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トキヤ~異世界⑧戦闘終了~

「おいおい……」


雷も止み、上空を覆っていた雷雲が消え去った直後、俺は感じていた気配の正体を知った。

ゴブリンナイトだ。

その見た目から察するに、多少なりともダメージを負っているようだが、致命傷にまでは至っていない。あの威力の魔法を耐え抜いたのだろうか。いくら俺のレベルが低いとはいえ、4倍もの威力の魔法に耐えられるはずがない。

そう思いながら目の前の敵をよく見ると、俺はゴブリンナイトが持っているある物に気が付いた。


「まさか、味方を盾にしたってか」


ゴブリンナイトの両手にはゴブリンが1匹ずつ握られていた。握られているゴブリンの様子を見る限り、すでに死んでいるのだろう。そこから考えて、ゴブリンナイトは咄嗟に左右のゴブリンを頭上に持ち上げ、直撃を避けたのだろう。

雷には貫通効果もあったはずだが、盾となったゴブリンを通すことで、直撃に比べると威力が落ちたのだ。

なかなかの外道っぷりだ。


そんな外道のゴブリンナイトは、手に持っていたゴブリンをこちらに投げこんできた。それと同時に、腰に差していた剣を抜き、自身も特攻をかけてきた。


「危ない!」

「きゃあ!」


俺とリーシュに向かって投げられたゴブリンをなんとか躱し、俺はリーシュを庇うようにゴブリンナイトに向き合った。

ダメージを負っている割に、なかなかの速度で突撃してくるゴブリンナイト。

俺はリーシュの方をちらりと見るが、ここまでの出来事にいまだに頭がついていっていない上に、ゴブリンナイトが生きていたということもあってか、通常の動きが出来ずにいるようだった。


『仕方ない……』


俺はリーシュを背に、目の前に迫ったゴブリンナイトに意識を集中させた。

まずは相手の獲物のチェックだ。

ゴブリンナイトの剣は輝きも鈍く、切れ味も悪そうだ。鉄の剣ではなく、銅の剣あたりだろう。

ゲーム内であるならば、攻撃力はかなり低い。

一瞬でその判断を下した俺は、ゴブリンナイトの上段の攻撃を、リーシュを連れて躱す。


ゴブリンナイトの攻撃はなかなかの威力だったようで、攻撃の跡が地面にはっきりと残されていた。

直後、ゴブリンナイトは剣を横一文字に振るってきた。

リーシュを連れて間合いの外にバックステップで逃げるほどの時間はなく、俺は仕方なくリーシュを抱えて空へと舞った。


「ブフォ!」


ゴブリンナイトの振るった剣は、勢い余って地面に突き刺さる。と同時に、ゴブリンナイトがとんでもない動きを見せた。

なんと、剣を手放し、回転する勢いのまま、空中にいる俺めがけて、回し蹴りを放ってきたのだ。


「このっ!」


リーシュを抱えたままの俺は、横から迫るゴブリンナイトの回し蹴りを回避することは不可能だと判断し、空中で思いきり体を捻った。

リーシュを守るためと、ゴブリンナイトの攻撃を背中で受けるためだ。

肘をたたんで蹴りを受けても良かったかもしれないが、それだと、抱えているリーシュに攻撃が当たってしまう可能性もあったための苦渋の決断だ。


「がはっ!」


ゴブリンナイトの一撃をモロに背中に受けた俺は、抱えているリーシュもろとも吹き飛ばされたのだが、攻撃がヒットした瞬間の衝撃と、蹴り飛ばされた勢いはなかなかのものだが、俺の意識は吹き飛ぶどころか、通常時のそれと変わらなかった。


「トキヤ!」


腕の中でリーシュの心配そうな声が聞こえるが、何の問題もない。むしろ、リーシュが初めて名前を呼んでくれたことに対して喜びを感じてしまっているほどだ。


「ぐっ!」


俺はおおげさにうめき声をあげながら、向上した身体能力にものを言わせて無理やり体勢を立て直し、どうにかこうにか地面に着地する。


「トキヤ!大丈夫!」


相変わらずリーシュが腕の中で叫んでいるが、俺としては、前のめりに倒れ込まなかった自分を褒めてやりたい気持ちでいっぱいだった。もし、前のめりに倒れ込んでしまっていたら、抱きかかえているリーシュを下敷きにしてしまうところだった。

こんなに美しいリーシュを下敷きにして汚してしまうなど言語道断だ。


「大丈夫。それより、ケガはないか?」


俺はこんな危ない攻撃を仕掛けてきたゴブリンナイトに怒りを感じながら、抱えていたリーシュを下ろす。


「え……えぇ。そ、それより、私も加勢するわ。手負いのゴブリンナイトなら、私たちが協力すれば十分に倒せるわ。」


そう言いながら、一連の状況下でも見事に手放すことのなかった細剣を構えるリーシュ。

冒険者として、自身の武器を手放さないその心意気は立派なものだが、さんざん悲鳴を上げていた姿を見てしまっているので、どこか説得力に欠けていた。


『確かに……2人でやれば余裕だろうけど……』


俺は、リーシュとの約束がある以上手を出されるわけにはいかなかった。リーシュに限ってそんなことは言わないと思うが、共同で倒したとゴネられても困るのだ。

俺が考えているお願いの内容からして、ここは俺1人で倒すことに意味があるのだ。


「リーシュ。その細剣貸してくれないか?」


俺はリーシュに尋ねながら、ゴブリンナイトの様子を見る。

連続攻撃を終えたゴブリンナイトは、肩で息をしながらその場を動こうとしない。

どうやら、さきほどの連続攻撃があまり効果的ではなかったということを悟り、体力の回復に努めているのだろう。

本当に賢い魔物だ。

だが、体力の回復に努めているということは、ゴブリンナイトは限界に近付いているということなのだろう。ここでもう一発、魔法を放てばきっとこの戦闘は終わるだろう。だが、俺はせっかくなので実験してみることにした。


実験内容は武器スキルの使用について。


「あなた……細剣使えるの?」


俺の言葉に対して疑問を口にするリーシュ。その疑問は当然だ。

なんせ、俺は武器を装備せず、今まで無手でゴブリンナイトの相手をしていたのだ。


「まぁ見てろって。」


そう言って、リーシュから細剣を受け取り、俺はゴブリンナイトの下へ歩き出した。


俺たちが話している間に、ほんの僅かだが体力を回復させたゴブリンナイトは、自身の連続攻撃が効いていないことに、ずいぶんと怒り心頭の様子だった。しかし、俺が武器を携えていることを確認したゴブリンナイトは、すぐにその怒りを鎮め、自身の持つ剣を正面に構え、俺を待ち受ける態勢に入った。

どうやらナイトとしての実力もそこそこ高いようだ。


戦場では焦ったやつから死んでいく。


知能が低いイメージがあるゴブリンだとしても、こいつはそれを分かっているんだろう。

ちなみに、俺もそれは十分に分かっている。

なんせ、ラノベを読みまくっているのだ。

焦ったやつが死亡するなんてのは、もはやお決まりすぎるくらいお決まりなのだ。


俺はそんな冷静なゴブリンナイトに対して少しずつ距離を詰める。

こちらは細剣を右手で持ってはいるものの、構えがどうも分からない。とりあえず、フェンシングのような構えをとっているのだが、その構えは自分でも分かるくらいにへっぴり腰だ。見る人が見れば、爆笑必至だろう。


目の前で構えるゴブリンナイトの動きに注意しながら、俺は視界の端でスキルの確認をおこなっていく。


『ふむ……細剣スキルは……ランク1は……』


細剣を装備してスキル欄を開くと、そこにはきちんとスキル名が記されていた。

どうやら、装備しなければスキルは見れないようだ。


『細剣スキル1「突き」?和名かよ!スキル2は「アサシンアタック」?スキル3が……ちっ!』


なんとも情けないネーミングに、心の中でおおいにブーイングをかましてやったのだが、それはこの世界のスキル設定者の語彙力の問題だろう。

気にせずにスキルを確認している途中でゴブリンナイトが攻撃を仕掛けてきた。


「ブオォ!」


どうやら、スキルを見ることに集中しすぎたあまり、うっかりゴブリンナイトから意識を逸らしてしまったのだろう。

ゴブリンナイトに意識を戻すと、構えた剣の位置が、大上段に変わっていた。

それを見た俺はすぐさまスキルウインドウを縮小化し、ゴブリンナイトの攻撃を受け止めるために、細剣を頭の上に構えた。


直後、大上段に構えられたゴブリンナイトの一撃が、俺の細剣に振り下ろされた。


「ガキィン!」


ゴブリンナイトの武骨な剣が、リーシュの細剣とぶつかり、ひと際大きな金属音が鳴り響いた。


「ブフォ!?」


攻撃の直後、ゴブリンナイトの驚きの声が響き渡る。

どうやら、ゴブリンナイトは、俺の持つ細剣が折れていないことに驚いているようだ。

まぁ、これに関しては、残念ながら俺もおおいに驚いている。

それもそうだろう。

通常であれば、体格と武器の大きさで勝るゴブリンナイトの攻撃によって、リーシュの細剣はいともたやすく折れてしまうのだろうが、どうやら、この世界ではそのような物理法則は適応されないようだ。


『それにしても……』


銅の剣を細剣で受け止めるなんて無茶をよくしたものだと、自分でも反省する。

なんとなく受け止められるんだろうなくらいにしか考えていなかったのだが、何も考えていなかったのかと聞かれれば、まさにその通りだ。

物理法則が適応されなくて本当に助かった。

もし、きちんと物理法則が適応されているのであれば、今頃、俺の体は真っ二つになっていただろう。


今更ながら冷や汗がでる。


しかし、今はそれを顔に出している時ではない。

そう思い、俺が反撃に転じようとしたその時、ゴブリンナイトが自ら剣を引き、居合の構えをとった。


『またか!』


回し蹴りをくらう直前の、横一文字の攻撃がくると判断した俺は、バックステップでその場から離脱し、ゴブリンナイトの剣が届く範囲外に逃れた俺だったのだが、ゴブリンナイトの剣に現れた兆候を見て、驚きの声をあげた。


『なっ!?』


なんと、ゴブリンナイトの剣が赤く光ったのだ。

ただ光っているだけなら問題ない。

問題なのは、光った直後、ゴブリンナイトの剣がとんでもない速度で真横に振り切られたことだ。

その直後、ゴブリンナイトから放たれた剣は、衝撃波のようなものを伴って俺に襲いかかってきた。


『あっぶね!』


俺はなんとか地面に転げるように回避に成功したのだが、それは華麗というにはほど遠い姿だった。しかも、こちらの体制はいまだに整っておらず、俺は地面に膝をついたまま、ゴブリンナイトを見上げる形になった。


「ギャファァ!」


もはやゴブリンの鳴き声なのか何なのか分からなくなってきたが、目の前のゴブリンナイトは再び剣を高く構え、攻撃を繰り出してきた。

次から次に繰り出される高速の打ち下ろしに、俺はなす術なく地面を転げまわる。


「この野郎!」


このままでは埒があかないと感じた俺は、ゴブリンナイトへ攻撃を仕掛けることを決めた。


『ドガァン!』


ゴブリンナイトの剣が数えきれないほどに地面を穿った直後、俺はそれまで回避していた方向とは逆に、ゴブリンナイトの方向へ転がり、細剣を持たない左手を軸にして足払いをかけた。


「ブフォ!?」


バランスを崩したゴブリンナイトが地面に倒れ込む。俺はその隙を逃さず、左手を軸にしてバク転で起き上がった。

サーカス団もビックリどころか、俺でさえも驚く動きだ。

ゴブリンナイトはいまだ起き上がろうともがいているが、自身のウエイトのせいか、軽やかに起き上がることができないようだ。


ここが勝機とばかりに細剣を真正面に構える。


『さっきの光はきっとスキルアシストだ。この世界にそんなものがあるのなら、イメージと構えが整えば、スキルは必ず打てる!』


またも直感でそう感じた俺がイメージしたのはスキルレベル1の『突き』。

構えた次の瞬間、細剣が青い光に包まれた。


俺はその光を認識すると、ゴブリンナイトに向けて細剣を突き出した。


『バシュッ!』


空気を切り裂く音が聞こえた。無事にスキルが発動したようだ。

動きに関するアシストもあるようで、突き出したあとの動きは、まるで最初から使えるかのような滑らかなものだった。


「グゥゥゥ!」


俺の細剣がゴブリンの右肩に突き刺さる。


『アレ?ちゃんと心臓を狙ったんだけど……』


どうやら、ゴブリンナイトは咄嗟に体をひねって急所を外したようだ。しかし、急所を外したとはいえ、かなり強力な1撃だったのだろう。

ゴブリンナイトはかなり苦しそうで、持っていた剣も地面に落としてしまっている。

すでに勝敗は決したようなものだが、俺は止めを刺すことを躊躇わない。

今回の戦闘は、ゴブリンを逃がしてしまったために起きたものだ。あの時、俺がしっかりと止めをさせていれば、こんなことにはならなかっただろう。

そんな心の甘えを消し去るために、俺は目の前のゴブリンナイトに止めをさすのだ。


「悪く思うなよ。」


俺は細剣を正面に構え、再びスキルを発動した。

直後、寸分たがわぬ攻撃が、ゴブリンの頭部を貫いた。


頭部から血を噴き出して絶命するゴブリンナイト。

その姿をしっかりと目に焼き付けて、俺は細剣についた血を払うため、剣を横薙ぎに振るった。


そしてすぐに、頭の中でレベルアップを告げる音楽が鳴り響く。

ステータスを確認しようと意識をウインドに向けた瞬間。


「やるじゃない!」


リーシュが駆け寄ってきたのだが、俺はすっかりリーシュの存在を忘れていた。しかも、リーシュがいるにも関わらず、危うくステータスを確認するところだった。

ステータス画面自体はリーシュには見えないのだが、戦闘後、その場で呆けているように見えるのは、やはり不自然極まりない。

俺はステータス画面を確認することを諦めて、視線をリーシュに向けた。


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