第11話 瑠璃色の夢を見た
新たな仲間・レイナを迎え、少しずつ日常を取り戻し始めたイア。
しかし、その胸に刻まれた喪失感が消えることはなかった。
その夜、イアは今まで見たことのない不思議な夢を見る。
暗闇の先に待っていたのは、もう二度と会えないはずの少女だった。
これは夢なのか、それとも――。
その夜、僕は不思議な夢を見た。
辺り一面、真っ黒な世界。
空も地面も、境界すら分からない。
どこまでも闇が続いていた。
「……ここは、どこだ?」
返事はない。
静寂だけが僕を包み込む。
立ち止まっていても何も始まらない。
そう思い、僕は歩き始めた。
どれほど歩いただろうか。
時間の感覚さえ分からない。
「何もない……。」
思わずため息をついた、その時だった。
暗闇の中に、小さな光が灯る。
僕は無我夢中で駆け出した。
「待って!」
手を伸ばす。
しかし、指先が触れる寸前で光は無数の粒となり、闇へ溶けていった。
「なんなんだよ……。」
肩を落とす。
すると、また別の場所に光が現れた。
僕は再び走る。
だが結果は同じだった。
光は消えてしまう。
「……またか。」
三度目の光が現れた。
僕は走らなかった。
ゆっくりと歩いて近付く。
そして、そっと光へ触れた。
その瞬間――。
世界が白く染まった。
眩しさに目を細めた、その時だった。
「イア。」
優しく、懐かしい声。
聞き間違えるはずがない。
僕は勢いよく振り返った。
そこにいたのは――。
腰まで伸びた灰色の髪。
澄み切った瑠璃色の瞳。
真っ白な世界の中で、誰よりも美しく輝く少女。
「……イレイナ?」
震える声で名前を呼ぶ。
次の瞬間。
イレイナは僕へ駆け寄り、そのまま抱きしめた。
温かかった。
柔らかかった。
忘れかけていた温もりだった。
「久しぶりだね、イア。」
その一言を聞いた瞬間、涙が溢れた。
「なんで……。」
「なんでもっと早く会いに来てくれなかったんだよ……。」
僕は子どものように泣いた。
イレイナは何も言わず、僕の背中を優しく撫でる。
「ごめんね。」
「ごめんね……。」
その声は、あの日と変わらなかった。
しばらく泣き続けた後、僕たちはゆっくり離れた。
「どうしてここにいるの?」
僕は尋ねる。
イレイナは困ったように笑った。
「私も分からないの。」
「気が付いたらここにいて、イアが現れた。」
「そうなんだ……。」
不思議な空間だった。
だけど今は理由なんてどうでもよかった。
また会えた。
それだけで十分だった。
「ねぇ、イア。」
「私がいなくなってから、何があったの?」
僕は静かに話し始めた。
神崎夫婦と出会ったこと。
白い死神になったこと。
黒田雅人との戦い。
スペースという組織。
そしてレイナとの出会い。
何も隠さず話した。
全てを聞き終えたイレイナは少し寂しそうに笑う。
「そう……。」
「復讐の道を選んだんだね。」
「うん。」
「でも神崎さんたちは、とても優しい人なんだね。」
「うん。」
「本当に優しいよ。」
イレイナは微笑む。
「それなら安心した。」
そして少し真剣な表情になる。
「イア。」
「復讐の道を進むのは止めない。」
僕は驚いた。
止められると思っていたから。
「……どうして?」
イレイナは優しく笑う。
「それはイアが自分で決めた道だから。」
「私は、その道を否定したくない。」
少し間を置いて続ける。
「でも、一つだけ約束して。」
「自分の命を捨てないで。」
「そして、私の復讐だけに囚われないで。」
その言葉は胸に深く刻まれた。
僕は黙って頷く。
その時だった。
白い空間の奥に、一枚の扉が現れた。
「……あれ。」
「きっと帰るための扉だよ。」
イレイナが静かに言う。
「もう行くの?」
思わず声が震える。
「また会えるよ。」
イレイナは優しく笑った。
「だから、行ってきて。」
「必ず、自分で決めた未来を歩いて。」
僕は涙を拭いた。
「うん。」
「行ってくる。」
最後にもう一度だけ笑い合う。
そして僕は扉を開けた。
光の中へ足を踏み出す。
イアの姿が消えるのを見届けると、イレイナは小さく息を吐いた。
「これでよかったんだよね。」
誰に言うでもなく呟く。
そして瑠璃色の瞳を閉じた。
「イアが頑張ってくれている。」
「なら、今度は私の番。」
彼女は静かに微笑む。
「私も準備を始めよう。」
その声だけが、白い世界に静かに響いた。
11話を読んでいただき、ありがとうございました。
今回はイアとイレイナの再会を描きました。
現実では決して叶わないはずの再会。
しかし、その短い時間はイアにとって何よりも大切なひとときになったと思います。
イレイナはイアの復讐を否定することなく、彼自身が選んだ道を尊重しました。
それでも、「自分の命を捨てないこと」「復讐だけに囚われないこと」という約束を託します。
この言葉は、これから先のイアにとって大きな支えとなるでしょう。
そして物語の最後では、イレイナが「私も準備を始めよう」と意味深な言葉を残しました。
彼女が何を準備しているのか。
その真意は、まだ明かされません。
夢だったのか、現実だったのか。
それとも、もっと別の何かだったのか。
その答えも含めて、今後少しずつ描いていく予定です。
次章からは再び現実の物語が動き出します。
イア、レイナ、そして神崎夫婦。
彼らが「スペース」という巨大な組織へどう立ち向かっていくのか、ぜひ見守っていただけると嬉しいです。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。




