第七撃 コユキ激怒♪三大奥義炸裂【後編】
辿り着いたのは、町外れにある工場跡地だ。
人通りは皆無で少々暴れても目立たない。
さて、改めてチャラ男と対峙した。
「てっきり、闇討ちでもされるかと思ってた」
率直な感想を言ってみる。いまだチャラ男から敵意を感じることが出来ない。
「日取りまで約束しましたから、守りますッスよ」
急に真剣な顔をした彼は、何処か寂しそうでもあった。
「例え敵でも嘘、裏切りは嫌いなんス」
最後には何度も見せている飄々とした態度に戻り
「ま、闇討ち出なくても正面からでも殺れまスから」
と付け加えた。
「俺はラン」
チャラ男は唐突に名乗りを挙げた。
「そっちの女の子が先っスか?」
「…………」コクリ
コユキが頷く。
「二人係りでもいいんスよ?」
余裕発言頂きました!
俺が戦えるならそうしてるよっ!
「コユキひとりで充分だよ」
まあ、悟られても仕方ない。ばれてるだろうけど…
「あんまり女性殴るのは嫌なんスけどね」
チャラ男、改めランは無造作に腕を顔の前に構えた。コユキもそれに倣う。
「取り敢えず足を使って削れよ」
「……」コクリ
俺はその場から距離を取った。そこにいては邪魔になる。しかし、相手がランでよかった。何故に正々堂々としてるのか分からないが、此方としては有難い限りだ。本当に闇討ちでもされたら手も足も出なかったことだろう。
「何処からでもどうぞっス」
ランが挑発してくる。舐めるなよ。俺だって一週間チャラ男対策を考えてきたんだ。
「コユキ、まだ早い」
花子さんとの戦いでもランは避けてばかりで、殆ど攻撃をしていなかった。何故か?やはり単純なパワーは花子さんのが上回っていたからだ。それをランは隙の出来るのを伺ってから責めに転じたのだ。だから、まず自分から責めてくる事はない。敢えて自分から危険な方へは来ない。実際、花子さんから受けた傷は痛がってた。
ならば後は簡単だ。此方から責めず出方を観ればいい。コユキなら一撃入ればそれで蹴りが着くはずだ。
ランとコユキのにらみ合いが続いている。
どうやら俺の仮説は正しかったらしい。外れてたら間違いなく終わりだった。
と言うかこのまま諦めて帰ってくれないかな…
「はぁぁ」
突然ランが長いため息と共に構えるのを辞めた。
「これじゃ埒が開かないス」
あれ、本当に帰ってくれる?
そしてファィティングポーズを辞めた手は懐に伸び
「バーン」ダーン
辺りに音が響いたかと思うとその手には黒いものが握られていた。コユキは左肩から血を流していた。拳銃だ。
って、おい
「あれ、妖怪っスよね?何故に血?」
そう言う問題じゃ…
「視線反らす程度の積もりだったんスけど、効くならそれでいいスね」
ダーンッ
コユキの脇腹から血が流れる。
「心臓、守りましたね。府に落ちないスけど、そこ弱点スね」
拳銃を構え直すラン。コユキとは距離を取っていて、どう頑張ってもコユキの拳が辿り着くより先に銃弾が貫通するだろう。いや、それより…
「おいこらっ、卑怯だろ!!」
「え、俺でスか?」
ランはきょとんとした顔をした。が、目はコユキから離さない。
「卑怯嫌いとか言っといて銃かよっ」
ちょっとこいついい奴ではないかと思ってた俺の気持ち返せよ。
「………じゃあ弓ならいいんスか?」
え?それは
「えっと…それは…」
「迷ったスね。ではボーガンなら?」
何を言ってるんだ。話の意図が見えない。
「いや、素手相手に銃は…」
「銃が卑怯なら仕込み刀は?」
仕込み刀は確か日用品に見える暗殺道具のひとつだったと思う。まあ、卑怯かな。
「卑怯で言うなら女の子に戦わせてる貴方もそうでしょ」
「は!?」
「俺は闇討ちは嫌いス。でも戦は生きるか死ぬかでスから。一度始まれば、そこに卑怯も何も無い」
……でも
「武器は時代のそれに合わせて進化するっス。貴方はあれでスか?侍を知らないのに差しの勝負は刀や素手だと言う口スか?武士道を知ったかするんは辞めて貰いたいっス」
こいつは侍だったのか
暫くの沈黙が流れた。
「だいたい、何れだけ俺が妖力持ってても妖怪とはスペックが敵わない…」ダーンッ
突然ランが発砲した。
「コユキ!?」
コユキに傷は増えていない。避けたみたいだ。
………避けた?どうやって?
「俺もお人好しっスね、まさか時間稼ぎで突っかかって来たとは」
またもや話が見えてこない。
彼女はスッと立ち上がった。何だか蒸気の様なものが体から出ていた。
「ボクチャン、ありがと」
声は何時もの彼女のものだ。しかし、何故かスラスラとハキハキとしている。
「後は任せといて」
蒸気処か、体が赤らんできた。
「一瞬で終わらせちゃうんだから」
おい、無口キャラはどこ行った。
ダーンッ ダーンッ
銃声が響いたかと思うと
ジュ
と言う音がコユキの近くからした。それよりシューだとかジューだとか湯気が凄い。 それと所々巫女服に穴が空きだした。溶けていく様に。
「どうなってるんだ?」
「『もえるコユキちゃん』よ」
ワザワザ向き直ってどや顔をされた。
つまりは覚醒状態的なものかな。
「さてと、行っくよー」
そして、ランへと駆け出した。速っ!普段も俊敏ではあるが、今のはそれを超越している。
「たありぁぁ」
雄叫びと共にに距離を詰めたコユキがパンチを放つ。
遠目でも分かる。大振り過ぎる。彼なら避けれるのではないか。うん、案の定その拳は空を切っ……
確かにランはパンチを避けた。にもかかわらず彼はぶっ飛ばされた。風圧かな。外れても当たるなら格闘不器用でも関係がない。
うわっ、えぐい。
何とか起き上がるランの顔の左頬から肩に駆けて溶けた様に抉れてる。
その間も巫女服はどんどん溶けて行き、ほぼ布蹴れに成り下がっている。
「言い残す事は?」
二人の距離は僅か数メートル。さっきの見ている限りは相手は逃げようが無いだろう。
コユキが燃え(?)出してから数秒で戦局は逆転した。
「だから言ったんスよ。スペックが違うって…」
その場にしゃがみこんだ。
「何で弾当たんないんスか?」
「体に当たる前に燃え尽きたんでしょ」
然も当たり前の様に答えるコユキさん。
すると、ランが高らかに笑った。壊れたのか?
「まあ、狙いは貴女じゃ無いから」
「!――ボクチャンにげ…」
俺の方を向き何か言う声は途中で遮られた。
ダーンッ
ぎゃああ
ここにきて俺を撃つなよ。
さっきは少し納得仕掛けてしまったけど卑怯じゃん。
何が「闇討ちは嫌いだ」だよっ。似た様なもんだろ。
おい神様、今度こそ走馬灯のひとつ見せやがれ!
体に銃弾っぽいのが貫通してった。大部後ろの方から何かにぶつかった音がした。
「死にたく無い――……あれ」
死なない。
…………俺、幽霊だった。てへっ
「「紛らわしいわ」」
コユキと俺の声が被り彼へと向き直る。あ、彼女の紛らわしいって言うのは俺にも言われたらしい。一瞬凄い目で睨まれた。
だが、そこにはランがいなかった。逃げたらしい。
その時空から声がした。
「闇討ちは嫌いだけど、ドッキリは好きなんスよ」
そう言えばこいつはお姉さんみたく空飛べるんだった。
ドッキリって…
じゃあ、あれで俺を倒せない事知ってたのか。まあ、よく考えれば分かる事だけど。それっぽい事言うからすっかりその気になってしまった。
しかし、あの場面でよく思い付くものだ。相当、修羅場を潜ってきたのだろうか。そう言えば、侍がどうとか言ってたはずだ。
「一先ず助かったな」
「逃がすかー」
「はい?」
何だか物凄く怒ってるコユキさん。
「いや、無理だろ」
だってもう百メートルは上空にいるだろう。さらにどんどんと高度を上げている。
「無理じゃない!」
貴女は飛べないでしょうが。いや、飛べたとしてもその服では飛べないでしょ。服があったかどうかもわからなくなっていた。最早肩に手のひらサイズの布が引っ掛かっている位だ。それも燃えつつある。
それ以前に、何だかコユキの頭の位置が下がって行くなと足元を見ると、その一帯の地面が溶けつつあった。
どんだけ熱いんだよ。
「お姉さんに禁止されてるけどいいよね?」
俺に聞かれても…
「三大奥義!乙女の溜め息!」
何そのネーミングセンスは…
すぅっと大きく息を吸い込んだかと思うと信じられない事が起こった。
……………口からビーム出しちゃったよ、この子
遠くの方から男の叫び声が聞こえたら気がした。
御愁傷様です。
しかし今度はビームか。
何だか雪女のイメージから離れていっると思うのは俺だけだろうか。そもそもこの子は特殊なことは熱吸収し化できなかったはずだ。てっきりそれは温度を奪うから氷属性だなと思っていたが、実は炎属性なのではないか。
雪、本当に関係ないな。
「大丈じょ「こっち見るな!!」
声色に怒りが感じられる。素直に従おう。
取り敢えず全裸となったコユキを見ない様に後ろを向いた。まあ、見ても仕方がないんだけどまな板だし。
「今なんか言った?」
「何でもないよ」
花子さんもそうだが何でこの子らはまな板と言う単語には異常反応する。口に出して無いのに…
そう言えば花子さんどこ行ったんだろ?
「花子さん探して服持ってきてもらう?」
「まだいらない。体覚めないと直ぐに燃えるか溶けるかするから」
「全体何がどうなってるんで?」
「そっか、知らなかったっけ」
そこからコユキの普段ではあり得ないスラスラとした口調で説明してくれた。
まとめるとこうだ。
『もえるコユキちゃん』は熱吸収で限界まで身体を暖めて心拍数を上げるらしい。本人曰く普段は血の巡りが悪いから頭の回転も遅くなり、トロい。だから、心拍数が上がれば身体能力が高まる理屈だ。化学的的な気がし無いでもないが、やはり非化学的だろ。そこは半分妖怪だから気にしてはいけないと言っていた。
後、あのビームみたいなのは溜め込んだ熱と妖力を練り合わせて口から放出したものらしい。
「あの小僧生きてたら容赦しないんだから」
ご立腹の御様子。
「これ使いたく無いの。服は溶けるし、半年位は寒いからよ。こんな屈辱ある?全部あの小僧が強かった性でしょ」
半分くらいは言い係りに聞こえるけど無視の方向でいこう。
「……寒い?」
何が?
「あっちの空見て」
なんか凄い吹雪いてた。まあ、冬ですけどね。ここは雪国かと突っ込みを入れたいほど吹雪いてた。
「この辺は私の熱で熱いけど、時期にここも寒くなるわ」
何故かと疑問符が浮かぶことさえなかった。原因はひとつだね。地面が溶けるほど熱くなるまで熱吸収すれば、周りは寒い、いや極寒の地となるわけだ。
……色々とまあ、妖怪ですからねと流さなければならない様だ。一々問題にするのが億劫になってきた。
あ、でもやはりひとつだけ気になることがある。
「三大奥義って言うけど、何故にプロレス技?」
口からビームは、非現実的ではあるが『奥義』っぽい。しかし、そこ並んだのは『スピアー』なるプロレス技か。
「趣味」
後ろから早々に答えが反ってきた。趣味て……
「だってプロレスカッコいいでしょ」
なんか声のトーンが上がってきている彼女。
今にも語りだしそうだったので話題を反らした。だって興味ゼロのことを語られてもだろ。
「そう言えば「最初はお姉さんがね」
作戦失敗。
その後は淡々とプロレスの素晴らしさに付いて語られた。果てしなく続くかと思われた話も一区切りした様だ。3時間ぐらいは立ったかな。
俺の暇へ対する抵抗力がなければ生き抜く事は出来なかっただろう。
「で、三大奥義のもうひとつもプロレス技なのか?」
「違うよ♪」
まだテンションが高い。お姉さんでも有るまい。
「聞いたら驚くよ」
お、勿体振らしてきたな。ちょっと興味がわく。
「…それはね」
「それは?」
ちらちらと雪が舞いだした。
「その名も、三大おぅ……………」
「………」
「………」
「………」
この沈黙は何ですか。もしかして…
多分俺の予想が正しければ今振り向いても怒られないであろう。
振り向いて見ると、地面が溶けクレーターとなった中心に少女がぼんやり立っていた。
「コユキ、大丈夫?」
「……………」コクリ
頷く彼女。
どうやら冷めて通常運転に戻ったらしい。
肌の色も戻っている。肩の皮膚が酷い火傷の様になっている。拳銃で打たれた所は焼いて塞いだみたいだ。
その後が大変だった。
頼みの綱の花子さんが現れることはぬかった。
俺は、「……寒い」とその場離れようとしないばかりか、更に熱吸収で一事凌ぎで辺りを寒くさせようとするコユキを帰る様説得しなければならなかった。そして人に見付からない様に家まで誘導しなければならなかった。責めても救いはこの異常気象のお陰で出歩く人が少なかったことであろう。
着いた時には俺の精神は疲れきっていた。お姉さん早く帰って来てくれよ。外は住民避難か始まってる。
ああ、でも……
でも責めて、三大奥義の話途中で止めないで欲しかった。気になってしょうがない。
既に聞いても今のコユキは上手く説明出来ない感じだった。
って言うか、あれ最早二重人格じゃね!?
作者的解説
もえるコユキちゃん
コユキちゃんのハイパーモード。つぉい。何でも触れた先から溶かす。
乙女の溜め息
三大奥義のひとつ。口からの破壊光線。妖力と熱を合わせて放出。スピアーの前から三大奥義として定められていた。




