とりあえず、私死んだ。
花畑の中、私は立っていた。
目の前には、穏やかに流れる小川。
まぶしすぎるほどの水面の輝きに、軽くめまいがした。
───私は死んだのだ。
私がアホだった。
あの時何故か、冷蔵庫の置き方がちょっと斜めっているのに気が付いてしまった。
神経質な私は
なんか気持ち悪い
そう思ってしまったのだ。
壁に垂直に!直角90度!
きちんとそろって置かれてるものをこよなく愛し、ちょっとのズレに不快を感じる私は、一度気になったらもう、我慢が出来なかった。
こんな事で業者を呼ぶのはなぁ。
ちょっとずらすだけだし───そう考え、一人で冷蔵庫を動かそうとしたのだ。
ごにょごにょ試行錯誤し、押したり押したりううーーって声あげながら押したりした結果、冷蔵庫はふいに小さく傾いた。
「え?」
気づいた時には遅かった。
冷蔵庫はゆっくりとこちら側に倒れてくる。
ズドォン・・・!
重い音をたて、容赦なく私を下敷きにした。
「・・・なんじゃこりゃあ!」
そういえば子供の頃、『自分の死因は何?』という占いを試したことがあった。
インターネットで無料で診断出来る、心理テストのような占いだ。
ただの遊びというか、ゲーム感覚のものだと思っていた。
・・・まさか、当たってしまうとは。
あの占い、おかしい。
【あなたの死因】冷蔵庫に押しつぶされる
【最後の言葉】 なんじゃこりゃあ
あの時は、友達と笑ってたっけなぁ・・・。
笑ってんじゃねぇよ。お前は遠い未来、ガチでその死因で死ぬんだよ。
ってかあの占いを考えた占い師、何者なんだ。
・・・私の愛する家族は、月日が経つと共に一人ずつ旅立っていった。
私は死に目に会い、手を握り涙を流した。
「ありがとうね、ありがとう・・・」
礼を言いながら、最期の別れを静かに噛みしめる。
私ってなんて健気なんだろう。
でも私は。
一人で、冷蔵庫に潰されてる。
誰もいない。
ねぇ、誰か。看取るとかさ。ねぇ?
自分にもいつか死が訪れる。
その時は大事な人に手を握られながら、小さく微笑んであの世へ旅立とう。
そう決めていたのに。
”ドジ”
よくお父さんに笑われたっけ。
もしかしたら・・・これが私らしい”人生の終わり”なのかもしれない。
私は決めていた通りに、小さく微笑んだ。綺麗な笑みではなく、自虐気味に。
そして、ゆっくりと意識を手放した───。
そして、気が付けば”ここ”に立っていたのだ。
きっと目の前にあるのは三途の川。
そして川の向こう側にいる、5人のシルエット。
あれはきっと・・・
手招きするわけでもなく、追い返そうとするでもなく、笑顔を向けるでもなく怒るでもなく・・・
───ただならぬ様子で緊急会議してる。
「本当に来ちゃってるじゃない!大丈夫なの!?」
お母さんの声が、川の向こうから聞こえる。
そう。
あの5人は、私より先に亡くなった愛する家族だ。
でも、誰かちょっとくらいはこっちに意識を向けてくれても・・・
彼らはこちらをチラッとも見ず、延々会議を続ける。
もしかして、私が来たのに気づかず、サプライズ歓迎パーティの準備でもしてんのかな。
その時、目の前に『光』が現れた。
「あ、どうも。僕、神様。よろしくね」
光は徐々に落ち着き、姿が見えてくる。
神様の、姿が。
「あ、はい・・・」
私の顔は相当不信感をあらわにしたものだっただろう。
何故ならば、神と名乗り、目の前にふわふわと浮かぶその存在は
「玉子のおすし・・・」
思わず呟いてしまった。
回転寿司でレールに乗り店内を舞う、あの寿司だ。
「とりあえず、ここはあの世だよ。ようこそ。」
随分シュールな光景だが、気にする様子もなく神は語る。
「でもねぇ、ちょっと厄介な事になってねぇ」
「厄介、ですか・・・」
「死因がちょっとねぇ」
神様を凝視していた私だが、恥ずかしさに目をそらした。
「・・・本当は、死ぬはずじゃなかった、とかですか?」
川の向こう側の家族が、チラチラとこっちを見ている気がする。
なんだか、いたたまれない。
「いや、そうじゃない。ちゃんと予定通りだった。冷蔵庫に潰されて圧迫死。」
そんなのが予定されていた人生だったのか・・・。
今更、走馬灯のように思い出がよみがえる。
何をどうしたって、私は冷蔵庫に消される運命だったのだ。
「でも君のご家族が、それはあんまりだ、と抗議に来てさ。
確かにドジだけど、さすがにこの死因は、ってね。」
・・・心が痛い。
「君がいかにドジだったか、熱く語られたんだ。
これだけドジならば、冷蔵庫に潰されて死ぬなんてドジな結末も、ドジな娘らしいけども。
でもさすがにドジすぎるだろう、とね。」
ドジドジうるせぇ。玉子寿司の癖に。
せめて海鮮であれよ。
寿司桶の中で、割と最後まで残りやすい存在じゃないか。
「でも予定は予定だから。君が死んだ事は変えられない。
でもご家族の強い訴えに心を打たれてね。君にもう一度”人生”を与えようという事が決まった。」
「・・・つまり?」
「ご家族が納得されるまで、転生してもう一度寿命をまっとうしてもらう。
それから再度、こっちで受け入れるという話で決着がついたんだ。」
自分がいないところで、そんな馬鹿げた議題を真剣に話し合っていたのか。
そして、外見の問題はとりあえず置いといても、神様相手に折衷案を出させるなんて、さすが私の家族だ。
「そんなわけで。死んだ直後だけど君は特別に転生できる。うれしいかい?」
「うれしくないです」
「あ、そう。転生システムはわかるかい?」
私の返事など興味なさそうに、さらっと次の話題へ向かう。
興味が無いなら聞くな。
なんだそのとりあえず聞いとくかみたいな社交辞令。
「わかりません。」
「だよねぇ。人間だもんねぇ。理屈と理性と常識が売りの左脳動物だもんねぇ。」
なんだかわからないが、私が馬鹿にされてるように感じる。
「転生っていうのは、魂そのまんま、でも別の存在に生まれ変わる。これは有名だね。
だけど、実はパラ振りというシステムがある。」
「パラ振り?パラメータですか?」
「そう。人生を思い返して、ここが足りなかったなー、ここがもっと伸ばしたかったなー、そう思ったところにパラメータを振る。」
玉子寿司がふいっと横を向くと、目の前にスクリーンのような物が浮かびあがる。
そこには
”可愛くもないが、醜くもなく、細くもなく太くもなく、可もなく不可も無さそう”
そんな女性が映し出されていた。
「なんですか、コレ」
「これは、君の前世だ。見てのとおり、超平凡。没個性。
特化した才能も無ければ、アイデンティティのカケラも無い。」
私は口をへの字にする。
この玉子、どんどん口悪くなってないか?
「で、この君の前世・・・花子って女性はね、個性が欲しいと強く願ってね。
パラメータを
”スタイル抜群なモデル級美女、悲劇のヒロインかつ、個性派モテ女”
と、バランスガン無視で振りまくってね、そして転生した。」
玉子寿司はこちらを向く。
「それが君だ。人生楽しかった?」
はぁ。
私はため息をついた。
「楽しい事もあったけど、波乱万丈すぎてしんどかったです。」
そんな私を見て、玉子は笑う。
「そうだろうね。結局、隣の芝生は青く見える、ってヤツさ。本当に、人間てのは欲深い。」
シャリの上に乗った玉子焼きをペラペラさせながら、こいつは私に問う。
「・・・で、君はどこを伸ばしたい?」
少し考えた後、私はその問いに答えた。
すると目の前がチカチカと光りだし、視界が閉ざされていった。
───これが転生か。
なんか貧血起こしてぶっ倒れ直前の感覚に似てる。
しかも。
川の向こうの家族が、こっち見て笑ってた気がする。
なんだろう。このやりきれない感。
「チクショー・・・」
私の小さな呟きは、閉ざされる視界の中に消えていった。
不定期更新です。のんびり書いていきます。




