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トキヤ~異世界⑨旅の進行と星空と~

「ありがとう。いやぁ……予想以上に危なかった。あ、これ返すな。」


俺はまるで今、戦闘を終了したかのように装い、手に持っていた細剣をリーシュに返した。


「確かに動きはデタラメで、見ていて危なっかしいところも多かったけど、突きの速度が異常よ。どうやったらあんな速度で突きが放てるわけ?」


そう言いながら、リーシュの細剣が空を突く。


『ん?』


その言葉を聞いて、俺はふと疑問に思った。


『アシストの効果なんだから、速度はそんなに変わらないはず……いや、待てよ。基礎ステータスに違いがあるから、それが上乗せされているのかもしれないな。リーシュが速いというくらいだから、やはり俺の上乗せステータスはこの世界ではかなり上位のものなんだろう。』


そう考えると、やはり俺の力はチートの部類に入るのだろう。やり方によってはバランスブレイカーにさえたどり着くことができるはずだ。しかし、それは俺の望みではない。

バランスブレイカーになってしまうと、良くも悪くも目立ってしまう。

俺は、異世界勇者を目指しているわけではない。

そこそこ楽しみながら、異世界ハーレムを目指しているのだ。

そのことを改めて確認した俺は、リーシュとの約束を果たすべく、リーシュに声をかけた。


「さて、リーシュ。」


その言葉に、剣を振るっていたリーシュの肩が僅かだが跳ねた。


「な、なに?」


こちらを振り向いたリーシュの表情は、覚えていらっしゃいましたか?という言葉がとてもよく似合うものだった。

まぁ、そんな顔をしたところで、俺はリーシュを見逃したりはしない。なんせ、ハーレム第一号はリーシュで決定なのだからな。

俺の奥底にうごめく黒い野望とともに、俺は次なる言葉をリーシュに投げかけた。


「約束を果たしてもらおう。それとも何か?高貴なエルフ様は、命の恩人に対して何もせずにしらばっくれるつもりだったのか?」


たっぷりと嫌味を込めた挑発だ。こんなものに乗るアホなんて……


「ち、違うわよ!いいわよ!何よ!言ってごらんなさい!」


いた。

アホエルフだ。

俺はこみ上げる笑いを堪えながら、あくまで冷静に要求を告げた。


「俺の嫁になってくれ。」


この話がアニメ化されるのであれば、このセリフはぜひともエコーをかけて場面をつないでもらいたい。

そう思うくらい、なんとも形容しがたい空気がこの場を支配した。


「な、なな、なんっ……嫁!?あたしが!あなたの!!なんで!!」


リーシュの反応は満点だ。しかし、映像化するならば、非常に複雑な動きになること間違いない。もしかしたら、作画崩壊を招く可能性もある。

それほどに、リーシュの慌てぶりは見事なものだったのだが、この様子をじっと見ていた俺は、リーシュの反応にかなり満足していた。

デレ要素てんこ盛りな上に、すでに耳まで真っ赤だったのだ。

ここまでベタな反応を示されて、詰みの動きを間違うほど、俺は呆けてはいない。

そう思った俺は、詰めの作業へと移った。


「一目見た時から君のことが好きだった。だから君を守るために戦った。命を賭けた戦いに勝利したんだ。それくらいは言ってもかまわないだろう?」


おふざけは無し。あくまでも真面目に、真摯に、そして落ち着いて言葉を伝えていく。

まぁ、本当は奴隷にしたかったんだが……。とは口が裂けても言えない。

鬼畜ルートでハーレムを目指すというのも悪くはない。

だが、やはり自分を好きでいてくれる嫁が多数というハーレムの方がいい。月刊誌に連載していた脱げ脱げ王道ハーレム漫画も、このルートをとっていたのだから。


「か、かまわないだろうって……。そりゃ、あたしを抱えて攻撃をしてた時はちょっとカッコイイかな~……って違う!そうじゃなくて……」


この大混乱ぶりと台詞はもはや確定だろう。そう思った俺は止めの一撃を見舞った。


「好きなんだ。」

「ばっ……!」


あと一押し。


「君と歩いていくのは、俺じゃダメか?」

「だ、ダメってわけじゃ……」


よし。ここで少し引いて。


「じゃあ、これから一緒に旅をしてみて、リーシュがその気になったらってのはどうだ?」


それを聞いた瞬間のリーシュの表情はなんとも複雑なものだった。

とりあえず、話を棚上げに出来たことと、もう少し押してくれたら良かったのにという感情が混ざっていたのだろう。

現実世界の女性の気持ちはまるで理解できなかったが、リーシュの感情は、なぜだか手に取るように分かる。これも勇者補正のおかげなのだろうか。

まぁ、俺にも反省点はある。引き際が少しだけ早かったのではないだろうかという点だ。もしかすると、何も言わずにもう少しだけ待っていれば、リーシュから良い返事がもらえたのではないだろうか。そんな雰囲気を、俺は少なからず感じていた。


「と、とりあえず街へ向かいましょ!あれだけのゴブリンを倒したんだから、レベルの1つくらい上がってるだろうし。」


無理やり話題を変えようとするリーシュ。

この反応ならば、慌てなくてもリーシュは嫁になってくれるという妙な確信を得た俺は、かなり楽しくなってきた異世界の冒険に、胸を躍らせていたのだが、リーシュが言った言葉の中に聞き捨てならない情報があったので、そちらに思考を向ける。


『しかし……レベルが1つくらい上がっているだろうって……俺は3か4くらい上がった気がするんだが……』


頭の中に鳴り響いたレベルアップ音の長さからして、1つしか上がっていないということは絶対になかった。もしかすると、リーシュのレベルはかなり高く、レベル自体も上がりにくいものになっているのかもしれないと思いながらも、迂闊に質問できない俺はリーシュに合わせるほかなかった。


「あとは、ゴブリンナイトの素材を回収してきて。」


リーシュにそう言われた俺は、一瞬だが体を硬直させてしまった。

森の魔物を回収した時のように、手をかざして念じるだけの作業なのだが、この作業が、こちらの世界でスタンダートなものなのかどうかが分からなかったからだ。

もし、この『収納』が、俺だけの特殊能力ならば、リーシュの前で披露すれば死亡確定となる。

それだけは断じて回避しなければならないと思い、俺は脳も焼ききれんばかりに思考を働かせた。


「あのさ……俺、ちょっと荷物がいっぱいでさ……リーシュが素材を持ってくれないかな?」

「そうなの?分かったわ。」


俺の苦しい言い訳が、なんとも見事に通ったことで、俺は心の中でガッツポーズを繰り返した。

そして、リーシュがどのようにして素材を回収するのかを確認しようと、一緒にゴブリンナイトの下へと歩き出す。


「あちゃー……これは駄目かも……」


ゴブリンナイトの下へたどり着いたリーシュが、開口一番そんなことを言った。

何が駄目なのかと尋ねてみると、変に電撃に耐えたせいで、身体中が傷だらけであることが駄目なのだそうだ。


「素材はね、ある程度綺麗なものじゃないと、買い取ってもらえないのよ。これじゃ値段にならないわ。持って行っても仕方ないから、ここに置いておきましょ。」


せっかくの大物なのに……とぶつぶつ呟くリーシュ。その様子を見る限り、嘘を言っているということはなさそうだ。


「そうか……残念だ。」

「そこまで落ち込まなくてもいいわよ。命があっただけでも儲けものでしょ?」


リーシュがどのようにして素材を回収するのかを見れなかったことへの残念感も手伝って、どうやら俺の言葉はかなり深刻そうに聞こえたようだ。リーシュが慰めてくれた。


「さぁ、行きましょう。」


そう言ったリーシュに連れられて、俺の旅は再び始まった。


そこからの旅は順調そのものだった。


平原には街道がしっかりと整備されており、集団で魔物を狩る冒険者の姿も見て取れた。また、ときおりすれ違う行商人から食料などを補給した。

ちなみに、俺はこの世界の通貨を持っていなかったため、代金はすべてリーシュ持ちだ。


「あなた……なんでお金持ってないのよ?」


とりあえず、森の中で財布を落としたことにしておいたが、いくらなんでも無理があるだろう。現に、リーシュも怪しんでたし……。

途中、魔物とも数回戦ったが、俺とリーシュの敵ではなかったのだが、違う問題が浮上して、俺を悩ませることになった。

俺を悩ませているのは、自然に見えるように手加減するということが難しいということだ。

実際、魔物との戦闘で、俺が止めをさせる場面がいくつかあった。けれども、加減が分かっていないため、攻撃を躊躇ってしまったのだ。自然に振舞おうと思えば思うほど、積極性が失われていく。そして、

躊躇いを見逃してくれるほど、魔物も甘くはない。

命の奪い合いなのだ。

隙を見せる方が悪いに決まっている。

そのせいで、何度かリーシュに助けられた場面もあった。リーシュはそういったことを気にしている様子はないのだが、何度も助けられるというのは、男としての矜持に関わる。

早く慣れなければ、それこそ、足手まといになってしまいかねない。

そんなことを考えていると、リーシュがズバリと核心をついてきた。


「トキヤって、たまにおかしなところで動きが止まるわよね。」


まったくもってその通り。

リーシュの援護のおかげで、痛恨事にはなっていないものの、やはり不自然な動きなのだろう。


「どうも止めの瞬間が苦手でさ……」


よく分からない言い訳をしておいてが、こんなものがいつまでも通るほど、この世界は甘くはないだろう。

早々に加減を学ぶ必要があることを痛感しながら、俺たちは旅を続けた。



ここまで、森で迷うこと半日。そしてリーシュと出会ってからさらに半日が過ぎ、辺りはすっかり日も暮れていた。

月と星の明かりは俺の予想を超える光量だったが、それでも現代日本に比べると真っ暗と言ってもいいだろう。


「今日はここまでね。これ以上は魔物に対応しにくくなるし、この辺りで野宿ね。」


リーシュがそう判断し、俺たちは街道を少し離れて水辺へと向かった。水の確保という側面もあるだろうが、全方位からの攻撃を避けるためだろう。水辺ならば、敵が来たことを音で素早く察知できるので、後方に気を配らなくて済むのはとてもありがたい。

まぁ、俺はチートのおかげで敵からダメージなどほとんどくらわないだろうが、そんなこと当然言えるわけがない。


「ここでいいわ。さぁ、とりあえず火を起こしましょう。」


リーシュが適当な場所を見つけ、火を起こす準備を始めた。

野宿というくらいだから、何かテントのようなものでも建てるのかと思ったのだが、この世界には簡易テントのようなものはなく、冒険者は宿場までたどり着けるように旅程を組むのだそうだ。

もう少し行けば宿場があるようなのだが、この辺りの魔物なら対応できるので、問題ないらしい。


『テントとか作ったら売れるんじゃないかな』


そんなことを思ったりもしたのだが、宿場が一定距離に存在するならば、売れることはないだろう。まぁ、秘境に突撃をかける冒険者辺りには売れそうだが、それほど需要がなさそうなので、異世界での商売は一先ずおあずけだろう。


『みんなが収納の魔法とか使えるのなら、アウトドアとかで絶対に売れるはずなんだけどな……。』


バーベキューセットとテントをセット販売して異世界商売大成功の話に切り替える……というのもアリな気がするが、それはある程度、ハーレム冒険譚が落ち着いてからでもかまわないだろう。


そこから、俺たちは干し肉などの携帯食料で食事を済ませた。

寝る時は、魔物除けの粉を火にくべて、毛布にくるまって眠るそうだが、もちろん、熟睡するわけではない。パーティーでも組んでいれば見張りをたてられるのだが、一人の時は仮眠程度で済ますのだという。


「じゃあ、今日は俺が先に夜番をするから、リーシュは休んでな。いろいろあって疲れたろ?」


出来る男は気の遣い方が違うのだよ。

そう思いながら、リーシュを先に休ませる。


それにしても美しい風景だ。


俺は思わず夜空を見回した。


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