第8話 尋問
黒田雅人を生け捕りにしたイア。
彼は人身売買組織「ドミニオンズ」の幹部であり、多くの罪を重ねてきた犯罪者だった。
しかし、その罪の裏には誰も知らない過去があった。
人はなぜ悪へと堕ちるのか。
そして、その裏で糸を引く者とは誰なのか。
白い死神は、復讐の先にある真実へと近づいていく。
僕は刑務所へ向かった。
目的は一つ。
人身売買組織「ドミニオンズ」のリーダー、黒田雅人に話を聞くためだ。
鉄格子の前まで歩くと、黒田は僕を見るなり口元を歪めた。
「よう、白い死神。待っていたぞ」
「そうか」
短い返事だけを返す。
しばらく沈黙が流れた後、黒田が笑いながら言った。
「何を聞かれても俺は何も吐かないぞ」
僕はフードを脱ぎ、黄金色の瞳で黒田を見つめた。
「そんなことは関係ない。」
「どんな手を使ってでも、お前には話してもらう。」
黒田は僕の顔を見つめると、突然笑い始めた。
「ククッ……なるほど。そういうことか。」
「何がおかしい。」
「いや、お前の姿を見て納得しただけだ。」
「どういう意味だ。」
「……いや、今は言わないでおこう。」
そう言って黒田は笑みを消した。
しばらく考え込むように目を閉じる。
そしてゆっくりと口を開いた。
「いいぜ。」
「俺が知っていることを全部話してやる。」
「どういう風の吹き回しだ?」
「ただ……話したくなっただけだ。」
再び沈黙が流れる。
やがて黒田は静かに語り始めた。
「まずは俺の昔話を聞いてくれ。」
◇◇◇
「昔の俺は、ごく普通の会社員だった。」
「家もあった。」
「金にも困っていなかった。」
「愛する妻がいて、可愛い子供もいた。」
「毎日が幸せだった。」
黒田は少し笑った。
だがその笑顔は、とても寂しそうだった。
「そんな生活が突然終わった。」
「ある日、妻と子供が帰って来なかった。」
「必死に探した。」
「昼も夜も関係なく探し回った。」
「だけど見つからなかった。」
「一週間後、一通の手紙が届いた。」
そこにはこう書かれていた。
『妻と子供は預かった。
助けたければ組織に貢献しろ。
従えば解放してやる。』
「俺は信じるしかなかった。」
「だから組織へ入った。」
「妻と子供を助けるためにな。」
黒田は拳を強く握る。
「人を攫った。」
「子供を売った。」
「警察に見つからないよう偽装工作もした。」
「罪を重ねるたび、自分の子供の顔が頭から離れなかった。」
「それでも続けた。」
「家族を助けたかったからだ。」
「一年後。」
「俺は組織のリーダーにまで上り詰めた。」
「これで助けてもらえる。」
「そう思って組織へ連絡した。」
『妻と子供は元気ですか。』
返ってきた返事は短かった。
『警察に足がついた。
お前は用済みだ。
今までご苦労だった。』
そのメールには、一枚の写真が添付されていた。
そこに写っていたのは――
妻と子供の亡骸だった。
黒田は俯いた。
「信じたくなかった。」
「いや……信じられなかった。」
「愛する家族が、この世からいなくなったことを。」
「俺は泣いた。」
「子供みたいに、ずっと泣き続けた。」
◇◇◇
黒田はゆっくりと顔を上げた。
「それがお前と戦った日の出来事だ。」
「だから俺は、もうどうなってもよかった。」
僕は何も言えなかった。
返す言葉が見つからなかった。
長い沈黙が流れる。
やがて黒田が口を開く。
「昔話が長くなったな。」
「じゃあ組織について話そう。」
「俺は所詮、組織の歯車の一つだった。」
「だから詳しいことは知らない。」
「だが、一つだけ分かっていることがある。」
「組織の本当の名は――スペース— —」
その瞬間だった。
黒田の体が大きく震えた。
口から血が流れる。
「なっ……!」
黒田は苦しそうに胸を押さえ、そのまま倒れ込んだ。
「おい!」
僕は鉄格子へ駆け寄る。
しかし返事はない。
息も止まっていた。
口封じだった。
僕は拳を強く握る。
なぜ。
なぜ普通の人が利用される。
なぜ幸せだった人が絶望しなければならない。
なぜ悪だけが笑っていられる。
怒りで全身が震えていた。
◇◇◇
その頃――。
薄暗い会議室。
高級そうな黒い椅子に、一人の男が腰掛けていた。
年齢は四十代ほど。
高級スーツに身を包み、その隣には秘書と思われる女性が立っている。
女性は静かに報告した。
「黒田雅人が死亡しました。」
男は表情一つ変えず、微笑む。
「ああ、そうか。」
「よく働いてくれた。」
そして足を組み替え、静かに続けた。
「だが、警察に尻尾を掴まれた以上、あいつはもう使えない。」
男は冷たく笑う。
「必要な犠牲だった。」
その笑みは、人の命を何とも思っていない者の笑みだった。
第8話を読んでいただき、ありがとうございました。
今回は黒田雅人という人物の過去を描きました。
これまで彼は冷酷な犯罪者として登場してきましたが、その裏には最愛の家族を失い、組織に利用され続けた悲しい人生がありました。
もちろん、黒田が犯してきた罪が許されるわけではありません。
しかし、彼もまた組織に人生を狂わされた一人だったのです。
そして物語の最後では、黒田が真実を語ろうとした瞬間に命を落としました。
誰が口封じをしたのか。
ドミニオンズの本当の目的とは何なのか。
さらに、最後に姿を現した謎の男。
彼は黒田の死を「必要な犠牲」と笑いました。
イアが追い求める敵は、想像以上に巨大な存在なのかもしれません。
次章では、組織の全貌と新たな敵が少しずつ姿を現します。
白い死神の復讐は、ここからさらに加速していきます。
これからもイアたちの物語を見守っていただけると嬉しいです。




