第40章:酸性の痕跡
オイルランプの芯から揺らめく仄暗い灯りが、木製のテーブルの上に置かれた二つのガラス瓶の表面に反射していた。
その中では、チョウマメのエキスから抽出された濃い青色の液体と、紫キャベツの赤紫色の液体が、怪しくも美しい煌めきを放っている。
薄暗い部屋の中で際立つその強烈な色のコントラストは、見る者すべての心に抗いがたい好奇心の渦を巻き起こしていた。
居間に再び静寂が忍び寄る。
少女たちの視線は、クリリーが即興で作り上げたその傑作に完全に釘付けになっていた。
彼女たちの目には、そのガラス瓶が、瀕死の村の運命を一夜にして覆す魔法の霊薬のように映っていたのだ。
最後のお粥を飲み込んだタカヒロが、ついにその沈黙を破った。
空になった素焼きの椀をテーブルの端へと押しやると、コトリと小さな摩擦音が響く。
彼は座り直すと、二つの瓶に手が届くように身を乗り出した。
その時、こめかみを時折襲うズキズキとした痛みに、わずかに顔をしかめる。
「協力してくれて助かったよ、クリリーおばさん」
「とっても綺麗な色な!」
ウチが感嘆の声を漏らした。
小柄な少女はテーブルの縁に両手をつき、ぐっと身を乗り出す。
そのキラキラと輝く双眸は、ガラス瓶の中で揺らめく液体の光から片時も離れようとしない。
先ほどからウチのそばで静かに立っていたクトリも、テーブルへと歩み寄った。
彼女の目にもその濃密な色彩はひどく魅力的に映り、抑えきれない好奇心が胸をくすぐっていた。
彼女たちが感嘆の溜息を漏らす中、タカヒロの声のトーンが突如として真剣みを帯びた。
彼はまるで戦場へ赴く将軍のような鋭い眼差しで、二つの瓶を見据える。
「明日の朝一番で、すぐに現地の調査に向かうぞ。今朝みたいに遅刻するんじゃないぞ」
その指示に誰かが返事をするよりも早く。
正面の扉が乱暴に押し開けられ、蝶番のきしむ音が彼らの集中を打ち破った。
何の合図もなく、ヨトがズカズカと足を踏み入れる。
中年男性の服からは、まだ汗と夜露の入り混じった匂いが漂っており、彼が畑から帰ってきたばかりであることを物語っていた。
どうやら、外に立っていた彼の耳にも、明日の朝から調査を始めるというタカヒロの声が届いていたらしい。
ヨトは胸を張り、堂々とした足取りで進み出ると、すぐさま声を張り上げた。
「どうして明日まで待つ必要があるんだ?」
ヨトは自信満々に言い放った。
「今すぐやれるなら、今やればいいじゃないか」
そう言い終えるなり、ヨトは右腕を宙へと掲げた。
泥で汚れた無骨なその手の中には、畑の土の塊がしっかりと握られている。
皺の刻まれた顔には、まるで大きな賭けに勝ったかのような、ニヤリとした笑みが浮かんでいた。
部屋にいた全員の視線が、反射的に木製のテーブルから声の主へと一斉に集まる。
そこには、ヨトの掲げた手の中でぶら下がる、黒褐色の土の塊があった。
この中年男性が取った気の利いた行動の意図に、真っ先に気がついたのはタカヒロだった。
彼はすぐには答えず、ヨトの言葉をわざと宙に浮かせたままにして、少女たちの間に気まずい沈黙の時間を生み出す。
そして数秒後。
タカヒロの口角が上がり、薄く満足げな笑みを形作った。
「てめぇ……意外と気が利くじゃねえか、おっさん!」
タカヒロは満足げな笑みを浮かべたまま、悪態をつくように言った。
これ以上の承諾を待つまでもなく、ヨトは力強い足取りで彼女たちの集まるテーブルへと歩み寄った。
「当たり前だ!」
タカヒロの左側に立つと、ヨトはその土の塊をドンとテーブルの上に置いた。
「今朝、お前が畑に来なかったからな。俺の機転で、わざわざここまで持ってきてやったってわけさ」
タカヒロは納得したように頷く。
その両目は、目の前に置かれた土の塊を鋭く見据えていた。
「いいだろう。これで必要な材料はすべて揃った。それじゃあ、この土の酸性度を調べるテストを始めるぞ!」
タカヒロが素手でその土に手を伸ばそうとした、まさにその時。
優しくも凛とした声が、彼の動きをピタリと止めた。
「これを忘れているわよ、キングくん」
横からクリリーが、真水の入った急須と小さな陶器の器を二つ、テーブルの上へと差し出した。
それらを、指示薬の入った瓶のすぐそばへと丁寧に置く。
タカヒロは瞬きをした。
容器と溶媒という、こんな初歩的なものをすっかり忘れていた自分に少し驚いていた。
しかし、年配の女性の言葉に返事をする代わりに、彼は挨拶を無視して即座に用意された道具へと意識を集中させた。
クリリーの手際の良さは、もはや疑う余地などない。
極めて慎重な手つきで、タカヒロはヨトが持ってきた乾燥した土の塊を割った。
ボロッと、土が崩れる鈍い音が響く。
彼はそれを同じ量の二つに分け、それぞれを陶器の器の中に入れると、急須から少しだけ綺麗な水を注ぎ込んだ。
タカヒロが木の匙の先を使ってその混合物をかき混ぜると、泥が擦れ合う微かな音が聞こえた。
そして、彼はその二つの器をしばらくそのままにしておく。
ゆっくりと、粗くて重い土の粒子が器の底へと沈殿していく。
水面には、茶色く濁った上澄み液だけが残された。
「まずはチョウマメのエキスから試してみる」
張り詰めた沈黙を破り、タカヒロが呟いた。
右手が一つ目のガラス瓶を掴む。
ゆっくりと計算された動きで、先ほどからウチの視線を釘付けにしていた濃い青色の液体を、一つ目の器の中へと数滴垂らした。
その深い青の雫が濁った土水に触れた瞬間、彼女たちの目の前で化学反応が起きた。
夜空のような色をしていた液体は、土水に溶け込むにつれてゆっくりとその色を薄めていく。
そして次第にその姿を変え、明るく燃えるような赤紫色の光を放ち始めたのだ。
その小さな奇跡を目の当たりにして、ウチは器の中で踊るような色の変化にただただ感嘆するばかりだった。
「す、すごいですぅ!色がどんどん変わっていく!」
少女の感動の余韻が空気に溶け切る前に、タカヒロは一つ目の瓶を置き、紫キャベツのエキスが入った二つ目の瓶をすかさず手に取った。
その動作の最中、彼の頭にちょっとした悪戯のアイデアが閃く。
「気をつけろよ。この液体が肌や目に入ったら、致命的な火傷を負うからな!」
タカヒロは脅かすように言った。
彼はわざと声のトーンを落とし、極めて恐ろしい表情を作る。
あまりの好奇心から、先ほどからずっと顔を近づけているウチの方を鋭く睨みつけた。
そのホラー映画のような脅し文句を聞き、小柄な少女の肩がビクッと跳ねた。
ウチは顔面を蒼白にさせ、慌てて後ろへと後ずさりする。
「ほ、本当な!?」
彼女は純真な声で尋ねた。
怯えきったウチの姿を見て、タカヒロはもはや笑いを堪えきれなかった。
「嘘に決まってんだろ、ははっ!」
タカヒロは意地悪そうに笑い声を上げた。
その腹立たしいほどに軽快な笑い声を聞き、自分たちがからかわれたことに気づいた少女たちは、一斉に怒りのこもった鋭い視線を彼へと突き刺した。
周囲から放たれる殺気など気にも留めず、タカヒロは再び作業へと意識を戻す。
一切の躊躇なく、彼は二つ目の瓶から赤紫色の液体を残りの器へと直接注ぎ込んだ。
今度の反応は、先ほどよりも遥かに速く、攻撃的で、そして明白だった。
その瞬間、二つ目の器の中の泥水が激しく発光した。
中に含まれるアントシアニンが激しく反応し、濃い紫色を極めて鮮やかな明るい赤色へと変貌させる。
それはまるで、すり潰したばかりのベリーから滴る、血の色そのものだった。
タカヒロは瓶を置いた。
目の前で静かに波打つその鮮やかな赤い液体をじっと見つめながら、彼は長く重い溜息を吐き出す。
まるで被害の規模を計算するかのように、彼の指先が木製のテーブルの表面をコツコツと静かに叩いていた。
「最初から予想していた通りだ」
タカヒロが口を開く。その声は、今やひどく重く、そして沈み込んでいた。
彼は顔を上げ、ヨトとクリリーを交互に見据え、自分の下す宣告をしっかりと彼らに聞かせる。
「チョウマメと紫キャベツのエキスは、極めて酸性の強いものと混ざり合うと、その性質上、赤みがかった色に変化するんだ」
ヨトは眉間に深いシワを寄せた。
その両目は、目の前に置かれた二つの器を虚ろに見つめている。
彼の顔つきがこわばる。
まるで、これまでの自分の血の滲むような努力を食い潰してきた、致死性の病の根源を今まさに突きつけられたかのように。
「ということは……。」
ヨトが掠れた声で呟く。彼の胸の奥で、何かが冷たく落ちていった。
「ああ、その通りだ」
タカヒロが即座に答え、男の迷いを容赦なく切り捨てる。
「おっさんの畑の土は、酸性が強すぎるんだ。だから、どんな種を植えてもまともに育たず、時期が来る前に葉が黄色く枯れちまうってわけだ。」
そしてその瞬間。
タカヒロがこの『色彩の錬金術』とも言える現象についての説明を終えた時、息が詰まるほどの沈黙が部屋全体を締め付けた。
全員が目を丸く見開いていた。
たった今目の前で突きつけられた、あまりにも皮肉なこの結果を信じることができずに。
(……なんてことだ)
最初はあんなにも美しく、神秘的に見えた二つの液体が。
今や、この村の農民たちの命脈を断ち切る、悪夢のような宣告を告げる血の赤色へと姿を変えてしまうだなんて。




