第62章:暗黒の空の下、愛の告白
ヴィオラの視線は前方で完全に釘付けになり、部屋の入り口で全身が石のように硬直していた。見間違いであるはずがない。部屋から一歩足を踏み出したその瞬間、目の前に広がっていた信じがたい光景が彼女の意識を激しく殴りつけ、理性を粉々に砕き散らしたのだ。
タカヒロとクトリの動きもまた、氷漬けにされたようにピタリと止まった。ヴィオラの突き刺さるような視線に気づき、完全に現場を押さえられたと悟った瞬間、部屋の空気は絶望的な諦めとともに凍りついた。
一言の言葉も交わすことなく、二人は強烈なパニックでガタガタと震える手を必死に動かし、床に散乱した衣服を手当たり次第に掻き集め、互いの裸体を隠そうと無我夢中で身をよじった。
タカヒロの胸がズキズキと痛みを放つ。この家においてただの居候であるという自分の立場が、この破廉恥な行為によって、とてつもなく巨大な罪悪感の塊へと変貌したのだ。今すぐ土下座して謝罪の言葉を吐き出したかったが、舌は麻痺したように強張り、まるで口を外側からも内側からも厳重に施錠されてしまったかのようにピクリとも動かなかった。
「タカヒロ……てめぇ!!」
ヴィオラのこめかみに、ギリッと青筋が浮かび上がる。喉の奥で押し殺していた重く低い声が、ついに爆発音となって家中に響き渡り、言葉を失って凍りついているタカヒロの背中に容赦なく突き刺さった。
妹がすでに制御不能な怒りの渦に呑み込まれていることを悟ったクトリは、荒れ狂う呼吸を必死に整えようとした。乱れた衣服をどうにか掻き合わせながら、震える声で弁解を試みる。
「ヴィ、ヴィオラ……ち、違うの、誤解よ! こ、これはタカヒロくんだけのせいじゃなくて……っ。怒るなら、私を怒って!」
姉の言葉が終わるや否や、ヴィオラは首を鋭く巡らせた。その両目は冷酷に研ぎ澄まされ、深く傷ついたような刃の視線をクトリへと突きつける。
「てめぇも同じくらい最低だろうが!」
その痛烈な罵声を浴び、クトリは頭を深く垂れて肩を落とした。
「そ、そうよね……ヴィオラの気持ちは分かるわ。でも、お願い……タカヒロくんをこの事に巻き込まないで」
しかし、その言葉がヴィオラの残された最後の理性の糸を焼き切った。完全に頭に血が上った彼女は、もはや周囲の状況など一切気にすることなく、荒々しい足取りで距離を詰める。そして次の瞬間、粗暴に手を伸ばし、クトリの胸元の服を布地が引きちぎれんばかりの力で乱暴に掴み上げた。
「もう二度と、てめぇの顔なんか見たくねぇんだよ! さっさと荷物まとめて、そのクソ野郎と一緒にこの家から出て行け!!」
妹の爆発する怒号を至近距離で浴びせられ、クトリは一切の抵抗すらできなかった。一方、タカヒロは視界の端でその光景を見つめながら、ただ力なく彼女の名前を掠れた声で呟くことしかできなかった。
その激しい怒号と騒ぎは、ついに奥の寝室にまで届いた。目を覚ましたクリリーが、ふらつく足取りで居間の惨状を確認しに姿を現したのだ。まだ半分眠りに落ちているようなぼんやりとした意識のまま、彼女は困惑した表情でその場にいる全員に向けて問いかけた。
「こんな夜更けに……一体何の騒ぎなの?」
母のその声に、ヴィオラの意識が瞬時に切り替わった。彼女は鋭く首を回す。クトリやタカヒロが口を挟む隙など一ミリも与えず、ヴィオラは容赦のない事実を叩きつけるように吐き捨てた。
「このクソ野郎とクトリ姉さんが、ここでヤッてるのを見たんだよ」
「あら、そんなこと……まあいいじゃない、どうせ……って、え? ちょっと待って!」
言葉が宙に浮いた。先ほどまで半分夢の中にいた彼女の脳髄が、強制的に限界まで覚醒させられる。ヴィオラの放った言葉の真意を理解した瞬間、クリリーの心臓は破裂しそうなほど激しく打ち鳴らされた。
「わ、私……今、聞き間違いじゃないわよね?」
「違ぇよ! 母さんは一文字も聞き間違えちゃいない。アタシが言ったのは全部事実だ。こいつらがここで交尾してる現場を、この両目でバッチリ見たんだからな!」
クリリーの顔から、一瞬にしてすべての血の気が引いた。その視線がゆっくりと動き、目の前で石のように硬直している二人の姿を交互に捉える。
「クトリ……タカヒロくん……それ、本当なの……?」
問い詰められた二人は、ただただ絶望的な沈黙を貫くしかなかった。舌は麻痺して動かない。どうにか絞り出した反応は、小さく一度だけ頷くという行為のみだった。だがその微かな動きこそが、ヴィオラの言葉が一片の嘘偽りもない真実であると証明する絶対的な宣告だった。
その残酷すぎる無言の肯定は、クリリーにとってあまりにも黒く重い絶望の証となった。彼女はふらりと一歩後ずさる。唇は小刻みに震え、もはや一つの言葉すら紡ぎ出すことができない。周囲の世界が唐突に静止し、ただ精神を締め付けるような息苦しい静寂だけがそこに取り残されたようだった。
クトリは涙でぐしゃぐしゃになった瞳で、勇気を振り絞って母親を見つめた。
「お、お母さん……っ」
「もういい! あんたからの言い訳なんて、一言も聞きたくない!」
その刃のような拒絶の言葉が、クトリの心の最も深い部分を容赦なくえぐり取った。母親の瞳から放たれる底なしの失望が、許容の扉を完全に閉ざしてしまったのだ。今夜犯した取り返しのつかない致命的な過ちは、いかなる弁明も許されず、ただ黙って受け入れるしかなかった。
凍てつくような静寂の中、タカヒロは痛感していた。自分の存在が、このヨト家に破滅しかもたらさないという事実を。これ以上、誰かから追い出される言葉を待つ必要はない。頭の中で行き着いた結論に従い、彼はすべてを諦めた。タカヒロはゆっくりと立ち上がると、無言で踵を返し、玄関の扉へ向かって真っ直ぐに歩き出した。
「タカヒロくん、どこへ行くの!?」
クトリの悲痛な叫びだった。彼女の瞳はパニックに揺れ、扉へとどんどん近づいていくタカヒロの背中を必死に追っている。
だが残酷なことに、タカヒロは口を固く閉ざしたままだった。彼の思考はすでに完全にショートし、ただ感情の抜け落ちたうつろな瞳で、目の前の古びた床板を見つめることしかできなかった。
「タカヒロくん、待って……っ!」
クトリは彼を追いかけようと駆け出したが、数歩進んだところでふと足を止めた。そして鋭く振り返り、クリリーの顔を真っ直ぐに射抜くように見つめ返した。
「お母さんが、もうこの家でタカヒロ君を受け入れてくれないなら……私も彼と一緒にこの家を出て行く!」
「クトリ、待ちなさい!!」
◇◇◇
外へ出ると、夜風が肌を刺すような冷気を運んできた。周囲の集落は漆黒の闇に沈み、村人たちは皆すでに目を閉じ、それぞれの夢の中に落ちている。だが、その平和な静寂は、この二人には微塵も適用されなかった。
タカヒロは前を歩き、重く引きずるような足取りで夜の村道を進んでいた。頭の中は混沌そのもので、ヨト家で引き起こしてしまった大惨事の重圧が、今も彼の精神を激しく押し潰している。この見知らぬ異世界において、彼にはもう、目を閉じて安らかに眠れる場所も、頼れる家族も存在しなかった。
だが、彼が犯したすべての過ちの背後で、ただ一人、濃密な夜の静寂の中で彼の足跡を忠実に追いかけてくる影があった。
明確な目的地などない。タカヒロはただ、空っぽの思考が導くままに、あてもなく直進し続けた。背後からクトリが震える声で何度も彼の名前を呼んでいたが、タカヒロはピクリとも反応しない。まるで、すべての音を遮断してしまったかのように、ただ機械的に足を前に出し続けていた。
何度呼んでも無視され続け、ついにクトリの忍耐の糸がプツリと切れた。彼女は無言のまま駆け寄り、タカヒロの右腕を全力で引っぱり込んだ。その強烈な反動によって、青年の足はようやく強制的に止められた。
誰もいない静まり返った道のど真ん中で二人の動きが止まった、その数秒後。タカヒロは乱暴な動作で、自分を掴むクトリの手を容赦なく振り払った。
「ついて来んな」彼は吐き捨てるように言った。「家に帰れ。俺に構うな」
「嫌よ! あなたが一緒に来てくれないなら、私は絶対に戻らない!」
再び無理やり足を踏み出しながら、タカヒロはあまりにも頑固すぎるクトリの言葉に反論した。
「俺は……あんたの家族でもなんでもない赤の他人だ。だから、もう心配するのはやめてくれ」
「確かに、あなたは私の家族じゃない。でも、これだけは分かって……。私は、あなたのことが好きなの。あなたに恋をしているのよ、タカヒロくんっ!!」
ドクンッ!!
まるで夜空から突然、巨大な爆弾が降ってきて直撃したかのように。クトリの口から唐突に飛び出したその愛の告白は、タカヒロの全身の機能を完全に停止させた。両目が限界まで見開かれ、目の前の暗闇をただ呆然と見つめる。
「あなたを愛していなかったら、どうして私があんなことまでしたと思うの……っ?」
その瞬間、少女の心の防壁が音を立てて崩れ落ちた。大粒の涙がとめどなく溢れ出し、赤く染まった両頬を濡らしていく。クトリは手の甲で何度も何度も涙を拭い去ろうとしたが、決壊した涙の泉は二度と止まることはなかった。
タカヒロがこれまで知っていた彼女は、いつでも強くて明るく、どんな困難も乗り越えていく逞しい女性だった。だが今夜、この暗黒の夜空の下で、彼女はついに、自分の一番奥底にある決定的な脆さを彼に曝け出したのだ。
その痛々しい姿を、タカヒロはこれ以上見ていられなかった。足が反射的に動き、むせび泣きながら立ち尽くすクトリの方へと振り返って歩き出す。そして彼女の目の前まで来ると、クトリが気づくよりも早く、タカヒロはその小さな体を力強く抱き寄せた。彼女の胸の中で吹き荒れる嵐を少しでも鎮めるように、温かい腕で包み込んだ。
(……元の世界にいた頃から、俺は色恋沙汰になるといつも不器用だった。今こうして、一人の女の子が目の前に立って、これほど真っ直ぐに想いを伝えてくれているというのに……俺は一体何が起きているのか、まともに理解することすらできていなかった)
(どうやら、友達の言っていた通りだったらしいな。俺は、現実と向き合うよりも、部屋のドアの裏に隠れている方がお似合いの惨めな負け犬だ。こんなんじゃ、本気で俺を好きになってくれる女なんて、今まで一人もいなかったわけだ)
タカヒロはさらに腕の力を込め、彼女をきつく抱きしめた。己の情けなさへの深い後悔を、この夜の静寂だけが黙って見届けていた。
「ごめんな……。全部俺のせいだ。俺のせいで、お前をこんなに泣かせちまって」
それまで声を殺して泣いていたクトリだったが、タカヒロに抱きしめられ、その不器用な謝罪の言葉を聞いた瞬間、山のように積み重なっていた胸のつかえが限界を突破した。ついに彼女の唇から、堪えきれない嗚咽が堰を切ったように溢れ出し、ヴェリア村の静寂を引き裂くほどの激しい号泣となって夜空に響き渡った。
「タカヒロくんの……バカぁっ!!」




