第24章:緊迫
泥壁の居間に立ち込める熱気は、まだ冷める気配がなかった。ヨトは木製の椅子に腰を下ろしたまま、じっと動かない。
(助けたい、一つのチームとして共に戦いたい、そして真剣に……か)
中年の男は心の中でそう呟いた。
「手伝うなと言っているわけじゃないんだ。」
ヨトは静かに語りかける。ゆっくりと椅子から立ち上がり、机の上の茹でトウモロコシに手を伸ばした。
「君たちはまだ子供だ。大人の事情なんて、到底わからないだろう」
「それは違うと思うわ、ヨトおじさん」
ケイトがきっぱりと反論した。ヴィオラを抱きしめていた腕を離し、親友の右隣にスッと真っ直ぐに立つ。その瞳は、苛立ちを隠すことなくヨトの顔を真っ直ぐに射抜いていた。
「確かに見た目は子供かもしれない。でも、あたしたちの考え方はもう大人以上よ」
「ならば証明してみせなさい!」
ヨトが鋭く言い返す。
一瞬の躊躇もなく、ケイトは勢いよく後ろを振り返った。未だに黙って座っている白髪の青年へと、期待に満ちた眼差しを向ける。
「ねえ、天才くん……。」
ケイトの呼びかけは途切れた。タカヒロが突然、一人でブツブツと呟き始めたからだ。
「ユウキ・タカヒロ……いや、違うな。もうあの名前は使いたくない」
彼は天井を見上げながら、指先でトントンと顎を叩いている。
「『キング』なんてどうだろう……?」
ヴィオラ、ケイト、ウチ、そしてヴィオラの両親は一斉に首を向け、ポカンとした虚無の表情でその青年を見つめた。
「ああっ!やっぱり似合わないな……。」
ケイトの顔が一瞬でこわばった。首に青筋を浮かべながら、ビシッと青年の顔を指差す。
「あんたねぇっ!」
ケイトは怒鳴りつけた。
「今、自分の名前を選んでる場合じゃないでしょ!このチームのリーダーになりたいなら、そのガキみたいな態度をどうにかしなさいよ」
ヨトは思わず吹き出してしまった。中年の男はクスクスと小さく笑い声を漏らす。一方、ヴィオラとウチは深い溜め息をつきながら、指で眉間を揉みほぐしていた。
タカヒロは気まずそうにヘラヘラと笑った。後頭部をポリポリと掻きながら、何度も謝罪を口にする。しかし数秒後、その間抜けな笑みはスッと消え去り、鋭い眼差しへと切り替わった。彼は静かに立ち上がる。
ゆっくりと、ヨトが茹でトウモロコシを置いた机へと近づいていく。タカヒロはズボンの後ろポケットに手を突っ込んだ。ケイトもウチもヴィオラも気づいていなかったが、そこにはべっとりと濡れた泥の跡が残っている。彼はそこから何かを取り出した。
「これを見てくれ」
彼は真剣な声で言い、泥だらけで枯れ果てた稲の苗をヨトの目の前に置いた。
「この苗は、田んぼに移された直後に死んだ。……原因がわかるか?」
ヨトは息を呑んだ。少し震える指先で、その苗をそっと拾い上げる。薄暗い居間の明かりの下でそれをくるくると回しながら、しばらくの間じっと観察していた。やがて、完全に行き詰まったような表情でタカヒロを見上げる。
「根の腐敗が原因で死んでるんだ」
タカヒロが沈黙を破って続けた。
「しかも、俺が見る限り、これは自然に起きたことじゃない。何者かが意図的に、土に化学物質を撒いたとしか思えない」
ヴィオラの眉間に深いシワが寄った。伝統的な農家である彼女にとって、『化学物質』という概念は到底理解できるものではなかった。
「根元の部分をよく見てみてくれ」
タカヒロはヨトの手にある苗の根を指差す。
「本来なら真っ白であるはずの根が、今は茶褐色に変色している」
ヨトは目を細めた。
「……確かに、もう白くはないな」
ヴィオラが父親のそばに歩み寄り、タカヒロを見つめた。
「根が茶色くなるってことは、どういうことなの?」
タカヒロは即座に返す。
「ヴィオラさん、俺は同じことを三度も説明する趣味はない。前に言ったことを自分で思い出してみるといい」
ヴィオラは呆れたように目を丸くした。
「ちゃんと覚えてるわよ。根腐れでしょ」
「ああ、その通りだ!」
一方、木製ベンチの隅で、ウチがゆっくりと立ち上がった。
「あのぉ、わたしですぅ……。」
ウチが可愛らしく口を開きかけたその瞬間、前方から別の声が飛んでくる。
「まだよくわかんないんだけど。なんで土の中で根っこが腐るのよ?」
ケイトが尋ねた。
タカヒロは赤髪の少女の方へと首を向ける。
「原因はいろいろあるんだが、今回のはどう見ても異常だ。根のダメージを致命的に悪化させるような、別の要因が絡んでる」
「全部、ちゃんと説明しなさいよ」
ケイトは素早く言葉を繋ぎ、腕を組んだ。
タカヒロの口角がわずかに釣り上がる。
「お前らにもわかるように言ってやるよ。長期間放置された水たまり、粗悪な土壌……それか、農薬や肥料の過剰な使用だ」
『肥料』という言葉を聞いた瞬間、ヨトがビクッと体を震わせた。
「……私の記憶が正しければ、肥料をやり過ぎたことなど一度もないはずだが」
ヨトが掠れた声で呟く。
タカヒロの顔に浮かんだ笑みが深くなった。点と点が線で繋がり始める。この家族以外の何者かが、意図的に彼らの畑をサボタージュしたことは明白だった。
「決まりだな!」
タカヒロが力強く宣言する。
「明日の朝、この謎をみんなで暴いてやる。一体誰が、この悲劇を仕組んだ黒幕なのかをな。」
ウチ、ヴィオラ、そしてケイトの三人は、一斉に力強く頷いた。明日、彼らはヴィオラ一家の畑に潜む悪の根源を暴くため、共に動き出すのだ。




