第3話 闇と人身売買組織
神崎夫婦との出会いから数年。
イアは裏社会で「白い死神」と呼ばれる存在になっていた。
しかし、彼の心にある復讐心が消えることはない。
そんなある日、神崎恒一から新たな任務が告げられる。
標的は人身売買組織「ドミニオンズ」の幹部、黒田雅人。
その任務は、イアをさらなる闇へと導くことになる。
白い死神の新たな戦いが今、始まる。
僕は今日もお義父さんの手伝いをしていた。
今回のターゲットは強盗殺人犯だった。
夜の街を舞台に鬼ごっこが始まる。
男は路地を駆け抜ける。
逃がさない。
僕はハンドガンを構えた。
引き金を引く。
乾いた銃声が夜に響いた。
放たれた弾丸は正確に男の足を撃ち抜く。
男は悲鳴を上げて倒れ込んだ。
逃走は終わりだった。
僕はゆっくりと近づく。
白いローブを揺らしながら。
男の目には恐怖が浮かんでいた。
「し、死神……」
裏社会でそう呼ばれていることは知っていた。
だが興味はなかった。
僕は男を拘束し、神崎さんたちへ引き渡した。
これで依頼は完了だ。
裏社会に足を踏み入れるほど、この世界の闇が見えてくる。
強盗。
殺人。
誘拐。
人身売買。
賄賂。
政治家と暴力団の癒着。
正義を語る者の中にも腐った人間は存在していた。
そんな世界の中で、僕は戦っていた。
ただ一つ。
イレイナの仇を討つために。
家へ帰ると、お義母さんが出迎えてくれた。
「イア、おかえりなさい。今日も大丈夫だった?」
「うん。問題なかったよ」
そう答えると、お義母さんは少しだけ安心したように微笑んだ。
リビングへ向かうと、お義父さんが待っていた。
「お疲れ様。助かったよ」
「また何かあったら呼んで」
「その時は頼む」
短いやり取りだった。
僕は自分の部屋へ戻る。
扉が閉まった後。
リビングでは神崎夫婦の会話が続いていた。
「恒一さん……あの子、本当に大丈夫なの?」
詩織さんは心配そうに言う。
「最近のイアは危ういわ」
恒一さんは黙っていた。
「どうにかして、人を殺さないようにできないの?」
しばらく沈黙が続く。
そして恒一さんは小さく息を吐いた。
「次はもっと念入りに言っておくよ」
二人は揃ってため息をついた。
僕が背負っているものを、二人は知っている。
だからこそ心配していた。
それから一ヶ月。
僕は中学生になった。
だが生活はあまり変わらなかった。
学校へ行き。
神崎夫婦の手伝いをする。
そんな日々だった。
ある日、お義父さんに呼び出された。
いつもの依頼だと思っていた。
だが今回は違った。
恒一さんの表情はいつもより真剣だった。
机の上に一枚の写真が置かれる。
男の名前は――黒田雅人。
人身売買組織「ドミニオンズ」のリーダーだった。
多くの人間を苦しめてきた犯罪者。
そして政治家との繋がりも噂されていた。
「今回の目標はこいつの確保だ」
僕は写真を見つめる。
黒田雅人。
その顔を忘れないように。
すると恒一さんは僕の目を真っ直ぐ見た。
「イア」
その声は重かった。
「今回は絶対に殺すな」
いつも以上に強い口調だった。
「生きたまま連れて来い」
僕は黙っていた。
黒田の先にいる人間を考えていたからだ。
もしかしたら。
イレイナを殺した政治家へ繋がるかもしれない。
僕は静かに答えた。
「……わかった」
そう言いながらも。
心の奥では別の声が響いていた。
――本当に殺さずに済むのだろうか。
第三章を読んでいただき、ありがとうございました。
今回は白い死神として活動するイアの日常と、次なる任務の始まりを描きました。
神崎夫婦はイアを家族として大切に思っています。
だからこそ、彼の中にある危うさを誰よりも心配しています。
一方のイアも、神崎夫婦に感謝していないわけではありません。
それでもイレイナを失った悲しみと怒りは、今も彼の心を支配し続けています。
そして今回登場した黒田雅人。
人身売買組織ドミニオンズの幹部であり、政治家との繋がりも噂される危険人物です。
彼を生け捕りにすることができれば、イレイナを殺した政治家へ近づけるかもしれません。
しかし、その道は決して平坦ではありません。
次章では、白い死神と黒田雅人の戦いが幕を開けます。
果たしてイアは約束を守り、黒田を生きたまま連れて帰ることができるのでしょうか。
ぜひ次章も読んでいただけると嬉しいです。




