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雪女の娘の20億分の1の1日  作者: サラブレッド三世
8/9

第七撃 コユキ激怒♪三大奥義炸裂【中編】

「な、なんなんだよ…」


 そこにはチャラ男が立っていた。

 足元には巫女コスの少女が倒れている。


 コユキが戦い、負けた。勝負は一瞬だった。



 ―――――――――――――――――――――――――


「………………止め!…」


【スピアー】


「うわっ、危ねっ」


 避けるチャラ男、フェンスに体当たりして自滅するコユキさん。


「……いいんスかね?」


 困惑しつつも止めを指すチャラ男。


 勝負有り


 ―――――――――――――――――――――――――



「ええと……彼女何しに来たんスか?」


 俺が聞きたいわっ!!

 いやいや、なんで最初から自滅覚悟の大技出しちゃってるの?普通、小技で削ってからの大技でしょ?今まではちゃんと戦っていた………かな?


 そう言えば、初めて彼女に会った時『スピアー』で沈められた。でもその時はお姉さんのサポートがあった。初見学した変異体とは苦戦しつつも『クロスカウンター』で一撃だった。その次の空手使いの変異体は『スピアー』を外して自滅しかけるもののお姉さんと花子さんのサポートで勝利した。他にも半年間観てきたコユキの戦いが思い出される。


 そこには二つの共通点があった。

 ひとつ、常に苦戦するも一撃で相手を倒している。

 ひとつ、常にお姉さんが横にいた。


 ………もしかして…


 まじまじと踞る少女に目がいく。


 もしかして、コユキって運動音痴?いや、正確には戦闘音痴なのか?


 だが、それなら納得がいくことが多い。そもそも、(お姉さんの受け売りだけど)どんなに幽霊が妖力を身に付けても元々妖力を持った妖怪にはその絶対値では勝てない。妖力は一概には言えないものの、それを持つ存在の戦闘力とイコールとなる。

 にもかかわらず、コユキは変異体に対して苦戦する。圧倒的な力の差があるのに……



「いまいち状況があれなんスけど、彼女誰?」


 はい、ごもっともな質問。

「俺やそこで倒れてる猫又の花子さんの仲間の妖怪」


「へぇぇ」


 頷きながらも気まずい顔している。

 それは、多分俺も同様だろう。気付いては不味いことに気付いてしまい、俺も動揺している。チャラ男に対する恐怖心や花子さんを心配する気持ちなど一瞬で空の彼方へと飛び差ってしまった。


 沈黙の後、チャラ男が言った。

「ええと、興醒めなんで出直していいスか?」


「あの、なんかすいません。うちの妖怪が…」


「いえいえ、大丈夫っス。気にしないでくださいっス」


 お互い頭を下げ合う。突然現れ、勝手に自滅していった少女のお蔭でそこには変な空気が流れていた。


「じゃあ、後日消させていただきに伺いますっス」


「あぁ、はい」

 どうやら俺が狙われることは変わらないらしい。このままなかったことに出来ないものか。

「来週の日曜空いてますっスか?」


「あ、その日は朝から見逃したドラマの総集編が……土曜なら大丈夫です」


「では、土曜日に」


 未だ困惑した表情のチャラ男は会釈すると空へ浮かび何処かへ行ってしまう。

 今のはなんだったのか。遠回しに自分の墓場を選べ、と言うことなのか。でも彼にはそんな雰囲気はなかった。

 やはりお互いどうして良いのか分からなかったのだ。


「……本当に何しに来たの?」


 俺は未だ踞るコユキを見下ろしつつぼやいた。






 ウーウー




 さて、問題はどうやってコユキと花子さんを連れて帰るかだ。

 俺は肩から指先までで意識的に物体に触れることが出来る。ただ、経験上両腕使って30秒が限界だ。もう一度使うには暫く休まないといけない。お姉さん曰く、使っていれば慣れるはずらしいが、俺にはその兆候さえない。



 ウーウーウー



 お姉さんがいれば、その辺の人に憑依してどうにかしてくれるだろう。こう考えるとコユキだけでなく、俺自身お姉さんに依存している部分がある。

 まあ、あの人はスペックが高過ぎるから。


 ウーウーウーウー


「うるさいな」

 パトカーの音が耳に障る。近付いてきている。何か事件でもあったの…………

 目の前には遊具が半壊し、木々の枝は折れて原型を無くした公園が広がっていた。


「あ、ここだった…」


 キキーッ


 公園の周囲に次々とパトカーが停まっていく。溢れ出てくる警官の中にはヘルメットや警棒とフル装備の人も混じっている。

 

「どうしようかな」

 はっきり言って打つ手なしだ。

 まあ、コユキが捕まった処で自力で脱出は簡単なはずだ。一応妖怪だし。人外の強さだ。

 問題は素顔を見られることだろう。まるで安いヒーロー作品の様だが事実それだ。

 姿を消せないコユキは人間に溶け込んで暮らしている。それを守る為の狐のお面だ。ひとりふたりなら見られても、お姉さんや協力者なる人が揉み消してくれるかもしれないがさすが大人数は無理がある。


「フォクシー・ウォーリア!て、抵抗はやめて大人しくしなさーい!君は完全に包囲されている。」


 中年警官が警告をいい放つ。いや、抵抗してないだろ。倒れてるのに。


 因み『フォクシー・ウォーリア』は巫女姿の通称だ。当初は謎の陰陽師だとか、何処ぞの傭兵だとか、悪魔等色んな説が飛び交った。そして3ヶ月程前、コユキが変異体と戦う姿が写真に収まり世に出回るとマスコミも話題性は更に鰻登りに上がった。

 とあるバラエティー番組でお笑いタレントが『美少女戦士』と呼び、相方にお面被ってるからブスかもと突っ込まれ、なら『狐戦士』と言いお茶の間を和ませていた。

 それから、本人は何気無く言ったであろう『狐戦士』が定着し、やがて『フォクシー・ウォーリア』となった。

 なにひとつ捻りの無い名が何故広まったのか。多分誰も分からない。流行り等そんなものだ。

 その意味より話題の共通し合うことに意味があるのだ。



 そう、認識の問題だ。

 なので俺は必至にお姉さんへのコユキが逮捕された後の言い訳を考えていた。

 どうにか認識、ものの見方をねじ曲げることで言い訳せねばならない。


 でなければ、理不尽にもチャラ男の前にお姉さんにあの世に送られてしまう……



「そ、そのまま動くなよ!」


 警官隊がじわりじわりとコユキに近付いていく。

 某玩具メーカーから勝手に商品化さえしたコユキだが、やってることは結果的に今回の様な町の破壊行為であり、警察も目を瞑ることは出来ないでいる。


 俺もこの状況を見てみぬ振りは出来ない。


「コユキ!起きろ!」


 コユキを揺り起こす。


「………んん…」


 珍しく甘い声を出しながらコユキが目を開けた。

「…………あ、ぁう…」

 必至に口を開いて何かを伝えようとしている。


「どうした?」

「………あ……あと…」

「後、なんだ?」

 必至に何を伝えたいのか。


「………あと…5分……」


 思わず溜め息が出る。

 この子、寝惚けてる。100%寝惚けてる。冗談言って無いで起きてくれよ。このままでは俺の責任問題になる。

 何度も言うが本当に何しに来たの……



「確保っ!!」

「あ、やべぇ」


 警官がコユキに押し寄せる。

 うん、諦めてお姉さんに怒られよう。覚悟を決めることにした。多分半殺しぐらいで済むと思う。



 …………………あれ?可笑しい。


 警官が固まっている。まるで時が止まった様だ。眉ひとつ動かない。なんだか前にもこんなことあった様な気がする。


「……………!?……」

 横ではいつの間にか起きていたコユキがお面を外して驚いた顔をしている。

「素顔出して大丈夫?」

 ……コクリ

 反応が遅れてつつも頷くとお面をつけ直す。一度彼女がお面を付けると中々外すことはない。余程この状況に驚いたのだろう。


「…………ママ…」

「えっ?」


 ママって言ったよな。これは雪女がやったのか。なら警官は時が止まってるのではなく氷っているのかもしれない。

 言われてみると若干に氷が張ってる様に見え無くもない。



「……………」

 フラフラと立ち上がったコユキはこちらを見つめてくる。

「何?」

「………………………………………………………………………………………………………………………!!…」

 長い間考え込んだ顔をしていたと思ったら急に何かを思い出した表情をした。

「…………ボクチャン……ママ…探す…肩……かして…」



 俺の名前は東山東ひがしやまあずまだ。

 しかし、幽霊となってこの方呼ばれたことがない。

 お姉さんには『僕ちゃん』と呼ばれる。多分この子はそれを名前だと勘違いしているらしい。

 まあ、存在を覚えて貰えただけ増しだと思おう。


「分かった」


 コユキが肩に捕まってくる。

 幽霊は実体のあるものに触れない。妖怪は実体はあるし妖力のお陰で幽霊にも触れる。なので俺は触れないがコユキからは触れる。

 不思議な理屈だ。


「でもその姿目立つぞ」


 巫女コスで狐のお面をしていては目立つことこの上ない。


「…………大丈夫……」

 言うや否やお面を外し脱ぎ脱ぎ出した。巫女コスの下には厚手のジャージを着ていたみたいだ。そして、取り出したゴムで髪を束ねポニーテールにする。

「………お姉さん……言われてる…」

 どうやら、いざと言う時の為にお姉さんが着ておく様に言っていたらしい。流石はお姉さん。用意周到だ。

「………寒いし……」

 そっちが本音らしい。


「…行く……」

「お面とか大丈夫?」

 足元には脱ぎ捨てられたままだ。

「…百均……売ってる……」


「そんな安っぽいものだったの!?」

 確かにこの巫女服よくよく見ると薄っぺらい。もしかして宴会用か何か?

 いや、今まで変異体との戦いでボロボロになる度に新しくなるのは知ってたよ。てっきり協力者なる人が買ってるのかと思ってた。

 何故にそこをケチるのか。


「…行く…」

 心なしか焦ってる。普段より『…』が少ない。

 それもそうか。母である雪女が近くにいるはずなのだ。中々ないチャンスだ。

「急ごうか」

 ここにいても利点はない。


 俺たちは歩き出した。




 * * * *



 結局、雪女は見付からず一度ラーメン店に戻った。

 二階の和室は凍りついて悲惨なことになっていたので、取り敢えずコユキは店内の長椅子で横になった。

 流石に疲れたのだろう。


 しかし、あのチャラ男はなんだったのか。兎も角強かった。花子さんがあいつは幽霊と言っていたので幽霊なのだろう。ならあの強さは……

 考えられるのは圧倒的な戦闘経験値の差と言うことだ。大なり小なり妖力を持っていてもそれ自体はそれほどのことではないはずだ。強い妖力なら俺でも多少は感じることが出来る。

 しかしチャラ男からはそれを感じなかった。


 お姉さん、お姉さんのサポートがあればコユキは多分勝てるだろう。逆を言えばお姉さんがいないと勝てない。

 しかし、あの人は今海外旅行中だ。何時帰ってくるか分からない。チャラ男が宣言した土曜日まで後一週間。どうする……


 ………でも、よく考えるとコユキは関係ないのだ。

 狙いは俺だ。原因もまたしかりだ。

 チャラ男が別段人を襲ったり、雪女に係わりが無ければコユキとは一切の戦う理由が無い。


「……………大丈夫?……」

 余程考え込んだ顔をしていたのかもしれない。心配をされてしまった。この子も多分母親が近くにいたのに見付からなかったことが辛いだろうに。

「大丈夫だよ」


 生きてる年月はきっと俺のが圧倒的に少ない。が、目の前にいるのは時間感覚が違うだけで、まだ『少女』だ。無理させる事は出来ない。


「…………次………勝つ………」

 どうやらチャラ男と戦うつもりらしい。

「無理しなくていいよ。俺の問題だしさ」

 理由もなく、もう充分現世に留まった。潮時かもしれない。


「ダメ」

「えっ!?」

 一瞬、それが少女から発せられた声だと分からなかった。そこには普段の弱々しいものでなく、はっきりとした『意志』が籠っていた。


「………お姉さん…言った……」


 真剣な目がそこにあった。


「………この店…いるの…家族……」


 もしかして


「………私……ボクチャン……守る…」


 俺は


「……家族………守る……」


 何時からだろ?この店に住み着く様になったのは。

 何時からだろ?花子さん達と無駄話する様になったのは。

 何時からだろ?暇と言いつつ今がたのしかったのは。


 俺は、俺は


「まだ、ここに居ていい?」

「…………いいよ…」


 少女は笑った。




 * * * * *


 時間は流れ、土曜日となった。


 俺は一週間近くのボクシングジムに通い続けた。

 理由はコーチングを勉強するためだ。お姉さんがいないなら俺がコユキをサポートする。俺のために戦おうと言うのに、俺が黙って見ておく訳にはいかない。

 少しは役に立てるはずだ。



 しかし、チャラ男は何時来るのだろうか。もしかしたら急に後ろから攻撃されるかもしれない。

 まあ、殺そうと言うのに正々堂々も無いか。


 でもそれは杞憂だった様だ。

 夕方になると「ちわース」とチャラ男が表れた。


「何処を墓場にするか決めたッスか?」

 やっぱりあれ、そう言う意味だったらしい。

「ああ、こっちだ」


 事前に広い上で人目に突かない場所は見付けてある。


 俺が前を歩き、コユキとチャラ男が続いた。



 いざ行かん、決戦の地へ!!





次回 激闘必須?

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