理沙~設定②説明~
「次。とりあえず、名前や容姿なんかはそのままにしておく。年齢は……あなたの兄はかなり若返ってるみたいだけど、どうする?」
若返りも可能とか、まったくもってめちゃくちゃだ。
私としては、年齢は今のままで構わないのだが、若返ったという兄の年齢が気になった。もし、私よりも若い年齢になってしまっていたらと、少し遣る瀬無い気持ちになる。
それをラファエルさんに尋ねると、兄は今の私と同じくらいの年齢だそうだ。
安心すると同時に、ずいぶんと大胆な若返りをしたなと感じた。
まぁ、何をするにも、若い方が都合がよいのだろう。
「私はこのままで大丈夫です。」
よく考えると、兄との年齢差があるからこそ、距離が縮まらなかったということもあるんじゃないかと思う。その年齢差がなくなれば、兄としてのハードルも下がり、兄弟の区切りもなんとなく曖昧になってしまうのではないだろうか。
そんなことを考えながら、私はラファエルさんの次の質問を待った。
「分かった。じゃあ次はいよいよ一番重要なことを決める。今から行く世界には、魔法とかスキルなんてものがある。あなたは、どんなスキルを望む?3つ答えて。」
この質問はおおいに悩むところだ。
まず、いきなりスキルを3つ答えろと言われても、そういった世界の知識が不十分な私が、いきなり対応できるわけがない。ここに来る前に仕入れた知識しかない私は、どうしたものかと頭を抱えてしまった。
そうして悩んでいると、ラファエルさんが助け舟を出してくれた。
「理沙はあっちで何がしたいのかを答えればいい。そうすれば、あたしがそれに相応しいスキル名を充てる。」
ラファエルさんの天使的な優しさに感動していると、今までニコニコしていた調停者さんから待ったの声がかかった。
「ラファエル様。それは規則に抵触する恐れがあるかと。」
「どんな規則なんですか?」
思わず、秒速で尋ねてしまったが、よく考えると、規則なんてものは大抵が明かされることのないものだ。おいそれと教えてくれるはずは……。
「我々は、あなたたちの魂を単純に移動させるだけの存在なのです。あくまで公正であることを求められる存在であるため、1つの魂に対して、肩入れしすぎることのないようにと決められているのです。」
調停者さんからにじみ出る雰囲気が、さきほどまでの柔らかいものではなく、厳格なものへと変わる。その雰囲気を察した私は、この規則がかなり重要なものなのだという認識を得た。
確かに、言われてみればその通りだ。
とんでもない権限を持つ人が、特定の誰かに対してのみ肩入れしてしまえば、公平性が失われるだけではなく、不平や不満も出てくるだろう。しかし、そう言われてしまえば、スキルについては、私が自分で考えなければならないということになってしまう。
『困ったな……』
そう思っていると、ラファエルさんが口を開いた。
「ねぇ。そもそもそれって、いつの頃からか知らないけど、あなたたちが勝手に言い出したことだと思うんだけど?」
「え?」
重要な規則を教えてくれた調停者さんに対して、そんなものは存在しないと、今までの話はなんだったのかと言わんばかりに、根底から全てをぶち壊す発言をするラファエルさんの言葉に、調停者さんが固まってしまった。
そんな調停者さんを無視して、ラファエルさんは話を続ける。
「調停者にも人格はある。あなたみたいによく喋る子もいれば、面倒がって何も話さない子もいるの。本来なら、ここに来る魂はとても稀有なものばかり。きちんと説明して、納得してから次へ送ってあげるのが筋だと思うの。それなのに……あなたたちは説明が面倒だからと勝手に規則みたいなものを作り出し
て……。まぁ、それでも上手く回ってたから、放っておいてはいたんだけどね。」
詳しい事情はよく分からないが、ラファエルさんの言葉が、調停者さんにとって追い打ちみたいになってしまっているということだけは分かった。
そっと調停者さんを見ると、もはや泣き出しそうだ。
それはそうだろう。
自分がルールだと思っていたものが、実はルールでもなんでもないものだったのだ。
今まで守ってきたものは何だったんだと思っても、それは仕方ない。
まぁ、私としては助かったわけだから、ここはラファエルさんに乗っておこう。
「分かった?じゃあ、気を取り直して、理沙。どんなスキルがいいの?」
ラファエルさんいにそう聞かれて、私は改めて考える。
第一は、やはり兄との再会だ。しかし、若返っているのならば、見つけ出すことは容易ではないはずだ。
名前だって変えてしまっているだろう。そうなると、まずは人を捜す力がいる。そう結論付けて、私は顔を上げた。
「私は兄を見つけたい。それには人を捜す力がいると思うの。でも、兄の容姿が変わっているなら、聞き込みとかも難しそうで、とてもじゃないけど探しきれない。こう……特定の人をノーヒントで見つけられる力なんてものはない?」
「そんなものはない。」
無いとは思っていたが、即答されるとは思わなかった。せめて、5秒くらいは考えてほしかった。さすがはラファエルさんだ。こちらの希望を容赦なく打ち砕くことにかけては天下一品だ。
「けど、なんとなく分かった。多分、これで探せるはず。ちょっと待って。」
そう言いながら用紙に書き込んでいくラファエルさん。なんだかんだと私のことを考えてくれているというのが伝わってくる。
かくいう調停者さんはというと、未だになんだか釈然としない顔をしていた。
「あの……。調停者さん。私、どうしても兄を見つけたいんです。その……私だけなら、きっとこの時点で失敗してて……。だからその……ごめんなさい。」
突然謝られた調停者さんは、少しだけ驚いたような顔をしていたが、すぐに優しい笑みをこちらに向けてくれた。
「大丈夫です。あなたが心から申し訳ないと思ってくれていることは伝わりました。それと、お兄様への愛情の深さも。ラファエル様が目をおかけになる理由が、少しですが分かった気がします。」
そう言って、調停者さんは優しく微笑みかけてくれた。
美人の笑顔はとんでもない破壊力だ。惚れそうになるから、ほんとにやめてほしい。
眩しすぎるものを見てしまった時のように、思わず手で顔を隠していると、ラファエルさんの声が聞こえてきた。
「スキルはとりあえずこれでいい。次は、場所と装備の指定。場所指定っていうのは、スタート地点のことなんだけど、ある程度危険がない場所にしておく。」
「兄の所へは送れない……よね?」
出来ないと分かりきっていることだったが、とりあえず尋ねてみた。いきなり兄のところへ行けるのであれば、こんな面倒なやり取りなど必要ないのだが、何でもかんでも、聞いて見なければ分からない。
「無理。あなたの兄のいる近くに送ってあげられないこともないけど……。そうか。その辺りもきちんと説明しないと。よく聞いて。理沙は、これから行く世界で、異世界人だとバレては駄目。バレた瞬間、死ぬから。」
いきなりとんでもない話を聞かされ、私は困惑の表情を浮かべた。しかし、そんなことはお構いなしでラファエルさんは話を続ける。
「仮に、理沙を街中に送った場合、それを誰かに見られでもしたらどうするの?魔法もロクに使えない理沙が、いきなり現れた理由を説明できる?不審がられて、捕まったりでもしたら、牢屋から出てこれないよ。しかも、街に入るには身分証みたいなものが必要だったはず。うまくごまかせたとしても、身分証のないあなたは、どう見ても不審者。」
私が言葉に窮していると、ラファエルさんが畳みかけるように話し出す。
「あなたの兄だって、ずっと一人で冒険しているわけじゃないはず。誰かと一緒にいたら、異世界に行ったばかりのあなとの関係を問われることになる。異世界に到着したばかりのあなたが、上手に説明できるはずはない。まぁ、そこでボロが出なければいいけど、失敗したら、2人揃って異世界人だとバレて、死ぬことになる。そんなの嫌でしょ?」
その問いかけに、私は小さく頷いた。しかし、いきなり外に放り出されるというのはやはり不安だ。
「えっと……危険な場所ではない……よね?」
「全くないわけではない。けど、ある程度危険が少ない場所を選ぶようにする。」
その言葉を聞いて、私としては諦める以外他はなかった。とりあえず、行ったことのない場所に今から怯えても仕方ない。ラファエルさんが、ある程度大丈夫だと言うのなら、それを信じるしかないだろう。
「それと、装備は中級冒険者のものにしておく。いきなり強すぎる装備を身に着けると、不自然に見える。」
服装を気にする必要なんてなかったなと思いながら、私は聞かなければならないことを思いだした。
「あ、あの!スマホとか、こっちの世界の物の持ち込みは出来るの?」
「ん?スマホ?あぁ。理沙が持ってきたそれ?」
そう言って、ラファエルさんは私のポケットを指さしてきた。
「え?」




