第51章:希望を奪い去る朝
朝はいつものように忍び寄る。屋根の端から落ちる朝露と、ヨトの小屋を囲む薄い霧を伴って。
湿った空気が肌を刺し、普段よりもずっと冷たく感じられた。
しかし、その凍てつくような空気とは裏腹に、この家の住人たちの胸のつかえは、昨日よりはずっと軽くなっていた。
バフリルの襲撃事件が終わったあの夜から、肩にのしかかっていた見えない重圧が少しだけ取り除かれ、安堵の息を漏らす余裕が生まれていた。未だ完済していない借金の影が、頭の片隅にこびりついているとはいえ。
居間では、タカヒロが数日前に完成したばかりのカポックのベッドの端に座り込み、物思いに沈んでいた。
うつろな目で土の床をじっと見つめている。
昨夜の悪夢の残滓がまだべったりと張り付き、立ち去ろうとしない影のように彼の正気を蝕んでいた。
甲高い悲鳴、荒々しい囁き声、そして彼を責め立てるのっぺらぼうの顔たちが、頭蓋骨の中でぼんやりとしたリズムを刻みながら響き続けている。
彼は荒く息を吐き出し、両手で顔を覆った。
ふと、時間が無情にも早く過ぎ去っているという現実に引き戻される。この見知らぬ異世界に放り出されてから、気がつけばもう丸一ヶ月が経とうとしていた。
彼の思考は、今日の予定へと切り替わった。
失敗続きだったヨトの家の畑の酸性土壌。あの赤土の苗代に中和剤を撒いて土壌改良を施したのだから、そろそろ結果が出ているはずだ。
計算が狂っていなければ、種はすでに立派に成長し、間引きの段階に入っていることだろう。
「タカヒロくん、そろそろ時間だ」
早くも畑へ向かう準備を整えたヨトが、穏やかな声で声をかけてきた。
「ああ、そうだな」
タカヒロは立ち上がり、身体にぴったりと馴染んだクリリーお手製の粗いシャツの表面を撫でた。
何週間も彼の肋骨や腕を縛り付けていた白い包帯は、今ではすっかり取り払われている。ひどかった裂傷も、皮膚の上から跡形もなく消え去っていた。
「出かける前に、これを持っていって」
クリリーが食事の入った大きな弁当箱を机の上に置く。
金属の弁当箱と木の机がぶつかる鈍い音も、今のタカヒロの気を引くことはできなかった。
クリリーの言葉を耳に流し、彼の視線は慌ただしく部屋を泳ぎ、向かいの少女たちの部屋へと向けられた。
部屋は静まり返っている。朝の忙しない準備の中、寝床の衣擦れの音はおろか、三人の少女の姿すらこの家の中で一度も見かけていない。
「ヴィオラたちはどこだ? まだ起きてないのか?」
タカヒロはクリリーに尋ねた。
「私も分からないの」クリリーは落ち着いた声で答えた。「でも、あなたたちのお弁当を作っていた時、ヴィオラが何も言わずに慌てて出て行くのを見たわ」
タカヒロの頭の中で、思考の歯車がカチリと回った。
(あのヴィオラが、理由もなくこんな暗いうちから出歩くはずがねぇ……)
彼女が決して軽率な少女ではないと、タカヒロは確信している。
あの灰色の髪の少女が、明確な理由もなく、まだ薄暗い早朝からあてもなく出歩いたり、畑へ向かったりするはずがないのだ。
最悪の予感に殴られたように、タカヒロは一秒たりとも無駄にする気はなかった。
クリリーの言葉を聞き終えるや否や、道具をひったくり、玄関の扉から外へ飛び出した。
食堂の真ん中に、クリリーを一人呆然と立ち尽くさせたまま。
◇◇◇
霧の中、彼らのブーツが湿った土を何度も打ち据える。
かなりの距離を歩き続け、ヨトとタカヒロがようやく畑の境界に辿り着いた時、周囲はまだ不気味なほど静まり返っていた。
しかし、前方を見渡すと、見覚えのあるシルエットがあった。
苗代のすぐ脇で、硬直したように立ち尽くす人影が、ヨトとタカヒロの目にはっきりと映った。
父親としての本能からか、ヨトは一切の躊躇なく大股でその人影へと歩み寄った。
ブーツの先が止まり、少女のすぐ後ろに立ったヨトは、手を伸ばして愛娘の背中を優しく叩いた。
「こんな所にいたのか、ヴィオラ」
ヴィオラは身動き一つせず、返事すらしない。
ただ枯れ木のように、泥の広がりの前に立ち尽くしている。娘の反応がないことにヨトは微かに眉をひそめ、言葉を続けた。
「どうしたんだ、なぜ黙っている?」
「お父さん……これを見て」
彼女は苦しげに絞り出すような声で、硬直した指先を苗代へと向けた。
震えるようなヴィオラの掠れ声が、ヨトの肺から空気を奪い去った。
不安と好奇心に駆られ、ヨトは無理やり足を前に進め、娘と肩を並べた。
タカヒロもまた、ヨトの背後を追うように前へ出た。
そして、震えるヴィオラの指先が示す一点に全員の視線が落ちた瞬間。
彼らもまた、命を失った石像のようにその場で凍りついた。
苗代は、無惨に破壊されていた。
品種改良された稲の種は、タカヒロの理論が正しかったことを証明するように、青々と見事に育っていた。
しかし、その若葉が完璧な姿で朝の空気に触れることはもうない。
茎は粉々に砕け、折れ曲がり、湿った泥の中に深く沈み込んでいる。
区画内には、無軌道に暴れ回ったような足跡がくっきりと残されていた。
まるで、誰かが故意に飛び込み、彼らの希望の種をすべて踏みにじり、地面と平らにしてしまったかのように。
その残酷な光景が、ヴィオラの精神の防壁を完全に崩壊させた。
間もなく、少女は体のバランスを崩し、両足の力を失って地面にへたり込んだ。
瞳の奥のダムは決壊し、もう堰き止めることはできない。
音もなく止めどなく零れ落ちる涙が、太もものズボンの生地に暗い染みを作っていく。
「クソが……!」
タカヒロは右手をギリッと固く握りしめた。
「どこのどいつだ、てめぇ……! こんなふざけた真似をしやがったのは!」




