Sequence‐4 ~ティア♡・覚醒 ③~
「!!!(×3)」
咄嗟にPADの画面を確認するシルビアは、その数値に仰天する。
「なんだ? これは…」
PADに表示されていた波形…磁場の歪みを表す数値上昇は、さながら逆バンジーにように跳ね上がったまま戻る気配がない。
謙に駆け寄り、事象解析PCの警告音を止めたシルビアは、振り向きざま超シリアスな声をあげた。
「おいっ!一体なにが起こっている!?」
不意に襲って来た理解不能な状況に…珍しくシルビアの苛立ちがピークを迎えている。
「誰か、答えろ!」
先程まで、和気あいあいと“蒔絵箱の蓋開かない談義”に花を咲かせていた佑梨と玲に、鋭い視線を向けた。
当然の如く、“知らない、知らない”と、大きく首を横に振る二人。
残るターゲットは…吏玖哉一人だ。
「おいっ! 新入生!!」
シルビアの鬼気迫る声に…劇的な出会いをしていた吏玖哉は、はっと我に返った。
叫ぶシルビアの横で、呆然とこちらを見ている佑梨と玲。
「あの……なんか、すみません」
吏玖哉の心からの謝罪であったが、シルビアの追及は緩まない。
「新入生、今何が起こっている?…説明しろ」
「え…と…」
「お前がこの箱を開けて、何かを呟いた瞬間…磁場曲線の数値が爆発したのだ。 何を言った?…誰に言った?」
「あ…それは、その…この箱の付喪神です」
「九十九神…だと」
「付喪神?」
「つく…も なに?」
身を乗り出し、好奇に満ちた目で吏玖哉に詰め寄る。
「まさか…お前には、それが見えるのか? …話せるのか?」
「…は…い…」
返答を聞くや否や…シルビアの指がPADの上で忙しなく動き出し、
彼女のメガネに反射する画面が、次々に変わっていく。
「爆発した曲線数値をアルゴリズム化して…インデックスサーチ」
シルビアのPAD作業を横から覗いて見た吏玖哉だったが、やはり…全くもってちんぷんかんぷんだ。
「…よし! これならイケる!! おい、新入生」
「あ、はい」
「ツゲ…下の名前は?」
「吏玖哉…です」
吏玖哉の背中を勢い良く叩くと…
「ツゲリクヤ! 君にはたっぷり協力しもらうぞ♡」
…彼の顔を覗き込み様に、ウインクする。
「…え?」
「行くぞ、謙!」
「わふっ」
勢いよく、元寄託部部室を飛び出して行くシルビアと謙を…吏玖哉も、佑梨も、玲も…ただただ見送ることしかできなかった。
残された三人の横を、心地よい風が通り抜けていく。
「…で、告くん…教授との話の続き、聞かせてもらうわよ」
「もう、訳わかんない。 つくもなんちゃらって何?」
佑梨に催促され、玲に文句を言われ、しどろもどろの吏玖哉。
「えーっと…それは、その…つまり…」
上手く説明をしようとすればするほど、ドツボにはまっていく…
喧々諤々の三人…
蓋の開いた蒔絵箱から、その様子を見つめている可愛らしい付喪神。
その目線の先には…女子たちに追い込まれる吏玖哉の姿…。
青い瞳で彼を追いかけ、小さく呟いた。
『…… ティア…ラ ティア … ティア♡』
開いた戸口から、管楽器の練習音が微かに聞こえていた。
・
「結局あの後、納得のいく説明…なかったのよね」
机の左端に置かれている巾着を横目で見詰めながら、佑梨は深いため息をついた。
《なんにせよ、寄託部復活は絶対阻止!》
いつになく、強い決意で自らを鼓舞する。
《もしくは、最悪…お膳立てだけして離脱!!》
でも少しだけ、弱気が顔を覗かせる。
丁度、そこへ…
「えーそれでは、1学年担任朝礼を始めます」
学年主任の号令で、朝礼が始まった。




