第22章:戻ってきた温もり
ヴェリア村の夜風が再び冷たく吹き抜け、静まり返った田んぼをなでていく。もう一度植え直すという絶対的な決断が下された後、タカヒロと三人の少女たちは、その不作の地を後にした。
二度と滑って転ぶことのないよう、お互いに十分な距離を保ちながら、あぜ道を一列になって進んでいく。先頭を歩くのはヴィオラ。その後ろを、ケイトにぴったりと挟まれる形でウチが歩く。正式な夜道の訓練でも受けているかのように、慎重な足取りだ。そして一番最後尾を、未だに少し足を引きずりながらタカヒロがついていっていた。
白髪の青年は、目の前を行く三人の少女の背中をぼんやりと見つめていた。夜空の下、こうして並んで歩く仲間の姿は、否応なしに彼の記憶を元の世界へと引き戻す。かつて親しい友人たちと一緒に温かな家路についた、あの懐かしい日々の記憶へと。
時折、星が散りばめられた暗い夜空を見上げるたび、彼の唇から微かな呟きが漏れた。
『みんな……会いたいよ……』
自分でも気づかないうちに、張り詰めていた心の糸が切れた。一滴の涙が静かに頬を伝い、傷口を覆う包帯の繊維へと吸い込まれていく。
彼のすぐ前を歩いていたケイトは、不意に漏れ聞こえた鼻をすする音を捉えた。眉をひそめ、横目でチラリと後ろを振り返る。
(……何、泣いてんのよ?)
怪訝に思ったが、声をかけるのはやめておいた。プライドを守ろうとしているのだろうと察し、今はあぜ道を進むことに集中する。
だが数秒後、気にしていない振りをしようとすればするほど、涙を堪える彼の荒い息遣いがはっきりと耳に届いてしまう。先頭を行くヴィオラの合図もないまま、ケイトは突如としてその足を止めた。
物思いに耽っていたタカヒロは、その急停止に全く気づかった。避ける間もない。
ドンッ!
彼の体はジョーの長女の背中にまともに衝突し、衝撃でケイトの体が数歩前へと押し出された。
ぶつけた鼻を押さえながら、タカヒロは困惑した表情でケイトの背中を見つめた。まだ悲しみの名残で震える声が漏れる。
「急に立ち止まるなよ」
言いかける前に、ケイトがくるりと百八十度振り返った。まるで手のかかるガキを諭す大人のように、深いため息をつく。
「ちょっと、いつまで泣いてんのよ!」
ケイトはすかさず両手を腰に当て、彼を咎めるように言った。
核心を突かれたタカヒロは、ひどく慌てた。大急ぎで目尻を拭い、何事もなかったかのように必死で無表情を装おうとする。
「な、泣いてなんかねぇよ」
挙動不審になりながら、彼は早口で言い返した。
意地を張る青年の姿を見て、ケイトの構えが変わった。腰の手を下ろし、今度は胸の前で腕を組む。
スッと片目を閉じ、まるで人間の苦しみの根源をすべて見通した預言者のように、これ見よがしにドヤ顔を浮かべた。
「すべての結果には原因があるのよ」
わざとらしく、芝居がかった優しいトーンで彼女は語りかける。
「まだ痛むのは分かってるから……だから、無理して泣き虫を隠さなくていいわ」
タカヒロの脳内は完全にフリーズした。友人たちへの恋しさと、ケイトのこの脈絡のないセリフに、一体何の関係があるというのか。赤髪の少女のあまりに的外れな態度に、彼は頭痛を覚えるように眉をひそめた。理解できない妄想に付き合うのも馬鹿馬鹿しくなり、タカヒロはため息をついて視線を逸らす。そして、まだ目を閉じたままポエマーになりきっているケイトの横を、無言で通り過ぎた。
「ヴィオラの家に着いたら、あたしがちゃんと……」
ケイトの言葉が宙に浮いた。目を開けた時には、話し相手だったはずの青年はすでに目の前から消え去っていたのだ。
さっきまでのドヤ顔は一瞬で崩壊し、額に青筋がくっきりと浮かび上がる。彼女は勢いよく振り返り、何食わぬ顔で歩き去っていくタカヒロの背中を睨みつけた。
「てめぇ……!」
ケイトは怒りを爆発させて叫んだ。
「よくもあたしを無視しやがったな!」
タカヒロは完全に耳を貸さず、何事もなかったかのように歩き続けた。
先頭を歩いていたヴィオラとウチは、その怒鳴り声を聞いて肩越しに振り返った。その滑稽なやり取りを面白がりながら、ヴィオラがからかうような軽い調子で声をかける。
「おーい、天才くん。そんなやつ放っておきなよ。どうせすぐに大人しくなるからさ。」
傷口に塩を塗るようなヴィオラの煽りを聞いて、ケイトの血の気はさらに沸騰した。下唇をギリッと強く噛み締め、拳を真っ赤になるほど固く握りしめる。
◇◇◇
風が吹き荒れる暗い田んぼを抜け、小さな一行はようやく目的地へと到着した。
ここには貴族の遺したような豪華な建築などない。ヴィオラが紹介したのは、いかにも田舎らしい独特の香りが漂う、乾燥した泥の壁で作られた質素な家だった。彼女は歓迎の意味を込めて、みんなの方へと振り返る。
「あたしの家にようこそっ。これが自慢の……」
「ヴィオラ、その芝居がかったお出迎えはいいから」
家の主の言葉を遮るように、ケイトが素早く突っ込んだ。彼女は忙しなく首や腕にできた虫刺されの腫れを叩いている。
「もう、あたしの体が限界なのよ!」
ケイトのその苦しみに、ウチとタカヒロも心の中で深く同意していた。さっきから、飢えた庭蚊の大群に襲われ、耳元でけたたましい羽音が鳴り響いていたのだ。
(うぅ、お蚊さんたちが容赦ないよぅ……)
三人のゲストが蚊を叩きながら奇妙なダンスを踊っているのを見て、ヴィオラはこれ以上時間を無駄にしなかった。フンと鼻を鳴らすと、振り返って家のドアを押し開ける。
「どうぞ」
短くそれだけ言った。
ドアが開くと、まず目に飛び込んできたのは、居間で熱心に茹でトウモロコシを貪り食っている中年の夫婦だった。二人は、まさか自分の娘が夜遅くに、こんな見知らぬ客の大群を連れて帰ってくるとは夢にも思わず、ぽかんと口を開けている。
「父さん、母さん、紹介するね。この人たちは……」
ヴィオラが紹介を終えるより早く、母親は食べかけのトウモロコシを大慌てで土皿の上に置いた。
その女性は立ち上がると、実の娘の存在を完全にスルーして、目を輝かせながら真っ直ぐにケイトの元へと歩み寄る。
「あらぁ、ケイトちゃんじゃないの」
シルクのように滑らかな声で迎え入れる。
自分の目の前を母親が平然と通り過ぎていくのを見送りながら、ヴィオラは口を半開きにしたまま呆然と立ち尽くすしかなかった。
「さあさあ、中に入って」
母親はケイトの右手を取ると、そのまま居間の奥へと引っ張っていってしまった。入り口の敷居では、ウチとタカヒロがまるで門番の石像のように気まずそうに佇んでいる。
同時に、ヴィオラの父親もじっとしては居られなかった。男は急いでトウモロコシの食べ残しと散らかった机を片付けると、もっとまともなもてなしの品を用意するために厨房へと急いだ。
ケイトのような大歓迎は受けられなかったものの、ウチとタカヒロは促されるのを待たずに中へと足を踏み進めた。そして、蚊が中に侵入して宴を始めないよう、静かにドアを閉める。
現代の礼儀作法を身につけて育ったタカヒロの唇から、反射的に言葉がこぼれた。
「お邪魔します」
木のドアの閂がカチャリと閉まる音と、タカヒロの微かな呟きが、ヴィオラの母親の注意を引いた。女性が振り返ると、その両目が丸くなる。自分が放置してしまっていた、もう二人の若者の存在にようやく気づいたのだ。
ハッと我に返った母親は、慌てて席を立つとウチとタカヒロの元へと駆け寄ってきた。
「まぁ大変、ヴィオラったら……。お客さんを連れてくるなら、ちゃんと言ってちょうだいな」
ヴィオラはますます開いた口が塞がらなかった。母親の理不尽な物言に、痒くもない後頭部をぽりぽりと掻きながら、ただ苦笑いするしかない。
ケイトの時と同じように、ヴィオラの母親は今度はウチとタカヒロの両手を同時に掴み、木製のベンチへと座るよう急かした。
「さあ、上がって上がって。遠慮しないで、自分の家だと思ってくつろいでね」
次の瞬間、いつもはまるで生きる気配のないほど静まり返っていた泥壁の家が、若者たちの息遣いと賑やかな話し声で満たされた。
客をもてなすために忙しなく動き回りながら、母親は居間に集まる若い顔ぶれを愛おしそうに見つめていた。その胸に、じんわりとした温かい感動が込み上げてくる。
こんなにも家庭的な、温かい空気を家の中で感じるのは本当に久しぶりのことだった。最初の子供……ヴィオラの兄が都会へと出稼ぎに出て以来、彼女の心には常にぽっかりと穴が空いたような寂しさが付きまとっていたのだ。
その恋しさが消えることは決してなく、遠く離れた長男の健康を神に祈り続ける日々だった。
だが、少なくとも今夜だけは、ヴィオラの友人たちの存在が、彼女の心の中にあった空白を、ずっと恋焦がれていた温もりでいっぱいに満たしてくれていた。




