいたキラー君だったのだが、どうやら寝ぼけて移動したのだろう。
私はため息をついて、キラー君をそっと横にどけ、ハーピィーさんを起こさないようにベッドから降りる。
どうやら私が一番早く目覚めたようだ。
辺りを見回してみると、メタきちさんは隅っこの方で目を閉じて眠っているし、悪魔さんは瞑想の体勢で眠っていた。というか、魔物が人間より爆睡してるってどうなの?なんて思ったりもしたが、よく考えると、熟睡できるほどにこの場所は安全なのだろう。
私は物音を立てないように部屋から出た。
メタきちさんと悪魔さんが言うには、風呂やらトイレやらが問題なく使えるのは、魔力が動力になっているからだということなのだが、台所には冷蔵庫まであって、普通に動いているのには驚いた。魔力というのは、電気の代わりまでしてくれるものなのだろうか。
『確か……ラファエルさんが魔力を代わりに出来るみたいなことを言ってたような……』
私は、記憶の片隅からそのことを思い出した。
もし、その詳しいやり方が分かり、電波問題が解決すれば、本当に携帯電話が使えそうだということにたどり着いた私は、テンションが一段階上がったことを認識した。
「くぅぅ……」
その時、私のお腹が、ずいぶんと可愛らしい音を立てて自己主張を開始した。テンションが上がろうとも、お腹が空いてしまうことに関してはどうしようもない。何かを食べようかと思ったが、冷蔵庫はあれど、さすがに食材はなかったため、昨日は食事抜きだったのだ。
水は問題なく出たため、干からびる心配はなさそうだが、さすがに何日も食べないままというわけにはいかない。
「今日は食材集めかな。」
顔を洗い、今日の行動計画をたてた私は、部屋に戻りみんなを起こした。
「ぬぁ!」
私に起こされた時のメタきちさんの慌てっぷりが面白かった。
私の知っているメタルスライムと言えば、体力が極端に低く、数発攻撃が成功すれば、膨大な経験値がもらえる魔物だ。そんな魔物が熟睡し、あまつさえ、人間である私に、頭を掴まれて起こされるというのは、本人にとっても驚きだろう。
そこから、全員で森に入って、木の実や山菜、魚などの食料を集めた。また、キラー君が獣を狩ってきてくれたので、悪魔さんが魔法で捌いてくれた。
私は、改めて魔法の便利さを認識した。
当面の食材集めと、遅い朝食が終わり、ようやく一息ついたところで、メタきちさんが本題に入った。
「さて、昨日の続きだ。嬢ちゃんには、まずステータスを確認してもらう。」
そう言われて、私はメニューウインドからステータスを確認し、読み上げていった。
・名前 リサ
・性別 女
・年齢 17
・種族 ヒューマン
・職業 見習い魔物使い
・称号 なし
・レベル 1
・力 10
・素早さ 20
・体力 30
・賢さ 150
・運のよさ 300
・最大HP 60
・最大MP 225
・攻撃力 20(+20)
・守備力 40
・装備品 バスターウィップ 攻撃力20
冒険者装備一式
・所持金 0
読み終えた後、メタきちと悪魔さんが話し始めた。
「魔力も高いが、驚くべきは運のよさだな。」
「えぇ。ここまで高いと、もはや何かの加護でも受けているのではないかと思うレベルですね。」
メタきちさんと悪魔さんが考察を始める。
私には分からない話だったが、ずっと分からないままというのもまずいだろうから、頑張って話に入っていく。
「運が高いと何があるんですか?」
「あん?そりゃ、クリティカルだったり、ドロップ率だったり……って、そりゃ魔物相手か……。ん?嬢ちゃんは俺らの仲間だよな。つー事はよ、運がいいと何があんだ?」
メタきちさんが答えに窮している。
悪魔さんもハーピィーさんも悩んでいるようだ。結局、運が良くなるという答えに落ち着いた。
どんな効果があるかはよくわからなかったが、運が悪いより、運が良い方がいいに決まっている。
もしかして、兄を捜すときに、思わぬラッキーが降り注いでくるのかもしれない。
「あと、みんなのステータスも見れるみたいなんですけど。」
自分のステータス欄の横に、何やら左右の矢印マークを見つけた私は、それに意識を向けて、次のページと念じてみたのだ。すると、そのページには、メタきちさんのステータスがあった。さらに次のページには悪魔さん。もちろん、ハーピィーさんとキラー君のステータス画面もあった。
私が、そのことをみんなに告げると、悪魔さんが、自分のステータスを確認するいい機会だから、ぜひ読んでくださいと言ってきた。
読むくらいならば大丈夫だと思った私は、みんなのステータスを読み上げていった。
まずはメタきちさんからだ




