トキヤ~異世界⑪戦闘・ハゲマッチョ~
怒り心頭に達したハゲマッチョは、怒りのあまり、茹蛸のように顔を真っ赤にしていた。
思わず、頭の血管が切れるのではないかと心配したが、俺の心配が的中する前に、ハゲーンが話し始めた。
「この街に入りたくば!いや!リーシュを手に入れたければ、俺を倒してからにしろ!!」
俺はそのセリフを聞いて爆笑しそうになった。リアルでこんな恥ずかしいセリフを聞く日が来るとは思わなかったからだ。
「ちょっ!?」
その言葉を聞いて、ようやく現実に復帰したリーシュが驚きの声をあげる。しかし、リーシュが言葉を続けるより先に、俺は一歩前に出た。
「望むところだ。リーシュは渡さない。それよりも、手加減が出来ないんだ。大けがしても恨むなよ?」
「若造が!なめるな!」
俺の挑発に、ハゲマッチョは背中の槍を腰の辺りに構え、そのままの格好でこちらに突撃を仕掛けてきた。
「二段突き!」
ハゲマッチョがそう叫ぶと、槍が紫色に光った。そしてその直後、猛スピードの突きが俺に襲いかかってきた。
「うぉっ!」
見ても分かるが、明らかに何かのアシストを受けているスピードだった。そんな超スピードの攻撃に対し、俺は思わず身体を仰け反らせてしまった。
今のステータスなら、全くダメージを受けることはないのではないかとも思ったが、反射的に避けてしまったのだ。
「はっはっは!これを躱すとは、なかなかやるじゃないか!じゃあ次だ!むぅん!」
ハゲマッチョはそこから身体を回転させ、槍を打ち下ろしてきた。慌てた俺はステータスにものをいわせて身体を捻る。
ドォォン!
避けた際の勢いを利用して、俺はハゲマッチョと距離をとった。すると、今まで俺がいた場所には大きなクレーターができており、そのクレーターの大きさは、ゴブリンナイトのそれと同等か、もしかすると、ハゲマッチョの方が少しだけ大きいかもしれなかった。
俺を倒せなんて大きなことを言うだけあって、なかなかの威力だ。
『しかし厄介だな……』
誤解のないように言っておくが、これは決して、ハゲマッチョが厄介だというわけではない。
厄介なのは、ハゲマッチョの持つ武器だ。
ステータスを信頼して、正面から受け止めればいいだけなんだが、安全な現代日本で生きてきたせいで、どうしても刃物による攻撃を避けてしまう。
単純に怖いのだ。
『こりゃ本格的に訓練しないとな……』
俺は何度目になるか分からないこの問題を、さらに深く心に刻んだ。
「ほぅ。これも躱すか。なかなかやるな……。しかし避けてるだけでは勝てんぞ!それとも、この威力に臆したか!」
二撃目を躱されるとは思っていなかったのか、初撃に比べて褒めるその言葉に悔しさを感じさせる言い方のハゲマッチョ。俺と市は、そういう理由ではないのだが、いかんせん加減が分からないのだ。
下手に攻撃して大けがさせるのも後味が悪そうだなどと考えていると、ハゲマッチョがさらに攻撃を仕掛けてきた。
「おっ……おっ!」
俺はハゲマッチョの繰り出す攻撃を紙一重で躱し続ける。そんな中、ハゲマッチョはというと、詰めれそうで詰め切れないという状況に業を煮やしたのか、いきなり纏う空気が変わった。
「ええい!ちょこまかと!やむを得ん。一応加減はするが、骨折くらいは覚悟しろ!」
怒涛の攻撃を一時中断し、ハゲマッチョが溜めの姿勢に入った。
「加減はするがって、お前今まで本気で攻撃してただろ!」
「笑止!これから見せるのが真の攻撃だ!」
俺がツッコミを入れると、ハゲマッチョは槍を頭上に掲げ、回転させ始めた。
一体何をするつもりなのかと黙って見ていると、ハゲマッチョの気合のこもった雄叫びが、辺りに響き渡った。
「ぬぅぅーおりゃぁー!」
雄叫びとともに、猛スピードで回転していく槍。その槍は、またも紫色に光っていた。
『何か来る!』
俺がそう感じた一瞬後、ハゲマッチョが猛スピードで回転している槍ごと突撃してきた。
「大車輪!!」
轟という音とともに、横薙ぎに、回転している槍が振るわれた。
兜割のような上段からの攻撃をイメージしていた俺は、予想が外れ一瞬硬直してしまった。
「くっ!」
とんでもない速度で回転している槍による横薙ぎの一撃は、思った以上に間合いを測りにくい。
しかも、ハゲマッチョは後退させないように、攻撃の瞬間に槍を手元から放していた。これでは、後ろへの回避など出来るわけがない。
だからと言って、空中に回避すれば、それこそゴブリンナイト戦と同じ轍を踏むことになる。もしろん、地面に転がって回避するのも同じだろう。
俺がどう動いたとしても、ハゲマッチョに追撃の機会がある攻撃だ。
『上手いな……』
そう思うと同時に、回避ができないことを悟った俺は、とっさに魔力を左半身に集中させた。
ボグァ!
強烈な打撃音を残し、俺は思いきり吹き飛ばされ地面を転がった。
「ふぅ……ふぅ……」
攻撃を終えたハゲマッチョの息が上がっていた。渾身の一撃だったのだろう。
俺が吹き飛ばされた距離からしても、生半可な威力ではないはずだ。
「や、やりすぎよ!大丈夫!トキヤ!」
慌てて駆け寄ってくるリーシュ。
懸命に呼びかけるものの、ピクリとも動かない俺の背中に両手をあてた。
「光よ!彼の者に癒しを与えよ!ミドルヒール!!」
唱え終えた瞬間、俺の体を優しい光が包み込んだ。なんというか、エネルギーを直接注ぎ込まれている感じだ。
こんなレベルの回復魔法まで使えるとはやはり優秀だな。
「う……」
ハゲマッチョの攻撃がけっこう効い……ているわけなどない。
攻撃を回避できないと悟った瞬間、俺は半身に魔力を集中させ、防御力を上げたのだ。この技も、もちろん地球にいた頃のアニメから拝借したものだが、その防御力はまさに効果絶大だった。
それならばなぜ吹き飛ばされたのかというと、予想以上に威力があったせいか、防御は出来ても踏ん張りが利かなかったのだ。
肉体的には痛くも痒くもない。
吹き飛ばされた後、何事もなく立ち上がる予定だったのだが、リーシュが駆け寄って来てくれるのが分かったので、これ幸いにと甘えていたのだ。しかし、防御はできても毎度毎度吹き飛ばされてしまったらたまったものではない。
現に、布の服もズボンもボロボロで、単なる布を身に着けているような状態になっている。靴に至っては、踏ん張り時に底が抜けて、もはや靴としての役目を果たせていなかった。
『う~ん。足の裏に魔力を集中すればいいのか?いや、それでも吸着力は生まれないよな。第一、魔力に吸着力なんて持たせられんのかよ。』
倒れながらそんなことを考えていると、リーシュがより強く揺さぶってくる。
倒れてる人を揺らしてはいけませんと、この世界では教わらないのだろうか。
「ちょっと!なんで起きないの!あたしのヒールは効いてるはずなのに!ねぇ!トキヤ!」
あまりの取り乱し様に、俺としてもどうしたものか悩むところだが、俺のイタズラ心に火がついてしまった。
「ぐっ……」
俺はあくまでもリーシュの回復が効いて意識を取り戻したかのように振舞った。
「良かった!もう!!無茶しないでよ!」
涙目になりながら心配してくれるリーシュを見て、俺は思わず抱きしめそうになった。
しかし、今は我慢だ。
とりあえず、ハゲマッチョをぶっ飛ばすのが先。
しかし、リーシュには言っておかなければならない台詞がある。俺は、満を持してその台詞を口にした。
「大丈夫……。この程度なら負けたりはしない。これからリーシュと旅を続けるんだ。これくらいの奴に負けてたら、君を守れないだろ?」
自分で言っていて、なんてキザな台詞なのだろうかと思ってしまう。それにこんなキザなセリフで感動なんて……
「……!!」
しっかり感動してくれているエルフがそこにいた。
リーシュは、顔から火が出そうなほど真っ赤になっていたが、その目は、心なしかハートになっている気がしないでもない。
これも勇者補正の成せる技か!
「もうちょっとだけ見ててくれ。さてと、またせたな、オッサン。」
ボロボロの衣服のまま、俺は再びハゲマッチョと向き合った。
こんな状況になるのなら、服装だけはもう少しマシな格好でいたかったと思ったが、今はどうしようもない。街に入ることが出来た暁には、とりあえず丈夫な服を買うことにしよう。
俺がそんなどうでもいいことを考えていると、ハゲマッチョが話し始めた。
「あのまま眠っていればいいものを……。また痛い思いをしても知らんぞ!」
完全に悪役のセリフだ。
街を守っている衛兵のセリフとは思えない。しかし、今だけは悪役でいてもらおう。
「まだ隠してるネタがあるなら出しといたほうがいいぞ。こっから先は全部俺のターンだからな。」
そう言いながら、見様見真似拳法の構えをとる。映画とアニメをごちゃ混ぜにした構えだが、ハッタリくらいにはなるだろう。
「はっ!何が俺のターンだ。そんなヘッポコな構えで何が出来る!」
ハゲマッチョにはしっかり見破られていた。
ある程度の強者には見破られるのだろうか。その辺も対策しないと、格好がつかないな。
それに、ステータスに任せた力押しの戦闘がいつまで通用するか分からないのだ。本格的な武術を学び、技を磨く必要もあるだろう。
しかし、今はこれしか出来ないのだから我慢だ。
とりあえず、ハゲマッチョを倒せればそれでいい。
そう思った俺が、いよいよ攻撃に移ろうかとしたその時。
「まぁいい。一撃くらいは打たせてやる。お前の攻撃を防ぎきって、地面に這いつくばらせてやるよ。」
ハゲマッチョの言葉からして、どうやら相手は勝利を確信して慢心しているようだ。しかし、俺としてはしっかり気を引き締めておいてもらいたい。
「一応加減はする。死ぬなよ!」
それだけを告げて、俺は攻撃態勢をとった。




