第七撃 コユキ激怒♪三大奥義炸裂【前編】
ちょっと頑張ってみます
暖かく見守ってください
俺、東山東が幽霊となり暫く立つ。
幽霊生活を始めてかれこれ半年。俺の日常はと言うと一言に尽きる。娯楽という娯楽は最初の一月で槍尽くしてしまった。
そう、暇だ……
「あんたはそれしか言えないにゃ?」
こたつの中から声がした。
季節は冬に差し掛かり、大部寒くなってきたようだ。残念ながら幽霊に寒さは分からないが…
なので今日からこのラーメン屋の二階の和室にもこたつが用意された。すぐに花子さんは潜り込み、俺は気分を味わうため足を入れた。
「しょうがないじゃないですか」
「半年間、毎日それにゃ。お姉さんみたいに旅行でも行けばいいにゃ」
お姉さんは今海外旅行真っ最中である。
「それはそれでめんどくさいですよ」
「幽霊の友達でも作れにゃ」
出来ることならそうしたい。が、無理だ。俺の知り合いの幽霊でまとも(?)なのはお姉さんと和服の女の子(未だ名前を教えてくれない)ぐらいだ。他は復讐がどうとかでストーカーまがいのことをしている連中にしか会ったことがない。出来れば御近づきになりたくない。
ガラッ
障子が空いてコユキが部屋に入ってきた。真っ直ぐこたつに入る。仮にも雪女の娘なのに寒いのだろうか?よく見ると相当厚着している様で身体のラインは元々のそれの倍にはなっていた。
「お疲れ様。仕事終わった?」
最近知ったがコユキに敬語を使わなくても、お姉さんに怒られない。すごい年上何だろうけど。
「…………?………!………終わった…」
最初に『誰この人?』みたいな顔をされたが、思い出してくれた様だ。進歩かな?
お姉さん曰く、コユキは血の巡りが果てしなくゆっくりなため、なにをするのも時間が掛かるらしい。だから戦闘やラーメン作りはほぼ反射運動でやっているらしい。それはそれで凄いけど…
「というか寒いの嫌いなの?」
分からないことは知る努力をせよ♪お姉さんの名言のひとつだ。
「…………ずっと夏ならいいのに……」
俺初めてこの子の単語以外の台詞聞いたよ。それはある意味爆弾発言。貴方ハーフとは言え妖怪でしょ?しかも雪女でしょ?
「同感にゃ」
くぐもった声がする。どうやらこのネコさんは炬燵から出る気はない様だ。
「……………………いい……」
あれ?コユキの頬が赤らんでいく。炬燵にそんな速効性あったかな。
「にゃああぁあぁああ!!?」
突然花子さんが奇声を上げて飛び出てきた。
「どうしたんですか?」
こんなに取り乱した花子さん初めてみた。隅っこで震えている。
「さ、寒いにゃ…炬燵が急に冷蔵庫みたいに……」
何だそりゃ。
「………………花子……いたの?……」
小首を傾げるコユキさん。
「あんたもしかして、熱吸収したにゃ?」
熱吸収はコユキの能力で読んで字のごとくの力だ。
つまりは炬燵の中の熱を直接身体に取り込んだらしい。そりゃ直ぐに暖まるわけだ。
因みに顔を突っ込んで見るとうっすらと氷が張り、炬燵の中はプチ氷河期状態になっていた。
「うぅ…部屋より外が暖かいってどういうことにゃ…」
俺と花子さんは散歩中だ。
炬燵から熱を奪ったコユキは最初こそほっこりしていたものの、段々震えてきた。それもそのはず炬燵の中は既に氷河期。凍える彼女は今度は部屋中の温度を吸収した。
結果
コユキは暖まる→部屋が寒くなる→コユキの体温が下がる→熱吸収→コユキが暖まる→部屋が…
実はとろいと言うよりアホの子なのではないかと思える今日この頃…
今日も代わり映えしない景色が広がっている。朝方晴れていた空は段々曇りつつある。そう言えば夕方から雨が降ると言っていた気がする。
「天気悪いにゃね」
不機嫌になる花子さん。
「余計寒くなるにゃ」
さいですか…
今となっては寒いことが分からない。少し羨ましい。やっぱり俺も「生」には未練があるのかもしれない。
ドスッ
考え事しながら歩いてたら人とぶつかってしまった。
「あ、すいません」
「気いつけろやっ!!」
黒スーツの男怒鳴られた。そんな怒らんくてもいいだろうに。
………あれ?幽霊?
男と目が合う。
「……」
「……」
「……」
沈黙が流れる。どこかで見たことある。何処でだろ?
少しずつ記憶が甦ってきた。も、もしかして…
「おい、貴様あの時の通り魔だな」
沈黙を破ったのは男だった。
「ナンノコトダカワタシワカラナイネッ」
取り敢えずごまk…
「ふざけるなよ」
無理でした。ドスの効いた声が響く。
幽霊になったばかりの時だ。錯乱(?)していた俺はすり抜けると思って近場の男にラリアットを喰らわしたことがある。この黒スーツの男だ。
てっきり俺に妖力がある(らしい)から触れれたと思っていたが、どうやら幽霊だったみたいだ。
まあ、花子さんがいるし説得してくれるだろう。
ふと花子さんを見る。
何故か男を睨んでいた。敵対心剥き出し。
「あんた何者にゃ?」
「どうしたんです?」
男を花子さん見てたからニヤリと笑った。
「これはこれは猫又さんではないですか」
急に喋りが柔らかくなる。明ら様に見下している。まるで存在さえ否定する様に。
「まだこの国に貴女の様な弱小妖怪がいるとは驚きです。まあ、弱小だから生き残ったと言うことですか」
「あたしはその後の世代にゃ」
「では弱小どころ下等妖怪ですか」
「にゃ……」
言葉に詰まる花子さん。
あの後とはなんのことだろう。生き残ったと男は言った。
どれくらい前かは知らないが、雪女と日本の妖怪とで激しい
抗争があったとお姉さんが言っていたことを思い出す。その事かもしれない。
「それなら今ここにいるあんたも弱s…」
「それよりも」
黒スーツを俺に向き直る。
「あの時のお礼をしないとな」
「そんな気を使わなくてもいいですよ…ははッ」
取り敢えず笑って誤魔化しつつ一歩下がる。
話から察すると黒スーツは実は妖怪、少なくとも花子さんが危険視するくらいには危ない奴だ。まず勝ち目がない。
「おい、ラン!」
黒スーツは空に叫んだ。すると空にあった黒い点が段々大きくなる。近づいてきている。
花子さんは辺りを警戒しつつも空と黒スーツを交互に睨んでいる。
そしてそれは降り立った。その姿は…
「との~、なんか呼んだッスかぁ?」
「チャラッ!?」
何が来るのかと心臓バクバクだった俺は思わず突っ込みを入れた。
茶髪でツンツン頭。黒をベースにしたファンキーな服装。耳のピアスがチラチラ光っている。身長は170ぐらいだろうか。ほっそりはしているが服の上からでもその発達した胸筋がわかる。俗に言う細マッチョだ。それがヘラヘラしながら黒スーツに話しかけている。
「あのネコといる男を消せ」
黒スーツは不適に笑う。チャラ男は部下なのか。
「いやっスよ」
「……」
「……」
「……」
又しても沈黙が流れる。黒スーツさえも驚いてる。
「面倒くさいッス」
黒スーツは暫く唖然としていたが、「もういい」と言い再び元気を取り戻した。空元気なのが俺でもわかる。
「貴様達は今から地獄を見るだろう。おい、イチっ!」
誰も現れない。
「おい、イチっ!!」
必死に叫ぶ黒スーツ。
「イチっ!イチ!イチ?」
なんか可愛そうな。
「イチさんなら今海外旅行中スよ~」
チャラ男は大袈裟に腹を抱え笑っている。そして肩をポンポン叩いて
「とのサイコーっス……さてと」
チャラ男は真面目な顔になり改めて俺たちを見た。よく見ると赤渕メガネから覗く目はパッチリしていてなかなかの美形だ。服装によったら女と間違るかもしれない。
俺と花子さんを交互に品定めするように目を動かしている。
緊張が走る。
どうやったら逃げれるのか検討するも何も思い付かない。多分花子さんも同じはずだ。
どれくらい立ったのかチャラ男が口を開いた。
「貴様達は今から地獄を見るだろう」
「……」
「おい、イチっ!」
「……」
「イチ!イ―……ドカッ
チャラ男は黒スーツに殴られ地面に半身が埋まった。地面にすり抜けてる辺り、こいつは幽霊だと思う。
いや、よく今の空気でよく人をおちょくれるな。
だが願ったり叶ったりのチャンス。花子さんも同時にその場を駆け出した。
逃げるなら今しかない。
「あれなんなんですか?」
走りつつ聞く。
「黒いスーツの奴は妖怪にゃ」
マジか!?ヤバイのにてを出してしまった…
幽霊と妖怪ではその存在からして力の格差がある。
「しかも多分相当強いにゃ」
花子さんがぼやく。
「あのクラスがなんで生きてるにゃ?」
暫く走ったが誰も追い掛けてくる様子はない。何時もの公園の茂みに身を隠す。
大丈夫か…
「巻けた様にゃ」
先行っていた花子さんは俺に振り返った。
「あんた、あれに何したにゃ?」
「なんと言うか…」
黒スーツとの経緯を話した。
「馬鹿にゃ?」
返す言葉がない。お説教が始まった。
「少しは考えて行動できないにゃ?」
「すいません」
「大体普段から言ってるにゃ」
「その通りです」
「これからどうするつもりにゃ」
「そうっスよ」
「どうするってもな…」
「あの手のはしつこくにゃよ」
「だから困るんスよ~」
「ですよね。どんだけ根に………」
目の前のチャラ男と目が合う。
「あれでも、とのは主ッスからね」
何処と無く黒スーツを思い出させる笑みを浮かべた。
「消えてもらえないスか?」
チャラ男は俺に殴ろうとした。いや、した様だ。その動きを捕らえることは全く出来なかった。
気が付くと幼女へと姿を変えた花子さんが降り下ろされたであろう拳を受け止めてくれていた。
「ネコの姿じゃ戦えないっスもんね」
チャラ男は一旦距離を取った。
「邪魔するなら先行きまスかぁ?」
なんでこいつは余裕なんだ?花子さんはこれでも妖怪。幽霊で勝ち目があるはずない。そこには妖力と言う絶対的な壁がある。
「にゃっ!」
花子さんはボディにパンチを狙う。チャラ男はすんでの所でそれを回避する。それを予想していた様に体制の崩れた相手の足払いをする。倒れたとこに馬乗りし腕を振り上げた。するとその手の爪が鋭く伸びた。
「終わりにゃ」
その爪がチャラ男を胸を突き刺した。そしてガタガタ痙攣を起こすと動かなくなった。
呆気ない。余りにも呆気ない。
「口ほどにもないにゃ」
世の男達がほっておかないであろう肩までのウェーブのかかった黒髪の幼女となった花子さんは爪を抜いた。どういう仕組みなのかその爪は再び元の短さに戻っていく。
緊張も抜け少しほっとしている表情だ。
「取り敢えずここを離れるにゃ」
なんでこいつ消えないんだ?幽霊は死ぬと、成仏すると光となり消えていく。もしかして…
「後ろですっ」
「!?」
寝たまま放たれたその蹴りは目の前の幼女のわき腹に衝撃を与えた。膝まずいてわき腹を押さえる。
「な、何故にゃ…」
そいつ、チャラ男は「いてて」とぼやきつつ立ち上がった。
「勘違いしないでほしいっス。本気で痛いんスよ~」
素早く立った花子さんはそのまま飛び掛かった。
【ネコパンチ】
が、あっさり避けられる。俺はそのパンチに成す術もなく殺されかけた攻撃をだ。
「あぶないッスね」
喋る余裕すらある。
「やっぱり妖怪はタフっスね。幽霊ならさっきの蹴りで動けないっスよ」
ニヤニヤ嬉しそうだ。
「にゃああああ!!」
【ネコネコ乱舞】
連続的に繰り出されるネコパンチはかすりもしない。いや、かすってはいる。服は少しずつ裂けている。ほんとに服一枚のとこで避けている。しかし、流石のチャラ男もニヤニヤしつつも余裕はないようだ。確実に言葉数が減っている。
レベルが高すぎて援護することさえできない自分に腹が立つ。
「ちっ」
永遠に続くかとさえ思える攻防の中、遂にチャラ男がよろけた。それを見逃す花子さんではない。懐に飛び込んだ。
【ネコパンチ】
そして決着が着いた。
「にゃあああっ……」
地面に転がったのは花子さんの方だった。何が起こったのか分からない。確かにネコパンチはチャラ男を捕らえていた。
「攻撃が単調なんスよ。素人丸出しっス」
止めとばかりに顔面に蹴りを入れた。
「にゃ……」
シューと煙が立つと花子さんはネコの姿に戻っていた。気絶してしまった様子。
「よろけたら想像通りのパンチがきたんでカウンターっスよ」
困惑する俺に楽しそうに説明してくれるチャラ男。
「花子さんは妖怪だぞ」
まだ花子さんが幽霊に負けた現実を受け入れられない。あれだ、花子さんは変異体でさえ相手によっては渡り合える実力を持っている。それが、妖力を持たない幽霊に……
「いや~、実は最初転ばされた時は覚悟したっスよ」
寒気が走る。圧倒的な力を前にした恐怖。
「あのネコパンチもハンパなかったっス」
俺との距離が少しずつ縮まっていく。
「まあ、当たれば、っスけどね」
恐怖。もう俺は動くことが出来なかった。
ああ、もう少し幽霊楽しんどけば良かったな……
その時だ
「――離れろ」
声と共に辺りに衝撃が走る。キリンの形をした滑り台はひびが出来たと思うと半壊した。他の遊具も似た様なものだ。
「誰っスか?」
何だろ、この安心感は……理由はない。ただ助かったと思えた。
そこには、赤いメガホンを口元に当てている長い黒髪に狐のお面、巫女コスの少女がいた。
「………よくも…花子と………………………?」
子首をかしげるコユキさん。
名前を覚えて貰えてないなどなんの問題もない。今は彼女に頼るしかない。気にしてなどない。
………気にして……泣いていいですか…
やっぱりストーリーには敵がいるかと…
次回も頑張ります




