Sequence‐4 ~ティア♡・覚醒 ①~
「…うそ…でしょ…」
学年担任朝礼前の教員室で、固まっている女性教員がひとり…
新調したばかりのブラウスに袖を通し、ご機嫌な気分で出勤した佐久間佑梨は、恨めしそうに一枚の書類を見つめていた。
自分の机に置かれた、その書類…
ご丁寧に“大至急”の判まで押してある。
「うそ…でしょ…」
佑梨は、もう一度同じ言葉を繰り返す。
“部活動廃部保留/撤回要請・申請書”…
申請人は言うに及ばず、シルビア・キース・リエゾン教授だ。
《…やっぱり、あの時の…》
思い当たる節しかない佑梨は、自然と机の左端に視線を向ける。
その先には、藍鼠の巾着が置かれていた。
教え子の吏玖哉と玲を寄託部の“元部室”に連れて行き、不本意にもシルビアと謙に遭遇してしまった時の記憶が、鮮明に蘇る…。
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「それよりも! コレを見ろ」
言いながらシルビアが目線と顎で指し示した先には、濃色の房が付いた紐で口が閉められた藍鼠の巾着が…何故か整理棚の上に置かれていた。
「…え? 依頼品は全て処理したはずなのに…」
想定外の出来事に遭遇してパニック寸前の佑梨に、シルビアはPAD片手に鋭い眼光で詰め寄る。
「サクマリ…全て処理済で、間違いないか?」
「はい、私の知る限りは…」
その言葉を、しかと確認したシルビアは、小さく息を吐く。
PADを巾着の横に置き…
「それは、実に興味深い」
言いながら、丁寧に巾着の紐を解き始める。
「ちょっと…教授?」
心配そうに見つめる佑梨を意に介することなく、シルビアは巾着の中から美しい蒔絵が施された小さな箱を取り出した。
目の前で繰り広げられている事態を把握できていない三人を横目に、これ以上ない不敵な笑みを浮かべるシルビア。
「だとするなら…」
「…するなら?」
三人の意識が、その言動に集中する。
「コレは、宙から降って沸いたことになるな!」
「…!??」
整理棚の上に置かれた蒔絵の小箱を指さし、“核心を突いてやった!”という自負からか…ここぞとばかりに胸を張り、宣言ポーズを決める。
そんな彼女の言葉に、文字通り絶句する三人だが…
「そんな、バカな!」
我に返った佑梨が、いち早く、ごく当たり前の感想をツッコむ。
吏玖哉と玲に至っては…
全くもって門外漢で、“ちんぷんかんぷん”だ。
だが、己の持論が揺らぐ隙など微塵もないシルビアは、むしろ嬉々としている。
「3号棟で頻発する磁場の歪みを調査していたんだが…今日は殊更…数値が高いのだ」
謙も、行儀よくお座りしたまま「わふわふ」と同意しているように鳴く。
その謙の頭を撫でながら、再びPADを手に、画面の数値を凝視する。
…相変わらず、人の話を聞いちゃいない。
しかし、人の話を聞いていないのは、佑梨も同じで…
「いや、ここは現実的に考えましょう…あ、凪咲さんなら分かるかしら?」
マイセルフパニックナウ状態であっても、努めて元副顧問としての考えを優先する。
「驚くべきは、この数値異常が…歪み曲線とリンクして重なっているという点。 それからもうひとつ…サクマリたちが来てから、数値のピーク値がさらに跳ね上がったことだ」
「わふわふ」
「ロンドンに電話…ああ、でも時差があるか…とりあえずメールで…」
「近距離での歪みの干渉は何なのか…突然の数値変動に連動して、複数の外れ値が…」
「わふわふ」
「あっ、ついでにキーホルダーの件も伝えておこうかしら…」
全く嚙み合わない独り言のような会話と、わんこの合いの手を聞いていた玲が、呆れたようにため息を漏らす。
「いずれにせよ、歪みの根源はコレに間違いない」
改めて、シルビアに指差された小箱に視線を移す三人と一匹。
片手に乗る程の大きさの小箱には、見事な金蒔絵が隙間なく施されており…表蓋には“人との繋がりや絆・祝福”を表す束ね熨斗が広がっていて、その間を舞う蝶のデザインもモダンで美しい。
吏玖哉と玲は、その美しい蒔絵の小箱に魅了されていた。




