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「遅いです」

小話

「遅いです」


夜。


家の中。


窓の外には、

静かな夜道が広がっている。


街灯の明かりが、

ぽつぽつと地面を照らしていた。


風が吹くたび、

道端の落ち葉がかさりと揺れる。


ミルは窓の前に立ち、

じっと外を見ていた。


しっぽが、

落ち着かなさそうに左右へ揺れている。


ミル

「……」


ナナ

「ミル?」


後ろから、

ナナが不思議そうに声をかける。


ミル

「まだ帰ってきません」


ナナ

「ルナもいるし大丈夫だよ」


ナナは湯気の立つお茶を持ちながら、

のんびりした声で返した。


ミル

「でも」


ミル

「遅いです」


ミルは窓へぐっと顔を近づける。


外は静かだった。


人の姿も無い。


風だけが、

道の落ち葉を揺らしている。


ミル

「……」


ミルはしばらく黙って外を見ていたが、

やがてくるっと振り返った。


ミル

「ナナ」


ナナ

「うん?」


ミル

「ノワ」


ミル

「迷い猫に絡まれてるかもしれません」


ナナ

「ルナがいるよ?」


ミル

「それは安心です」


ミル

「でも」


ミル

「ノワが挑発してるかもしれません」


ナナ

「それはありそう」


ミル

「ノワ」


ミル

「たまに口が悪いです」


ナナ

「たまにじゃない気がする」


ミルは腕を組み、

むむっと眉を寄せる。


ミル

「むぅ」


ミル

「それか」


ミル

「道に迷っている可能性もあります」


ナナ

「ノワが?」


ミル

「ノワでも迷います」


ナナ

「迷わないと思うけど」


ミル

「それか」


ミル

「空腹で動けなくなっているかもしれません」


ナナ

「さっきご飯食べてたよね」


ミル

「そうでした」


ミルは真顔で頷いた。


そしてまた考え込む。


ミル

「……」


ミル

「それか」


ミル

「強い猫と戦っているかもしれません」


ナナ

「え」


ミル

「ノワ」


ミル

「強そうな相手でもすぐ喧嘩売ります」


ナナ

「それは否定できない」


ナナは苦笑する。


ミルはまた窓を見る。


街灯の光が、

窓ガラスへぼんやり映っていた。


ミル

「……」


ミル

「ノワ」


ミル

「無事でしょうか」


ナナ

「大丈夫だよ」


ナナ

「ノワ強いし」


ミル

「そうですね」


ミルは小さくうなずく。


でも、

また窓の方を見る。


ミル

「……」


ミル

「でも」


ミル

「遅いです」


落ち着かない様子で、

ミルは部屋を歩き始めた。


行ったり来たり。


行ったり来たり。


時々、

ちらっと外を見る。


ナナ

「ミル」


ミル

「はい」


ナナ

「落ち着いて」


ミル

「落ち着いてます」


そう言いながら、

歩く速度が少し速くなる。


ナナ

「落ち着いてないよ」


ミル

「落ち着いてます」


ミルは猫じゃらしをぎゅっと握る。


耳が、

ぺたんと少し下がっていた。


ミル

「……」


ミル

「ノワ」


ミル

「帰ってきたら」


ナナ

「うん」


ミル

「いっぱい怒ります」


ナナ

「怒るんだ」


ミル

「怒ります」


ミル

「すごく怒ります」


ミルは少し考える。


ミル

「でも」


ミル

「そのあと」


ミルは少しだけ笑った。


ミル

「いっぱい褒めます」


ミル

「良く無事に帰って来ましたって」


ナナ

「ふふ」


その時――


ミルの耳が、


ぴくっ


と動いた。


ミル

「!」


外のどこかで、


カタン


小さな音がした。


ミルは勢いよく窓へ駆け寄る。


ミル

「ノワ!?」


窓に張り付くように外を見る。


しかし、

そこには誰もいない。


風が静かに吹いているだけだった。


ミル

「……」


ナナ

「まだみたいだね」


ミル

「……」


ミルは窓の外を見つめる。


静かな夜道。


街灯の明かり。


揺れる木の影。


ミル

「ノワ」


ミル

「早く帰ってきてください」


その声は、

さっきより少しだけ小さかった。


終わり

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