第81章:隠すべき傷と謎の女
この三文芝居を最後まで演じ切るため、俺は背筋を這い上がるような激痛を必死に耐え忍ばなければならなかった。さっきの安っぽい手品を披露するのに夢中で、致命的なことを一つ忘れていたのだ。――硫黄の副作用である。
俺たちの一行は、じめじめとした薄暗い路地を進んでいた。幸いなことに、さっきヴィンたちに連行される直前、絶妙なタイミングでシャングリーの弟が現れたのだ。彼が荷車を安全な場所へ運び出し、無事に売りさばいてくれたおかげで、俺の肩の荷は一つ減っていた。
(クソッ! もうマジで限界だ……!)
手のひらの熱は、すでに刺すような激痛へと変わっていた。早く洗い流さないと、間違いなく皮膚が酷く爛れてしまう。だが今は、集団の真ん中でフラフラと弱った足取りを装い続けるしかなかった。ここで急にパニックを起こして水を探し始めでもしたら、奴らを欺く計画がすべて水の泡になってしまう。
前を歩くシャングリーが、時折横目でこちらを窺ってくる。この大柄な男は一切声を出さなかったが、その張り詰めた眉間のシワと、俺の腕へと何度も投げられる視線から、彼の頭の中がパニックで悲鳴を上げていることは痛いほど伝わってきた。
顔を上げ、彼の背中を見つめ返す。赤みを増していく俺の手の皮膚を見て、シャングリーの目には焦燥の色がますます濃くなっていた。
(『心配しなくていい、俺は大丈夫だから』)――そう耳打ちしてやりたかった。だが、このならず者たちの群れの中で? そんなリスクを冒してすべてを台無しにするくらいなら、今は口を貝のように閉ざしておく方が賢明だ。
「おいガキ、一つ聞き忘れてたことがあったぜ」
「な、何か……?」
「お前、本当に魔法使いなのか? もしそうだとしても、俺はこの世界に魔法使いなんざいるって話、一度も聞いたことがねぇぞ」
もっと命に関わるような鋭い質問が飛んでくるかと思ったが。どうやらこの凶悪ヅラの男の脳ミソは、数分前に起きた出来事を処理するだけで精一杯らしく、次に何が起こるかを先読みするキャパシティはないらしい。洗脳をさらに深めるには、完璧な隙だった。
「あ、ああ……あんたの予想通りさ! 俺は別世界からやって来た魔法使いなんだ。ここでの俺の使命は至ってシンプル……虐げられている人々を、俺の魔法の力で救うことさ」
後列の連中から、ヒソヒソとざわめく声が聞こえてきた。『別世界……?』彼らは困惑しきっている。この狭い世界しか知らない連中からすれば、俺の存在は空から降ってきたエイリアンと同義なのだろう。
正直なところ、こんな得体の知れない世界に放り出されたことには、俺にとって裏表の両面があった。
プラスの面は? 元の世界の、あの腐りきった政府の束縛から解放されたことだ。近代的な知識が欠如したこの場所なら、俺は自由気ままに何でもできる。
最大のマイナス面は、ただ一つ――慢性的な退屈だ。ゲーム機も、パソコンも、インターネットもない。知識を絞れば似たような機械を自作することはできるかもしれないが、この世界で手に入るはずもない素材を無理して探すなんて、時間の無駄でしかない。
「その『イエローファット・マジック』とかいうの以外に、何か別の魔法は見せられねぇのか?」
その唐突な要求に、胸がギュッと締め付けられる思いだった。こっちは今、手が丸焼きにされてる最中だってのに、まだショーを見せろだと? 連中に疑われる前に、このデタラメを隠し通すための言い訳を脳内でフル回転させる。
「お、俺の今の状態が見えないのか……?」
今は、この『疲労困憊』という設定だけが俺の盾だ。
「仮に回復したとしても、俺は見世物みたいに魔法を披露するつもりはないね」
「なんでだ? 魔法使いってのは、自分の力をひけらかすのが好きなんじゃねぇのか? なんでお前は逆なんだよ」
「一緒にしないでくれ! 俺はそういうタイプの魔法使いじゃないんだ」
「へえ、そういうもんか!」
ヴィンの重い足音がふいに止まり、俺たちの短い会話は途切れた。
「着いたぞ。リンガ、俺は待たされるのが嫌いだってこと、分かってるな。俺を怒らせたくないなら、とっとと行って身体の隅々まで洗い流してこい!」
「は、はいっ、ヴィン様!」
従順に走り出す赤髪の男をよそに、俺は目を血走らせて周囲を見渡した。だが、水源を見つけるどころか、視界に飛び込んできたのはギンバエが群がる湿ったゴミの山だけだった。鼻を突くような腐臭が漂ってくる。
こんなスラムの掃き溜めで、都合よく特効薬が見つかるなんて期待するのは愚かだった。現代文明で育った人間として、俺の脳ミソはもっと別のアプローチを模索しなければならない。ここで水を探すのは不可能だ。なら、別の解決策を見つけるまで。
「シャングリーさん。ちょっとの間だけ、あいつらの気を引いててくれないか。手を治すためのものを探してくる」
「ああ、分かった! ここは俺に任せておけ」
迷いのない、力強い返答だった。シャングリーなら絶対にやってくれる。村での彼の評判は伊達じゃない。巧みな交渉術と話術こそが、ウェイン様が彼を貿易担当大臣に任命した最大の理由なのだ。この男は、人の注意を逸らす方法を熟知している。
シャングリーが一歩前に進み出たかと思うと、口八丁手八丁でヴィンと部下たちの視線を釘付けにした。その隙を突き、俺は闇市場の迷宮へと一人紛れ込んだ。
ズキズキと脈打つ右手への痛みを堪えながら、古びたテントが並ぶ一角を半ば足を引きずるようにして進む。湿ったゴミの海を絶望的な気分でさまよっていたその時、俺の目はある『異物』を捉えた。刃物を売る二つの露店に挟まれるようにして、ひどくマニアックな商品を並べている怪しげな店があったのだ。
迷うことなく、俺はその露店へと駆け寄った。ビンゴだ。そこには木製の小さな札が貼られた瓶がずらりと並んでいた。
『火葬された人骨の灰』『獣の骨の灰』『希少動物の灰』『処刑された罪人の灰』……そして、何よりも重要なもの。
『有毒植物の灰』だ。
灰が持つアルカリ性の性質。これこそ、硫黄の酸を中和するために使える、最も論理的で完璧な代物だ!
「いらっしゃい、坊ちゃん……何かお探しで?」
爺さんの挨拶なんて、今の俺にはどうでもよかった。視線は後列にある木札に完全にロックオンされている。
「爺さん、この灰はいくらだ?」
俺は有毒植物の灰を指差した。
「おお、お目が高い! 一キロ一万五千だよ」
「いや、そんなにいらない。ほんの少しだけでいいんだが、いくらになる?」
俺は無事な左手を伸ばし、灰が入った中くらいの透明なビニール袋を反射的に掴み取った。
「そのサイズはただのサンプルじゃ。売り物ではないよ」
(クソッ!)こんなスラムの商人でも、商売の小賢しさは一丁前か。だが冷静に考えれば、大量に買っておくのも悪くないアイデアだ。即席の『魔法使い』として、今後もこの中和剤用の灰は必要になるはずだ。二キロ買っておくのは無難な選択だろう。
「分かった。じゃあ二キロ買うよ」
交渉は成立したが、直後にくだらない問題が立ちはだかった。
金はズボンのポケットの中だ。火傷でほぼ使い物にならない右手と、灰の袋を掴んで塞がっている左手。一体どうやってポケットを探ればいい? まさか俺が――
「手伝ってあげるわ」
右耳をかすめた甘い囁き声に、俺は一瞬息を呑んだ。
いつの間に、一人の女が俺の背中にぴたりと密着するように立っていたのだ。さらに背筋が凍ったのは、俺がポケットから金を取り出そうとして手間取っていたのを、彼女が完璧に読み取っていたことだ。
振り向く暇さえなかった。白く滑らかな両手が、俺の腰の横からスルスルと滑り込んでくる。そして一切の躊躇もなく、彼女の指先が俺のズボンのポケットの中へと侵入してきた。
そして運の悪いことに、金を抜き取るその素早い動作の中で、彼女の指はズボンの布越しに隠された俺の『最もデリケートな部分』を、意図的になぞりやがった。
「……!!」
「あなた、結構大きいじゃない。……私、こういうの好きよ」
女は再び、俺の耳元で蠱惑的に囁いた。




