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現代知識で異世界村を救う  作者: バクリ


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第29章:秘密

張り詰めていたアドレナリンが、ゆっくりと引いていく。

道中には、いつの間にか穏やかな笑い声が響いていた。


クトリは仕事先で起きた様々なドジな話を語って聞かせた。

荷車の車輪がヴィオラの家の庭先で止まると、クトリは引き手を放し、荷車の後ろ側へと回り込んだ。


「ヴィオラ、小さな布を持ってきてくれないかしら」


ヴィオラはすぐに家の脇へと走った。

そこには、何枚もの洗濯物が縄に吊るされて並んでいる。


彼女は姉に頼まれた布を探そうと、忙しなく手を動かした。ケイトも急いでその後を追い、一緒に洗濯物をかき分け始めた。


ウチもすぐに荷車から降りて、二人の後を追おうとした。

しかし、小柄な少女がクトリの横を通り過ぎようとしたその時、クトリがすっと腕を伸ばして彼女の行く手を阻んだ。


「あなたは私と一緒にここに残りなさい」


ウチは行く手を阻む腕を見つめ、それからクトリを見上げた。


「ふぇ!? 一体どうした」


眉間にシワを寄せ、ウチは小さく声を漏らす。


「あなたと、少しお話ししたいことがある」


クトリが言葉を続ける。その声音は、先ほどよりも一段と重くなっていた。


クトリは腕を引き、ウチとの距離を縮めるように一歩踏み出した。家の側面に視線を向け、ヴィオラとケイトがまだ作業に没頭しており、こちらの声が届かない距離にいることを確認する。


クトリは土埃の舞う地面に、騎士のように片膝を突いてゆっくりと腰を落とした。ドレスの裾が汚れるのも厭わない、そんな所作だった。


「これまでの数々の非礼、お許しください、ウチ様」


クトリは、それまでの態度から一転して恭しい口調で告げた。


「私はお父様の命を受け、ウチ様をお連れ戻しに参りました」


「嫌なのですぅ! あたしは、まだここに残る」


ウチの表情が固くなった。胸の前で腕を組み、ぷいっと顔を背ける。


「ですが、ウチ様……。もしお戻りにならなければ、お父様が大変お怒りになります」


「そんなの、あたしには関係ない!」


ウチは膝を突いたままのクトリの横をすり抜け、遠くにいるヴィオラとケイトを見つめた。


「あたしはここで過ごすのが心地いいのですぅ。あと数日……いえ、もしかしたら数年はここにいるつもりな」


クトリは若き主の背中を見つめた。


「もしウチ様がお戻りにならないとなれば、私はお父様に何とお伝えすればよいのですか」


ウチは真ん丸な目を少し鋭くして、横目でチラリと振り返った。


「あたしが帰らないことでお父様に怒られたくないのでしたら、あなたもあたしと一緒にここに残ればいい」


その言葉を聞き、クトリは弾かれたように立ち上がった。


「そんなことできるわけがありません!」


クトリの声が一段と高くなる。


「私は、ペドロ様の命令に背くわけにはいかない」


「お父様の命令に背きたくないのでしたら、あなただけあっちに戻ればいいのですぅ! あたしに無理やり帰れなんて言わないでください、あたしの気持ちはこれっぽっちも変わらない」


クトリは悔しそうに下唇を噛み締め、拳を握りしめた。深く息を吸い込み、反論の言葉を口にしようとしたその時。


バタバタと、こちらへ駆け寄ってくる足音が聞こえた。


「クトリ姉さん、布を持ってきたよ」


ヴィオラが小さな布を掲げながら小走りで戻ってきた。その後ろをケイトがついてくる。


クトリは慌ててドレスについた土埃を払い、いつもの凛とした姿勢に戻る。駆け寄ってきたヴィオラは、姉の手のひらにすぐさま小さな布を手渡した。


「ありがとう、ヴィオラ」


クトリはその布を広げると、自身の鼻から顎までを覆うようにして顔に巻きつけた。


ヴィオラは不思議そうに首をかしげた。


「ねえ、なんでそんな風に顔を隠すのですか」


クトリは頭の後ろで布の結び目をきゅっと力強く縛った。


「お母様に見つかりたくないからよ」


ヴィオラは怪訝そうに眉をひそめた。


「どういうことですか? なんでそんなことをするのか教えてほしい」


「変な意味じゃないわよ」


クトリは妹の言葉を遮るように言った。布に隠れては見えないが、その目元が優しく緩み、笑みを浮かべているのがわかる。


(……なんで家族でもないたった一人の人間のために、そこまで無茶な真似ができるのかしら)


「お母様をびっくりさせたいの。だから、少しの間だけ顔を隠しておこうと思ってね。」


ヴィオラは納得したように小さくうなずいた。


クトリは身体を反転させ、タカヒロを抱え上げる体勢に入った。


「いい、あなたたち。私の正体については絶対に秘密よ」


クトリは少し釘を刺すような口調で皆を見つめる。


「もし私の秘密を誰かに漏らしたら、容赦なくお仕置きしちゃうからね、わかったかしら」


ヴィオラ、ケイト、およびウチの三人は、ごくりと唾を呑み込んで同時に激しく首を縦に振った。


クトリは軽々とタカヒロの身体を抱え上げ、そのまま家の中へと運び入れていく。その後ろを、ウチ、ケイト、ヴィオラの三人が無言でトボトボとついていくのだった。

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