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リサ~異世界③信じられる魔物たちかどうか~

鬱蒼とした森は、どこか感覚を狂わされているような錯覚に陥ってしまう。

これは、例え周りが明るかったとしても、同じような錯覚を抱いただろう。

私は、目の前で器用に飛び跳ねながら進むメタルスライムを見失わないように注意しながら、辺りを見回した。


「おい。はぐれるなよ。誰がかけたか知らんが、この森には方向感覚を鈍らせる魔法がかかってるんだ。正しい道順で進まなきゃ一生抜けられねぇぞ。」


それを聞いた私は、即座に周囲を見るのを止めて、メタルスライムの後ろにぴったりとくっついた。


「ははは。まぁ心配すんな。嬢ちゃんは俺らの言葉が分かるんだろ?それなら、迷子になったら誰かに聞きゃいいんだよ。」


表情を変えずに笑うという離れ業をやってのけるメタルスライム。

しかし、それを不気味だと思っていない私がいることに気が付いた。いろんなことがあって、いちいち驚いていたら身が持たないということを、直感で分かってしまったのかもしれない。それとも、これもスキルのおかげなのだろうか。

そう思いながら、気になったことをメタルスライムに尋ねる。


「誰かって……誰ですか?」


人っ子一人いない森の中で、一体誰に道を聞くのかと思ったのだ。



「あ?そりゃあれだ……って、見せた方が早いか。」


メタルスライムはそう言ってその場で止まると、辺りに響き渡るほどの音量の口笛を吹いた。

すっかり日も暮れて、今が夜だからこそ、口笛の音量が辺りに響いているというわけではなさそうだった。もしかすると、さきほどの口笛も、スキルの1つなのかもしれない。

そんなことを考えていると、森の奥から、いくつかの影が現れた。


「みんなすまねぇな。待望の客だ。紹介するぜ。って、そういえば、嬢ちゃんの名前をまだ聞いてなかったな。」

「あ、私の名前はリサです。よろしくお願いします。」


メタルスライムの「待望」という言葉が何を意味するかは分からなかったが、自己紹介を促されたような気がしたので、私は慌てて自己紹介をした。異世界人だとバレてはいけないという問題が解決されていない以上、自己紹介もかなり簡潔なものになってしまった。愛想が悪いと言われたらどうしようと思ったが、丁寧にお辞儀をしたことが功を奏したのか、そんなことを思われずに済んだようで、目の前に現れた魔物たちは、私を見て笑顔を見せてくれていた。

直後、魔物の中から人型の魔物が歩み出た。


「初めましてリサさん。200年ほどしか生きていない新米悪魔ですので、名前はまだありません。お好きにお呼びください。」


頭には角を生やし、瞳は真っ赤。黒のスーツらしき服を着こなした長身のイケメンがそこにいた。

悪魔と言っていたが、角がなければ人間と見分けがつかない外見をしていた。


「次は僕だ!」


悪魔の横から、トラとライオンを混ぜたような獣が出てきた。しかし、大きさが中型犬の域を出ていないので、見た目の割にずいぶんと可愛らしい印象を受ける。


「僕の名前はキラー。まだ30歳なんだ。お父さんが勇者との旅を終えて、ここに帰ってきてから産まれたんだ。将来はお父さんから光り輝く伝説の爪を譲り受けて、最強の魔物になるんだ。」


随分と話し方の幼い獣だ。声も少し高いし、なんだか獣という感じがしない。

悪魔が200歳で、獣が30歳と言っていたが、どこからどう見てももっと若い。20歳と2歳くらいに見える。

魔物というのは、歳をとっても見た目が変化したりしないのだろうか。


「次は私ね?」


考え込む私をよそに、腕から翼が生えている魔物が一歩前に出た。

私はその魔物を見て、一気にテンションが上がることになる。


『ハーピィーだ!兄の本に載ってたから、間違いない!』


声には出なかったものの、知っていますと顔に出てしまったのだろう。


「あら?私の事を知ってるの?」


そう言いながら、また一歩こちらに近づいてくる。

見た瞬間は、その特異な翼に目がいきがちだが、よく見ると、とんでもない色気を放つハーピィーだ。

出るところはしっかりと出て、引っ込むところはきちんと引っ込んでいる。

そんなどうでもいいことに思考の大半を奪われていた私は、近づくハーピィーに対して完全に油断していた。


「可愛い~!肌もスベスベだし、髪もサラサラ!食べちゃいたいくらいだわ~!」


そんな恐怖のセリフと共に抱きついてきたハーピィーをなんとか振りほどき、わずかだが距離をとった。


「ぶー。抱きつくくらいいいじゃない。減るもんじゃないんだしさー。まぁいっか。とりあえず初めまして。お察しの通り、私はハーピィーよ。名前はないから好きに呼んでちょうだい。」


4人……と言っていいかは分からないが、とにかく、4人の魔物が並んだ。

本来なら恐怖を覚えるのだろうけど、何故だか、そういったものはまるで感じない。

むしろ、安心感を覚える。


「それじゃあ、最後は俺だな。メタルスライムのメタきちだ。これでも、嬢ちゃんよりかはだいぶ長く言生きてる。それに、嬢ちゃんが知らねぇこともたくさん知ってるから、頼りにしてくれてかまわねぇ。」


メタきちと名乗るメタルスライムは、随分と江戸っ子口調なのだなと、そんなどうでもいいことを考えながら、私はもう一度頭を下げた。


「さて、自己紹介も終えたことだ。ここから少し歩いた先で、嬢ちゃんの話を聞かせてもらおうか。」


そう言って、メタきちさんを先頭にして歩くこと10分くらいだろうか。


「ここだ。」


メタきちさんの声に、他の魔物たちも足を止める。


「え?」


私は思わず声を出した。

私たちが今いる場所は、何もない、ただの森の行き止まり。もちろん。木々の間を抜ければ、どこか違う場所へ行けるだろうが、これまでの道とは違い、けもの道と言ってもいいだろう。

しかも、この場所は、まるでそこだけ全てが切り取られたかのような不自然な印象を私に抱かせた。


「えっと……」


私は、どうしてこんな場所で止まるのかが理解できなかった。こんな場所にいたら、きっと見つかってしまうと思う。

そんな不安が、顔に出てしまっていたのか、メタきちさんが話しかけてきた。


「嬢ちゃん。そんな不安そうな顔しなくても大丈夫だ。ここはこの森の終着点。人間じゃあ、ここにたどり着けねぇよ。」


相変わらずのエスパーっぷりだ。まさか、メタきちさんも、人権無視空間のような技を使えるのだろうか。

そんなことを考えていると、悪魔さんが愉快そうに笑いながら話し出した。


「ここに来るのも随分と久しぶりですね。フフフ……懐かしい。あの若者たちがここにたどり着いてから随分と経ちましたが、あの方たちは元気にしているのですかね。」


愉快に、だが、どこか懐かしそうに話す悪魔……なんだけど、やっぱり悪魔の笑いは怖いなぁ。


「お父さんから話を聞いたことがあるよ!勇者様との旅はとても危険なものだったって。最後、異世界の邪神を倒してから別れたって聞いたよ!」


とんでもない情報を聞いた気がするんだけど、キラー君の話し方のせいであんまり頭に入ってこなかった。しかし、こんな話し方だが、目の前の可愛らしい獣は30歳なのだ。意識しなければ、すっかり忘れてしまいそうなほどに愛らしい姿をしている。


「そういえば、メタきちはついて行ったんじゃなかったっけ?」

「え!?」


ハーピィーさんの発言に驚いた私は、メタきちさんを見た。


「少しの間だけだ。はぐりんが仲間に入るまでって条件だったんだが、結局、最後まで付き合っちまった。でもまぁ、邪神が倒されて、世界はある程度平和にゃなったな。魔物にも理性が戻って、人間を襲うこともなくなった。けど、全部が全部そうじゃねぇ。破壊衝動の強かったやつは、理性が戻ることなく今も人間を襲っちまってる。そのせいで、魔物ってのは今も討伐対象だ。悪い奴ばっかりじゃねぇんだけどなぁ。」


そう言ったメタきちさんの声は、どこか寂しそうだった。


「メタきちさん……」

「おっと。しんみりする話はもういいだろ。さて、嬢ちゃんは一体何者だ?あぁ、安心しな。俺ら魔物に話したって、死んだりすることはねぇからよ。」


ここで、さきほど棚上げしていた問題と向き合う時が来た。

ラファエルさんの話を思い返してみると、やはり、「誰か」に限定された項目ではなかったように思う。ということは、人だけではなく、魔物にバレたとしても、私は死んでしまうだろう。

困ったものだと思っていると、悪魔さんが話し始めた。


「懐かしいですね。あの若者たちも、最初はだんまりでした。しかし、我々と言葉を交わせることは事実でしたし、何より、我々と言葉を交わさなければ、あの若者も、我々も、目的を果たすことが出来なかった。」


まるで思い出を振り返るかのように話す悪魔さん。

私は、悪魔さんが何を言いたいのか分からず、話の続きを待った。


「ですが、私は知っていたのです。あの若者がこちらの世界に来る時に提示された内容を。ふふ……どうやってと言いたげな顔ですね。私たち悪魔は、長き時を生きる。私はたかだか200年ほどしか生きていませんが、1000年や2000年を生きる大悪魔もいるんです。その方々に、少々知恵を拝借したのですよ。まぁ、タダ……というわけにはいきませんでしたがね。」

「確か……あいつが持ってた杖を対価に教わったんだったか?」


メタきちさんが悪魔に尋ねる。悪魔に知恵を借りるための対価というくらいだから、その杖の価値はとんでもないものだったのだろう。

私は、どんな杖なのかということに興味を抱きながら、悪魔さんの答えを待った。


「そうです。その時の私には、その杖にどれほどの価値があるか分かりませんでしたが、今になって、杖の価値の方が高かったのではないかとさえ思えるほどです。」


そんなとんでもない杖を、ただの若者が持っているとは、かなり驚きだ。

その若者は、杖の価値を知っていたのだろうか。


「あの若者は杖の価値を知っていたと思いますよ。渡すとき、躊躇う素振りを見せましたからね。しかし、あの若者は、私たちと意思疎通をし、目的を果たすことを優先させた。」

「そ、その杖って、どれほどの価値だったんですか?」


私は、気になるあまり思わず尋ねてしまった。


「ドラゴンの杖。全てのドラゴンを束ねる者が持つ杖です。大悪魔曰く、神々の眷属たるドラゴンには通用しないだろうが、それ以下のドラゴンならば、全て意のままに操れる効果があるそうですよ。」


それを聞いた私は、とりあえず感嘆の声をあげるしかなかった。というよりも、効果がイマイチ分からなかったのだ。それが果たしてすごいものなのかどうか、ここに来たばかりの私には判断がつかなかった。もし、兄ならば、どんな反応をしたのかは気になったので、無事に出会うことが出来たら聞いてみようと思った。


「さて、そんなことよりも、大悪魔の知恵ですが、リサさん。あなたが提示された条件は、異世界人だとバレれば死ぬということですよね。もし、そうであるならば、あなたの「認識」を変えましょう。」

「認識を変える?」


言っている意味をイマイチ掴めないでいる私は、ただ言葉を繰り返した。


「そうです。言い方を変えると、「解釈を変える」とでも言いますか。あなたの中で、「人は駄目だが、魔物はいい」という風に、解釈を変えて、それが正しいと思い込むのです。」


それを聞いた私は、ずいぶんと乱暴なやり方だという印象しかなかった。

本当にこんなことで上手くいくのだろうかと思ったが、よく考えてみると、現代日本でも同じようなことが行われているではないか。


『法律の解釈みたいなものかな……』


公民の授業で習った、解釈の仕方の一つに、拡大解釈というのがあった。

要は、それと同じことを、ここですればいいわけだ。

しかし、いきなりそんなことしろと言われても、本当に出来るのかどうかかなり怪しい。

出来なければ死ぬのだ。

もう少し、安心できる材料が欲しい。

そんなことを思っていると、悪魔さんがまた話し始めた。


「出来ないと思わないことです。それに、あの若者はそれでなんとかなりました。要は、リサさん。あなたが我々を信じてくれるかどうかです。出来ないと、信じられないと少しでも思えば、あなたは死ぬでしょう。」


私の思っていることをズバリと言ってのけた悪魔さん。しかし、そう言われても、私としてはやはり不安だった。

メタきちさんの話だと、「自分が異世界人だと告げても死なない」ということは間違いなさそうだ。

それに、いいえて妙だが、目の前の魔物たちは、悪い魔物ではないと思う。

だからと言って、いきなり信じるには、相手を知らなさすぎる。


そんなことを考えて黙っていると、悪魔さんが話し始めた。


「リサさん。あなたが我々を信用できないということは分かります。こんな外見ですしね。信じろという方が難しいでしょう。ですから、メタきち。先にこちらから情報を提供するのはどうでしょう?リサさんは、その情報の価値の分だけ、我々に信を寄せていただきたいのです。」


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