トキヤ~異世界⑫ハゲーン編、一件落着~
とりあえず、さっきのお返しみたいな警告になったが、一応警告はした。
しかし、ハゲマッチョは変わらず薄ら笑いを浮かべており、ダメージなどくらうはずもないという顔だ。こんな奴の攻撃が俺に効くわけがないとでも思っているのだろうか。
それを見ていると、考えるのがだんだんと面倒になってきた。
殺さないように重傷を負わせるくらいでちょうど良いのではないだろうか。
『全身を魔力で覆うイメージ。それをその場に留め、さらに四肢に魔力を追加。』
俺の技は、有名週刊誌でたびたび連載が止まる漫画の技を参考にしているわけだが、予想以上にうまくいっている気がする。
「いちいち確認なんぞいらん!おまえは俺をナメてんのか!」
まぁそうだな。
戦場でいちいち攻撃を宣言するアホなどいない。
ハゲマッチョに教えられることになるとは思わなかったと、俺は自嘲気味に笑いながら前傾姿勢をとった。
「「なっ!?」」
ハゲマッチョだけでなく、リーシュの声も重なった。
その様子を見る限り、2人はどうやら俺の速さを捉えきれていないのだろう。
チートステータス+魔力強化によって生み出された超スピードの技。2人の目には、俺が前傾姿勢をとった直後に、目の前から消えたように映っているはずだ。
「悪いな。リーシュは渡せないんだ。」
一瞬でハゲマッチョの背後まで回り込んだ俺は、無防備な背中に両手を置いた。
そこから放たれる技は、まさにアニメではお馴染みの『気功波』だ。
『手のひらから魔力を放出するイメージ。』
しっかりとイメージし、両腕に溜められていた魔力を体内から無理矢理外に押し出す。
「な!う、うぉぉぉぉぉぉぉぉー!」
俺の両手から放たれた魔力の塊は、ハゲマッチョの背中でその大きさを増していくと同時に、自身が持つ推進力によって、ハゲマッチョの体を押し出し始めた。
その結果、ハゲマッチョは魔力の塊と共にはるか彼方へと飛んでいくこととなった。
『あ、やりすぎた……』
そんな後悔も時すでに遅しだ。
ドゴォォォン!
盛大な爆発とともに黒煙が上がる。
この瞬間、この街を守っていたなかなかの強さを誇るハゲマッチョがこの世から姿を消した。
「ぐぅ……。」
と思ったら生きていた。
あの爆発を耐え抜くとか、もしかしてハゲマッチョはかなりの強さなのではないだろうか。
いや、爆発の割に思ったより威力が出なかったのか。まぁ、とにかく良かった。
あのまま死なれちゃ、さすがに寝覚めが悪い。
「ちょっ!」
爆発の大きさとそこから現れたハゲマッチョを見て、リーシュが駆け出しそうになるが、俺はそれを手で制した。
「俺が行くよ。あんな姿、見てほしくないだろうしな。」
もっともらしいことを言ってみたが、実際はリーシュの回復を体感させたくないだけだ。
人の嫁に回復してもらおうなんて、ふてぇ奴だ。
俺は魔力を足に集中させて、猛スピードでハゲマッチョのところへ向かった。
爆発の中心地に辿り着くと、そこには全身から血を噴き出し、今にも倒れそうなハゲマッチョが立っていた。というか、その状態で立っていられるだけで立派なものだ。
「ぬぅぅ……お、俺はまだやれる。」
敵ながらあっぱれなのだが、このままだとマジで死ぬな。
「はいはい。このままだと死んじまうから、とりあえず回復するぞ。」
俺はハゲマッチョに向かって意識を集中させた。
「ミドルヒール」
魔力を『体力』に変換して、他者に分け与えるイメージと、細胞を修復するイメージをのせてハゲマッチョにむけて放った。リーシュの回復魔法を体感していた分、かなりイメージしやすかったのだが、このやり方だとどうにも回復効率が悪い気がしてならない。
上手く説明は出来ないのだが、回復するのに、イメージしなければならない工程が多いというか……。まぁ、その辺りも、今後詳しく検証することにしよう。とりあえず、今はこれでハゲマッチョを回復させる。そう思い、意識を集中すると、ハゲマッチョの傷がみるみるうちに塞がっていった。
回復が終わった途端、ハゲマッチョは立ったまま意識を失っていた。その様子を見るに、血を流し過ぎたことによって意識を失ったのだろう。
まぁ、死にかけのハゲマッチョが、血の気の引いたハゲマッチョになった程度には回復したので、俺としては満足のいく結果だ。
「やっぱ失った血までは戻んねーか。」
ハゲマッチョを回復して分かったのだが、やはり失った血は戻っていないようだ。これに関しては、ラノベでは鉄板の設定なのだが、どうにかしたいと思う。回復はしたが、失血で死んでしまうことだってあるのだ。
まぁ、ハゲマッチョはこれ以上、血を流さなければ死ぬことはないだろうが、魔物との戦いではそんなことはないだろう。
血を失いすぎると動くことも出来なくなるのだ。そこに追撃がくれば、何のために回復したのか分からなくなる。
それにしても、イメージするだけで回復魔法と同じ効果が表れるということには驚いた。
魔力で自分を強化するとか、そういったものであれば、自身の魔力を使っているだけなので、イメージすれば使えるということも分かるのだが、まさか自分のイメージで相手を回復させられるとは……。
しかし、この事実から推測すると、もしかすると、全ての魔法はイメージで放つことが出来るのではないだろうか。
魔法名に関しても、イメージがしっかりしているのであれば、もしかすると必要ないのかもしれない。
もし、イメージだけで魔法を放てるのであれば、これはかなり強力な技だ。
まぁ、そんなものがなくても、俺は十分に強いので、今すぐに必要なのかと聞かれれば、そんなことはない。ただ、何度も言うが、これから先、どんな敵に出くわすか分からない。そんな時のために、持てる札は持っておきたいのだ。
それと、もしかすると、俺は相手の魔法やスキルを、見ただけで使えるのではないかという可能性が浮上してきた。
これは、リーシュのミドルヒールを受けたことがきっかけだった。
今までは、回復の仕組みついて、よく分からなかったのだが、実際に回復魔法を受けてみて、ある程度、イメージが固まったのだ。あとは、ハゲマッチョが使用していた槍の技なんかも、使えるようになっていると思う。
槍を渡されて、やってみろと言われても、出来てしまう自信があるのだ。
そう思うと、ハゲマッチョとの戦闘も案外無駄ではなかったのかもしれない。しかも、このイメージによる魔法やスキルの使用というのは、とんでもないチートだ。
なんせ、相手の奥義だろうが何だろうが、俺が見て、くらって、それでイメージが固まれば、その後すぐに使えるようになってしまうのだ。
これをチートと呼ばずなんと呼ぼうか。
『逆に、イメージできないスキルや魔法は使えないのか?いや、理論が分かっていれば使えるはずだ。魔法名だって、無詠唱使いってのがいる以上、絶対に必要ってわけじゃないはずだ。いや。無詠唱使いが俺だけとかってなると、面倒なことになりかねないな。さて……どうしたものか……』
時間が経てば経つほどに、検証しなければならないことが増えていく。
一旦、どこかでゆっくりと検証する時間を確保したいと思いながら、とりあえずこの案件も後回しにしておく。
そんなことを考えていると、ハゲマッチョに意識が戻った。
「う……うむ……」
血が足りていないせいだろう。動き出そうとするが、思うように体が動いていない。
「お前が回復したのか?くっ……なんという屈辱。この程度で勝ったと思うなよ。少々腕はたつようだから、リーシュと旅をすることは認めてやろう。だが!リーシュを嫁にやることだけは絶対に許さん!」
意識を取り戻した途端によく喋る。しかも、こいつは一体何の権限があってそんなことを言っているのかということも理解できなかったが、これだけ吠えることができるんだ。もう大丈夫だろう。
「とりあえず街に戻ろうぜ。オッサンは血を流しすぎだ。魔法では失った血までは戻らないだろ?そんなに吠えてると、貧血でぶっ倒れちまうぞ。全裸に近いオッサン抱えるなんてまっぴらごめんだからな?」
ハゲマッチョは爆発の衝撃に耐えることは出来たようだが、どうやら、身につけていた装備品はそうではなかったらしい。
俺と同様に、ハゲマッチョの服はボロボロだ。
ほぼ全裸のオッサンを抱えて、異世界初の街にご入場なんてことは絶対に避けたいところだ。
「トキヤ!」
動けないハゲマッチョをどうやって街へ連れ帰ろうかと考えていると、リーシュが走ってきた。
俺を追いかけてきてくれたのだろう。
そんなことを思ったのだが、どうやらそれは違ったようで、なかなか戻ってこないから、心配になって迎えにきたのだそうだ。
考え事をしているうちに、結構な時間が経っていたようだ。
俺にそう説明してくれたリーシュは、俺の隣で立ち尽くしているハゲマッチョを見つけて駆け寄った。
「ハーゲンさん!大丈夫!?」
ハゲマッチョの名前がようやく公開されたが、まさかのハーゲンと来たか……。
名は体を表すとはよく言ったものだ。
マッチョさんでもよかったかもしれない。
「あぁ……、いや。なかなかの攻撃をもらってしまってな。どうやら自分では歩けそうにない。立っているだけで精一杯なんだ。どうだろう?リーシュが肩を貸して……ほぐゎ!」
最後までセリフを言うこともなく、ハゲマッチョは街の方角に蹴り飛ばされた。
え?誰に?そりゃもちろん俺だよ。
瀕死のハゲーンを蹴り飛ばして大丈夫なのだろうかと思ったが、それに関してはきちんと加減したから問題ないだろう。それに、ハゲーンは意識が戻っているのだ。あれくらいなら受け身だってとれるはずだ。
「ちょっ!」
リーシュが驚きのあまり素っ頓狂な声を出した。本当に可愛らしい声だ。
アニメ化の際は、是非とも厳選された声優さんに演じてもらいたい。
「大丈夫。変態……じゃなくて、ハゲーンはスゲー跳躍力で街まで戻っただけだから。」
「いやいや!あれは跳躍なんかじゃないわよ!何言ってんのよ!トキヤが蹴り飛ばしたんじゃない!しかも、ハゲーンって誰よ!」
ちっ。見えてたか。
それにしても、的確なツッコミだ。
この状況でそれが出来るとは、やはり素晴らしい冒険者だ。
「とりあえず、俺らも街に戻ろうか。」
ハゲーン編、一件落着。そんな空気を出しながら、俺たちは街へと戻った。




