勝負に勝ったのに、人として何かを失った。
情けない姿でうなだれるユーシャ。
そして、それを睨みつける首領っぽい男。
「あいつも終わりだな・・・エータロー様に金借りるなんてよ」
「旅人だろ?地元の人間はまずしねぇよ。そんな恐れ多いこと」
こそこそと聞こえる噂話。
私は呼吸を整え、その男───”エータロー”に話しかけた。
「取り込み中、申し訳ない。そいつは私の知り合いだ。
割とどうでもいい知り合いなんだけど、見過ごすわけにもいかない。
許してやってくれないか?」
エータローは、体ごとこちらに振り向く。
「あぁん?なんだお前。代わりに返済してくれんのか?トイチだぞ?」
つま先から頭の先までじろじろと見て、ニヤリと笑った。
「悪いけど、こんなやつのために財布の中身を減らしたくない」
「金は払わねえが、謝るから許して、か?世の中そんな甘くねぇんだよ、嬢ちゃん」
「・・・そうだね、その通りだ。」
一呼吸置いて、続けた。
「提案がある。私と賭けをしよう。私が負けたら」
手のひらを向ける。
「五倍で返してやる。」
エータローは嘲るように笑う。心底見下したように。
「へっ!!随分気の強い女だ!いいのか?俺はギャンブルは手慣れてるぜ?」
ジャスが止めに入る。
「ランナさん!!やめましょう!!」
私は手でジャスを制する。
「・・・心配ない。
───だが私が勝ったら、あのパンツ一丁の借金をチャラにしてくれ。」
気づけば客たちは皆、私とエータローのやり取りを見ていた。
ジュークボックスの陽気な音楽だけが、尖る空気の中に響く。
「命知らずなヤツだ!いいだろう、こっちへ来な」
エータローはそう言って、椅子にドガッと座った。
目の前にはカードテーブル。
私は向かいに座る。
その場にいた客が皆、テーブルを囲み覗き込む。
「ポーカーで勝負だ。」
目の前の敵は、まだニヤニヤと笑みを浮かべていた。
随分余裕を見せつけてくれる。
「わかった。・・・リリア」
リリアはそっと横に立つ。
「何・・・?」
「ルール教えて。私はポーカーやった事無いんだ。」
客は一瞬静まり返り、どっと笑いだした。
「こいつ、気が狂ってんだ!」
「やったことないのに、どうやって勝つ気だよ!」
「ポーカーはね、トランプを・・・」
リリアは小さな声でルールを語る。
一通り説明を聞き、私は言った。
「よし、始めよう。」
手札がそろった。
エータローが見せる。
「・・・フルハウス。」
おぉ・・・!
歓声がどよめく。
エータローの横に立っている子分が言った。
「親分!今日は調子いいッスね!!」
「うるせぇ!」
私は裏返しになっている手札を並べ、黙って座っていた。
「お前の手札はどうなんだ?まさかビビって声も出ねぇか?
今更さっきのはナシ、とかは勘弁だぜ?」
手札を見せる。
口元にニヤリと笑みを浮かべた。
「・・・ロイヤルストレートフラッシュ。」
店内は静寂に包まれる。
「リリア、これ、強い役なんだよね?」
小声で聞くと、リリアは目を見開きながら何度も頷いた。
「勝負あり、だ。あのパンツを解放してもらおう。」
エータローは額に青筋を浮かべ、テーブルをバン!!と叩く。
「このイカサマ女め!!明らかにおかしいじゃねぇか!!」
「何が?」
私は顎の下で手を組み、冷静に聞き返した。
「一発でロイヤルストレートフラッシュなんか出るわけねぇだろ!!」
「そう言われてもね。出てしまった。」
私はジャケットを脱ぎ、シャツの袖をまくって見せる。
「イカサマかどうか調べてくれても構わない。
しかし、”相手を疑う時は、己にやましい事がある時”とはよく言ったもんだ。
イカサマはどっちだ?・・・左の袖、随分触ってたね」
「・・・あ?なんだ、別に、さわってねぇ、・・・」
首領はもごもごと言うが、キースがその左腕をつかんだ。
パラパラと、袖からカードが落ちる。
その様子を、メガネの奥から睨みつけた。
後方から、ユーシャの情けない声が飛んできた。
「ランチャーん!!女神かよオメー!!」
それが女神への口の利き方かよオメー。
ユーシャの縄がほどかれた。
「悪いが服も返してやってくれ。
こいつのパンツ、控えめに言ってなんかとってもすんごく見たくない。」
店内に口笛と歓声が飛ぶ。
勝負を見守っていた客たちは次々に声をかけたり、肩を叩いてくる。
「お前、やるじゃねぇか!」
「すげーな、一発でロイヤルストレートフラッシュなんて初めて見たぜ!」
居心地が悪い。
私はジャケットを羽織り、無言で外へ出る。
そして・・・頭を抱えてしゃがみ込んだ。
やっちまったあああああーーー何ドヤ顔してんだよぉぉお
あれじゃまるでラノベ主人公じゃないか、かっこつけて『勝負あり、だ』とか
痛い痛い痛い痛い、自分の存在が痛すぎる
・・・黒歴史だ・・・黒歴史更新だ・・・もう生きていけない
しばらくうずくまっていると、レイナが驚いた顔で声をかけてきた。
「ランナちゃん!どうしたの?大丈夫?」
「大丈夫。ちょっと調子に乗りすぎて・・・あぁ。」
「なんで勝てたの・・・?一発でロイヤルストレートフラッシュなんて・・・」
レイナに続き、ジャスとリリアもこちらに向かってくる。
「自分の運勢を見たら、これが出た。それだけだよ。」
戦車のカード、正位置。
行動力、積極性、征服、そして・・・勝利を示すカードだ。
「リリアが私のポケットを叩いたのは、タロットを使えって事だったんでしょ。
指先じゃなく、第二関節で叩いてた。」
「そうそう!」
「私の占いは外れる事は無い。だから、勢いに任せたというか・・・」
リリアとレイナは顔を見合わせた。
「勢いに任せて、無謀すぎる勝負に突っ込んじゃうって・・・」
「普段おとなしい分、リミッターが外れるとすごいね・・・」
「それより、恥ずかしかった・・・。全部あのパンツスラッシュ野郎のせいだ・・・。」
私はまた頭を抱える。
「神よ・・・。ランナさんを救ってくださってありがとうございます・・・」
ジャスは空に向かって祈りを捧げていた。
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またドアが開く。そしてあの騒がしい声が耳をつんざいた。
「ランチャーーーーん!!!やるじゃんオメー!!」
「オメーオメーうっせぇんだよ、オメーは」
頭を抱えたまま答える。
お前が馬鹿な事をしなければ、今頃部屋でゆったりと・・・。
キースは頭を下げた。
「・・・助かった、ありがとう。・・・頭痛か?」
「冷静になったら、恥ずかしくなっちゃったんだって」
リリアが皆に囁く。
「まじぃ!?おーーーまえ、可愛いとこあーーーんじゃーーーーん!!俺は口説かねぇけど」
本当に頭痛がしてきた。
喉元過ぎれば・・・って、こういうヤツの事を言うんだろう。
またドアが開く。
「ウェッ!?」
ユーシャは奇妙な声を上げた。
エータローだ。
奴は私を一睨みし、つかつかと暗闇の先に歩いていった。
奴の子分が二人、私の前に立つ。
「親分がお呼びだ。来い。」
「なんだよ。まだ何か・・・」
一人の子分が力ずくで私を立たせ、もう一人の子分が私の背中を蹴り飛ばす。
「落とし前つけてやるんだとよ」
ヒッヒッヒ、と嫌な笑い声を浴びせながら言った。
「さっさと歩け!」
ユーシャ、キース、レイナ、リリア、ジャス。
その場にいた誰もが、顔を青ざめさせている。
「ね、ねぇ、勝負はついたじゃない。落とし前って、何よ!」
レイナが声を震わせながら言った。
「それとこれとは話が別だ。
親分は客どもの前でイカサマだと言われて、心底傷ついたんだってよ」
「そんな、だって実際に・・・!」
「親分の心はデリケート。優し~くしなきゃ、すぐ傷ついちまう。
傷ついたらどうなるか・・・わかるよな?」
・・・なんて厄日だ。
私は抵抗をやめて、おとなしく彼らに連行された。
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「どうしようランナが・・・。えっ?」
「おい、やめとけって!!お前が行ったって」
「・・・ちょっと!!」
水色の法衣がひるがえり、人混みの中を駆け抜けていった。
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街の端から狭い階段を降りると、そこは砂浜。
真っ暗な海を背に、エータローは立っていた。
「ヘイ、レディー。さっきはありがとよぉ」
私はうんざりした表情を浮かべる。
レディーって。
「・・・どこがデリケートなんだ。傷ついてるように見えないよ。」
「いやぁ?あんな大勢のお客さんの前で恥かかされて、傷ついてんだぜぇ?誰のせいか?」
子分は私を羽交い絞めにし、エータローが私の両頬を親指と人差し指ではさむ。
「・・・お前のせいだ。どうしてくれる?あぁ?」
「随分芝居がかってるなぁ。映画に出てくるマフィアみたいだ」
「うれしい事言ってくれるねぇ。そうだ俺はただのチンピラじゃねぇ。
この街の裏の裏を取り仕切る男、エータローだ。まさか知らないとは言わないよな?」
「悪いけど、知らない。この街に来たのは昨日・・・」
「うるせぇ!!」
エータローは私の腹を蹴る。
「・・・知らないだと?また傷ついちまったぜぇ。こりゃなかなか立ち直れねぇなぁ」
もう一発。
「ぐぅっ・・・」
なんて事してくれるんだ。
ただでさえ、いろんな羞恥心で吐き気がしてたのに。
だが、今日の私の運勢は”戦車”。
止まる事を知らない。
「そんなヘタレな蹴りだから、失恋を繰り返すんだろう。」
「んだと!?調子にのりやがっ・・・」
胸ポケットの中の玉子寿司キーホルダーが光りだす。
「うわ!」
「なんだ!」
子分たちが驚いて手を離した。
「ランナさ・・・」
───エータロー達に混ざって、誰かの声が聞こえたけど、まぁいっか。
「消えたぞ!どこだ!!」
エータローたちは周囲を見回す。
「・・・ここだ。本物の蹴りを教えてやる」
二度目の変身は、無事成功した。




