第64章:村からの呼び声
その朝、ヴィオラは家でウチと二人でのんびり過ごすどころではなかった。彼女の体力は、村中の道を隅々まで歩き回ることで容赦なく削られていた。足を休めることなく急ぎ足で歩き回り、通りすがる村人を手当たり次第に捕まえては、たった一つの手掛かりを求めて同じ質問を繰り返していたのだ。――タカヒロと姉さんが、どこへ行ったか知らないか、と。
だが、結果は完全にゼロだった。昨夜の二人の姿は、まるで闇に飲み込まれたかのように跡形もなく消え失せていた。村人の誰も、二人がどの方向へ向かったのかすら見ていなかった。焦燥感がじわじわとヴィオラの胸を侵食し始める。
彼女の捜索は、ただ村を一周しただけでは済まなかった。ケイトの家を訪ね、叔父の拠点の扉を力任せに叩きさえしたが、何の成果も得られなかった。タカヒロとクトリの影すら見つけられない。
「クトリ姉さん……どこにいるのよ……」
フラフラとした足取りで歩きながら、ヴィオラは小さく呟いた。肉体はすでに限界を迎えつつあった。
ついに足の筋肉が悲鳴を上げ、彼女は降参した。これ以上どこを探しても無駄だと悟り、村の道端にある長椅子にドスリと腰を落とした。
重くのしかかる疲労感に背中を預け、雲一つない朝日を虚ろな目で見上げる。荒い呼吸を整えながら一人孤独を噛み締めていると、不意に近づいてくる足音が彼女の思考を中断させた。三つ年上の女性が、唐突に彼女の前に姿を現したのだ。
「やっと見つけたわ、ヴィオラちゃん」
「んー?」
空から視線を下ろすまでもなく、ヴィオラはその声の主が誰なのか完全に把握していた。
「どうしたんだ、メイさん?」
メイは両肩に垂れた明るい茶色の長い髪を、柔らかい仕草でファサリと払った。そしてヴィオラの隣に腰を下ろし、静かに口を開く。
「あなたにとって、すごく重要な情報を持ってきたの。もし聞きたいなら教えてあげるけど。そうじゃないなら――」
「前置きはいいから、さっさと用件を言え」
ヴィオラは素早く話を遮った。酷く面倒くさそうな声色で答え、世間話などする気は毛頭ないことを態度で示す。
「クトリがどこにいるか、知ってるわ」
その短い一言が、ヴィオラの意識を強烈に平手打ちした。彼女は即座に姿勢を正し、背筋をピンと伸ばす。もう空を眺めている余裕などなかった。
「どこだ?」
「村の裏山にある小屋よ」
メイが口にしたその場所は、ヴィオラの脳内に次々と記憶の断片を呼び起こした。長年放置され、完全に朽ち果てていたあのボロボロの廃屋。野草が部屋の奥まで侵食し、とても人間の住めるような環境ではない場所だ。だが同時にそこは、かつてタカヒロが怪我をした時に、傷を治すのに非常に役立つ薬草を見つけた場所でもあった。
一刻の猶予もないことを悟り、ヴィオラは立ち上がった。太陽が高く昇り、ジリジリと頭頂部を焼き始める前に、すぐさまそこへ向かわなければならない。
「メイさん……情報感謝する!」
返事を待つこともなく、ヴィオラは凄まじい勢いで走り出した。背後で見送るメイの視界から完全に姿を消すまで、彼女は全力で駆け抜けていった。
* * *
「ふぅーっ! やっと終わったぁ」
クトリは手の甲で額にびっしりと浮いた汗を拭った。タカヒロと共に、小屋の中に蔓延っていた野草の根をすべて引き抜く作業をちょうど終えたところだった。
この朝の労働は、想像以上に体力を奪うものだった。特にタカヒロにとっては死活問題だ。元の世界で生きていた頃、こんな肉体労働など一度たりともしたことがなかったのだ。慣れない手つきで無理やり雑草を引き抜き続けた代償として、彼の両手のひらは真っ赤に腫れ上がり、ヒリヒリとした痛みを放っていた。
凄まじい疲労感が、すでに関節の髄まで粉々に打ち砕いていた。床に泥汚れが残っていることなどお構いなしに、タカヒロは背中から床に倒れ込み、大の字になって屍のように横たわった。
そのすべてを投げ出したような恋人の姿を見て、クトリは思わずクスリと笑みをこぼした。彼のあまりにも無防備な行動がおかしくてたまらなかったのだ。
「疲れたなら、少し休んでていいわよ。私は後ろの方も片付けてくるから」
「ああ……」
タカヒロは掠れた声で返し、荒い呼吸で必死に酸素を肺に送り込んでいた。
その短い返事に、もはやそれ以上口を挟む必要はなかった。クトリはすぐに踵を返し、小屋の奥へと向かう。そこを台所代わりにして、一般的な家庭らしい生活空間を作り上げるつもりだった。
だが、クトリが数歩離れたその瞬間、突如として騒々しい物音が響き渡った。開け放たれたままの入り口から、何者かが激しく息を切らして駆け込んできたのだ。
「クトリ姉さん! タカヒロ!」
その甲高い声には、あまりにも聞き覚えがあった。クトリは完全に振り返ることはせず、肩越しに後ろを睨みつける。床に転がっていたタカヒロも、かろうじて少しだけ首を持ち上げた。
現れた招かれざる客はヴィオラだった。まるで腹を空かせた狼の群れに追われてきたかのように、胸を激しく上下させている。
「何の用でここに来たの?」
クトリは冷たく棘のある声で尋ねた。昨夜、妹から怒鳴りつけられた時の怒りと心の傷が、まだ彼女の胸の奥でドロドロと渦巻いていた。
一方、ヴィオラの目は素早く小屋の中を見回していた。以前とは見違えるほど綺麗に片付けられた室内に、彼女は一瞬だけ呆気にとられた。鬱蒼と茂っていた野草は跡形もなく消え去り、床には乱雑な泥の跡が残っているだけだった。
だが、彼女はすぐに頭を激しく振り、そんな感心を思考から遠ざけた。入り口から足早に踏み込み、そのまま床にへたり込むように正座する。――大の字で寝転がるタカヒロの足元、そのギリギリの位置に。
そして、残された僅かな息を振り絞るようにして、彼女は懇願した。
「アタシじゃ……ない。村の連中全員が、アンタの助けを必要としてるんだよ、タカヒロ!」
ヴィオラの話の意図が全く読めず、タカヒロは悲鳴を上げる体を無理やり起こして胡座をかいた。一体何が起きているのかを聞き出すために。
「ヴィオラ、お前……何の話をしてるんだ?」
ヴィオラは口を開いたが、舌が急に強張ったように動かなかった。現在の状況をどう説明すればいいのか、言葉を紡ぐのにひどく苦戦しているようだった。
「深呼吸しろ。焦らなくていい。そうすれば、お前が言いたいこともちゃんと伝わる」
緊迫した空気が流れる中、自分は全く必要とされていないと判断したクトリは、関わることを放棄した。妹の言葉を待つ気などさらさらないとばかりに、彼女は再び奥へと歩き出す。
タカヒロはヴィオラを真っ直ぐに見据えた。
「どうだ、落ち着いたか?」
恨み言一つない、あまりにも穏やかなタカヒロの態度と口調が、逆にヴィオラの心臓を激しく締め付けた。昨夜、目の前にいるこの青年を口汚く罵り、家から追い出した記憶が脳裏に蘇り、彼女の良心を容赦なく殴りつける。
「ああ……落ち着いた」
「よし! なら手短に教えろ。ここに来た目的は何だ?」
ヴィオラは深く息を吸い込み、ついに口を開いた。
「村で、また新しい問題が起きたんだ」
「新しい問題?」
「そうだ! 今朝、ブレイブのおっさんがアンタを捜しに家に飛び込んできたんだよ」
タカヒロは眉をひそめた。よそ者である彼にとって、『ブレイブ』という名前は全く馴染みのないものだった。この世界に来てから、ただの村人の名前など一人として覚えた記憶がない。
「なんでその人が俺を捜してるんだ? 俺の知り合いか?」
「アタシも詳しくは知らねぇが、フライヤーのおっさんからアンタの名前を聞いたらしい」
「フライヤー?」
「ああ! とにかく、シャレにならない事態が起きてるからアンタを捜してるんだ。だからアタシが、ここまでアンタを迎えに来たってわけだ」
タカヒロは黙り込んだ。真っ赤に腫れた自分の手のひらをチラリと見つめ、それから小屋の奥へと視線を巡らせる。
「悪いが……今は行けそうにない。俺はクトリと一緒にこの小屋の掃除をしなきゃならないんだ」
ヴィオラがその断りの言葉に反論するよりも早く、奥の部屋から横槍が入った。密かに二人の会話を聞いていたクトリが、間髪入れずに声を張り上げたのだ。
「私は一人でも平気よ! 行きたいなら、さっさと行ってきなさいよ!」
姉からの完全なる『ゴーサイン』を聞いた瞬間、ヴィオラは一秒たりとも無駄にしなかった。タカヒロの同意を待つことなく立ち上がり、彼の手首をガシリと掴んで、強引に引っ張り上げたのだ。
後ろを振り返っていた青年は、何がなんだか分からないまま、呆然とした顔でズルズルと引きずられていく。
二人が小屋の入り口を抜けようとしたその数秒の間に、再びクトリの声が彼らの背中を追いかけてきた。
「道中、気をつけるのよー!」




