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理沙~設定④設定終了~

調停者さんをあと一歩で泣かせるほどにまで追い込んだラファエルさんの提案は一体どんなものなのか。私には想像もつかないことだが、ここはラファエルさんに任せるのが一番だ。

そんなことを思っていると、何かを考え込んでいたラファエルさんがこちらを見た。


「理沙。このスキル申請が認められるかどうかは分からないけど、試してみる?」


そう言ったラファエルさんは薄くではあるが笑っていた。なんだかんだ言って、自分の考えたスキル申請に自信があるのだろう。

しかし、世の中というのはそうは上手くいかない。そんなことを思った私は、ラファエルさんに尋ねてみる。


「認められなかったら?」


これを聞いたからと言って、ラファエルさんを信頼していないわけではないが、リスクを確認しておくことはとても大切なことだ。後で、あれは違ったとか、そんなつもりじゃなかったということにはしたくない。


「失敗しても何も変わらない。申請するスキルのうち、2つ目と3つ目の枠を使うだけ。認められなくても、残りのスキル枠がまだある。2つ失っても、元々3つしか認められないんだから一緒。それに、最初は戻ってくるなんて発想はなかった。というか、戻らない覚悟はできていたはず。成功すれば儲けもの。」


ラファエルさんの言葉を聞いて、私はハッとなった。

確かに、最初は異世界から戻ってこれるというどころか、異世界に行くという発想すらなかったのだ。

それが、兄が異世界にいると分かり、異世界に行く方法さえも見つかった。

それだけで十分に奇跡なのではないだろうか。

どうやら多少なり知識を取り入れた私は、ずいぶんと贅沢なことを望んでしまっているのかもしれない。


私は、兄といられるのであればどこにいても構わないのだ。

兄と再び会うことが出来るのであれば、他の何もいらないと思っていたのだ。


私は、それを思い出さしてくれたラファエルさんの顔を見て、大きく頷いた。


「そうだね。元からそのつもりだったね。うん。私はラファエルさんの計画にのった!」

「そうではなくて!」


私とラファエルさんの間で、話が見事に纏まったその瞬間。

調停者さんからインターセプトがあった。

その様子を見る限り、調停者さんはどうやらかなりご不満な様子だ。


「ラファエル様!一体何をお考えなのかは分かりませんが、これに関しては、きっちりと説明していただきます!」


調停者さん口調は、どうにか丁寧さを保ってはいたものの、醸し出す雰囲気は不満どころの騒ぎではなく、かなり怒っていた。

そんな調停者さんの姿を見たラファエルさんは、ため息をついて面倒そうに話し始めた。


「まず、1つ目は魔物マスター。特級のスキルで、魔物の使役とか、意思疎通とかが可能になる。これがあれば、理沙の兄を見つけるのは結構余裕なはず。」


ラファエルさんの話を聞く限り、確かにかなり便利そうなスキルだが、人間ではなく、魔物に兄の捜索をお願いする日が来るとは思わなかった。相変わらず、ぶっとんだ発想の天使様だが、本当に魔物に兄が捜せるのだろうか。


「理沙、それ褒めてない。あと、あなたの兄が行った世界を見れば、なぜこんなスキルが必要なのかはすぐに理解できる。で、次。」


『もう口に出しちゃおうかな……』


心を読まれすぎて、もはやどうでもよくなってきた私は、思ってても読まれるくらいなら、言ってしまっても同じなような気がしてきた。


「2つ目は時空魔法。でも……」

「な!!ラファエル様!お言葉ですが、認められるはずありません!伝説級のスキルですよ!そ、それにです!お忘れですか!そんなスキルを初期設定で獲得することはそもそもできません!」


ラファエルさんの言葉に綺麗に被せてくる調停者さん。

確かに、最初の説明からすると、そんなスキルをいきなり設定することは出来ないはずだ。まぁ、私からすれば、そんなスキルがあるんだという程度の認識で、そのスキルがどんな効果があって、どうやって活用していけば良いかなど、見当もつかない。

一体どうするつもりなのだろうかと思いながら、ラファエルさんの言葉を待った。


「分かってる。だからまずは時魔法にする。これは使える能力がショボすぎて人気のないスキル。使い勝手も悪いと思われてるから、下級にランク付けされてる。でも、うまく使えば便利だし、使いまくってるといきなり時空魔法に進化するビックリスキル。」


ラファエルさんの説明を聞いて、手に入れる方法については理解できた。しかし、肝心の使い道の説明がされていないので、それについてはいまだによく分からなかった。

かくいう調停者さんだが、いまだ納得がいかないという顔をしていたが、ラファエルさんの説明を聞いて、少しだけ落ち着いたようだ。


「3つ目は魔力造形。魔力を任意の形に造り変えて固定するスキル。使い勝手がいいから、特級になりそうなスキルなんだけど、使い手の創造力に左右されるから、使いこなすのが難しくて、上級からなかなかランクアップしないスキル。」

「ま、まさか……」


時空魔法の使い道についての説明を飛ばしたまま、3つ目のスキルの説明をするラファエルさん。

その説明を聞いた調停者さんは、声にならない声を出した。


「スキルレベルが上がったら、私の魔力を鍵にしてもらう。その鍵と時空魔法を使えば多分なんとかなる……かな?」


これに関しては、私にもラファエルさんの言いたいことが分かった。

ラファエルさんは、父が行ったことと同じことを私にさせようとしているのだ。

最後の最後に疑問形で締めくくったのは、やはり失敗する可能性もあるからだろう。


「どうする?」


ラファエルさんが尋ねてくれるが、私としては、ラファエルさんを信じると決めた時点で、他の選択肢などは存在しない。


「私はラファエルさんに賛成。それに、成功したら儲けものなんでしょ?じゃあ、私はそれに賭けてみたいかな。」


そう言って私はちらりと調停者さんを見た。

私と目が合った調停者さんは、呆れたようにため息をついた。


「分かりました。では、それで申請してみましょう。しかしラファエル様。このスキル構成ですと、他の天使様が興味を持たれるおそれもあるかと。」

「他の天使様が興味を持つとどうなるの?」


私はすぐさま尋ねる。

今度は、心を読まれる前に聞いてみた。それに、どうせ読まれるなら同じことだ。


「別にどうもない。何かしてきたとしても、面白がって声をかけてくるだけ。無視してればそのうち飽きる。」


ラファエルさんが代わりに答えてくれたのだが、その言い方はどこか投げやりで、まるで、面倒なことに巻き込まれないようにとでも言いたげだった。


『けど……天使様だから神々しいのかな。会えるなら会ってみたいな。』


「あんまりオススメしない。天使に会ったって、ロクなことにしかならない。」


もう、この空間で余計なことを考えることをやめよう。

それがこの人権無視空間への唯一の対抗策だと思った私は、そう固く誓った。


「じゃあ、残りのスキルは適当に書いておく。万が一、さっきの話がなかったことになっても大丈夫なようにしておくけど、向こうに着いたら確認してほしい。あとは誓約書。説明するから、そのあとサインして。」


それから、誓約書について丁寧な説明があった。

まず、「メニューウインド」というものの操作権が与えられるらしい。

よく分からないままに首を傾げていると、ゲームでよく使われるやつだということを教わった。

それでも使い方にいまいちピンときていない私だったが、使っているうちに慣れるという言葉がかけられた。

それと、このメニューウインドの存在は、あちらの世界の人々に知られてはいけないらしい。万が一、知られてしまった場合、全ての記憶がリセットされ、その世界の住人として生きていかなければならないようだ。

あとは、「異世界人」ということも知られてはいけないとのこと。異世界人だと知られた時点で、強制的に死亡するということは、さきほども聞いて知っている。しかし、異世界人とバレただけで死亡というのは、メニューウインドと違って、処罰が重すぎる気がする。

そう思った私は、ラファエルさんに理由を尋ねた。


「メニューウインドなら「魔法」という言い訳ができる。それに、記憶も消えるから、他人にその存在がバレることはない。けど、異世界人は隠しきれない。」


そこまでして異世界人を隠したいのかと思ってしまう。

父の話からすると、異世界の存在が分かるようなアイテムだってあるのだ。それならば、異世界人をわざわざ隠す必要があるのだろうか。


「異世界人の存在が知れ渡ると、異世界へと渡ろうとする人が必ず現れる。異世界渡りというのは、そんな簡単に行われていいことではない。人のバランスというのは、その世界によって決められているの。多すぎても、少なすぎても、世界はバランスを失ってしまう。」


ラファエルさんの真面目な説明を聞いて、上手くやっていけるか不安になってきた私は、思わず俯いてしまった。


「メニューウインドの使い方も教えるから、安心して。」


私の不安を感じ取ってくれたのか、ラファエルさんは、私の頭をポンポンと叩いた。

励ましてくれているのだろう。

顔を上げると、優しい笑みを浮かべている天使様がそこにいた。


「と言っても、メニューウインドの操作の仕方だけだから、あんまり期待しないで。」


さっきの感動を返してほしくなった。


「ラファエル様。お時間が迫っています。」


調停者さんが言うには、もうあまり時間がないらしい。


「分かってる。送るくらいなら一瞬で終わる。じゃあ、操作なんだけど、向こうに着いたら、視界端にアイコンが出てるから、それを見て念じてみて。」

「念じる?」

「そう。これから行く世界は、イメージが重要になってくる世界。アイコンは、そのイメージを補助するためのものに過ぎない。装備とか道具とかステータスとか。」


ちょっと難しくなってきたが、ラファエルさんの話はまだ途中だ。しかし、これ以上難しい単語が出てきたら、理解できるかどうか……。


「次に魔法。覚えたらステータスで確認して、念じて使う。詠唱してもいいけど、時間の無駄だし、戦闘中にそんなことしてる暇なんてないと思うんだけど、戦略として詠唱しても……って、難しい?」


ラファエルさんの問いかけに、私は大きく頷いた。

兄のように、このような話に慣れているわけでもなんでもないのだ。難しいどころか、言っていることが理解できない部分もあった。


「まぁ、向こうで冒険者にでもなって、実戦で身につけて。で、アイテムなんだけど……」


そこからしばらく説明が続いたのだが、後半は聞いていただけで、理解は出来なかった。


「なんとかなるよ。多分……」


ラファエルさんの最後のこの言葉がなければ本当に素敵だったのだが……。


「では、本当にお時間です。ラファエル様。お願いします。」

「分かった。理沙。ガンバ。」


そう言って親指を立てたラファエルさん。私も同じことをしようとした瞬間、見事に景色が変わった。


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