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現代知識で異世界村を救う  作者: バクリ
クライオパイライト・マイセリウムの厄災

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第65話:氷黄鉄鉱の菌糸(クライオ・パイライト・ミセリウム)

一行の足は、小麦畑の端でついに止まった。


眼前に広がる光景を視界に収めた瞬間、タカヒロは思わず息を呑んだ。

そこに広がっていたのは、常軌を逸したおぞましい惨状だった。


畑の小麦はすべて、灰色の半透明な膜に覆われたまま直立し、完全に硬直して死に絶えている。

葉の隅々までをびっしりと包み込むその質感は、まるで薄いガラスや水晶のようだ。

風が吹き抜けても、本来なら聞こえるはずの心地よい葉音はない。代わりに響いてくるのは、硬質化した葉がこすれ合う、ぞっとするような乾いた甲高い音だけだった。


「クライオ・パイライト・ミセリウム……」


タカヒロの口からこぼれた聞き慣れない単語に、周囲の者たちは一様に困惑の表情を浮かべる。


「なっ……なんだそりゃ?」


沈黙を破ったのはブレイブだった。その眉間には、深い皺が刻まれている。


「長い乾季の間に、誰かが意図的に粉末を地面に撒いたんだ」


「ま、待て待て! い、言ってる意味が全然わかんねえぞ!?」


(……騒がしいおっさんだ。それより、この土の異常さはなんだ?)


タカヒロは、パニックに陥るブレイブを完全に無視した。

虚ろな目で真っ直ぐ前を見据えたまま、異常な状態の土壌を直接調べるため、ずかずかと畑の中へ足を踏み入れる。


「ブレイブさん。お前以外に……この土を踏んだ奴はいるか?」


カァァンッ!


唐突に、タカヒロは拾い上げた石を地面に向かって投げつけた。

薄いシリカセメントのように硬化した土の表面に石が激突し、甲高い音が張り詰めた空気を切り裂く。

まるでガラスを叩いたかのような反響音に、後ろにいた者たちは信じられないものを見るような目を向け、息を呑んだ。


「お、覚えてねえよ……」


ブレイブは戸惑いながら答えた。眼前の青年が行った狂気の証明を前に、驚愕とショックで頭の中はぐちゃぐちゃだった。


「俺が畑に着いた時にはもう、風に吹かれて全部カッチカチになってたんだ」


その張り詰めた緊張の只中、村の方から慌ただしい足音が連なって聞こえてきた。

大勢の村人たちが、ぞろぞろとこちらへ向かって押し寄せてくる。その中の一人が、大声でブレイブの名前を呼んだ。


ブレイブだけでなく、その場にいた全員が弾かれたように声のする方へ振り向く。

集団が近づくや否や、先頭にいた男が隠しきれない焦燥感を滲ませてまくし立てた。


「どうだ!? 何か解決策は見つかったのか!?」


ブレイブが口を開きかけたその瞬間。


「解決策? はっ! この問題がそんな簡単に解決すると思ってんのか、爺さん?」


スッと立ち上がったタカヒロが、言葉を遮るように言い放った。

悪びれる様子もなく飛び出したその傲慢な物言いは、即座に反発を招く。

新しくやってきた老人の後ろから、白髪交じりの男が一歩前へ進み出た。その目は、許しがたい侮辱を受けたと言わんばかりに怒りに血走っている。


「てめえ……! よくもそんな口を……っ!」


だが、男の首筋に青筋が浮かび、あわや乱闘かという寸前で、前にいた老人がスッと手を上げ、護衛の動きを制した。


「やめろ、ゲビス。儂は別に構わん」


その言葉は、到底ゲビスのプライドが許容できるものではなかった。

彼は湧き上がる怒りを無理やり飲み込み、下唇を強く噛み締める。


「……チッ!」


やり場のない苛立ちを顔に張り付かせ、ゲビスは舌打ちをした。


同時に、タカヒロの隣にいたヴィオラがサッと距離を詰める。

彼女は真っ青な顔で、青年の腕をツンツンと小突いた。


「タカヒロ、早く謝って……! あの方はこの村の長なんだから!」


ヴィオラが慌てて耳打ちする。


しかし、村長はヴィオラの警告など聞こえていないかのように、宙に浮いたままだったタカヒロの言葉に焦点を合わせた。


「ほう。お前さんが、この村で賢いと噂されている余所者か?」


怯むどころか、タカヒロの態度はますますふてぶてしくなる。

彼は小指で耳をほじりながら、微塵の罪悪感も見せずに気の抜けた声で返した。


「あぁ!? 何言ってんだ、爺さん?」


「タカヒロ! ちょっと、礼儀ってものが……っ」


ヴィオラが再び、今度はさらに切迫した声で囁く。

その後方では、相手を完全に見下したタカヒロの態度に、ゲビスの怒りが再び爆発していた。その目は短剣のように鋭く細められている。


「貴様ッ! 次ウェイン様にその舐めた口を利いてみろ、この俺が確実に殺してやる!」


「やめろと言っておるだろう、ゲビス!」


ウェインの鋭い一喝が、部下の怒りを強制的に黙らせた。


「は、はい……ウェイン様。御前で汚い言葉を使い、申し訳ありません」


ゲビスはすぐに肩を落とし、大人しく後ろへ引き下がった。


この新しく身についたおふざけ態度はもう十分だと判断したのか、タカヒロはようやく手を下ろした。

彼は静かな足取りでウェインに近づくと、前置きなしに手のひらを突き出し、先ほど拾い上げた奇妙な土の破片を見せつける。


「見ろよ、この美しい……いや、おぞましい土を」


ウェインの視線がその物体に釘付けになる。そして、反射的にタカヒロの手から灰色の塊を受け取った。


「これは一筋縄でいく問題じゃない」


タカヒロが続ける。その声のトーンは劇的に下がり、真剣そのものだった。


「俺自身、どう対処すべきかまだわかってない。だが確かなのは、この胞子の粉を撒いた奴は、ただ者じゃないってことだ」


「つまり、お前さんより賢い奴がいると?」


ウェインが探りを入れるように問う。


「『イエス』とも言えるし、『ノー』とも言えるな」


「どういう意味だ?」


「俺は元の世界にいる科学者たちみたいに頭が切れるわけじゃない。だが、この一件を解決できないほど馬鹿でもないってことさ」


青年の遠回しな豪語を気にする様子もなく、ウェインは踵を返して村人たちの方を向いた。そして、手の中にあるブレイブの畑の土を皆に掲げて見せる。

村人たちの目は、村長の手のひらにある物体に釘付けになった。

本来なら柔らかく、ふかふかしているはずの土が、今は常識からかけ離れたおぞましい質感を見せつけていた。


「かっ、硬えっ!」


「い、石みたいじゃないか……」


「あぁ……本当だ!」


怯えたようなざわめきが村人たちの間に伝染していく中、ウェインの背後でタカヒロは再び元の場所にしゃがみ込んだ。

灰色の結晶に覆われた小麦の茎に手を伸ばす彼の表情は、険しい。


躊躇うことなく、その脆い茎をへし折る。

植物の繊維がちぎれるような音は、一切しなかった。

代わりに響いたのは『キィンッ!』という、まるで薄いガラスの棒を無理やりへし折った時のような澄んだ音色だった。


タカヒロはゆっくりと立ち上がった。

その両目には、野心という名のギラギラとした光が宿っている。死地を楽しむかのような不敵な表情で、群衆の真っ只中を真っ直ぐに見据えた。


「この問題をさっさと終わらせたいなら、俺の調査に協力しろ!」


青年の力強い声が響き渡り、小麦畑を吹き抜ける風を切り裂く。

無数の視線が一斉に彼へと向けられた。

数秒間、周囲に沈黙が這い寄り、無言のまま腹の探り合いが行われる。


絶望の淵にあって、タカヒロの放つ圧倒的な覇気と揺るぎない自信に魅了されたのか。

ゆっくりと、だが確実に。そこにいた者たちは次々と頷き始め、残された最後の希望を、この見知らぬ青年に託すのだった。

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