「どうしても…」
小話
「どうしても…」
昼。
家の外。
ミルは真剣な顔で、
猫じゃらしを見つめている。
風が吹くたび、
ふわふわした先端が揺れていた。
ミル
「ノワ!」
ノワ
「なによ」
ミルは勢いよく振り返る。
ミル
「武器です!」
ノワ
「どう見てもおもちゃよ」
ミル
「違います!」
ミル
「見た目に騙されちゃダメです!」
ノワ
「完全におもちゃなんだけど」
ミルは猫じゃらしをぎゅっと握る。
その目は真剣そのものだった。
ミル
「試します!」
ノワ
「嫌な予感しかしないんだけど」
ミルは近くの木を見る。
狙いを定める。
ミル
「……えい!」
シュッ
猫じゃらしが風を切る。
近くの木を狙う。
スカッ
何も起きない。
ノワ
「外れてるわよ」
ミル
「まだです!」
ミルはすぐに次を探す。
今度は地面にある石。
ミル
「次です!」
シュッ
スカッ
石は微動だにしない。
ノワ
「また外れてる」
ミル
「おかしいです!」
ミル
「武器のはずです!」
ノワ
「だから振り方じゃない?」
ミル
「振り方……」
ミルは考える。
じっと猫じゃらしを見る。
そして――
ミル
「こうですか?」
ミルは猫じゃらしを、
バットみたいに構える。
ノワ
「絶対違うと思うけど」
ミル
「いきます!」
ブンッ
勢いよく振る。
その瞬間――
パシッ!
猫じゃらしの先端が、
綺麗にミルの顔へ当たる。
ミル
「あテッ!」
ミルは顔を押さえてしゃがみ込む。
ノワ
「……」
ノワ
「自分には当たるのね」
ミル
「ノワ!」
ミル
「成功です!」
ノワ
「成功じゃないわよ」
ミル
「ちゃんと当たりました!」
ノワ
「対象がおかしいの」
ミルはむぅっと頬を膨らませる。
ノワはそんなミルをじっと見る。
そして、
ふと気付く。
ノワ
「ミル」
ミル
「はい?」
ノワ
「今」
ノワ
「目閉じてたわよ」
ミル
「え?」
ノワ
「振る瞬間」
ノワ
「ぎゅって閉じてる」
ミル
「……」
ミルは少し固まる。
そして――
ミル
「ほんとです!」
ノワ
「気付いてなかったの?」
ミル
「だって」
ミル
「怖いんです!」
ノワ
「怖い?」
ミル
「なんか当たりそうで!」
ノワ
「当てるのよ」
ミル
「そうでした!」
ノワは思わず額を押さえる。
ミル
「もう一回やります!」
ミルは猫じゃらしを構える。
今度はかなり真剣だった。
ミル
「今度は目開けます!」
ノワ
「最初からそうしなさい」
ミルは深呼吸する。
狙う。
振る。
シュッ
スカッ
ノワ
「……」
ノワ
「今?」
ミル
「閉じました!」
ノワ
「ダメじゃない」
ミル
「難しいです!」
ミルは悔しそうにする。
でもすぐ立ち直る。
ミル
「もう一回です!」
シュッ
スカッ
また空振り。
ミル
「……!」
シュッ
スカッ
ミル
「……っ!」
シュッ
スカッ
ノワ
「全然当たらないわね……」
ミル
「でも大丈夫です!」
ミルはビシッと猫じゃらしを掲げる。
ミル
「いつか当てます!」
ミル
「ドキワクです!」
ノワ
「ドキワクで解決しない!」
ミル
「します!」
ノワ
「しない!」
昼の静かな庭に、
二人の声が響いていた。
終わり




