「ミル剣、誕生」
小話
ナナの家。
夕方のリビング。
窓から柔らかな光が差し込み、
部屋の床を橙色に染めている。
ミルは部屋の中央で、
きらきらした目をしていた。
ミル
「特訓したいです!」
ノワ
「急に何よ」
ミル
「もっと強くなりたいです!」
ミルは拳をぎゅっと握る。
ミル
「そのためには!」
ミル
「やっぱり特訓です!」
ルナ
「それはそう」
ミルは猫じゃらしを掲げる。
ミル
「私もノワのように猫じゃらしを使いたいです!」
ノワ
「なんでよ」
ミル
「ドキワクだからです!」
ノワ
「理由が雑なのよ」
ソファの近くで、
ルナがお茶を飲みながら静かに口を開く。
ルナ
「でも、武器の扱いを覚えるのは悪くないと思う」
ミル
「ですよね!」
ノワ
「アンタねぇ……」
ナナ
「フフ」
ナナはキッチンで創作料理の研究をしながら3人の会話を聞いている。
ルナ
「確か、こういうのがあったはず」
ルナは棚の奥を探る。
そして、
一本の模造刀を取り出した。
銀色の鞘に、
青い装飾が入った細身の刀。
妙に作りが細かく、
やたら本格的な見た目をしている。
ノワ
「なにそれ」
ミル
「おおー!」
ミルは模造刀を受け取る。
ぶんっ。
勢いよく振る。
ノワ
「危ないっ!」
ノワが反射的に頭を下げる。
模造刀が、
ぶぉん、と風を切った。
ミル
「強そうです!」
ノワ
「本当に危ないのよ!」
ルナ
「……家具も危ない」
見ると、
模造刀の先がテーブルすれすれを通っていた。
ミル
「!」
ミルは慌てて模造刀を抱える。
ミル
「ご、ごめんなさいです!」
ルナ
「本物はまだ早いかも」
ノワ
「そうね。もっと柔らかいものの方がいいわ」
ミル
「柔らかい剣……」
しばらく、
みんなで考える。
そして――
ミル
「これです!」
ミルが持ってきたのは、
フランスパンだった。
ノワ
「なんで!?」
ミル
「細長いです!」
ミルは嬉しそうに構える。
ミル
「剣っぽいです!」
ぶんっ。
フランスパンが風を切る。
ノワ
「ちょっと!」
ノワ
「明日の朝ごはんなくなるわよ!」
ミル
「!」
ミルの動きが止まる。
ミル
「それは困ります」
ノワ
「でしょうね」
ミルは名残惜しそうに、
フランスパンを見る。
ミル
「……パン剣、強そうだったんですけどね」
ノワ
「強そうでも食べ物なのよ」
ミル
「むむむ……」
フランスパン案、
却下。
次。
割りばし。
ミル
「小さい剣です!」
ノワ
「短すぎるでしょ」
却下。
次。
タオル。
ミル
「ふにゃふにゃ剣です!」
ぶんっ。
ぺちっ。
自分の顔に当たる。
ミル
「あてッ!!」
ノワ
「でしょうね」
却下。
次。
トイレットペーパーの芯。
ミル
「伝説の筒です!」
ノワ
「一旦剣から離れたら?」
軽すぎて飛んでいった。
却下。
しばらくして。
リビングには、
微妙に行き詰まった空気が流れていた。
ノワ
「なかなか丁度いいの無いわね……」
ルナ
「柔らかくて、安全で、剣っぽい物……」
後ろから、
もごもごした声が聞こえる。
ミル
「な、なかふぁか決まりまへんねぇ」
その後ろで。
ミルがひっそりと、
フランスパンをもしゃもしゃ食べていた。
ノワ
「食べてる!?」
ミル
「はっ」
ミルは口を止める。
口の中のフランスパンを飲み込む。
ミル
「ち、違うんです」
ノワ
「何がよ」
ミル
「手が勝手に……」
ノワ
「勝手に食べてどうするのよ」
ミルは自分の手を見る。
ミル
「ドキワクなこの手が悪いんです」
ノワ
「ドキワクな手ってどんな手よ」
ノワ
「というか、明日の朝ごはんどうするつもりなの?」
ミル
「どうしましょう」
その時。
キッチン側で、
ナナがラップを掛けながら首を傾げた。
ナナ
「新聞紙とか丸めたらいいんじゃない?」
ミル
「な、ナナ、ナイスアイディアです!」
ミルは勢いよく話を切り替えた。
ノワ
「誤魔化したわね?」
全員、
そちらを見る。
少し沈黙。
ルナ
「……確かに」
ノワ
「軽いし、安全ね」
ミル
「!」
ミルの目が輝く。
数分後。
新聞紙を丸める。
ルナが形を整える。
ナナがラップで補強する。
ノワが硬さを確認する。
そして――
完成。
ミル
「おおおお……!」
ミルは両手でそれを掲げた。
白いラップに包まれた、
新聞紙の剣。
ミル
「ミル剣です!」
ノワ
「新聞紙でしょ」
ミル
「ミル剣です!」
ノワ
「新聞紙よ」
ミルはぶんっと振る。
軽い。
でも、
ちゃんと剣っぽい。
ミル
「すごいです!」
ミル
「これならいっぱい特訓できます!」
ミルは嬉しそうに、
何度も振り回す。
ノワ
「……まぁ」
ノワは小さく息を吐く。
ノワ
「アンタにはそのくらいが丁度いいかもね」
ミル
「えへへです!」
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翌朝。
朝食。
テーブルの上には、
・サラダ
・スープ
・目玉焼き
そして、
小さく切られたフランスパン。
ただし。
いつもより、
かなり薄い。
ノワ
「二切れずつやからね」
ルナ
「……薄い」
ナナ
「実質一枚分くらいやねぇ」
ミル
「……あれ?」
ミルの席だけ。
パンが無かった。
ミル
「……」
ノワ
「誰かさんが食べたからでしょ」
ミル
「!」
ミルは静かに俯く。
そして、
自分の手を見る。
ミル
「……この手が」
ミル
「ドキワクしたばっかりに……」
ぽろっ。
ミルの目から涙が零れる。
ノワ
「泣くほど!?」
ミル
「パン剣の代償が重すぎます……」
ルナ
「重い」
ナナ
「重いわねぇ」
ミルはじっと、
みんなのパンを見る。
二切れ。
けれど、
かなり薄い。
実質、
一枚分くらいしかない。
ミル
「……」
ノワ
「……」
少し沈黙。
ミルは皆のパンを見てそれ以上何も言わなかった。
ノワは小さく息を吐く。
そして。
自分のパンを一枚、
ミルの皿へ乗せた。
ミル
「!」
ノワ
「……半分だけだからね」
ミル
「ノワぁぁ……!」
ミルは勢いよく立ち上がる。
そして。
ぎゅうっ。
ノワに抱きついた。
ノワ
「ちょっ!?」
ミル
「ノワ大好きです!!」
ノワ
「離れなさい!」
ノワの顔が真っ赤になる。
ミル
「優しいです!」
ノワ
「うるさい!」
ルナとナナは、
その様子を見ながら小さく微笑む。
ルナ
「仲良い」
ナナ
「いいわねぇ」
ミル
「ノワ大好きですー!!」
リビングに、
ミルの叫び声が響いていた。
小話
「ミル剣、誕生」
終わり




