理沙~設定③発想をぶち壊す天使様~
ラファエルさんに指摘された私は、慌ててポケットを確認すると、そこには使い慣れたスマホが入っていた。
兄に買ってもらった最新機種だ。
兄のようにゲームをすることがないので、ハイスペック機種を手に入れても、宝の持ち腐れなのだが、何かに使うかもしれないと言って、無理やり持たされていたのだ。貰った当初は、使い方もよく分からず、使わない機能が多くて困ったものだったが、スマホを持ち込めるのであれば、ここに来る前に読んだ本の内容がまるまる使える可能性がある。
現代のスマホの力とインターネットをバカにしてはいけない。
兄を捜すことについても、なんらかの力になってくれるだろう。
だが、私のそんな期待は、ラファエルさんによって無慈悲にも吹き飛ばされてしまった。
「一応は可能。だけど、オススメはしない。」
「なんで?」
私は思わず尋ねる。
「こっちの世界の技術は、どの世界よりもズバ抜けている。そんなものを持ち込めば、間違いなく悪事に使おうとする輩が現れる。囲まれて奪われたりでもしたら大変。それに、使っているところを見られると、言い訳が面倒そう。」
ラファエルさんにそう言われて、私はもう一度、スマホを持って行くことについて考えてみた。
奪われることについては自衛するしかないのだが、もう一方についてはきちんと言い訳が準備できている。もちろん、その言い訳が通じるかどうかは、また別な話なのだが。
「あぁ、なるほど。ロストテクノロジーだと言い張るわけね。確かに、それだとなんとかなりそう……ん?電力の代わりに魔力を使用できるようにする。なるほど。電波は……そう。それについては分からないのね。」
どうやらまた心を読まれてしまったようだ。
この人権無視空間、なんとかなくならないかな。
この空間にそんな名前を付けていると、ラファエルさんが続きを話し出した。
「理沙のいた世界のように、電波なんてものは存在しないから、それの機能を十全に使うことはきっと出来ない。だけど、魔力で動力を確保することは可能。理沙が期待しているような結果にはならないけど、それでも持っていく?」
ラファエルさんの言葉を聞いて、私は再度考える。
私が使いたかったのは、カメラ機能とネット検索だ。
ネットの知識を、カメラ機能で取り込んで、必要な時に活用しようと考えていたのだが、肝心のネットが使えないのであれば、この計画は意味がない。
「やっぱり使えないかなぁ……。でも、魔力を電力として使うことは出来るんだよね。やっぱり問題は電波を受信できないこと……」
そこまで考えて、私の頭にとある案が浮かんだ。
「あの。調停者さんにお尋ねしたいんですが、私の異世界渡りって、死んだ訳じゃないから、転生にはならないんですよね?」
「……はい。」
少し間はあったものの、私の望む返事が返ってきた。
「じゃあ、もしかしてですけど、理論さえあれば、元の世界との行き来とか、出来るんじゃないんですか?死んでしまったら、新しい器に記憶持ちの魂が入るんですよね?でも、私はまだ生きてるんだから、地球の器は生きてるどころか、器ごと移動するって感じですよね。」
それを聞いた調停者さんは、なんとも形容し難い表情を浮かべながら、返事に困っていた。
そして、少し考えた後、答えを返してくれた。
「確かに、完全なる転生ではありませんので、理論さえしっかりしていれば、異世界渡りは可能でしょう。しかし、異世界渡りとは、本来禁忌とされているものです。何度も異世界を渡れば、どこにどのような影響が出るか分かりません。」
そう言われれば、そうなのかもしれないと思ってしまう。
「俺の理論は完璧だー」なんて父の声も聞こえてこなくもないが、その世界に「本来いるはずのない人間」が一人追加されるのだから、なにかしらの影響はきっとあるだろう。
そう思いながら考えていると、ラファエルさんから質問がとんできた。
「結局、理沙は何が言いたい?」
「えーっと……。向こうでスマホが使えないってのは分かったんだけど、こっちの世界に戻ってこれるなら、知識の補充が出来るかなって。知識をスマホに溜めてから、また向こうに行けばいいんじゃないかなって。それに、兄を見つけたら、こっちに戻りたいの。」
私は、ラファエルさんに考えを伝えた。
「あなたの兄はこちらの世界では死んで……ない?死ぬ前に術が発動してるから、問題はな……いこともない?いや、こっちの肉体は……違う。こっちの肉体であっちに……」
どうやら、ラファエルさんは言葉にしながら考えるタイプのようだ。いや、違うか。今回は、どうもかなり特殊な事案なのだろう。
ラファエルさんは何かをぶつぶつと呟きながら考え込んでいる。
それにしても、美人の考える姿というのは絵になる。その姿に見惚れていた私だったが、ラファエルさんが顔を上げたことで正気に戻った。
「いけるかも?」
その言葉を聞いて、私以上に調停者さんが驚いていた。
「な!ラファエル様!さすがにそれは許容できる範囲を超えております。神々……いえ!まず、他の管理者様方がお許しになるはずがありません!」
調停者さんの驚きから察するに、私のやり方というのは前代未聞なのだろう。それにしても、調停者やら管理者やら、なんだかたくさんいるなと思ったが、まさか神々まで話に出てくるとは思わなかった。
『そっか……神様か……1回会ってみたいな~。』
「神なんか会わなくていい。あんな変態、一回地獄に堕ちればいいんだ。」
口にしていないことに対して、ラファエルさんが反応する。どうやらまた心を読まれてしまったようだが、いい加減、心を読まれることにも慣れてきた。それよりも、ラファエルさんの神様に他する評価の低さが半端ではない。
仮にも、神という存在に対して、地獄に落ちればいいというのは、天使という立場上どうなのだろう……というか、神様って地獄に落ちるのだろうか。しかも、神様は変態なのか。
少しずつズレていく思考の傍らで、調停者さんがラファエルさんを諫める声が聞こえてきた。
「ラファエル様……そのようなことを仰るのは、あなた様だけでございます。威厳に溢れた素晴らしいお方ですよ。」
「心からそう思ってるなら、まだまだ修行不足。」
調停者さんを見て、ため息をつくラファエルさん。
「そもそもです。異世界渡りの理論には、ラファエル様の魔力が不可欠なのです。今はラファエル様がいらっしゃいますが、理沙様があちらから戻られる時はどうなさるおつもりですか?まさか……毎回現世に降臨なさるおつもりで?」
そう言う調停者さんの口調は落ち着いたものではあるが、最後の方の言い方はかなり恐い。
そんな簡単に降臨するんじゃない。とでも言いたげだ。
でも、確かに、ラファエルさんの魔力がないと何も出来ないんだった。それについてどうしたものかと考えていると、ラファエルさんが口を開いた。
「なんとかなるかも。」
それを聞いた調停者さんの表情は、怒りを通り越してすでに泣きそうだった。




