異世界転生したって、やっぱり振り回される。
うっそうと茂る森の、奥の奥のそのまた奥。
そこには小さな木造小屋が佇む。
「ふんふふ~ん♪朝ごはんは~リリア特製のくるみパンと~オムレツにベーコンを添えて~♪」
陽気な歌声で、私は目を覚ました。
キッチンでは、同居人が朝食を作っているようだ。
ベーコンの焼けるジュウジュウという音、そして焼きたてパンの香りが漂ってくる。
森の中の奥の奥のそのまた奥の、木造小屋のキッチンのまた奥の部屋。
私は目を覚ました。
(朝か・・・)
カーテンの隙間からかすかに光が射している。
一度開けた目を、もう一度閉じる。
(もうちょい寝てもバチは当たらない・・・でも)
また目をうっすらと開ける。
(もうそろそろ起こしにくる時間かな・・・)
キッチンに立っていた同居人が、寝室のドアを勢いよく開けた。
「ランナ!朝だよー!!起きてー!!」
同居人『リリア』は私がくるまっていた布団を一気に引きはがした。
まるで母親のようだ。
もそもそと縮こまり、悪あがきをしてみる。
「・・・余の調理を妨げるのは我だ・・・」
「それを言うなら”我が眠りを妨げるのは誰だ”でしょ!」
うーん、いいツッコミ。
胎児のように丸まりながら、サイドテーブルに手を伸ばし、もにょもよと動かす。
メガネ・・・メガネどこ・・・。
リリアはサッとメガネを取り、私の顔につける。
「・・・おはよう、リリア・・・」
改めて彼女の顔を見ると、頬を膨らまし、半ば呆れた様子だ。
「さっさと顔洗ってきて!朝ごはん食べよ!」
「はぁい」
寝ぼけ眼でベッドから降り、井戸に向かう。
「井戸に落ちないでよ!」
ふらふらと歩く私の背に、彼女は言った。
なんてことはない。
いつも通りの朝だ。
_________
白地に水色のチェック柄のテーブルクロス。
食卓には手料理が並ぶ。
リリア特製焼きたてパン。
自家製ジャムに、しぼりたてのオレンジジュース。
料理洗濯掃除、家事はお手の物。
本当に器用な子だなぁ、といつも感心する。
「いただきます。」
「いただきまーす!」
パンを手に取りかじる。
まだほんのり温かい。
口の中に広がる甘さと温かさを感じながら、ぼんやりと考えた。
さっきまで見ていた夢は、随分リアルだった。
「まだ寝ぼけてんの?」
リリアはパンにジャムをつけながら聞いてくる。
「いや、・・・さっきまで見てた夢の内容思い出してた。」
「ふーん。どんな夢?」
「花畑で、神様と話してた。家族が、転生が、うーん・・・」
「へぇ、それってなんかの予言じゃん?予言者ランナが見る夢だし、意味あるのかもよ」
オレンジジュースを一口飲み、私───『ランナ』は
「予言者じゃないよ。ただの占い師だ。しかも」
オムレツをフォークの先でつつく。
「あの口の悪い神様、外見が玉子寿司だったんだ。」
それを聞いたリリアは、プッと吹き出す。
「まじ?ウケる!お寿司が神様とかありえないし!しかも玉子とか最後まで残るヤツじゃん!」
つついていたオムレツに、ぶすっとフォークを刺した。
「でしょ?ありえないよね」
食事を終え、ハンガーにかけられたジャケットの袖に手を通す。
私の仕事着は、白いシャツに黒のスーツ。
そして、”黒い”ネクタイだ。
寝ぐせを整えたショートヘア、黒ブチのメガネ。
姿見に映るのは、まさに『喪服を着た青年』。
だが、私は女だ。
正真正銘、紛れもない女。
名はランナ。職業は占い師。
占いなんて全く興味が無かった。
孤児院から出て、この森の奥の小屋で一人、自由気ままに生きていくつもりだった。
しかし。
ある日小屋のそばで、怪我をしてうずくまってるトカゲを見つけた。
・・・私は無類の爬虫類好きだ。
弱ってる子を放っておくなんて、出来るわけがない。
そのトカゲを保護し、手当てをしたのだが。
何故かそのトカゲが次の日には人間になっていた。
それが、リリアだ。
人間がトカゲに化けていたのか、トカゲが人間に化けていたのか。
何がなんだかわからないけど、今更どうでもいい。
”食事”に無頓着な私は、彼女が現れなければ
ナッツ数粒とドライフルーツくらいしか食べない生活のままだっただろう。
それより問題なのは
「ランナには特別な才能がある!アタシにはわかる!やってみようよ!」
傷が癒えたリリアは、どこからかタロットカードを拾ってきた。
彼女はそのカードを私の目の前に突き出し、半ば無理矢理占いをさせられることになった。
───そこからだ。私の人生が狂ったのは。
裏手からチラっと小屋の入口を見た。
今日も、私の占い目当ての客が長蛇の列を作っている。
これじゃ隠居生活にならないじゃんか!!
私は大きくため息をつき、小屋の中に引っ込む。
「よくもまぁ、こんな森の最深部まで来るよ。執念たるや恐るべし。そんなに占いが大事なのかなぁ」
私は肩をすくめてぼやく。
「とかなんとか言っちゃって、いつもノリノリのくせに!」
そんな私を見て、リリアはいたずらっぽい笑みを浮かべた。
「ほらほら、もう開店の時間だよ!準備して!」
促されるまま私は椅子に座り、タロットカードを目の前に置く。
リリアはロウソクに火を灯し、扉を開けに行った。
私の仕事部屋。
占い師らしく内装を整えたのもリリアだ。
暗めの照明、紫の布が敷かれたテーブル、水晶、棚に並ぶパワーストーン・・・
部屋の隅には日本人形まで飾られている。
ロウソクの火が小さく揺れた。
ただの演出。
どれも占いには必要無いんだけどなぁ。




