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助かったはずなのに、全然助かってない・・・私だけ。

拉致された”救い主”を追いかけ、がむしゃらに走った。

人混みをかきわけ、探す。きっと一目の無い場所だ。


見つけた。

砂浜に、エータローと名乗る悪党と、その子分が四人。


あの男どもに捕らえられていたはずだ。

だけどランナさんの姿はどこにも無い。


悪党たちも、きょろきょろと周囲を見回している。

上手く逃げたのだろうか。



───その時



青白い満月を背に、黒いシルエットが舞う。


「まさか・・・やっぱり・・・」

その姿を見て、言葉が口をついて出た。



「だ、誰だお前・・・!」

エータローが問う。



「死使いの魔女戦士───ブラックローズ」



参戦が許される場ではない。

それはすぐにわかった。


ただ、見惚れていた、不敵に微笑むその姿を───。



_________




「お、・・・お前ら何してんだ!さっさと片付けろ!」

エータローの怒号が飛ぶ。


「だ、だけどよ親分・・・」

最初の威勢はどこへやら。


まさかあの瘦せっぽちの女が『変身』して蹴り飛ばす、なんて想定外だったんだろう。


「足にコンクリート巻いて沈みてぇのか!」


再び飛ぶエータローの怒号。

随分物騒な事を言う。


それを聞いた子分たちは肩をびくりと震わせた。

エータローという男は、そこまでの事をやってきた。

彼らのビビりようから、嫌でもそれが伝わってくる。


「行け!!」


子分たちは腰元に携えてた短剣を抜き、突進してくる。

だが無我夢中に振り回してくるだけで、大して脅威にも思えない。


振りかざした短剣を払い、胸を蹴り飛ばす。

「かはっ」


「一人、無力化」


背後に回った一人。

きっと背中から一突き、を狙ったのだろう。

蹴り上げたと同時に額を肘をみぞおちに入れる。


「二人目、無力化」


「調子に乗りやがってこの女ァ!!」

三人目が短剣を振り抜く。


身をずらし、その腕を紙一重でかわし踏み込む。

「・・・遅い」


地を蹴り宙へ跳び、太ももと脛で首を挟み込む。

体をひねり、自らの体重を乗せて一気に引き倒した。

「ぎゃっ・・!!!」


「三人目、無力化」



「嘘だろ・・・」

最後の一人が呟いた。倒れた三人を見ながら。


ガクガクと震えながら、何事か呟いている。

「殺される・・・でもここで逃げたら、海に、コンクリートで・・・」


「殺しはしない」

私がそう言うと、男は微かに期待の目を向けてきた。


「でも残念ながら」

顔面に向かって足を振る。

くらった衝撃で体が吹っ飛び、そのまま起き上がらなかった。


「見逃してやることもできないね」



あの獰猛な熊を倒せたんだ、相手が人間なら大した事はない。

結果───子分四人を一瞬で沈めた。



エータローは青ざめた顔で立ちすくみ、引きつった笑みを浮かべる。


「ま、待て、俺が悪かった、何でも欲しいもん買ってやるから」


一歩、二歩、ゆっくりと近づくと

エータローも同じように後退する。


「か、金ならいくらでもやるって・・・」

ばしゃ、エータローの足が波を踏んだ。


「黙れ」


エータローはひいっと情けない声を上げ

足首が浸かるほどの海の中をばしゃばしゃと走って行く。


「さっき、裏の裏を牛耳る、と言っていたね」


「そ、そうだ、俺は・・・」


「つまり、表を牛耳ってるってわけだ。

おかしいなと思ったよ。この街の無駄な明るさ、ちぐはぐな色使い。

貼り付けたような笑み。・・・全ては、お前のせいだったんだな」


エータローは尚も逃げ続けようとするが

逃げようとすればするほど海の中に走って行く。


海水に足を取られうまく走れずにいるその姿は滑稽だった。

馬鹿だなぁ、砂浜を走ればいいのに。


「宣言通り、本物の蹴りを見せてやる」


エータローの前に素早く回り込む。


「わあっ!!」

情けない悲鳴と同時だった。


軸足に力を込めて蹴り上げ、その勢いのまま宙返りする。

サマーソルトキック。


大きな水しぶきが跳ね上がり、月明かりの中に落ちていく。



失神したエータローを砂浜に引きずり上げ


「さて、・・・帰・・・」


帰るか、と言いかけた時

街と砂浜を繋ぐ階段の途中から、視線を感じた。



水色の法衣、手にもった槍、法衣よりも少し淡い水色の髪の毛。



───ジャスが、こっちを見ていた。



一瞬で血の気が引いた。


バレてはいけない、バレたら私は

『変人占い師』の肩書を捨てて『変態暴力系女子』の烙印を押される。


ジャスはゆっくりと階段を降りてくる。

駆けつけるでもなく、一段一段をゆっくりと。


「・・・・。」

逃げればいいのに、何故か足がすくんで動かない。


ジャスのその眼差しには探りも期待も好奇心も無かった。

正体がなんであれ、ただまっすぐ───『私』を見ている。


そして彼は、私から三歩ほど離れた位置で立ち止まった。



「───また助けられてしまいましたね」


なんと返事すればいいのかわからない。

ただ、冷や汗で背筋が冷える。


「本来ならば僕らの仕事なのに」


そうだ、本当ならばこういうのは勇者一味の為すべきこと。

手柄を横取りもいいところだ。


だが、ジャスの言葉には責める色は一切見えない。

それどころか。


「前回の熊退治といい、今回は街まで救ってくださって、ありがとうございました」

ジャスは胸に片手を当て、頭を下げた。


ちゃんと頭を下げて、礼が言える僧侶。ジャス。

ユーシャと真逆なのに、何故彼らと同行しているのか。心底謎だ。


「私は・・・ただ、巻き込まれただけで」


頭を上げたジャスは、ほんの一瞬鋭い視線を見せた。


しまった。

”巻き込まれただけ”───それはランナの話だ。



「失礼ですが・・・ランナさんではありませんか」



心臓が跳ね上がる。

まさか、戦闘二回目でバレてしまうなんて思わなかった。


「・・・。違う」

その一言を喉の奥から絞り出すので精一杯だった。



波の音が穏やかに響き、小さく風が吹く。



二人、しばらく黙ったが、ジャスが口を開いた。

「そうですか。わかりました」


「・・・?」


「いろいろと事情がおありなのでしょう。詮索はやめておきます。ですが」


「・・・・」


「無理はなさらぬよう、お気をつけてください」



そう言ってジャスは背を向け街に戻っていった。


「隠し通せた・・・!」


背後の穏やかな波の音が、体のこわばりを静かにほどいていった。

安堵の波が押し寄せ、変身を解いていく。



_________



翌朝、街は活気に満ち溢れていた。

以前とは違う、本物の活気と笑顔。

エータローが牛耳っていたという読みは、あながち間違いでもなく

それどころか、的の中心を当てていた。


多くの人が掲示板を見て、目を輝かせる。


『港町ラファクタの救世主!ブラックローズ様を探しています!

どんな情報でも構いません。町長』


横に立つリリアが、にやにやしながら覗き込んでくる。

「本人を見つけたら礼金100万だって」


「やめてくれ」

リリアの額に指先を当て、引き離した。


そこへ、あの声が飛んでくる。


あの間の抜けた、常に声でかい系男子ユーシャ。

「おっはよーう!!リリアちゃん今日もかわうぃーね!っぱパネェわーー!!

・・・あ、ランチャーん無事だったんだ、身代わり乙!!

っつかアレにおとなしくついてくとかヤベーだろ。

俺だったらあそこでユーシャスラッシュぶちかますわ」


諸悪の根源が何を言う。

アレに金借りるお前の方がヤベーし、ヘタレ技ぶちかますって、それ煽りだろ。


キースが静かに横に立ち、ユーシャの頬をつねった。

そして


「ユーシャが迷惑をかけた。本当に申し訳ない。無事でよかった」


さすが寡黙な戦士キース。礼儀をわきまえて・・・

いやこれが普通だ。


「首突っ込んだのは私だ。気にするな」

真っ向から謝られると、それはそれで居心地が悪い。

つい目を逸らしてしまった、が。


少し離れたところ、目を逸らした先に水色の法衣が視界に入る。


「・・・!?」

しまった、思いっきり動揺してしまった。


追い詰めず、事情がある事を察っし自ら去る僧侶。

一瞬目が合ったかもしれない。



頬をつねられていたユーシャが、突然掲示板に張り付いた。


「え。ブラックローズが出たの!?なんだとおおおおお!!??

ランチャーん!!お前エータローに拉致られてたよな!って事はブラックローズに」


小さく頷き、答える。

「あぁ、助けてもらった。だから無事だ」


ユーシャは落胆を隠さず、囁くように言う。

「オメー・・・抜け駆けはずりぃよ・・・」


「お前、声量調節できるんだな」

驚いてツッコんでしまった。


「うおおおおおお俺も会いたかったぜ!!!

つか絶対会う!!!俺はブラックローズを探す!!!」


キースが呆れて静かに制す。

「魔王討伐が俺たちの目標だろう・・・」

「真面目か!!お前、世の中金と女だろ!!」


ある意味想定外の返答。ただ、思ったよりクズだ。

そこまで開き直れる事、いや自分に正直なのは才能かもしれない。

「どんだけクズ思考なんだお前は・・・」


キースが助けを求めた。

「ジャス、なんとか言ってやってくれ」


だが

返ってきた言葉は、全くの『想定外』のものだった。


「ブラックローズ探しの旅、いいと思いますよ」



一瞬、誰もが沈黙した。

ジャスの横に立っていたレイナも目を丸くしている。


「お・・・お前・・・お前は・・・お前も?」

その問いに答えず、目を伏せている。


ユーシャの声は異常なほど大きくなる。

「渡さねぇから!!俺のブラちゃんだから!!お前には負ける気がしねぇ!!」


ブラちゃんて。いや略せばそうかもしれないが。

いつもの穏やか(?)な会話。

そう思い込んでいた私は、大きな隙が出来た。


そこで、予期せぬカウンターがユーシャの心を殴る。



「さぁ・・・?それはどうでしょうね」

「は・・・?」



「僕は昨日お会いしましたけどね。『ブラックローズ』さんに」



そこにいる全員の目が点となった。


それを見たユーシャは震えた。

恐怖だったのか羞恥だったのか武者震いなのかはわからない。



「砂浜での戦闘、水しぶきが舞い『美しかった』ですよ」



ジャスは小さく微笑み

「街を出る支度をしてきます」

そう言って、雑踏の中を去って行った。



「おま、あいつ、なんだって?なんだって・・・?俺のブラちゃんに」

一介の僧侶の気迫に、完全に負けている。


レイナは口に手を当てて呟く。

「まさか、あのジャス君が・・・宣戦布告?」

キースも腕組みし呟いた。

「・・・レアなもんを見たな」



「ランナ、大丈夫・・・?」

リリアが囁いてくる。


私の胸ポケットの中の小さなキーホルダー。

玉子の寿司の形をした、ふざけた呪いのアイテムだと思っていた。


あれはただの宣戦布告ではない。

私への”挑発”。バレている、完全に。


「私たちも行こうか、リリア」

かすれた声しか出なかったが、リリアには聞こえたようだ。


「うん。レイナ、キース、また会おうねー!」

さすがのリリアも、少々声が上ずっていた。



勇者御一行を追う旅が、追われる旅へと変化した瞬間だった。

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