第35章:行動開始!
ヴェリア村の空が翳り始め、いつもより早く訪れた夕闇が、残照をゆっくりと飲み込んでいく。
ヨト家の居間に満ちていた温かな空気は次第に薄れ、代わりに肌寒い夕風がそっと吹き込み始めていた。
部屋の隅からは、規則正しい静かな寝息が聞こえる。クリリーが調合した薬草の眠気成分に完全に屈し、タカヒロは再び深い眠りに落ちていた。
一方、その反対側の机では、ちょっとした白熱した会議が開かれていた。ケイト、ヴィオラ、そしてクトリ。三つの頭が互いに顔を突き合わせるようにして集まっている。彼女たちは、このまま計画を頓挫させるつもりなど毛頭なかった。
タカヒロが眠っている今、ヴィオラが率先して場を仕切っていた。森の隅々や村の環境に誰よりも詳しい彼女は、頭をフル回転させる。昨晩タカヒロから詰め込まれた難解な理論を、どうにかして自分なりに翻訳しようと必死だった。
「ヴィオラの意見に賛成よ」
ケイトが落ち着いた声で言う。
「この問題をうやむやにしたままなんてありえないわ。手遅れになる前に、早く動かないと!」
「でも問題は、どうやってその『測定器』とやらを作るかですよね?」
クトリが尋ねた。紫のドレスを着た彼女は、グッと身を乗り出す。
妹からあの見知らぬ青年の知恵の深さを聞き、彼女の好奇心はすでにすっかり刺激されていたのだ。
「私たちには、その道具を作るための材料が何なのかすら分からないんですから」
ヴィオラは押し黙り、眉をギュッと寄せた。
頭の中の記憶が、昨晩、家の外でタカヒロと交わした秘密の会話へと強制的に引き戻される。ちょうどケイトとウチがいびきをかいて眠りについた頃のことだ。
あの青年は、『測定器』という見慣れない道具を使って土の健康状態を調べる方法について、延々と熱弁を振るっていた。
その説明はヴィオラの理解の範疇を完全に超えていたが、どういうわけか、その奇妙な専門用語の羅列は彼女の頭の片隅にしっかりとこびりついていた。
灰色の髪の少女は目を閉じる。無意識のうちに、左手の人差し指で顎をトントンと叩き、右手を胸の前で交差させるというポーズをとっていた。
記憶の引き出しを深く探り、あの夜、青年が口にしていた部品や材料を一つずつ点呼していく。
そしてついに、一つの小さな呟きが彼女の唇から無意識にこぼれ落ちた。それはケイトとクトリの耳に届くには十分な大きさだった。
「もし、チョウマメの花と紫キャベツがあれば、もしかしたら……。」
ヴィオラが呟きを終えるより早く、ケイトの背筋がピンと伸びた。彼女の耳が、聞き覚えのある二つの植物の名前に素早く反応したのだ。
「ちょっと待って!もう一回言ってみて」
天井を見上げながら記憶を辿っていたヴィオラは、反射的に視線を下げてケイトの方を向いた。親友がなぜ突然そんな緊迫した声で言葉を遮ったのか理解できず、ぽかんとした顔になる。
「Naon maksudna?(どういう意味?)」
「さっき言った植物の名前、もう一回言って!」
「チョウマメの花と、紫キャベツ?」
バンッ!
ヴィオラがその二つの植物の名前を繰り返した直後、ケイトは勢いよく立ち上がった。彼女の掌が、木の机の表面を乱暴に叩きつける。
そのすさまじい衝撃は、即座に机の隅へと無差別に伝わった。ずっと腕の中に顔を埋めて爆睡していたウチは、飛び上がらんばかりに驚いた。
小柄な少女はボサボサに跳ねた髪でビクッと飛び起き、まだくっつきそうな重い瞼をこすりながら、今の地震がどこから来たのかと寝ぼけ眼で辺りを見回す。
「それなら、どこに行けば見つかるか知ってるわ!」
ケイトの叫び声は、度を越した興奮と共に弾けた。だが不運なことに、その力強い宣言は、クトリが母親の淹れた温かいお茶をすすっていたタイミングと完全に重なってしまったのだ。
クトリは激しくむせた。顔を背けてゴホゴホと咳き込み、向かいの席でまだ半分夢の中にいるウチの顔面に熱いお茶を吹き出さないよう、慌てて口元を覆う。
「本当に場所を知ってるの?」
ヴィオラは呑気に尋ねながら、親友の顔を分析するように目を細めた。
「この自信に満ちたあたしの顔を見て、まだ疑う気?」
ケイトがふんぞり返る。
ヴィオラはただ、口角の片方を左に釣り上げただけだった。それは非常に腹立たしい笑みであり、わざと見せつけるような最高レベルの疑心暗鬼のオーラを放っている。
「ほんのちょっと」
ヴィオラは短く答えた。それと同時に右手を空中に上げ、親指と人差し指の先を、ほんの数ミリの隙間だけ残して近づけてみせる。ほぼ無に等しいほどの信頼度を暗に示すジェスチャーだった。
その視覚的な挑発に、ケイトの歯の間からイラッとした舌打ちが漏れた。ケイトからすれば、親友のその態度は、頼れる森の民としての彼女のプライドを踏みにじるも同然の行為だ。
「ふざけないでよ!」
ケイトはニヤリと好戦的な笑みを浮かべて言い放つ。
「あんた、あたしを舐めてるわ?」
「舐めてなんかないよ」
ヴィオラが即答する。
「ただ、ケイトの言うことが少し信用できないだけ」
「信じられないなら、あたしについてきなさいよ!」
つべこべ言う暇も与えず、ケイトは踵を返した。足音をドタドタと鳴らし、その騒ぎを置き去りにしてさっさと家の外へと歩き出す。二人の友人と一人の義姉を背後に放置したままで。
クトリとヴィオラは顔を見合わせた。数秒間、目くばせだけで互いの疑念を共有する。
ケイトの自分勝手な行動に深い溜息をついた後、二人はようやく立ち上がり、赤髪の少女の後を追うように歩き出した。
一方、机の端でウチはまだ固まっていた。手の甲で、ぼやける目をこしこしとこすっている。彼女の意識はまだ体に完全にインストールされていなかった。小さな脳みそは、先ほどケイトとヴィオラが言い合っていた難しい会話を何一つ処理できていない。
しかし、この部屋に一人で置いていかれるのは嫌だという本能が働き、(置いていかないでほしいのですぅ……。)と心の中でこぼしながら、ウチは仕方なく重い足を引きずった。
眠気に耐えきれずフラフラとした足取りで、まるでカルガモの雛のように、クトリの背中へと大人しくついていく。
ほんの数分のうちに、先ほどまで騒がしかった居間はもぬけの殻となった。
今や、夕暮れの静寂の渦の中で眠り続けるタカヒロただ一人が、そこに残されていた。
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