第五話 体育祭より〜前編
結構早く出来ました。
虎とか尋問とか騒がしくなってしまったあの日から数日が経った。別にあれから何か異常があった訳でもないし、俺も少しずつ学校に慣れ出した頃だ。今日もいつものように机に顔を伏せ、何か考えてるようで何も考えて無い時間を満喫しようとしていたのに、これまた偶然かクラスの委員長に声を掛けられた……掛けられてしまった。
「今嫌な顔した?」
「うっ……いいや?」
「あっそう、まぁいいけど」
何が良いんですかね?
「はい、これ……」
「は?…………っ!?」
俺の目には、『体育祭』と書かれた紙が映った。あ、まさか……。
「学級委員も大変よね。だって当日にこんな仕事あるらしいいし……って、 そんな事も無いみたい。只記録と決勝? って仕事だけみたいだし……ってあれ? 神宮寺君?」
「あっ、神宮寺なら今さっきトイレに……ぶへっ!?」
無差別に殴られる彼方を傍目で見て、これ以上無い程静かに、そして速く足を運んだ。
——なんとか助かった。俺は今トイレに隠れている。次の授業まではなんとかなるだろう。飽く迄その場凌ぎであるが……。
体育祭。これはボッチな俺みたいな奴等からしたら最悪な行事であり、学校生活一番の壁(現時点での)と言えるだろう。そんな行事に関わるなんて……。
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「そんな行事に関わるなんて、滅法御免だぁぁああぁぁぁぁあああぁ!!」
「神宮寺君うるさいよ」
「はい……」
般若のような顔で資料を渡して来る緋依さん。これ以上の抵抗は許されない事だけは分かりました。
「ところで委員長さん」
「はい?」
「本当に俺の仕事は言われた数値を書くだけなんですか? その、決勝っていう仕事は?」
「あれは私がやるから……神宮寺君はそれだけだからね?」
「あ……有り難うございます……」
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俺は現在、緋依、彼方と共に帰宅中である。何故か彼方が居ると安心するのは気のせいか?そのせいか嫌な予感がするのも気のせいなのか?
「あ、神宮寺、そういえば体育祭が……ふばふっぅ!?!?」
あ、うっかり手が……ごめんな彼方。
「謝るなら口で言え……」
「なんで神宮寺君はそんなに体育祭が嫌いなの?」
「無視!?……俺は?」
隣で彼方が何かを言っているが、正直どうでも良い。で、これほどまでの俺の体育祭嫌いの理由なんだが……。
「委員長は覚えてないのか?」
「えっ? 何かあったっけ……中学校で?」
「う〜む、まぁそうなんだけど」
俺の体育祭嫌いの理由は中学生時代まで遡る。簡単に言うと、ここに居る緋依ととあるもう一人の方のせいなのだが……やはり覚えてないか。仕方無い、これははっきりと言うべきか、言うまいべきか? でもなぁ〜緋依じゃない方の人が原因の五……は控えめか。うん、八割は占めていると言っても過言ではないだろうな。
「まぁ、委員長も覚えてないなら良いけど……って、あの時は丁度居なかったか」
「あの時?……ってまさか……」
やっと緋依も思い出したよう。と言っても、噂を聞いたのを思い出しただけなんだろうが……。
「じ、神宮寺君、あの話って本当だったの?」
「さ、さぁ?」
「またあやふやにしようとして!」
「仕方無いだろ! あんなのまともに話せねぇよ!!」
俺等が話してるのを羨ましそうに見ている彼方君は可哀想……特に顔面に手を当てている所とか。
とは言え、あの話は人呼んで黒歴史とも言う、本当の本当に思い出したくない話なんだ。何で他人のせいであんな黒歴史を作り上げなくてはいけないのか……次あいつに会ったら何を言ってやろうか。ってか、あいつもあいつでもう辞めたのかな……『中二病』……。
「あ! また一人で何か考え込んでたよね?」
「え? 何で分かったんですか?」
「顔で分かる」
「考えたらダメとかあったか?」
「無いよ? でもね……神宮寺君が周りを忘れて何か考えてる時って——」
あ……察した。多分この後……。
「お前等!! 何か来てる!」
『ですよね……』
「何ハモらせてるんだよカッ——ブフゥウ!?」
もう止めたげて! 彼方君はヒットポイントがゼロになっちゃう!! まぁ、今のはカップルって言おうとした彼方が悪いんだろう……が……ってあれ? 今俺、心の中で言っただけだよね? ちょっと何で拳を握って近づこうとしてるんですかぁ!! 緋依さん!?あわわわわわわわ!?
そして世界は、彼方の作り出した世界へと変わった。緋依さんも驚いてる御様子……まぁ数回で慣れた俺も俺なんだけどね。……とにかく、拳を下げてくれて嬉しいよ、とっても。
「いたたた……っておい! いきなり殴るとか無いだろ!!」
「柴崎君うるさい! 早く何とかしてよ」
「はい……」
俺には分かった。彼方は完全に尻に敷かれる人間だと……女尊男卑の社会が垣間見得た瞬間である。っていうか、先程より怖い視線が……。
『キシャアァァァァアァ!!』
「あ、怒ってる」
視界の端に映った巨大な蛇が、結構本気のキレ顔で呻いている。俺もうっかり声が漏れてしまったせいで、今は余計に怒っているんだが……。少し怯えていると、彼方が俺達の前に出て
「神宮寺、委員長と一緒に、とにかく危なくないよう……」
「いいえ、私も戦う」
「は?何を言って……ってまさか!?」
いや、ちょっと待って。何を話してるんでしょうかお二人とも? てか今回ばかりは本当にマジオコだよ? あのモンスター。
「えぇ、私、もう一度あの炎を使えそうなの」
「確かにさっきまでとは比べ物にならないくらいの力を持ってるけど……」
「おい二人とも!俺にも分かる様に……っておい!!」
『キッシャァァァアアァ——』
俺が気付いた時には、その大蛇が怒り狂った様な顔でこちらに物凄いスピードで近づいて来ていて——
「さっきからうるさいって!!……あ」
緋依の炎により一瞬で消し炭となってしまった。何て言うか、少し予想通りだった俺が怖いんだな。
「だ、だから言ったでしょ?」
うっかりやってしまったのを誤魔化す子どものように、彼方に対し慌てた態度を取る緋依。別に問題無いと思うんだが……まぁ、それよりも聞きたい事がある。
「それよりも黒須さん? 何で炎出せたんですか?」
「ここに来た瞬間に感じたの……使える! って」
「精神論的なぁ?」
意味が分からないが、きっとそうなのだろう……これ以上考えると鬱になるからな……。っと、俺が考えていたら、何時の間にか俺達の居た世界が元の世界に変わっていた。流石仕事が早い彼方だな。
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そしてまた数日後……えっと、その……嘘でしょ!?
「ふふっ……篤と聞き入れるが良い……。我が名は『真夜中の略奪者』、全ての夜の主にして、この世の神秘を奪う者!!」
「おい……ちゃんと自己紹介して下さい、菅付さん?」
ふざけた挨拶に対し、内の担任は若干呆れ気味に叱った。
「ちっ! まぁ、今回の生で授かった体は……そう呼ばれているのかもなぁ!! くっくっく……」
教卓と黒板の間に立ち、堂々とそんな事が言える奴は……まぁ何て言うか、中二病というのだが……。あの、俺が知ってる内にいる中二病は白い肌に手首だけボロボロの制服を着て、包帯を首に巻き、両手首には変な紋様を(水性ペンで)刻んだあの『菅付 黛香』しか思い当たらず……。
「えっ! マユちゃん!?」
「なっ! 其方は黒焔の者ではないか!!久しいなっ!」
「黒焔って……緋依りだってば〜!」
「はぁ、何が久しいだか……」
「そりゃ久しいに決まって……ん?今のは、もしや……あぁああぁぁ!!」
ゲッ!! この場は何とか逃れようとしたが、うっかりツッコんでしまった。ヤバいヤバい、あの二つ名だけはここで言われると……。
「ごっほん……ふふっ……素晴らしい! 実に素晴らしい!! 宇宙の創造者ではないかぁ!? 今も尚世界の調和と均衡を保つ為に頑張っておるのか?我も悪の均衡を保つ為に結界を張り続けておるのだよ……」
「い・い・か・ら・黙っとけ……」
「?……まさか忘れた訳では無いよな?あの体育祭の——」
「うをぉぉおををおををおぉぉ!!!」
「ぶぅひゅぅぅううぅうぅぅ!!」
まさか本当にあの時の事を掘り下げて来るとか……テンプレ過ぎて怖いわ……。今は俺の教科書に顔を埋もらせながら寝てるけど……いや、それも半分テンプレなのか?
その後というもの、黛香……いや、通称マユズミは中二病を何度も発症させながら俺への接近を試みようとしていたが、俺の分厚いガードや回避力によってこの昼食時までは何事も無く過ごせている。
これで少しは分かってくれよ?……お前が避けられているという事をな。
「お、おい! 秀春殿!! 何故避けるのだ!?」
「……」
「なっ!!……も、もういいからな! 知らんぞ!!」
実のところ、マユズミは結構な美少女だ。そのせいか、朝にマユズミが教室へ入って来た瞬間、内のクラスの男子達は恐らく興奮したのだろう、少しざわついたが、その後の発言後には誰も相手にしなくなってしまった。
そう考えると可哀想な気もして来たが、緋依がたまに相手しているし、そんなに孤独を究めている訳でもない。まぁ、その言い方ならあと二人くらいはそれを究めている者が居そうなんだが……悲しくなるからもう言いたくないぜ。
って、んな事よりも、とにかく俺はあの中二病とは関わりたくない!!……誰が何と言おうとも絶対だからな!!
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運命の悪戯か……俺の心が決意で満たされた後の放課後、普通にマユズミは俺を待ち伏せしていて、俺は捕まり、結果二人で帰っている状態だ。
ちなみに、何故俺がコイツをこんなにも嫌っているかというとだな、中学生時代にもコイツはこんなんだったんだが、それに対して俺はどうしてもツッコんでしまうのだ。その衝動は絶対に抑えられない……勿論一度は止めよう、と考え肝に銘じたのに、やはりツッコミが……。別にツッコむならば問題は無いのだ……が、そのせいで俺の印象が悪くなってしまい、友達が出来ない事の一因となっていた。
とまぁ、そんな事で嫌いなのだ。しかも、中学生の時に俺とマユズミは三年間も同じクラスであった。あの頃ならまだ中二病くらい笑われてスルーされるものだが、今は違う。またもや……いや、もう既に発症しかけているこの病をどうにかするか、もしくはマユズミから寄って来ないようにしてもらうという方法しか、俺の高校生活を、より、穏やかに、する術は、無いのだ!
「やはり貴様も隠密に過ごしておったのだろう?」
「あ、あぁ……そんな感じ……」
「我も大変じゃったよ」
何かいきなり感慨深く、明後日の方向を見出したマユズミ。話を聞くと、学校が始まって少ししか経っていないのに、何故転校生みたいに現れたのか、という事らしい。まぁ大体覚えてるが……。
そもそも引っ越しとかをしていた訳でもなく、マユズミはずっとこの地域在住だった。俺や緋依とは地域的に離れてはいたが、中学時代は何度も接していて、仲良し……は腑に落ちんがそれくらい親しかったのだ。しかし、少しずつマユズミの病は重たくなって来る。
あれは中学二年生の頃、中一まではまだ許せる範囲であった病が、より激しく、専門的になっていった。その事に対する俺の注意も虚しく、エスカレートしていく病に、皆飽き飽きし出したのである。だが、当の本人は周りの冷たさなどいざ知らず、その周りに対し『二つ名』を付けたり、『異能(妄想です)』を授けたり、とにかくやりたい放題だったのだ。
そのせいで体育祭でもやらかした。俺に一番の影響を及ぼしたのだ、本当に黒に染まりし昏き闇の歴史だと言える。まぁ、今思えばあの時の俺なんて知ってる奴少なかっただろうし、あまり気にしてない人間も多数居ただろうが、ああゆう事は、そんなの関係無しに処刑だった。
マユズミは体育祭当日、大きな旗を取り出したかと思うと、学校の屋上に掲げた。その旗には
【神宮寺 秀春 又の名を……『宇宙の創造者』此処に参上】
と、大きく、描かれていて、まさに中二病と言う疫病を、学校中に晒したのだ。
予想以上に秀春は振り回された……あと自分も。
*マユズミとは、『黛香』の【黛】という漢字の読み方から来ています。




