第六話 体育祭より〜中編
俺が中学校全体の晒し者となったあの日、勿論何であんな事をしたのかとマユズミには問い詰めた。しかし、今こうして聞いても何も答えない。もしかしてあの事件のせいで……なんて考えたりする事もあったが、だとしても何故、あんなにも人が居る中で、あれ程まで恥ずかしい物を……!
いや、案外コイツは行った後に色々考えたのでは?だとしたら、やはりあの事件か。
「創造者よ? 何を考え込んでいる?」
「おいっ! 人前でそんな呼び方をするな!! 俺の名前は神宮寺 秀春だからな!?」
「い、痛いっ!! は、離すのだ! げ、現在は魔力枯渇中であるために力が十全に発揮できないのである!!」
「うっせえよ!! いいから、俺は神宮寺な!? 分かったか」
「ぐぬぬ……心得たぞ、だから離——ひゃっ!? っと、突然離すなぁ!!」
「いや、離せって言わなかったっけ?」
「むぅ〜、我をこれ程までにこけにしよって……覚えておれよ!?」
まさかの街中でその呼び方をしたため、首根っこを掴んで良い聞かせる自分。あまり武力行使で人に物を言わせるのは好まないが……。
「……お前は人じゃないしな?」
「なぁ!? わ、我の……我の体も魔力が枯渇している状態ならば……その……人間で……近い存在的の……」
「もうしどろもどろじゃねぇか。いいからお前は黙っとけって」
「う、うむ……」
再び歩き始める俺達であった。そう言えば、いつもなら付いて来る彼方も、恐らく隣に居る奴のせいで来なかったのだろうし、少なくとも今日は頭が痛くなるのは確かだな。っていうか、思い出話にうっかり入ってしまい、本題から思いっきりズレてないか?
「それで……マユズミは何でこんな時期に転校を?」
「あぁ、そうだったな……あれは悲惨な事であったのだ……」
スミマセン……見苦し過ぎるので和訳を致します……。
春休みに入り、俺等と同じ高校に入る事は決まっていた様子のマユズミ。で、あったが、春休みの最中に行った旅行先にて足を捻挫してしまう。そして、その地域の病院で一時的に治療していたまでは良かったが、その時少し話題になっていた季節外れの台風によって、交通網は遮断されてしまい、その場に二・三日居座る事に。
さらに運悪く、車で来ていたので勿論駐車場に車を留めていたのだが、その駐車場が実は川沿いにあったせいで、氾濫した川が車ごと駐車場近くの物は全て流したらしい。そこから歩いて帰るにも、周りが山で囲われた場所であったが為に断念。結果、電車が動くようになるまで待ち、それで帰ったのだとか。
と、ここまでで只の旅行に一週間かかったのが分かるが、さらにそこからが変で、マユズミ達が家に帰ったら、一週間多く時間が経っていたのだとか。正直こんなところで下手な中二の嘘は言わなくていいと言ったが、どうも本当の事でマユズミ自身も混乱していた。
まぁ、その後マユズミが「流された駐車場を見に行った時に変な光が我を包んだのが鍵だな……」とか何とか言っていたので信憑性が随分下がっているが、気のせいだろう……な? おっと首根っこを……。
「痛い! 痛い! 離せぇ〜!!」
「はぁ〜」
俺の周りには問題しか居ないのか?
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そう言えばマユズミがやらかしたあの事件は親が一番バカにして来たよな……っていうのを思い出したので俺は夕ご飯時に家族と話した。
「あれは笑えたな、俺が中三の時だったかな?」
思い出し笑いをしながら、最近影の薄かった宗騎が言う。
「ひでにぃは死んでしまったのかと——んぐっ!?」
何か酷い事まで言おうとしていた咲希さんを、隣に座っていた紗綾が止める……もう遅かったが。
「それにしても秀春が女の子に振り回されてるのを見るのは面白かったわね?」
「バカにしないでよ……」
「そう言う秀春も楽しそうだったけどなぁ?」
レナと徹が二人でいじって来るのは結構キツいコンボと言えるだろう。
まぁ、そう考えると案外楽しかったかもな……マユズミとの…………? いや、大変だったな。俺の顔は思いっきり引き攣る。それにしても、中学二年辺りのマユズミに比べると、今日のはなんか元気に見えたな。まぁ、とにかく……。
「あぁ! 全っ然……楽しくなかったぜ!!」
夕食の後、お風呂にて……俺は考える。何故マユズミはあんな行動をするに陥ったのかと、だが、答えは分からない。確かに動機になりそうな事件というのはあったにはあったが。
正直それだけな訳であって、やはり中二病は理解出来ないという結論に至ったのであった。
〜〜〜〜〜中学二年生の頃の夏休み〜〜〜〜〜
俺が中学二年生となり夏休みへと入った頃、世間はお盆休みに帰省する為、駅のホームは平日でも大変多くの人が居た。勿論俺もその一人……ではなく、ただ家族で海へ行く為に電車に乗ろうとしているのだ。
「海だぁぁああ!!」
小学三年生らしい元気さを見せる咲希であるが、まだ海ではないのにはしゃぎ過ぎだ……って
「やっぱり海って言ったら、クラーケンの一匹や二匹狩って来ないとな?」
「徹? そんな生き物居ないわよ?」
父である徹もすこし興奮しているようだが、あれは例の如く異世界の話で盛り上がっているのだろうか? とにかく、人前でそんな事話してると、何処ぞの中二病と同じ扱いになってしまう。増してやその子供とは御免だな。
「秀春ぅ〜、宗騎は?」
「あの人は受験で……って、ん?」
俺が紗綾に返事をする為振り向くと、自分の後ろから前へ綺麗な香りを漂わせた純白の美少女が過ぎ去っていったのが分かった。しかし、その横顔には見覚えがあり……。
「……マユズミ?」
「え? 秀春の知り合い?」
紗綾が思ったよりも食い付いて来るんだが如何に?
「ちょ、ちょっと……」
だが一つ分かったのは、さっきのマユズミは何処か寂しげだった事。また、一番の謎が普段こっそり付けている中二グッズを、あのマユズミが、しかも夏休みという時期に一切付けず出歩いている為、傍から見れば完全美少女になっている事。
俺は迫る紗綾を押し退け、マユズミの所へ向かっていく。しかし、途中に電車が来た事で人が多くなり、中々進めなくなっている。もう少しなのに……。
「あっ、すみません……」
前に進む事しか考えられなかったので、うっかり人にぶつかってしまった。勿論謝るが……しかし……。
「あぁ、すまん……じゃなくて、すみません……」
「今『すまんな』って言おうとしたか? 中二病……」
「そうなのだっ!! って、え?神宮寺!?」
「そうだが?」
そういえばマユズミは運動音痴だったし、直に追いついてしまったのも納得がいくな。
「それよりも、マユズミはどうしてここに?」
「お盆だから出掛けるのは当たり前なの……でしょ? っていうかそれ、こっちのセリフですから」
気のせいではなく、マユズミは言葉遣いに気を付けている。
「俺は旅行に行くついでだったんだけど、さっきから何でそんな話し方なの?」
「そ、それは……我……私の祖父母はそういうのが嫌いらしくて」
「まぁ、そりゃそうだろうな。あと、お盆だからって言う事は、親族とか先祖様の墓参りか?」
「え、えっとー、お兄ちゃんの……」
「あ、あぁ〜、そりゃ悪い事聞いちゃったな……ごめん」
「いやっ! 別にそういうのは大丈夫だから……」
口ではそう言っているが、『お兄ちゃん』と口にしたときの顔は何だかとてつもなく寂しく感じた。それはまるで……マユズミが独りで居るときの様な……いや、考え過ぎか?
「それに、お兄ちゃんが……そうなったのは……もう、四年くらい前だし……」
「いや、それは……本当に…………」
『……』だけで繋がれた会話が暫く続く。するとそこへ、電車が到着する事を伝えるアナウンスが入り……
「あっ、その……もう行かなきゃ……」
何処かで聞いた事がある別れ際のセリフが耳に入り、質問をもう一つした。
「じゃ、じゃあね……」
「ま、待って……お前の両親は来てないのか?」
「うん……ちょっとね……」
電車に乗る為、体の向きを変えながら返事をしたマユズミの顔は、一見笑っているが、その目は暗く寂しく淀んでいた。
「……何やってんだよ、俺……」
俺は、マユズミに何か傷を付けてしまったのではないか、触れてはいけない事に触れてしまったのではないか、色んな思いが溢れて来た。
結局海はまともに楽しめず、現在は徹の『圧力変換』という力と、レナの空気を作り出す魔法で深海探索中だ。そして、深度1000m程まで行き、辺りは完全に真っ暗で一歩先は暗闇の様な場所に、俺達は辿り着いた。
しかし、レナが明りを作り出してくれたので周囲を見回すと、タコの様な皮膚なのに、口と呼べるのか分からない物を広げたエイリアンの様な生き物や、大きな岩に張り付いた光るクラゲの様な生き物。俺が引くように見回していると、いきなり明りが消えた。
少し驚いてレナを探そうとすると、誰かが「上に……」と言う。俺も釣られて上を見上げると、そこには様々な色に光るクラゲやただ明るい光を放つクラゲなど、暗闇を妖美な美しさで照らす深海魚達の姿が見えた。……何だか何かを感じる。
「暗闇もあの光一つで包まれそうね……」
レナの声が聞こえる。
「光と闇の調和かぁ」
徹が感慨深く言う。
俺達はその光の集合体が過ぎ去ってから、ゆっくりとビーチへと戻っていく。
日帰りの旅行から帰り、受験勉強をしている宗騎も待っている家へと帰る途中、俺は電車で考えた。マユズミには何があったのか……何があってあんな顔をしたんだ。知りたい……ただそれだけを考えていた。
暑い夏休みも終わり、学校は始まり、多くの子供が嫌がる九月へと入った訳だが、俺は少し違う。まず緋依に相談をしたのだが、緋依が普段マユズミと喋っていても放課後や休日に会う事など無く、マユズミの過去なんて何一つ知らない、という事だった。
何となく予想の付いていた事だ。だからと言って諦める訳ではない、もっと多くの人に……とは言っても、人脈と言うものが一切無い俺では……だから直接聞いてみる。正直緋依に聞いてもらう手もあったのだが、この時の俺は早く知りたくて仕方が無かった。
始業式のため、学校は普段よりも早い日程だ。式が終わり、休み時間にマユズミを探すも何処にもいない。確かマユズミも友達は居なかったし、残る場所でボッチが行く場所と言えば……屋上だ!
放課後になり、部活も無い日という事を利用し、俺は屋上へ駆け上がった。そしてドアを開け、椅子に座っているマユズミが居るのを確認する。
「……よっ……」
明らかに息を切らした状態で話し掛ける。……そういえば今日のマユズミはおとなしかったし、それを話そう。相変わらずコミュニケーションは常に未定だな。
「今日は……ふぅ……何であんなに……静かだったんだ?」
「大丈夫? 座る?」
「そ、そうさせてもらおうかな?」
遠慮なくマユズミの隣に腰掛け、気怠く前姿勢をとる。……やっぱり運動は大事かもしれない。俺は数秒力を抜いた後、マユズミを見てみると
「あれ? 髪って下ろしてたっけ?」
「いや……ちょっと、色々あって……」
だから……その『ちょっと』って何なんだよ?
「聞かせてくれ……」
「え?」
「……その、『ちょっと』って奴をさ……」
「えぇと……長くなるよ?」
「……構わない……」
俺がそう言うと、マユズミは淡淡と自分の過去について話し始めた。
マユズミは、田舎の家に生まれたのだが、それは母が浮気をしていたせいで出来てしまった子らしく、マユズミが生まれたときは一家が騒然としたらしい。だが、マユズミが小学四年生になるまでは法的に処置をとったりはせず、父も母もあまり触れずに育ててこられた。
そして、その時から入っていた夫婦の亀裂は年月が経ち深く、大きくなる。故に、マユズミが幼稚園へ入る頃には父と母の別居が決まる。マユズミは母の元へ付いていく事になり、当時中学二年生だったマユズミの兄は、父と共に暮らす事になった。ところが、当時のマユズミはそれを許したくなかった。
確かに、父と母の問題は仕方無い所がある。だが、それでも、兄と別れる事だけはしたくなかったのだ。
マユズミが小学四年生であった頃、マユズミの兄は中二病だった。それでも、兄は妹に優しかった。勿論妹という事もあるが、きっと望まぬ生まれ方をしてしまったのを憐れんでいたのだろうとマユズミは語る。そして、マユズミはそんな兄に憧れた為、その中二病自体が好きになる。
世の中で嫌われ者でも、マユズミはそんな兄が大好きだった。だから離れたくなかったのだ。
マユズミの強い思いもあって、別居は少しの間延長された。この事を当時のマユズミは大変喜び、今の彼女はそれを一番悔やんでいる。ある日、事件が起こる。
いつものように兄へ付いていき、遊ぶつもり満々だったマユズミ……そして、いつものように信号を渡る。そこへ、突如鳴った大きなクラクションと、背中を押す感覚がマユズミへ迫る。思いっきり吹き飛んだマユズミは怪我をしたものの、そのまま道路の向こうへ。
嫌な予感がする、とてつもない罪悪感に襲われるマユズミは、後ろを振り向いた。するとそこには、道路に対して斜めに停まっているトラックと、乾いたアスファルト、そしてトラックの前部分に飛び散った……大量の『兄の血』だった。




