せっかくクール系占い師としてやってきたのにさ!
『ランナの百発百中ガチ占い』
これはリリアの思い付きでつけられた店名だ。
どうせ私の占いなんか当たるどころか、かすれもせず、客なんかこないだろう。
そう”たかをくくっていた”が、下手に当たってしまうから困ったものだ。
リリアは張り切って言う。
「1名様ごあんなーい!」
・・・ファミレスじゃあるまいし。
私はテーブルに頬杖をついて不貞腐れていたが、居住まいを正す。
せっかく来てくれる客に、ふざけた態度をとるわけにはいかない。
ドアが開き、しょげた顔をした女性が部屋に入ってきた。
「おかけください」
自分の座る真向いの席へと促す。
「何を占いましょうか?」
着席した女性に、営業スマイルを向け問いかける。
接客態度にはこだわりがある。
特に笑顔は鏡の前で随分練習した。
我ながら、よくできた職務態度だ。
「好きな人を・・・家に呼んで一緒にティータイムを楽しみたいんですが、どうしても来てくれなくて・・・」
「ほう。」
「なんでなのか、どうしたら来てくれるのか、悩んでて・・・」
客のほとんどは恋愛相談だ。
”恋をする”───そんな経験をした事がない私は、一切共感が得られない。
占い師としては致命的な弱点かもしれない。
っていうか、そんな共感性0の占い師より友達とかに相談すればいいのに。
私はタロットカードをガガガガッと高速で切る。
そして2枚引いた。
出たのは”塔”と”死神”のカード。
女性はカードを見て、目に涙をためた。
「やっぱり!ダメなんですね、脈なしなんだ・・・!!」
「うーん・・・。もしかして、その想い人さんは、あなたの家の入口までは来た事がある?」
「・・・はい」
「入口まで来て、帰っちゃったんだね?」
「・・・・・はい」
「この塔のカードは、その時の想い人さんの、落下したような、雷に打たれたようなショックを現している。そして、この死神は・・・」
ちょっと待ってね、そう言って私は目を閉じた。
この死神はなんだ?何を現している?
きっとこれが答えだ。
脳内にビジョンが浮かぶ。
(うわぁ・・・これはひどい)
カップ麺の空容器が積み上がり、開封済みの菓子袋がそこら中に落ちている。
缶チューハイの空き缶がずらりと列を作り、洋服は脱ぎ散らかされ、足の踏み場も無い。
世にいう汚部屋というものだろう。
よくこの状態で想い人を家に呼ぼうと思えたものだ。
(だが、死神というのは違う気が・・・)
意識を集中させて、部屋の中をさらに詳しく視る。
その時、───黒い影が小さく動く。
(あ、あ、あ、・・・・)
私は全身の血の気が引いていくのを感じた。
「バルサン!!!バルサン焚いて!!!」
気が付けば、私は絶叫していた。
念を飛ばして室内を視ていたというのに『死神』は私をめがけて飛んできた。
「バルサン・・・て、何ですか?」
女性はいぶかし気に私を見る。
リリアも心配そうに見守っていた。
「黒き災厄を滅ぼす秘術だ・・・薬草を焚く事により出た煙で”死神”を追い払う。
これが解決への第一歩」
女性は不安そうに問う。
「第一歩・・・それが終わったら、次は?」
私は頭を抱えて、息も絶え絶えに答えた。
「・・・しっかり掃除をしてください。」
女性は顔を赤くし、無言で頭を下げると鑑定料を支払い出て行った。
リリアは私の背をさすりながら顔を覗き込む。
「ランナ・・・大丈夫?次いける?」
私は大きく深呼吸をした。
「・・・大丈夫。ちょっと取り乱しただけ。ごめんね」
「よほど恐ろしい死神が視えたんだね・・・」
リリアの言葉から先ほどの災厄を思い出し、身震いする。
お願いだからその話はもうやめて。
改めて香を焚いて(バルサンでは無い)、水を一口飲む。
「よし、もう大丈夫。次のお客さんお願い」
「はーい!4名様ごあんなーい!」
4人?
随分多いな。
そう思いながら入口を見ていると、客がぞろぞろと入室した。
4人中、3人は男。
1人だけ女性だ。
「リリア、椅子を用意して」
そう言いかけたが
「あ、大丈夫です。視てもらうのは私だけなんで」
白い法衣を着た美しい女性が言った。
「そーそー!俺たちは付き添いだし。むしろイカサマじゃねぇかいろんな角度から見てたいんでぇー」
3人のうち、チャラい男が言った。
「ユーシャ、失礼だぞ」
もう一人の、筋骨たくましそうな男がたしなめる。
「わりぃわりぃ!でもンな事言って、キースも興味あるんだろ?イカサマのコツ!」
チャラい男”ユーシャ”と、屈強な男”キース”。
「私たち、魔王を倒すために旅をしているんです。
この先の旅がどうなるか、運勢を占ってもらおうと思って!」
席に腰かけた女性が明るく言った。
「ついでに、私の運命の相手も占ってもらいたいな」
「レイナ!お前には俺がいるだろ!?」
ユーシャと呼ばれた男が声をあげる。
ユーシャ、キース、レイナ。
あと一人。
水色の法衣に身を包む、槍を持った青年。
部屋の隅で佇み、彼らの会話を見ている。
私の視線に気づいてか、レイナが言った。
「あ、ジャス君。ジャス君もこっちにおいでよ。みんなで占い見よう!」
まるで保育園児と、世話役の先生だ。
「・・・僕は大丈夫。ここからでもよく見えるから」
”ジャス”と呼ばれたその男は、小さく答える。
私は一つ咳払いをし、高速でカードを切る。
「うおおお!すげぇ!はえぇ!!”百発百中のガチ占い”って、本当にガチじゃね!!?」
いちいち騒ぐこのユーシャとかいう男。うざい。
「占い結果見ないと、ガチかはわからないだろう」
キースが静かにつっこむ。
「もーうるさい!アンタたち静かにして!」
レイナが注意をし、ジャスが黙って私の手元を見る。
静かにカードを一枚引く。
その瞬間4人は一斉に静まった。
私はカードをつまんで、彼らに絵を見せる。
「”愚者”のカードだ。
無限の可能性にあふれた存在。好奇心に満ち、新たな旅を始める。
君らの底抜けな明るさが旅を成功させるカギかもしれないね。だけど」
私はメガネの奥から彼らを睨んだ。
「少しは賢さをあげたらどうかな。私の仕事場で馬鹿騒ぎはやめてくれ。」
レイナは申し訳なさそうに何度も頭を下げ、支払いを済まし『付き人』を連れて出て行った。
ユーシャは最後までブツブツと文句を垂れていたが。
その夜。
閉店後の後片付けを終え、私は一人、小屋から出て夜風にあたっていた。
───今日もやり切った。客数34名。
涼しい夜風が頬を撫でる。
誰かの助けになれたのか、実際はわからない。
だが、充実感が胸に満ちるのを感じた。
いや、本当は隠居生活してたいんだ。
リリアの頼みだし、仕方なくやってるだけで。
暇だから、力を貸してるだけだ。
スゥ、と息を吸い込む。
すると自然と、歌が唇から零れた。
「・・・O Mary, our goddess divine,・・・」
枝を駆け抜けるリスが足を止めた。
「we thank you for the joy of this day.
We thank you for the gift of peace.」
野生の鹿が、こちらを見る。
「Your mercy is the light that guides us,
your love the comfort of our souls・・・」
トコトコと、野生動物たちが寄ってくる。
「Bringer of light, giver of courage,
to you we raise our love and praise.・・・」
私は歌いながら、腕に飛び乗ったリスを撫でる。
「・・・Hear now our prayer.」
動物たちは私の頬にキスをした。
どうやらゲリラリサイタルは上出来のようだ。
───その時。
カサッ
小屋の影から物音が聞こえた。
振り返ると、そこには昼間見た”失礼な奴ら”のうちの一人
水色の法衣を着た男が立っていた。
動物たちは慌てて逃げ出す。
「あ・・・その・・・ごめんなさい。」
男はかぼそい声で謝った。
華奢な体つき、まだ少年の面影のある顔立ち。
立ち振る舞いから、気弱という印象を受ける。
名前は・・・ジャス、と呼ばれていたっけ。
私は体をこわばらせ、黙って立っていた。
今は接客モードではない。
私生活の『臨機応変』など、私には耐性のないものだ。
「その、僕も占ってもらいたくて・・・そしたら、すごく綺麗な歌声が聞こえたんで、森の精霊かと思ったら・・・」
聴かれてたのか。
誰もいないからと、つい調子に乗ったバチがあたったんだ。
「今の、賛美歌ですよね?僕も、よく歌ってたので、その、一応これでも、僧侶なんで・・・」
「あぁ・・・うん」
私は俯き、素っ気なく答える。
私の歌声は、どうも外見とは似合わない。
細身の不愛想な少年に見える人間が、ソプラノの歌声を出す。
孤児院にいた頃は、随分意地悪を言われたものだ。
それだけでも十分怪しいのに、夜の森の中、喪服姿で・・・
まるで都市伝説だ。
かの有名な、口ひげはやした真ん中分けヘアスタイルのおじさんも、迷うことなく認めるレベル。
「・・・他の人たちは?」
「酒場で飲んでいます。ここには、一人で来ました」
私は、へぇ、と答える。
興味なさそうな素振りを演じようとしたが、安堵のため息を隠せなかった。
「明日朝には旅立つ予定なんです。だから今しか無くて」
それなら昼間来た時に”自分も占ってほしい”と言えばいいものを。
そう考えたが、まぁ無理だ。
例え自分がこの”ジャス”という男の立場だったとしても、あの空気の中でそんな事を言いだせるはずもない。
「何を占ってほしいんだ?」
「・・・僕には、仲間たちについていける、素質があるか、です。」
「ふむ。」
「さっき言った通り、僕は僧侶です。
傷の回復や病の治癒、それと潜在能力を一時増強させる事が出来ます。でも」
僧侶ジャスは、一呼吸おいて
「・・・さっき占いを受けた魔法使い、レイナさんが、僕と同じ能力、いや、僕より強い能力を得ました。
しかも攻撃魔法も使える。僕は・・・いる意味があるのか・・・」
何やら随分コンプレックスを抱えているようだ。
「悪いが、もう閉店してる。時間外だ。」
「そう、ですよね・・・諦めます」
ジャスは踵を返そうとしたが、私はポケットからタロットを取り出す。
「だから、特別。」
驚くジャスをしり目に、私はタロットを切り、一枚引く。
「・・・”運命の輪”。
転換点や変化、一時的なチャンス、幸運、解決を意味する。
つまり、これから何かしらのチャンスが舞い込む。そこへうまく乗るんだ。
そして君の運命の流れを大きく変える人物と出会う。いや、もう出会ってるかな。
その人物との縁を大事にしたまえ。」
ジャスは占いの結果を聞いて呆然としていた。
そして、カードから目をそらし、つま先を軽く動かし土をいじる。
かと思えば、近くの木々を見上げ、こめかみのあたりを小さく掻く。
「いい結果だと思うんだけど。納得がいかない?」
謎の反応を見せる彼に、私はカードを向けながら聞いた。
すると彼は視線を泳がせながら言う。
「・・・その出会いって、ランナさんの事じゃないんですか」
「あっ」
私は彼に向けていたカードを、改めて見る。
確かにこれじゃ、『自分を意識しろ』と誘導してんのと変わらないじゃないか!
誤解だ!誤解だ誤解!!
「ち、違う、そういう意味じゃなくて!」
「でもランナさん以外思い当たらないです」
「他の店の店員さんとか踊り子さんとか宿屋の主人とか」
小屋から漏れる灯りに、軽く照れるジャスの横顔が淡く照らされる。
「僕は店員さんとは会話しないんで・・・というか、他の仲間とすらあまり会話しないから」
タイミングよく、窓からリリアが顔を出した。
「おーい、何やってんのー?夕飯出来たよー!」
私は気まずさに耐えきれず、慌てて小屋の入口へ向かう。
「そ、そういうわけだから、きっといい事あるよ!さよなら!!」
大きな音をたて、ドアを閉める。
「どうしたの?耳まで真っ赤だけど」
私はズレたメガネを直しながら言った。
「な、なんでもない!!」
無駄に早い鼓動は、なかなか治まる事は無かった。




