Sequence‐5 ~寄託部“強制”入部? ③~
「あ…ダメだ…クラクラする」
急に、テーブルに突っ伏してしまう佑梨。
思い出すだけで…めまいがする。
次から次へと湧き上がる問題事案…。
果てしなき事務処理案件…。
しかも、凪咲たちの仕事振りの丁寧さが評判となり…学校内外からひっきりなしに依頼が来るという…部活的には嬉しい悲鳴。
しかし、佑梨にとっては、悲しい悲鳴で…もはや苦行といってもいい。
「…さらに仕事を複雑且つ困難にするのが…あのリエゾン教授よ…」
突っ伏したまま、佑梨が力なく呟く。
吏玖哉にとっても、それが大きな疑問だった。
そもそも…
大学教授が高等学院の部活顧問…という状況自体がありえない。
前回出会った…短時間で、感じたこと。
彼女が発する、あの圧倒的パワーに面を食らった吏玖哉だったが、人に対して興味を持つようなタイプには、到底見えなかった。
そして、あの破天荒振りに着いてゆける人間も、そうそういないだろう。
「あの…どういう経緯で、教授が顧問を?」
「へ?」
自らの疑問を解消しようと…遠慮がちに聞く吏玖哉に、慌てて体を起こす佑梨。
「ああ、それは寄託部No.2の吾砂颯一郎くんね」
自動的に音声ガイドよろしく答えた佑梨だが、つい先程…本音と一緒にへこんだ態度を教え子に見せてしまったことを反省して、恥ずかしそうに咳ばらいをする。
「えーなんでも…お父さんの仕事の関係で、颯一郎くんは小学生の頃にシンガポールに行って…そこでリエゾン教授と出会ったみたいなの」
「シンガポール…」
「で、幼かったリエゾン教授に、日本語を教えていたのが颯一郎くんで…教授も“そー兄”って懐いていたと…まあ、顧問を買って出たのもそんな関係からみたいだけど……」
「……けど?」
さらに話の先が気になり、すこしだけ身を乗り出す吏玖哉。
「それは建前…と、までは言わないけど…本音の部分では…稀代・難題を解明することに喜びを見出す超弩級の鬼才の性というか…【律専七不思議】にめちゃめちゃ興味を持っちゃってて」
「律専の…七不思議?」
「そう!…その研究にも繋がりそうな匂いがしたから引き受けた…と、わたしは思ってる」
律専七不思議はともかく、佑梨の説明で何となく…理解が出来た。
《でも…謙の動物的探知能力は、教授のメカと同等…いや、それ以上かも知れない…》
自分の傍らに座り、付喪神も恐らく察知していたであろう…優秀でかわいいわんこも只者ではない気がする。
「とにかく!!」
ここまで冷静に話をしてきた佑梨は一転、バン!と勢いよく…一枚の書類をテーブルに出した。
のどかな回想に浸っていた吏玖哉は、その音に驚き我に返る。
「今、リエゾン教授は寄託部復活に燃えているわ」
「そう…みたいですね」
「わたしは絶対に阻止したい!…ほら、告くんだって困るはずよ!」
書類の指さされた欄を見た吏玖哉は、驚きの声をあげる。
「えっ…寄託部…部長?!」
“部活動廃部保留/撤回要請・申請書”…その書類の部長氏名欄には、すでに告吏玖哉と書かれていた。
「僕…書いた覚えは…」
焦る吏玖哉に、佑梨は静かに頷く。
「わかってる…全ては教授の思惑よ。 自分の探求心のためなら…どんな手段も厭わない」
佑梨の中で…教え子・吏玖哉から同志・吏玖哉に変わった瞬間である。
「…だから」
「だから?」
「全力で逃げなさい、告くん」
「…は?」
「わたしも、そうするから!」
敵に包囲された特殊部隊の兵士のような…得も言われぬ緊迫感。
「何が何でも、リエゾン教授の魔の手から逃げるのよ!」
「誰が誰の魔の手から逃げるって?」
「!?」
扉の外から、突然響く…聞き覚えのある声。
恐る恐る…声の先に視線を向ける佑梨と同志・吏玖哉。
開け放たれた多目的ルームの扉口で、シルビアが仁王立ちしていた。




