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異世界病が治まらない!! 〜Infinity world〜  作者: 幼き娘のフィロソフィー
 一章 〜使者〜
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第八話 小さな原点回帰

 マユズミのとんでもないパワープレイを見せつけられ、正直クロノスに同情してしまったが、そんな事よりも負傷者を助けに行かないとな。いやいや、切り替えが早いのが俺の自慢だからな……。


「おーい、大丈夫か?」


 すぐさま緋依の元へ駆け寄ったが、体を炎で全面的に隠していたため近寄れなかった。まぁ、服の案件の事だと、察する事は出来たが。


 次に彼方の元へ、小走りで近づいていく。途中で体中傷だらけな事に気付き、そこからはもっと早く駆け抜けたが、これもまた息はちゃんとあり、取り敢えず気絶しているだけだという事が分かった。少しそっとしておこう。


 そして一番の問題である、あの飛行少女だが……。


「いやぁぁっほぉうぅっ!!」


 絶賛楽しみ中だったので、ある意味そっとしておくことに……出来なかった。


「おーい、秀春!! これは凄いぞ!!」

「そ、そうかぁ〜。……取り敢えず落とそうか……?」

「なっ!? そ、それよりもさっきの我が一撃を見たか!? あれこそ最高潮の大迫力……」


 あっ、そう言えばクロノスを忘れていた……あいつ死んでないよな? だがしかし、クロノスの言う事が本当ならば、この空間はクロノスが創ったものらしい。恐らく、あいつが今死んでいたとしたら、俺達は既に解放されている事だろう……固定概念になっているが……。


 俺は恐る恐るクロノスに近寄ってみた。あいつには、彼方程の損傷があるようには見えないが、腕の赤い光が少し弱まっていたため、少なからずマユズミの一撃の効果はあったのだろう。


「……おい……クロノス……?」

「……グググ……グググ……グググ……」


 え? 「ぐぐぐ」? クロノスはその場で少し動き、機械が誤作動を起こした時の様な音を出し続ける。もしかして機械仕掛けなのかと考え、より近くへと寄ってみる。そして、クロノスの体を弄り、長いコートの中を覗いた。


 そこには、予想していた通りパイプや、複雑な電子回路、歪な形の鉄の様なパーツ、さらには大きな時計も入っていた。この時計は懐中時計にあるような形で、真っ直ぐ伸びた長針と、穴が空いた短針が、動かないままカチカチと音を鳴らしている。


 触れはしないが、正直理解しようとも思わなかった。ひとまず安全そうなので放置しておく事にするが、果たしてクロノスの存在とは何なのか? 彼方が相手にならなかったのは、クロノスが物理攻撃だから? それならばあれ程までにフルボッコとなっていた理由もはっきりと分かるが……。


 一人考えていたら、俺の目の前にマユズミが降りて来た。そもそも何でこいつがあんな力を持っていたんだ? 聞いてないぞ?


「おい、マユズミ……その力は一体何なんだ?」

「フゥム……この前の旅行で神とやらに会ったから、きっとその時に授かりし……力?」


 自分でも疑心を持ち始めてるじゃないか! と、とにかくこいつには構ってられない。もう少し話しが出来る人間ではないと、ここで野垂れ死にする事となるからな……。


「お、おい! 聞いているのか秀春よ!!」

「……」


 さて、緋依が何とか話してくれるようになり、尚且つ彼方が目を覚ましてくれるまで、何をすれば良いのかやら……暇だ。




 数時間経ち、緋依の説得にはなんとか上手くいった。とは言っても、実際は俺やマユズミの服を借りるという、その場凌ぎでしかない交渉だったが、今後はきっと……絶対、戦闘は無い……と思うので、もう燃えたりはしない筈だ。まぁ、戦闘があっても、新しく力を手に入れたマユズミを扱き使うだけだがな。


 そして、今から皆で彼方の元へ行こうといていた所だ。緋依とマユズミは先程の力について両方とも質問を繰り返しているが、どっちも嘘にしか聞こえない様な話なので信頼して貰えず、怪訝の目を向ける。しかし、その次の瞬間にはいつも通り和気藹藹としていた為、少し女性の凄さを感じた。


 彼方の元へ着くと、緋依が体を揺すってみたり、マユズミが事情を聞いて来たりもした。俺はこの際だからと、知っている彼方の情報を全部マユズミに話し、それでマユズミも少し怪しい人だと分かった様なリアクションを取った。怪しい観点では最強の人間に怪しまれるとか……。


 俺は気絶している人間に向けて微笑した。


「ぐっ……あれ? 俺は……」


 その時彼方が目を覚ました為少し焦ったが、普段通りの仕様に戻した。


「おはよう、柴崎……まず何があったかを教えてくれよな? な?」


 ……フルボッコモードだ……。


「えっ? ちょ、ちょっと待って……何でそんな殺気を纏っているの?」

「良いから、全部話せ!!」

「は、はいっ!!」


 彼方の話によると、学校に着くやいなやいきなり世界が灰色になり、辺りの人も居なくなった為外に出てみたら、先程のクロノスが居た。だから、戦った……という話らしい。まずは、どこぞの戦闘民族みたいな行動には触れずに、クロノスを倒した事と、帰れない事を俺は伝える。


「え!? 倒したって誰が?」

「ふんっ……我だっ!!」


 マユズミが物凄い早さで俺の前に出て、痛々しいポーズを決める。少し風を纏っている気もしたが、取り敢えずこいつは中二病だと、改めて自覚させてくれた。


 それに対して彼方も唖然としている。まぁ、つい先日にはただの痛々しい中二病な転校生としか考えて無かったからな。ま、まぁ、誰が倒したとかはどうでもいいんだよ。

 

「マユズミは下がってろ……とにかくクロノスとは何なんだ?」


 直球な質問を俺がするが、彼方は一回黙り込んでから口を開いた。


「分からない……そもそも異世界から来る奴等の事情すら知らないし……」


 そうか、確かに今まで出会ったような怪物達がどこからどのように来ているかなんて、実際には分からないもんな……って、いや待てよ? 


「そもそも、柴崎が今まで出会った事のある……その、異世界の使者の中で、クロノスみたいに喋る奴は居たのか?」

「……居なかったけど……」


 やっぱりか……。それならば、今倒れているクロノスを尋問……ではなく、彼とお話をする事が出来るんじゃないか? 少しだけ異世界やこの世界そのものについて知れるかもしれない。しかし、今の状態では聞けないかもしれない、あの傲慢そうなクロノスから、無条件で情報を聞き出すには……。


 俺がこのまま『絶対神様』とやらを演じ切るか? いや、事後処理に困るしなぁ……。


 いっその事マユズミの力で尋問会か?


「なぁ、一つ疑問なんだが、本当にそこの菅付がクロノスを倒したのか?」


 俺のシンキングタイムに割って入ったのは彼方であった。自分でも疑い深い部分があるが、そうであったし俺が間近で見てもいる。


「何でそんな風に見えるんだ?」

「いや、そこまで強い力を感じなかったからさ……」


 ん? 彼方のその答えで、俺の頭の中に戦慄が走る。そもそも大事な事を忘れていたんだ。誰がクロノスは完全に死んだと言った? 飽く迄も『気絶』してるだけじゃないか? そう、そのもしかしてなんだ……マユズミが力を解放し、クロノスにぶつけたあの瞬間から、俺達は奴の罠に嵌っていた。


 


 奴は……クロノスは死んでいない。うっかり騙せてると思ったが、それは完全なる反対だったんだ。そして、何故ずっと気絶する振りをしていたのかというと……まさか!?


「皆、今クロノスは何処に——!?」


 遅かった。俺の視界には、まさにこの状況で刃となる者の手があり、その腕であっという間に俺は持ち上げられ、緋依の時よりも乱暴に顔面を掴まれたまま、宙に浮いているかの様な状態となった。そして、聞こえて来るのは忌々しい『時空神』の声。


「ハハハハハッ!! 先程まで伺っているつもりでいたが、お前は絶対神様ではないな!! どのような偶然かは知らないが、あの方の名を無断で借り、尚且つ我にあのような屈辱的行動を取らせるとは……殺してやろうではないかっ!!」

「……くそっ……」

「どうだ? ぐうの音も出ないだろう?」


 ぐうの音は今出した……と言いたい所だったが、それも言えず、やはりぐうの音も出なかった。何で気付かなかったんだ!! いつでも止めは刺せた筈だったのに!!


 いや、そもそもコイツを殺す事なんて不可能なんじゃないか? 俺が気付いたとして、直ぐその場で殺されていたんじゃないか? 始めから戦わなければ良かったんじゃないか? 絶望しかなかったんじゃないか?


「秀春を放せ!!」


 いきなり聞こえて来たのは、紛れも無くマユズミの声。その瞬間体が少し揺れた気がしたため、きっと攻撃を仕掛けたんだろう。だが、目の前にいる筈の敵は何も言わず、腕が揺れた感覚すら、俺には感じさせなかった。


 俺がマユズミの攻撃を確認した次の瞬間、鉄で何かを殴る様な鈍い音が聞こえた。そしてそれに続くように聞こえる叫び声……マユズミが殴られた。俺を掴む腕から、クロノスの体が少し動いた感覚が伝わって来る。少しとは言っても、最早物理法則すら超越していそうな体から放たれる力は、どのようなものなのだろうか。


 俺が殴られたら……死んでいるのかもしれない。


「っち、受け止めるか……やはりそこの少年はやや腕が立つようだな?」

「……っぐ……」


 良かった……彼方が助けてくれたようだ。だが、まだ傷があれ程残っている状態で、さらに戦闘を重ねたら、それこそ体が持たない筈。もう……。


「秀春!!」


 次に聞こえたのが緋依の叫び声……そして、僅かな熱風であった。もうこの暑さを楽しむ事が出来そうな位、この時間が長く、苦しく感じる。


「小賢しい!! 全員で掛かれば何とかなるとでも? 既にお前達と私では百倍近くの力の差がある」

「——グハッ! そ、それがどうした!!」


 彼方が、何かを受け止めながらも反論している。


「秀春、しっかりして!! 今何とか——!」


 マユズミの声がさっきよりも近くで聞こえ、途中までは笑みが溢れそうになった。だが、次の瞬間聞こえた、生々しく耳に残る音、それは先を凹ましたホースから水を出したときの様な……音。


 しかし、今はそのホースが血管で、噴き出した液体が赤い血だと分かり、俺は自覚した。


 マユズミが……殺された、と。


 その後聞こえて来る緋依の悲鳴、そして目の端から見える、クロノスに付いた返り血。


 これじゃあまるで、兄と同じじゃないか……。


 嘘だろ、何でそうなるんだよ。嫌だ。絶対に嫌だ。それだけはあってはならない。だって皆、助けなくちゃ……俺が全員助けなくちゃいけないんだから……。


「誰が死んだ……?」


 自然と俺の口から漏れ出す声。


「はぁん? やっと口を開いたか……そうだな、風を出した少女だ……ハハッ! どうだ? 仲間の死は?」

「もう誰も……」

「……ん?」

「もう誰も死なないと、約束したんだ……だから、お前を……殺す!」

「は、ははっ。面白い冗談だな? 何だそのセリフ……誰か殺したのか? ならば、変わりに我が、この手で貴様を殺してやろう。本当なら甚振って嬲り殺しにしてやるつもりだったが……気が変わったんでな」

「……」

「お前もあの女と同じ末路に——ッ!?」


 その瞬間、大気は変わり、重力は歪み、電子が駆け抜け、地盤が動き出した。そして、その全てのエネルギーは一点に集まる……全ての原点へと……。


「な、何だ、貴様!? も、もしや……本当に!? だ、だとしたら……放せ!!」

「……」


 俺は、俺を掴んだ手を放さない。


「こ、このっ!!」

「……」


 ここで終わらせる……『原点回帰』だ。


 徐々に集まったエネルギーは、少しずつ形を整え、最期に殺意が込められる。


「こうなったらっ……ぐりゃぁあっ!!」


 しかし、クロノスは自らの腕を千切り取ってまで、その場から離脱。自らの転移能力で只管遠くへ逃げた。


 取り残された俺と、創られた原点の力。俺は殺す為に追いかけようとする……しかし……。


「秀春!! 何やってんのよ!!」

「くっ……なぁ神宮寺……もう大丈夫、だから……」


 そんな、嘘だっ……。


「だ、だって皆……」

「いいや、神宮寺は頑張った……それに、今の自分の顔を見てみろよ?」


 俺は水素を凝縮させ鏡を創る。そこに写ったのは、醜い程涙で顔が汚れ、全てを拒絶しようとする鬼の様な顔面の少年……。


 気付き、一度戻す……それが『原点回帰』だ。俺は、創り出したエネルギーから殺意を抜き取り、変わりに思いを込めた。


 そして、マユズミを綺麗な状態へと戻した。






 ……そこからの記憶は無い……。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 目が覚めたらそこは、我が家のベッドだった。


「見知ってる天井だ。」


 俺は自分のベッドから起き上がり、少しの間呆然としていた。気絶していたからだろうか、とても怠感じが残るが、気付いた時には、誰かが階段を上がる音が聞こえて来た。きっと緋依かマユズミか、咲希かな? 誰にしろ、今はゆっくりとさせてくれなさそうだ。


 さて、いつも通りツッコミにでも徹するとするか……。


「——絶対神様ぁぁああぁあああぁ!!」


 ドアが開いた瞬間、強いウェーブのかかった、銀色……いや、プラチナブロンドの髪をした幼女が勢い良く飛び出して来た。


「な!? だ、誰だお前!?」

「忘れたんですかぁあぁああ? クレールヒェン=ラインヒルデ=ラエール=クロノスですよ!!」

「えっ? クレ……ライ……クロノス!?」

「はいっ! やはり、貴方様こそが絶対神様なのですねっ!!」


 何か奇声を発し、俺を押し倒しながらそんな事を言う……本当にクロノス?


「お前、何でこんな所に居るんだ?」

「ふふぅん! それはですね……」


 クロノスが言うには、俺の力が直撃するのを避けるため逃げたはいいが、その先に待ち構えていた様々なエネルギーによってボコボコにされたらしい。さらにそのせいで、何年も構築し続けたと言う『結界術式』を無理矢理解かされ、自身の力も低下……そして、今に至ると。


「まず質問その一だ」

「はい?」

「その体は何なんだ?」

「……元々はこの体で、一時的にあの体になってたんですよー!」

「そうか……あと、もう一つある……」

「何でしょうか?」

「一体いつまで、俺の上に乗ってるつもりだ?」


 俺がその質問をした直後、クロノスはピクリと反応した。そして、自分の下を出し、変態的表情をこちらに向ける。


 おいおいやめろって!? 何だそれは!? 初めて会って間も無いような奴に、こんな表情を向けられたら蛇に睨まれた蛙の如く、動けなくなる。勿論、恐怖的意味で……。


「おい! 何なんだその表情は!? い・い・か・ら、どいてくれないか?」

「嫌です! 命令が無いと動きません!!」

「それじゃあ命令だ。今直ぐそこをどけ!!」

「はい! 全てはマスターの為に……私は貴方様の奴隷とし一生を捧げるため生まれました!!」


 クロノスは命令したら即効で立ち上がった。俺も直に立ったが、クロノスが『奴隷』と言葉にした時、こいつは床から這うように俺に近づき、足に触れ出した。

 

「き、気持ち悪いから! いいか? 命令だ、触るな!!」

「そ、そんな〜! 酷いですよ〜! 私はマスターの為に——」


 その時だった、ドアが再び開き、そこから出て来たのが……。




『秀春!!』


 始めに彼方がやってきて、「あっ、えぇっと……その……お邪魔したっ!!」と言いながら一階へダッシュ。俺は誤解を晴らすため、部屋から退場しようとするが、奴隷が足を掴み再入場。その間に彼方の異常を察した身内の女子、緋依、マユズミ、咲希が、彼方を超える猛ダッシュで家を揺らしながら部屋に押し掛け、奴隷を引き剥がす。しかし、妙にやらしい眼差しを向けるクロノスを見たため、何故か三人からの尋問会。


 今は椅子に縛り付けられ、多くのオーディエンス、尋問官に囲まれている状況だ。当のクロノスは頬を赤く染め、両肩を交差させた腕で触っている……あれか? 『いやん!』みたいな感じか? だったらマジでやめてくれ、殺される。


「いや! 違うって! 誤解だよ!!」

「本当に? 何も無いの?」


 緋依が若干怒った様な目付きで追求する。本当に怖いんだけど……。


「あぁ! 本当だ。嘘だと思うなら彼方に聞いてみな?」

「そうか……それがお前の言い分か……それでは柴崎! 貴様は何を見た!!」


 いちいちセリフが長いマユズミは、俺の言葉を信じてくれ、彼方の元に寄る。


「あ、あれは……」


 ちゃんと言ってくれよ? 頼む彼方!!


「凄いプレイだった……SMかぁ……」

「おいてめぇ!! おもて出ろぉ!!」


 彼方の爆弾発言により、俺の反論も一切無しに、咲希が胸ぐらを掴んで来る。そんな表情見た事無い気がするんですが……。


 と、とにかく、このままでは社会的にも、肉体的にも本格的な辛さが待っていそうなので、こんな時の為の助けて紗綾さーん! ダイニングテーブルからこちらを傍観していた紗綾に対し、視線でSOS信号の発信を試みる。すると、紗綾はしっかり頷き、何処から取り出したのかスーツケースを持って歩いて来てくれる。


「皆、これを見て。秀春の部屋にある盗撮……一家の警戒用監視カメラの映像よ」


 紗綾はそう言いながら、スーツケースを開く。その中には見た事も無いような回路や、電線で張り巡らされていて、目立つのは片面ずつに置かれているモニターとキーボードだ。……って、ん? ちょっと今、盗撮カメラって言おうとしましたか? それに我が家にそんなセ◯ムみたいな特殊機能、無かったよね!? 


「先程までの映像だけど——」


 スーツケースの中のモニターを指し、キーボードを操作する紗綾。盗撮に関して、今は触れない方が良いのかもな。


 そのモニター内では、俺が目を覚まし起き上がってから、彼方がドアを開けるまでが流された。俺がクロノスに触られたりすると俺が睨まれ、その度にツッコミを入れるのも大変だった。とにかく、これで分かってくれただろう。


「つまり、そこのクロノスが全て悪い……っという訳ね?」


 緋依が腕を組み、クロノスをジッと見つめる。


「あっ、いやぁ〜、それは、その……マスター……が……」


 言い逃れ出来ない雰囲気を、完全に感じ取ったクロノスは最期の足掻きを試みているが……より殺気は高まるだけ。しかし、そんな彼女にも救世主は現れるらしく——。


『ジュゥウウゥウウゥ』


 我が家のキッチンから、ハンバーグを焼く臭いと、香ばしさを感じる音が漂って来る。クロノスは目をキラっと輝かせると、一瞬でその場から消え……。


「お母様! お料理のお手伝いを致しましょう!! マスターの母上なら、それもまたご奉仕するに値する存在です! 何を御作りしましょうか? 副菜ですか? 我が家秘伝の漬け物もありますよぉ〜!」

「あら! あなた手伝ってくれるの!? 嬉しいわ〜。それじゃあねぇ——」


 キッチンで楽しげに料理を始めた。何だよ、我が家秘伝の漬け物って……。さらに、それに釣られるように他の女性達も動き出す。


「わ、私も料理なら自信がありますよぉ!」


 緋依がそう言い、腕をまくりながらキッチンへ向かう。


「まぁ? 我なら万事任せても良くてだな——」

「ドンマイ! お前は食器の準備だ」


 絶対アウトな人間が、アウトをする前に止めさせたのは俺だ。そして咲希はと言うと……。


「ふんふふん・ふふーん」


 鼻歌を歌いながら、もう席に着いていた!? 流石末っ子だな、恐るべし。


「さてと、彼方? これをほどいてくれるかぁ?」

「はいよー」


 こうして、我が家では何故かパーティーのような夕食を過ごした。ちなみに、宗騎はと言うと……。


「何で俺だけ出番少ないんだよぉぉおおぉぉぉおおおぉ!!」


 と、やけ食いしながら喚いていた。


 しかし、一番出番が少ないのはまだ帰っていない徹なのに……。


 と、とにかく! なんだかんだで楽しくなりそうな予感がするのは確かだ。先程まで殺し合っていた相手とは食卓を囲み合い、ヒーロー的背景も忘れてハンバーグを貪る者も居る。何故か変わったのに、原点回帰したのを感じる。


 今後どうなるのかは知らないが、まずは状況整理かな? 取り敢えず、日常に戻ってくれれば、それで良いと俺は思える。 

こういう、主人公のバーサーク化って好きではないのですが、すみません。後にご都合主義をさせて頂きます。


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