無関係の他人でいたかったのに、また振り回される。
突如舞い込んだ賑やかな『お食事会』の誘い。
リリアは声を弾ませ、二つ返事でOKした。
「行く行く!ね、ランナ!!」
声を弾ませ、同意を求めてくる。
人付き合いの苦手な私は、口元を引きつらせる。
「リリア、いっといでよ。私は、一人が、その」
「何言ってんの!一人でレストラン行けるの?注文の仕方は?メニューわかるの?」
「ば・・・」
馬鹿にするな!と言いたいところだったが、私は外食の経験がない。
「みんなで食べるご飯、おいしいよ?ね、行こうよ!
ランナは一人でこもってたら、ナッツやジャーキーくらいしか食べないんだから」
リリアは私の背後に回り込み、背を押してくる。
前方には開いたドア。そしてそこに立ち微笑んでくるレイナ。
「そうだよ。私たち年齢もきっと近いし、友達になりたいなって思って」
「ありがたいお誘いじゃん!ほらほらぁ」
「わかった、わかったから押さないでって・・・行くよ」
_________
「おー!こっちこっち!!」
ユーシャは席を立って手を振った。
まるで海賊が占領してそうな、大衆居酒屋。
店内は騒々しく、ある程度声を大きくしないと会話も難しい。
「リリア、あのホテルの一階にレストランあったんじゃ・・・素泊まりにしたの?」
レイナは小さく舌を出し
「あのレストラン、ユーシャのせいで出禁にあっちゃって!てへ☆」
こめかみあたりに、こつん、と拳を当てた。
リリアはうんうん、と頷き
「だから、レストランキャンセルしといた!これぞ友情ーって感じぃ!」
「それマ?リリアちゃん、尊すぎ!!まじ卍ー!」
リリアとレイナは、浮かれた様子でハイタッチした。
・・・まじ卍は、もう古い気がする。
いつの間にか、この二人のあいだに友情が芽生えてる。それは良しとして。
なんで私までレストランディナーおあずけなんだよ。
リリアとレイナが彼らのテーブルに近づき、席についた。
仕方なく、私も彼らのテーブルに向かう。
「あ!なんだお前も来たのか!チックショー!」
チックショーって。どこかの顔面白塗り芸人さんもビックリだ。
「賭けは俺の勝ちだな、ユーシャ」
キースは悔しがるユーシャからコインを受け取る。
・・・こいつら、私が来るか賭けてやがった。
「別に、部屋でジャーキーかじるだけでも良かったんだけどね」
私なりの精一杯の嫌味。
「・・・それは、ダメです。食事はちゃんと摂らないと」
「ジャス君ってばやっさしー!さすが僧侶!」
ジャスの言葉にレイナが絡む。
優しいというか、常識だとも思うが。
「それじゃ、再会に!カンパーイ!!」
4つのグラスがテーブルの中央でぶつかる。
私はカンパイを控え、ジャスは食事前の祈りを捧げていた。
「おっまえ、相変わらずくそ真面目だなー!酒飲んだことないの!?」
ユーシャがビールを喉を鳴らしながら飲み、やっと祈りを終えたジャスに絡む。
「僧侶はアルコール禁止です。」
「誰もみてねーんだからさ、いーじゃん、ちょっとくらい!!」
ジャスの肩に腕を回し、絡み始める。
ユーシャのウザ絡みに慣れているのか、ジャスは眉一つ動かさない。
「なぁキース!!この後となりのカジノ行こうぜ!
さっきセクシーなバニーちゃんがちらっと見えたんだよ!
っていうかセクシーって言えばさ!!」
ずっと話しっぱなし。こいつが黙るのは食べ物を口に入れた時くらい・・・
いや、それも怪しいところだ。
「今日の熊退治手伝ってくれた、あの女めっちゃエッチじゃね!?」
私は、手にしていたナイフとフォークを止める。
「あぁ、ブラックローズと名乗っていたな。強かった」
「強かったけどさ、めっちゃエッチだったよね!?」
レイナが会話に入る。
「あの人、熊退治の報酬を受け取りにこなかったから、私たちがもらっちゃったし。
良かったのかなぁ」
「オーーールオッケーー!!ってかめっちゃエッチだったよね!あの子俺好みだわーー!」
冷や汗が浮かんでくる。
表情を取り繕うので精一杯だ。
「へぇー、そんな事あったんだぁ!びっくりだね、ランナ!」
リリアはニヤニヤと笑い、私の顔を覗き込んだ。
・・・こいつ、絶対楽しんでやがる。
「お前、レイナ口説いてたじゃないか」
キースはつっこむが、ユーシャが負けるわけがない。
「俺は可愛い子はみんな口説くよ?
レイナもリリアちゃんも。あ、ごめんなランチャー、じゃなかった、ランナ!」
誰がロケランだ。無限弾でオーバーキルしてやろうか。
「でも、あのブラックローズって何者なんだろうね」
レイナが言うと、それに反応してキースが呟いた。
「黒の薔薇か・・・それにしてもあの蹴りは、かなりのものだった。
武道の達人で間違いない。」
いち早く食事を済ませた私は、席を離れる。
「ごちそうさま。先に部屋に戻るよ。」
「おー!まったなーランチャーん!!」
「えーもう帰るのー!?」
ギャーギャー騒ぐ奴らを置いて、店を出る。
・・・みんなで食べるご飯が不味いわけじゃない。
大きな音や声。そして人混みも苦手。だけど、そうじゃなくて・・・
ブラックローズの話題が出て、吐きそうだった。
タイムリーだし、仕方ないけどさ。
ホテルへ帰る途中、ふと足を止める。
少し高台に位置するホテル周辺は、街全体を見下ろす事が出来る。
看板のネオン、光るイルカのオブジェ、おしゃれな街灯。
夜景なんて全く興味が無かったが、こうして見ると悪くない。
さっきは肌寒かった夜風が、気持ちいい。
1杯だけ、ワインを飲んだからかな。
「あの、こんばんは」
声のした方を見ると、ジャスが立っていた。
「・・・こんばんは」
「彼らが無理を言ったようで・・・すみません。夕食、お付き合いさせてしまったみたいですね」
「大丈夫だよ。」
私は視線を街の景色に戻す。
気づくと、ジャスは私の顔をじっと見ていた。
「・・・なんだ?」
「今日、ランナさんは、ずっと街に?」
「あぁ、まぁ・・・何故?」
「彼らの会話、聞きましたよね。正体不明の女戦士が助けてくれました。
あの方が来なければ、僕たちは全滅していた」
私は、ただ黙って聞いているしかなかった。
「・・・その女戦士に、礼を言いたく思います」
ジャスはふっと目を逸らした。
「へぇ。」
二度と変身したくないのが本音なんだがね・・・。
「それでは、お先に失礼します。おやすみなさい」
ジャスはホテルに向かって行った。
「・・・おやすみ」
一応返事をした。聞こえていないだろうけど。
_________
酔い醒ましも済んだし、私もホテルへ向かおうとしたその時。
「あ!!いた!!ランナ助けて!どうしよう!!」
突然けたたましく聞こえた叫びに、ランナは驚いた。
血相を変え、リリアが走ってくる。
「どうしたの?」
「ユーシャがカジノで・・・」
またあいつか。
「あの、何があったんです?」
リリアの悲鳴に近い声が、ジャスの耳にも届いたのだろう。
踵を返し、こちらへ戻ってきた。
「大変なの!とにかく一緒に来て!!」
私とジャスは目を合わせ、リリアの後を追いカジノに向かう。
───扉を開けると、色とりどりのネオンが目に飛び込んできた。
赤い絨毯の上には円形のルーレットテーブル。
緑色のフェルトが敷かれたカードテーブルには、勝負師たちが集まっている。
壁際にはスロットマシンがずらりと並び、派手な電子音を鳴らしていた。
隅ではジュークボックスが陽気な音楽を流している。
場にふさわしく着飾った客たちが、夢と希望を抱いて訪れる場所なんだろう。
だけど・・・
勝利に歓声を上げる者。
負けて頭を抱える者。
人生いろいろだ。
「あら、失礼~♪」
バニーガール姿の店員が、トレイにカクテルを乗せ、通り過ぎて行った。
・・・目のやりどころに困る。
そんな賑やかな店内の隅で。
───ユーシャはパンツ姿で、縄で縛られ、正座させられていた。
お前、さっきもホテルのロビーで正座させられてたよな。
ユーシャの目の前には、いかつい男が立っていた。
風体はまるで、裏社会の首領。
白いスーツに、オールバック。やたら長いマフラーを垂らし、葉巻をくわえ・・・。
「お前も脱げ。その鎧も、二束三文だが、金になるだろう」
その男が、ユーシャの横に立つキースに言った。
「あ、ランナ・・・!」
レイナがこちらに気づいた。だが。
「動くな!てめぇもこいつらの仲間だろう。どうしてくれるんだ?あ?」
その男に怒鳴られ、レイナの足は止まる。
「リリア、これはどういうアレなの?」
私は呆れて言う。
「その、・・・借金しちゃったみたい。ユーシャ・・・」
「はあ?」
「負けて全財産スッて、あの裏社会の首領っぽい人に借りて、負けを取り返すって・・・」
で、借りた金も無くなって、身ぐるみはがされ”あのザマ”ってわけか。
「で、これを私にどうしろと・・・自業自得でしょ」
リリアは信じられない、という顔で私を見る。
「助けてあげないの!?正義のみか・・・むぐぐ」
慌ててリリアの口を押さえる。
「で、どうすりゃいいんだよ。私にはどうにも出来ない。」
「ランナなら勝てるでしょ!ユーシャは助けなくていいけど、レイナとキースを助けて!」
「リリアちゃあん、そんなぁ」
ユーシャは情けない声をあげるが、首領さんに睨まれ、小さくなる。
「私は賭け事なんかやったことがない。勝てるわけないで・・・」
リリアは私の上着のポケットを指の関節で叩いた。
そういう事か・・・。
「・・・わかった。」




