第53章:形勢逆転への布石
「教えて。あなたが企んでる、その悪辣な計画って何なの?」
タカヒロはすぐには答えなかった。再び苗代の前にしゃがみ込み、怪しい痕跡が残る一点に人差し指を向ける。
「この足跡をよく見てみろ。よく見れば、奴らがどこから種を荒らし始めたのかが分かる。十中八九……犯人はあっちの方角から来てる」
タカヒロの指先が動き、森の奥へと続く獣道を指し示した。
「俺はここに、二種類の罠を仕掛けるつもりだ」彼は立ち上がりながら言葉を続けた。「一つ目は、この苗代の周りに穴を掘る。そして二つ目は……お前たちに、木の樹液を使った罠を作ってもらいたい」
「その罠で、本当に犯人を捕まえられるの?」
「犯人を捕まえるのは、俺じゃない。お前たちだ」
その言葉に、クトリは訝しげに眉をひそめた。タカヒロの計画がそう単純なものではないこと、そして自分たちが動けば大きなリスクが伴うであろうことに気づいたからだ。
しかし、クトリが反論するよりも早く、ウチがタカヒロに歩み寄った。その小さな手には、いつの間にか一本の鍬がしっかりと握られている。
「あ、あのね……キングくん」ウチは珍しく緊張した様子で口を開いた。「こ、これ……穴を掘るのに使うかなって、持ってきちゃった」
消え入りそうな震える声だったが、タカヒロの耳にはしっかりと届いていた。彼は自然な動作で、ウチの手からその鍬を受け取った。
「あぁ……サンキュー!」
二人の短いやり取りに毒気を抜かれそうになりながらも、クトリは思考を立て直し、先ほどの疑問を再び口にした。
「どうして私たちが捕まえなきゃいけないの?」
「理由をいちいち説明してる暇はねぇ」タカヒロは低く重い声で遮った。「いいから、お前らはさっさと家に戻って、樹液を準備してくれ」
クトリは迷いの中で口を閉ざした。すでに疲労の色が見え始めているタカヒロを置いて、彼を一人で穴掘りに残すべきか? それとも、あの臆病なウチを一人で帰らせ、家族にこの計画を伝えさせるべきか?
葛藤する彼女の耳に、再びタカヒロの声が届く。
「俺のことは心配するな」先ほどよりずっとリラックスした口調だった。彼はこめかみに滲んだ汗を拭い、視線の端でクトリを捉える。「俺なら絶対に大丈夫だ」
タカヒロの口から紡がれた絶対的な響きを持つその言葉が、クトリの心に残っていた迷いを完全に拭い去った。彼女の腹は決まった。
「分かったわ。この計画、あなたに預けるわね、タカヒロくん」クトリは力強く頷いた。
タカヒロの返事を待つことなく、彼女は踵を返し、乾いた土を踏みしめて歩き出した。
二人の少女の背中が遠ざかり、やがて視界から完全に消えると、タカヒロは服のポケットに手を突っ込んだ。一週間前に調合しておいた白い粉を取り出し、それを苗代の上にパラパラと撒き散らす。
「こっちの方が、よく効いてくれるといいんだがな」
◇◇◇
家の前に辿り着くと、クトリは徐々に歩みを緩めた。そのまま足を止め、自分たち家族の置かれた過酷な運命に思いを馳せる。数週間前にケイトから浴びせられた棘のある言葉が、突如として頭の中でフラッシュバックし、消えることのない鈍い痛みを残していった。
その言葉は亡霊のように彼女を苛み続け、己の無力さに対する強い罪悪感を呼び起こす。妹のヴィオラでさえ、こんなにも重い荷物を背負って必死に生きているというのに。
後ろでは、ウチが黙ってクトリの背中を見つめ、やがて玄関の敷居を跨いで家の中へと入っていった。
「みんなに、キングくんからの伝言があるの」ウチは妙に堂々とした、自信ありげな態度で告げた。
竹の長椅子の上では、クリリーが古びた薬草学の本を整理していた。小さな少女の唐突な宣言を聞き、彼女はピタリと手を止めて瞬きを繰り返す。
「畑に向かったばかりなのに、随分と早かったのね? それに……今、タカヒロくんから私たちに伝言があるって言った? それってどういうこと?」
「しまった、口が滑っちゃった!」ウチは無邪気に呟き、慌てて両手で口を塞いだ。
物思いから引き戻されたクトリは、ウチに歩み寄った。しかし、肩を並べるよりも早く、彼女の手刀が空を切り、小さな主の頭頂部にポンッと軽く振り下ろされた。
ポカッ!
ウチは手刀を食らった頭を撫でながら、涙目で小さく呻いた。
「バカ」クトリは呆れたように舌打ちをした。「そもそも、そのために家に戻ってきたんでしょ」
「何かあったの? 私に何か隠し事でもしてる?」
タカヒロの計画から外れるわけにはいかない。クトリはまだ痛がっている小さな主を無視し、母親へと視線を合わせて説明を始めた。
「数週間前に植えた稲の種が、また荒らされていたの」
「荒らされた!?」クリリーはパニックになり、勢いよく立ち上がって長女の元へと駆け寄った。
「ええ。でも、説明する前に一つだけ約束して。私が話し終わるまで、黙って聞いてほしいの」
(トンッ)
「分かったわ。あなたの言う通りにする」
時間を無駄にすることなく、クトリはすぐにタカヒロからの伝言を母親に伝えた。
「タカヒロくんが、お母さんに木の樹液を用意してほしいって言ってるの。苗代を荒らした犯人を暴くために、罠を作りたいそうよ」
『木の樹液』。そのフレーズは、クリリーの耳に非常に馴染みのあるものだった。クトリの説明を聞いて、彼女はすぐにどの木を指しているのかを悟った。
「アルトカルプス・ヘテロフィルス(ジャックフルーツ)ね……」彼女は小声で呟いた。「あの樹液は強力だから、犯人を逃がさないための罠にはうってつけだわ」
「へえ、それが罠の材料になる木の名前なのね?」
「そうよ。偶然にも、その木なら家の裏に植えてあるわ。わざわざ探しに行く手間は省けるわね」
「なら、何を迷う必要があるの? 今すぐその樹液の準備に取り掛からなくちゃ!」
クリリーから迷いは完全に消え去っていた。長女の言葉に小さく頷き、同意を示す。彼女はすぐさま、樹液を受け止めるための小鉢とナイフを用意した。
クトリは先陣を切って裏口へと向かい、ドアノブをゆっくりと押し下げた。
扉が開くと同時に、裏庭の朝の空気が親しげに彼女を出迎えた。一面に広がる薬草の畑と、かつて彼女が泥まみれになって遊んだ水たまりが、真っ先に視界に飛び込んでくる。その後ろでは、ウチとクリリーが、罠の核心となる材料を採取すべく、すでに準備を整えていた。




