第37章:終わらないすれ違い
土の道を吹き抜ける夕暮れの風は、本来なら涼しく心地よいはずだった。
しかし今、四人の少女たちの間に漂っているのは、まるで首を真綿で締め付けられるような、息苦しいほどの緊張感だけだ。
「あたしはあんたの家族でもないし、あんたたちの問題に首を突っ込む権利もない。だけど、よく考えてみてよ。自分たちが犯してもいない罪を背負わされて、苦しみ続ける気分がどんなものか!」
ケイトの息遣いは荒かった。
もはや礼儀など知ったことではない。体の両脇で握りしめられた両拳は、関節が真っ白になるほど固く握り込まれ、頭のてっぺんまで沸き上がる怒りの血潮を必死に押さえつけていた。
赤髪の少女の口から放たれたその鋭い言葉は、ずっと年上のクトリをその場に完全に縫い留めた。
彼女は自己弁護の言葉すら失い、ただ硬直している。
「もしあたしがヴィオラだったら、あんたのことなんて絶対に実の姉だなんて認めない。死んでも、絶対に認めないから!」
その罵倒には、もはやブレーキがかかっていなかった。
心の奥底では、ケイト自身も自分の言葉が残酷すぎると、度が過ぎていると分かっていた。だが、思考は完全にショートしていた。怒りのストッパーはとうの昔に吹き飛び、親友のためにこれまで溜め込んできた嫌悪感のすべてが、濁流のように溢れ出していたのだ。
「あんたは何年も、妹や両親のことなんて気にも留めずに、都会でぬくぬくと快適に暮らしてきたんでしょ」
ケイトは言葉を続ける。声のトーンは下がったものの、一言一言に滲む感情の震えは隠しきれていない。
「それなのに、今になって戻ってきて……あたしがずっと必死に隠してきた古い傷を、あんたはまた容赦なくえぐり返したのよ……っ」
ケイトは言葉を途切らせた。
そして乱暴な足取りで、泣きじゃくるのを必死に堪えて激しく震えているヴィオラの背後へと回り込む。
親友のすぐ後ろに立った瞬間、ケイトの人差し指は真っ直ぐに、クトリの顔を突き刺さんばかりの勢いで向けられた。
「あんたに一つだけ要求するわ。この村から出て行って。そして、二度と戻ってこないで!」
その目は鋭く射抜くようにクトリを睨みつけ、微塵の迷いもない絶対的な拒絶を示していた。
その無慈悲な宣告に、ヴィオラはビクッと肩を跳ねさせた。
顔を半分だけ振り向き、視界の端で、荒い呼吸を繰り返して肩を上下させているケイトの姿を捉える。
「ケイト、やめて!」
ヴィオラはきっぱりと懇願したが、その声は悲痛に震えていた。
しかし、まるで突然耳が聞こえなくなったかのように、ケイトの姿勢は微塵も揺るがなかった。
顎をツンと上げ、遥かに年上の相手を前にしても一歩も引こうとしない。
今にも爆発しそうなその空気の中で。
先ほどからずっと静かに事の成り行きを見守っていたウチが、突然動いた。
ケイトが放った『都会でぬくぬくと快適に暮らしてきた』という言葉が、彼女の頭の中で何かのスイッチを押したのだ。
小柄な少女の心は、その決めつけを真っ向から拒絶していた。
クトリに直接世話をされて育ってきたウチは、専属の世話係である彼女が異郷の地でどれほど過酷な現実を生き抜いてきたかを、誰よりもよく知っているのだ。
ウチの小さな足が前に踏み出し、クトリの右側へとピタリと寄り添う。
そしてゆっくりとした動作で、小さな指先がクトリの冷え切った手のひらをそっと握りしめた。
「あたしは、ケイトの言うことには賛成できない」
ウチの口から飛び出した真っ向からの反論に、ケイトの集中は一瞬にして削がれた。
赤髪の少女は、反射的にそちらへと顔を向ける。
「どういう意味? あたしに逆らうつもり……。」
「逆らうつもりも、喧嘩するつもりもないのですぅ」
ウチは素早く言葉を返し、自分よりも遥かに背の高いクトリの顔を見上げた。
「あたしはただ、『クトリお姉さまが都会で快適に暮らしていた』っていうケイトの言葉が、間違っていると言いたいだけなのですぅ」
クトリの視線が、ハッとして自分の小さな主へと向けられた。
こんなにも小さな体で自分を庇おうとしてくれるその姿に、彼女の目尻には突如として熱い涙の雫が浮かび上がった。
「その理由を分かってもらうために、最初から全部お話しさせてほしいのですぅ」
ウチのあまりにも大人びた対応に、ケイトは深く、重い溜息をついた。
頂点に達していた感情の昂ぶりが、ゆっくりと解けていく。先ほどまで鋭く突きつけられていた右手も、力なく体の脇へと下ろされた。
一言も発することなく、ケイトは小さく頷いた。
この小さな少女が真実を語るための隙間を、静かに空けてやったのだ。
しかし。
ウチが深呼吸をして物語を始めようとしたその瞬間、背後から突然、かすれた野太い声が沈黙を切り裂いた。
「あらら……ケイト!」
その声の主は陽気に声をかけてきた。
「こんなところにいるなんて、奇遇だねえ」
ケイトの耳は、その聞き慣れた周波数の声を即座に捉えた。彼女はすぐに右側の声の主へと顔を向ける。
「ビーおじさん!?」
全く予想もしていなかったビーの登場により、四人の少女たちの間に残っていた張り詰めた糸は完全に切れてしまった。
息の詰まるような重苦しい空気が、一瞬にして緩む。
しかも、やってきたのはその中年男性だけではない。
シンティアラがビーの背後にぴったりとくっついて歩いており、ケイトに向けてぎこちない笑顔を浮かべながら、ロボットのようにカクカクと手を振っていた。
「体調を崩して仕事を休んだんだと思ってたよ」
ビーは、彼の突然の登場にまだ呆然としているケイトの顔色など全く気にする様子もなく続けた。
「だから、これを持ってきてやったんだ」
男の手がスッと伸び、黒い布で丁寧に包まれた小さな薬の小包を差し出した。
ビーがその小包を差し出したまさにその瞬間、シンティアラが隙を突いて動いた。
彼女は素早い足取りでケイトとの距離を詰めると、体をぐっと乗り出し、友人の耳元でこっそりと囁いた。
『昨日あんたの家に行ったんだけどさ、おばさんが、あんた一日中帰ってきてないって言うのよ。だから仕方なく、ビーおじさんにはあんたが病気だって嘘の報告をしておいたからね』
極めて小さな声で囁かれたものの、そのいかにも怪しげなひそひそ話のジェスチャーは、上司の監視の目を逃れることはできなかった。
「シンティアラ、ケイトに何をコソコソ話しているんだ?」
その咎めるような声を聞いた瞬間、シンティアラはまるで感電でもしたかのようにビクッと後ろへ飛び退いた。
ケイトから安全な距離を取り、胸の前で両手をバタバタと振って、明らかに動揺した態度を見せる。
「あ、あわわ……な、なんでもないですぅ! た、ただ、あの『事件』について教えてあげていただけですよっ!」
『あの事件』。
シンティアラの口から出まかせに飛び出したアリバイは、ビーの眉間に深いシワを寄せさせた。
彼は頭をフル回転させ、今日牧場で見逃したかもしれない事件の記憶を懸命に掘り起こそうとする。
数秒間考え込んだ後、ビーの顔がパッと明るくなった。
彼はそのアリバイに対し、なんだかとても楽しそうな声色で答えたのだ。
「ああ……あの事件のことか!」
ビーは満面の笑みを浮かべて呟く。
「あれを見逃すなんて、本当にもったいないことをしたねえ、ケイトっち」
「っち!?」
ケイトは瞬きをパチパチと繰り返し、困惑した声を上げた。
彼女がここで働き、息をしてきた全歴史の中で、ビーおじさんが自分の名前の後にそんなどうしようもない接尾辞を付けたのを聞いたのは、これが初めてだった。
気持ち悪さと奇妙さがごちゃ混ぜになる。
その隣で、シンティアラが再び口を開いた。
今度は囁き声ではなかったが、上司に怪しまれないように体と体の距離はしっかりと保たれたままだ。
「ごちゃごちゃ文句言わないで、バカのふりをしておきなさいよ」
その理不尽な指示を受け、ケイトは反射的に顔を背けた。両頬をぷくっと膨らませて、シンティアラの方を凄まじい形相で睨みつける。
(……なんで、こんなことでバカのふりなんてしなきゃならないのよ!)
彼女のプライドが激しく抵抗していた。ヴィオラやクトリ、ましてやウチの前で、マヌケな人間のふりをするなど絶対に御免だ。
だが幸いなことに、ビーは自分自身の想像の陶酔から思いのほか早く抜け出してくれた。
存在しない『事件』についてこれ以上詮索するのをやめ、自分の周囲にいる見知らぬ人々の存在にようやく気付いたのだ。
「ところで、君たちはここで何をしているんだい?」
ビーが尋ねる。彼の視線は、ケイトのそばで硬直している三人の少女たちを順番に見回した。
「それに、彼女たちは一体誰なんだ?」
ケイトは素早く表情を取り繕った。
「彼女たちはあたしの親友……じゃなくて、もう家族みたいに思ってる一番大切な人たちです」
ケイトは自分の言葉を訂正しながら答えた。
「紹介するわ。こっちがヴィオラ、ウチ、そしてクトリお姉さん。あたしたち、実はビーおじさんに会いにいくつもりだったの」
名前を呼ばれた瞬間、まるで号令でもかけられたかのように、ウチ、ヴィオラ、そしてクトリの三人は一斉に深くお辞儀をし、目の前の中年男性に対して丁寧な挨拶をした。
「それで、私に何の用事かな?」
ビーは顎をさすりながら、のんびりとした声で尋ねた。
「土の酸性度を測る道具を作るために、チョウマメの花と紫キャベツが必要なんです」
ビーとシンティアラの眉毛が、綺麗にシンクロして跳ね上がった。
『酸性度を測る道具』。それは、二人の脳の処理能力を完全に超えた、まるで宇宙人の言葉のようなフレーズだった。
「何なの、それ?」
シンティアラが好奇心丸出しで尋ねる。
「話せば長くなるわ」
ケイトは即座に答え、面倒な説明のプロセスをすっ飛ばした。
「それに、話したところでどうせあんたたちには理解できないだろうし」
それを聞いて、ビーはただのんびりと何度も頷いた。彼はケイトの意見に百パーセント同意していた。
若い頃から、彼は自分の脳みそを複雑なことで疲弊させないという立派なポリシーを持っていたのだ。これ以上深く追求することなく、彼は踵を返し、先導する準備を始めた。
「それなら、早くついてきなさい。私の家の裏庭には、チョウマメの花も紫キャベツもたくさんあるから、好きなだけ摘んでいくといい」
あまりにもあっさりと降りた許可に、ケイト、ヴィオラ、ウチ、そしてクトリは一斉に顔を見合わせた。
安堵と喜びに輝く瞳が、顔に残っていた涙や怒りの痕跡を綺麗さっぱりと洗い流していく。彼女たちのミッションに、ついに明るい希望の光が差し込んだのだ。
そしてほんの一瞬のうちに。
ゆっくりと暗闇に染まりゆく夕暮れの空の下、彼女たちの絆を完全に破壊しかけた激しい口論の嵐は、嘘のように鳴りを潜めた。
その代わりに、おじさんの家の裏庭で待っている素材がもたらす安堵感と、一筋の輝かしい希望が、四人の心を温かく満たしていた。




