第四撃 秘拳 クロス・カウンター
ちょっと長め。
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昔昔、雪女は人間の男に恋をして結婚しました。可愛い可愛い娘も産まれ、幸せに暮らしていました。
しかし、ある日のことです。その男は妻との約束を破り雪女のことを話してしまい、雪女は男のもとを離れます。妖怪には妖怪のルールがあったからです。
この話には続きがあります。
男は寿命を全うした後、幽霊となり雪女と再び幸せに暮らすのです。
が、数百年後に再び事件起きました。男はとある天狗と喧嘩になり殺されて(成仏)しまったのです。
それを知った雪女は怒り狂い、天狗の一族を全滅させました。ただ殺すのではなく、生地獄を味会わせるため自らの体に吸収したのです。
それを知った天狗と仲のよかった河童達が雪女を殺そうと襲い掛かります。天狗を喰らい強くなった雪女は激闘の末これを下します。河童も吸収し、さらに強くなりました。
今度は河童の仲間の川辺の妖怪達が襲ってきます。雪女はそれを下します。
これが永遠と繰り返された結果、日本の妖怪はほぼ全滅しました。最強の妖怪となった雪女を残して……
ただ、雪女は戦いの末精神崩壊してしまいます。
最早、その娘ととある幽霊「これわたしね♪」がいないと戦闘以外のことができないのです。
苦労もありますがそれなりに幸せな生活が続きました。
数年前、突如として雪女は娘の前から姿を消します…
と、同時に不自然な幽霊が現れる様になりました。その幽霊は妖力を持ち実態を持っているのです。幽霊に妖力を与えられるのは雪女だけです。娘は母を求めて幽霊を追い求めるようになります。
雪女の娘の名前は「コユキ」。
彼女は人間と妖怪のハーフです。寿命があります。 その脈拍1日ほぼ1回。生物は20億回の鼓動で人生を終えると言われているので、約500万年の人生です。
彼女の妖力は肉体強化と熱吸収です。熱吸収とは右手のひらで触れた物から温度を吸収する能力です。彼女は、人間の血が濃いために姿を人間の目から消すことができないのです。妖怪として、この能力の少なさは異常です。
そのため彼女は、普段は人として生きています。
ラーメン屋を切り盛りする理由もそれです。
今、彼女の願いはふたつ。
母に会うこと。もし、雪女を使って何か悪巧みをするものがいるなら叩き潰すこと。
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お姉さんは語り終えると大きくため息をついた。
巫女コスも大変なんだな。でも、
「なんで、俺にそんなこと話してくれたんですか?」
「あんた物に触れるにゃろ?」
俺は頷く。
「それって妖力持ってるからできるの♪」
とお姉さん。
「つまり、あんたも関係者にゃ。」
「え?」
話が見えてこない。
「まあ、僕ちゃんが何も知らないのは知ってるから安心してね♪」
なにを安心しろと!?
よく分からないが、知らない間にとんでもないことに巻き込まれてしまったらしい。死んだ後ぐらいゆっくりさせて欲しいのに…
その後、お姉さんから傷の治し方をお知えてもらった。
取り敢えず、ひたすらイメージすれば治るらしい。実際に曲がった足は治った。非常に疲れた。ただ、続けてやり過ぎると力尽きて成仏してしまうらしい。
「ここがコユキちゃんのラーメン屋よ。」
「へぇぇ。」
お昼とは言え、長蛇の列が出来ていた。なかなかの盛況ぶりだ。そういえば、生きていた時、雑誌で近くに有名なラーメン屋があると書いてた気がする。
中に入る。当たり前だが、幽霊は列に並ぶ必要もないし、見えないから順番抜かしとも言われない。
ツル ツル ジャリ ツルツル ジャリジャリ
「……」
気のせいか、明らかにラーメンを食べているそれとは違う音がする。
ツルツル ジャリジャリジャリジャリジャリジャリ ツル
気のせいではない。
「これがこの店の唯一のメニューの『雪国スペシャル』よ♪」
見た目は平凡なラーメンである。
作り方を見せてくれると厨房に案内された。中にはコユキひとりで働いていた。メニューがひとつとは言え、よくひとりで店を回せるものだ。
お姉さんは邪魔しない様に少し離れたとこで解説し出す。
「まず、市販のインスタントラーメンの麺を茹でます。」
え、インスタント…
「麺を器に盛って市販のスープの元と湯をかけます。」
「……」
よく売れるな?このインスタントラーメンは安いことで有名だったはずだ。確かこの雪国スペシャルは900円と書かれていたと思う。
詐欺だろ……
「最後にコユキちゃんの能力で麺が所々凍るまで熱を吸収するの。あっという間に熱々スープなのに麺は冷たい世にも不思議なラーメンの完成♪」
なるほど。このラーメンは話題性だけで売れているらしい。世界広しと言えど、妖力を持ってる彼女にしかできない代物だ。
「確かに売れて訳ですね。」
「そうでしょ。わたしも頑張って宣伝したの♪」
「……ちなみに何したんですか?」
恐い。この人が頑張るとろくなことが無さそうだ。お姉さんはそんな俺にはお構い無く続ける。
「ちょっと某有名雑誌の編集長に憑依して、勝手に特集を組んだだけよ♪」
お姉さんは笑っているが、笑い事ではない。死人が生きてる世界にそんなに干渉していいのだろうか。幽霊のルールは知らないけど、道徳的にどうだかと思う。
しかし、恐いので決して本人には言えない。
「まあ、熱吸収にも限界があるから店の開いてる時間は数時間なんだけどね。後は「みんにゃ、変異体が出たにゃ。」
いつの間にか足下に花子がいた。
すると、コユキは手をピタッと止めた。そして壁にかかった赤いメガホンを取ると店内に出ていった。
「後は変異体、妖力持ちの幽霊が出ると閉店しちゃうのね。」
その時
「……………閉店……」
店が揺れた。
どんだけ音拡張してるんだか。あのメガホンは特別性なのかもしれない。普通売ってないだろ、街中に響くのではないかと思えるほどだ。
厨房から出ると、慣れているのかお客は耳を押さえながらも素直に出ていっている。
こう言うのも話題性を呼ぶひとつなのかもしれないな。
お客を追い出すとコユキは店の奥へ行き、いつぞやの巫女コスに着替えて狐のお面をかぶってきた。
「あんたも来るにゃ?」
「べ、別に行か…」めんどくさい。
「行くわよ♪」
「はい…」はい、拒否権はなしですね。
「こっちにゃ。」
は、速い。ネコと巫女コスはどうやったらそんなに速く走れるのかというペースで走ってる。お姉さんに至っては浮かんでるし……
疲れないとは言え、俺のスピードは人間のそれを越えていない。
危うく見失いかけつつもその空き地にたどり着いた。
「!?」
多分あれが目的の幽霊なのだろう。その姿は人の姿を保っていなかった。腕は三本で尻尾が生えている。目は完全にいっている。なんと言うか、よく言う「キメラ」みたいだ。吐くことは出来ないが、吐き気が込み上げてくる。
「あれが、妖力を与えられた幽霊よ。今はまだ力が馴染んでないから実態はないけど、その内に現世に干渉できるまでになるわ。あそこまで人の姿を保ててないなら、すでに意識はないわね♪」
お姉さんが教えてくれた。
コユキはそれに近づいて行く。
「…………雪女……知ってる?……」
無反応。
「……」
「……」
「……」
いや、なんか話せよ。話が進まん。
と、突然
「がぁあぁああぁ!!!」
変異体が奇声をあげながら、コユキに向かって駆け出した。
3つの拳が襲い掛かかる。
サッ
意図も簡単にそれをよけ、数歩下がった。
「まだ馴染み足りないから弱そうよ。殺っちゃって♪」
お姉さんは普段に増して楽しそうだ。
ジリジリ
コユキは摺り足で敵との距離を縮めて行く。変異体も様子を見ている様だ。いや、何も考えていないのかもしれない。またバカの一つ覚えで殴りかかる。
パパッ
速くて見えなかったけど3つの拳を一瞬で払いのけた。そしてみぞおち目掛けて反撃をする。
「……くっ…」
が、吹っ飛んだのはコユキの方だった。
見ると敵の腹から更に2本の腕が生えていた。あれで逆に殴られたらしい。
「大丈夫なんですか?」
相手は手が5本あり尻尾まである。コユキ素早いが見ている感じ、そこまでスピードに差はない。
これ、ピンチじゃないか?お姉さんが落ち着いてていいの。
「大丈夫♪あの子は並みの鍛え方してないから。」
「……はぁあ!!…」
コユキは気合いを入れる様に握りしめた右拳を胸に当てた。
がぁあああぁあ!!!!!!
変異体はまた駆け出す。その5つの拳はコユキの顔を目指して伸びている。が、彼女はそれを避けようとしない。
「おい、あぶな…」
【クロス・カウンター】
拳が顔に接触する寸前、左に最小限に避けつつ相手の顔を殴りつけた。相手は吹っ飛び10m先の塀に突っ込んだ。塀は跡形もなく粉砕した。ぴくぴく痙攣している。どうやら終わったらしい。
「実態化しかけてたわね。」
「あの塀どうするにゃ?」
「放置で♪」
振り返ると激闘があったにも関わらず緩い会話をする2人だ。
シュウウウウ
変異体は音をたてつつ、だんだんと薄くなりやがて消えた。
「成仏したみたいね♪」
とお姉さん。
「…………後で……合流…」
コユキは駆けていった。
「まだ何かあるんですか?」
「辺りに雪女の手がかりがないか探しにいったのにゃ。」
と花子。
「わたし達は帰ろうか。」
お姉さんは伸びをしながら歩きだした。
「お疲れ様にゃ。」
ネコも続く。
俺も続く。
……………俺来た意味あったか?
戦闘の描写は難しいですね♪
第三・四撃の技
【ネコパンチ】
見た目はそのまま。ただ、妖力が込められておりその威力は絶大。並みの物なら一撃粉砕。
【クロス・カウンター】
ボクシングのカウンター技。肉体強化されたコユキから放たれるこの技はまさに必殺カウンター。因みに教えたのはお姉さん。




